コロナ禍で増える専門家や医者への脅迫

ー殺害予告を受けたコロナ問題について情報発信をする大学教授ー

事件の概要

愛知医科大学の三鴨廣繁教授が7月1日、フジテレビ系「バイキングMORE」にリモート生出演しました。番組内では、三鴨教授へ殺害予告を送ったとして、警視庁捜査1課が無職の男を脅迫容疑で6月30日に逮捕したことを報じています。三鴨教授によると、「コロナ問題から手を引かないと殺す」などと書かれた便せんと一緒にナイフやカミソリが送られ、同様の脅迫は20回以上あり、被害届は7回以上提出したとのことです。

三鴨教授は「こういうのは本当に脅迫で。本当に怖い目をしましたから、例えば自宅の駐車場を変えたり、そんなこともしました。果物ナイフなんか送られたらビックリしました。こういうのは反省して心から償っていただきたい」と話しました。

しかし、このような脅迫事件は今回が初めてではないのです。昨年の12月には東京都医師会のホームページに会長の殺害を予告する書き込みが寄せられる事件が起きたり、今年の1月にも新型コロナウイルスについて情報発信している医師の病院にカッターの刃が郵送された事件が起きたりしました。

このように、長らく続くコロナ禍で専門家や医師などに対して、「殺すぞ」といった文を送ったり、SNSで殺害を示唆するような文言のコメントを寄せたりする脅迫の問題がたびたび話題に上がっています。そこで今回は「脅迫事件」について見ていきたいと思います。

脅迫者は何の罪に問われるのか

今回のような殺害予告はどのような罪に問われるのでしょうか。一般的に殺害予告は、脅迫罪、偽計業務妨害罪、威力業務妨害罪等に処せられます。

今回の事件で罪に問われている「脅迫」の場合を見てみましょう。脅迫罪とは、被害者本人またはその親族の、生命、身体、自由、名誉、財産を侵害するような害悪を告知する犯罪のことです(刑法222条)。法定刑は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金となっています。

三鴨教授の場合、「コロナ問題から手を引かないと殺す」という文言が送られてきており、生命や身体に対し害を加えることを告知しているため、脅迫罪にあたる行為といえます。

脅迫罪の捜査

ところで、実際は加害者であっても逮捕されないケースがあるのはご存じでしょうか。もちろん警察の捜査が力不足で被疑者を見つけられない、といった話ではありません。ここでは脅迫事件の捜査の流れに沿って、どういうことか説明していきます。

脅迫罪の捜査の流れ

脅迫罪では被害者が被害届を提出することで事件が発覚するケースが一般的です。脅迫罪で逮捕されると、警察署に連行され警察官の取調べを受け、さらに検察官が取調べを行い勾留すべきか判断します。その後、検察官が今回の脅迫事件を起訴するか、不起訴にするかを決定します。起訴されれば刑事裁判が開かれ、不起訴になれば前科がつかずに事件は終了します。

脅迫罪で逮捕されないケースも

しかし、被疑者の身元がはっきりしている場合や、犯した罪について素直に認めて捜査に協力している場合には、逮捕されないこともあります。逮捕はあくまでも、犯罪を行ったと疑うに十分な証拠や根拠があり、尚且つ被疑者が逃亡や罪証隠滅を行うおそれがある時にのみ行われるものなのです。実際に、アトム法律事務所が取り扱った脅迫事件のうち、逮捕された割合は全体の55%です。
ここで重要なのは、逮捕されなかったからといって罪に問われないわけではないということです。逮捕はされなくても在宅捜査は行われ、検察官が脅迫事件を起訴するか不起訴にするかを決定することには変わりないため、起訴され有罪判決を受けることになれば前科がつくことになります。

実際にあった過去の事件

ここからは実際に過去にあった事例を紹介していきます。2020年には、お笑いコンビ・ロッチの中岡創一氏に関して「反社会的勢力と思しき人物と一緒に写っている写真がある、これを週刊誌に持っていく」等の脅迫電話を所属事務所にかけたとして男が逮捕される事件が起きました。逮捕された男は、略式起訴により罰金刑に処されたと報じられています。この場合は逮捕も起訴も行われ、最終的な処罰を受けたということになります。

しかし、2021年2月お笑いコンビ・おぎやはぎの2人などに対し、インターネットの掲示板で「トンカチで顔面グシャグシャにしてぶっ殺します」などと脅迫する内容の書き込みをしたとして逮捕された25歳の男性については、不起訴なったと報じられています。

つまり、脅迫事件を起こしたとしても、事件によって対応は異なり、前科の残る場合ばかりではないということです。

被害者はどう対応したらいいのか

今回のケースでは、三鴨教授が被害届を何度も提出されたとのことでしたが、実際に脅迫を受けた時どのように事件解決まで進んでいくのか解説していきます。
事件解決の方法としては、刑事事件として対応する方法と民事事件として対応する方法があります。刑事事件として対応する場合、脅迫罪では被害届を出すか告訴をすることで捜査が進められ、刑事処分が決まっていきます。それに対し、被害者が刑事処分を望むか否かにかかわらず、民事事件として訴訟を行い損害賠償請求をしたり、被疑者と示談を行い慰謝料を請求したりするのが民事的な対応の方法です。
実際に、インターネット掲示板やブログで脅迫を行った投稿者に対し、芥川賞作家の川上未映子さんが慰謝料や投稿者の特定に要した費用併せて448万円の損害賠償を求めた訴訟を起こしたケースもあります。この事件では、最終的に東京地裁が約323万円の賠償を命じるという結果に終わりました。

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