太っていなくても生活習慣病になりやすい人の特徴が明らかに

    ~筋肉の質の低下が原因である可能性~

    その他
    2016年8月1日 12:30
     順天堂大学大学院医学研究科・代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史准教授、河盛隆造特任教授、綿田裕孝教授らの研究グループは、我が国をはじめアジア人に極めて多い、太っていなくても生活習慣病(代謝異常)になる人の原因として、骨格筋の質の低下(インスリン抵抗性*1)が重要である可能性を世界で初めて明らかにしました。生活習慣病に関する研究はこれまで主に肥満者を対象に行われてきており、非肥満者における詳細な病態は現在まで十分に解明されていませんでした。本成果は非肥満者の代謝異常予防を目指す上で、骨格筋インスリン抵抗性の改善が重要であることを示唆しており、我が国の予防医学を推進する上でも、極めて有益な情報であると考えられます。本研究は米国内分泌学会雑誌「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」のオンライン版(日本時間:2016年7月6日)で公開されました。 【本研究成果のポイント】 ・太っていなくても代謝異常を生じている人は、筋肉の質が低下していることが明らかに ・筋肉の質の低下は、低体力、低活動量、内臓脂肪蓄積、高脂肪食などと関連 ・軽度の肝機能異常や肝脂肪の蓄積は筋肉のインスリン抵抗性のマーカーに 【背景】  肥満者は、糖尿病やメタボリックシンドロームといった生活習慣病(代謝異常)になり易いことが知られており、肥満とこれらの代謝異常を結び付けるメカニズムとしてインスリン抵抗性の重要性が示されてきました。しかし、生活習慣病になるアジア人の多くは非肥満(体格指数(BMI)25kg/平方メートル未満*2)であるため、非肥満者におけるインスリン抵抗性の病態生理学的な重要性について、不明な点が多く残されていました。近年、非肥満者でも肝臓や骨格筋といったインスリンが作用する臓器に脂肪が蓄積すると(異所性脂肪:脂肪肝、脂肪筋*3)、インスリン抵抗性が生じることや、アジア人では痩せていても脂肪肝になりやすいことなどがわかってきましたが、日本人におけるその詳細は不明でした。そこで本研究では、日本人の非肥満者を対象としてインスリン抵抗性と代謝異常、異所性脂肪蓄積の関連性などについて調査しました。 【内容】  世界的にBMIが25kg/平方メートル未満であれば正常とされていますが、アジア人においては23kg/平方メートルを超えると、非肥満者であっても代謝異常が出現しやすくなることがわかっています。そこで、BMIが23~25kg/平方メートルで心血管代謝リスク因子*4(高血糖、脂質異常症、高血圧のいずれか)を持っていない者28名、1つ持っている者28名、2つ以上持っている者14名の計70名の日本人を対象に調査を行いました。この他に、BMIが21~23kg/平方メートルで心血管代謝リスク因子を持たない者24名(正常群)、肥満(BMIが25~27.5kg/平方メートル(国内基準))でメタボリックシンドロームを合併する者14名(肥満MS群)の測定も行いました。いずれの群もすでに糖尿病や心血管疾患を患った方は除外しました。肝臓及び骨格筋のインスリン抵抗性は、国内で初めて2-ステップ高インスリン正常血糖クランプ法*5という特殊な方法を導入して精密に測定しました。  その結果、BMIが23~25kg/平方メートルで心血管代謝リスク因子を持っていない人は、正常群と同等のインスリン感受性でしたが、心血管代謝リスク因子を1つでも持っていると骨格筋のインスリン抵抗性を認め、そのレベルは肥満MS群と同等でした(図)。一方、肝臓でのインスリン抵抗性にはそのような関係は認められませんでした。また、どのような因子が骨格筋のインスリン抵抗性と関連しているかを調査したところ、従来肥満者で指摘されてきたような内臓脂肪が多いことや、血中アディポネクチン*6濃度が低いことに加えて、体力*7が低い、生活活動量*7が低い、脂肪摂取量が多いなどの生活習慣に関連した因子も挙げられました。さらに興味深いことに、脂肪肝と判定されないような肝脂肪の軽度蓄積や正常範囲内での肝機能検査の軽度上昇であっても、骨格筋インスリン抵抗性と有意に関連する因子であることが明らかとなりました。 【今後の展開】  今回の調査から、日本人で太っていなくても心血管代謝リスクを合併する人では、骨格筋インスリン抵抗性が病態として重要である可能性が明らかとなりました。骨格筋インスリン抵抗性に関連する因子として、従来から言われている内臓脂肪の蓄積の他にも、体力の低下、生活活動量の低下、高脂肪食などが浮かび上がってきました。これにより、太っていなくても代謝異常を来しやすい人では、減量の他にも、それらの生活習慣に特に注意を払う必要性が考えられます。運動に限って言えば、現在ガイドラインでも推奨されている通り、普段歩く量(生活活動量)を増やすと共に、体力が向上するような取り組み*7 (ジョギングなど)をすることが勧められます。