早稲田大学 人間科学部 教授・松原 由美氏 株式会社土屋の顧...

早稲田大学 人間科学部 教授・松原 由美氏  株式会社土屋の顧問に就任

株式会社土屋の顧問にこの度、早稲田大学 人間科学部教授・松原 由美氏が就任する運びとなりましたので、お知らせいたします。


株式会社土屋(本社:岡山県井原市、代表取締役:高浜 敏之、在籍人数:2,012人)・ホームケア土屋は、重度訪問介護(重度の障害をお持ちの方に対する訪問介護サービス)を全国で展開し、高齢者向けデイサービスや訪問看護も行うソーシャルビジネス企業です。


今回は、医療・介護・福祉分野における第一人者として、主に経営の視点から社会福祉の改善に取り組む松原 由美氏の当社顧問就任をご報告するとともに、松原氏に「介護と経営」を中心に、福祉の在り方、そして介護業界の現状と課題についてお話を伺いました。



■松原 由美氏のプロフィール

早稲田大学 人間科学部 健康福祉マネジメント論研究室 教授


役職  :早稲田大学 人間科学部 健康福祉マネジメント論研究室 教授

研究分野:経営学(医療・介護・福祉領域の経営、政策についての研究)


大学院在籍時より医療・介護を中心に研究。金融系シンクタンクにおいて20年間勤務し研究部長を務めた後、2016年度から早稲田大学。

2011年、社会福祉法人の内部留保が多すぎると批判された際、多いというなら基準をまずは示すべきと反論。全国の特別養護老人ホームを対象に、内部留保多寡の判定基準を初めて作成し、実はほとんどが過剰な内部留保を保有しておらず、逆に不足している施設が過半を占めることを明らかにした(介護給付費分科会にて公表)。その調査