ただし、これらの因果関係の詳細は不明な部分もあるため、今後は介入研究を通した検証が必要です。また、脂肪肝や今まで無視されてきたような軽度の肝機能異常は骨格筋のインスリン抵抗性を知る簡便なマーカーとして有用と考えられ、今後、健康診断をはじめとした予防医学での活用が期待されます。 【用語解説】 *1.インスリン抵抗性 膵臓から分泌され、血糖を下げるホルモンであるインスリンの感受性が低下して効きにくい状態(抵抗性)を指します。主に肥満や内臓脂肪蓄積に伴って出現し、糖尿病の原因になるだけでなく、メタボリックシンドロームの重要な原因の一つと考えられています。 *2.体格指数(body mass index (BMI)) その人がどれくらい痩せているか、太っているかを示す指数です。体重(kg)を身長(m)で2回割って算出します。国際的な基準では、25kg/平方メートル以上が過体重、30kg/平方メートル以上が肥満、とされていますが、我が国ではローカルな基準として25kg/平方メートル以上を肥満としています。 *3.異所性脂肪(脂肪肝・脂肪筋) 脂肪の多くは皮下脂肪や内臓脂肪といった脂肪組織に蓄えられますが、それ以外の別の場所(異所)にも蓄積されます。そのような脂肪を異所性脂肪と呼びます。インスリンは肝臓や骨格筋に作用して血糖値を低下させる作用を発揮しますが、それらの臓器に異所性脂肪が蓄積すると(脂肪肝、脂肪筋)、溜まった脂肪が毒性を発揮して、インスリン抵抗性が生じると考えられています。 *4.心血管代謝リスク因子 将来的に糖尿病や心血管疾患(狭心症、心筋梗塞、脳卒中など)を発症する危険性を高める因子のことを指します。本研究では、我が国のメタボリックシンドローム診断に用いられている、高血糖、脂質異常症、高血圧を心血管代謝リスク因子としています。 *5 .2-ステップ高インスリン正常血糖クランプ法 肝臓、骨格筋のインスリン抵抗性を精密に計測する方法です。参加者の方に、安定同位体でラベルされたブドウ糖とインスリンを点滴で持続的に投与することにより、肝臓と骨格筋でのインスリンの効き具合をそれぞれ別個に計測することが出来ます。一人の計測に10時間程度を要する大変な検査のため、今回のように非肥満者を中心に100名を超える規模で行われたのは世界的にも初めてのことです。 *6.アディポネクチン 脂肪細胞から分泌されるホルモンの一つ。肝臓や骨格筋に受容体を介して作用することにより、それぞれの臓器の異所性脂肪(脂肪肝、脂肪筋)を減らし、インスリン抵抗性を改善する作用を持つことが報告されています。肥満者ではその血中濃度が低下するため、肥満でインスリン抵抗性が惹起されるメカニズムの一つと考えられています。 *7.体力・生活活動量 この研究では、体力は持久的な運動能力をエルゴメーターを用いて評価しています。持久的な運動能力はある程度の強度の運動(ジョギングなど)で高めることが出来ます。その一方で、生活活動量はおおむね普段歩いている量を意味しますが、普通に歩くだけでは体力の向上はそれほど期待出来ません。現在の身体活動のガイドラインでは、歩く量を増やすことと、ジョギングなどのある程度の強度の運動の両方に取り組むことが推奨されており、本研究結果はその意義を一部裏付けるデータと考えられます。 本研究は米国内分泌学会雑誌「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」のオンライン版(日本時間:2016年7月6日)で公開されました。 英文タイトル:Relation between insulin sensitivity and metabolic abnormalities in Japanese men with BMI of 23-25 kg/m2 著者:Kageumi Takeno, Yoshifumi Tamura, Minako Kawaguchi, Saori Kakehi, Takahiro Watanabe, Takashi Funayama, Yasuhiko Furukawa, Hideyoshi Kaga, Risako Yamamoto, Maengkyu Kim, Miho Nishitani-Yokoyama, Kazunori Shimada, Hiroyuki Daida, Shigeki Aoki, Hikari Taka, Tsutomu Fujimura, Susumu S. Sawada, Adria Giacca, Akio Kanazawa, Yoshio Fujitani, Ryuzo Kawamori and Hirotaka Watada 掲載論文のリンク先: Doi http://dx.doi.org/10.1210/jc.2016-1650 研究助成先:本研究は、ハイテクリサーチセンター整備事業(文部科学省)、科研費(文部科学省)(23680069)、日本糖尿病財団、鈴木謙三記念医科学応用研究財団、三越厚生事業団、Diabetes Masters Conference研究助成の支援を受け実施されました。

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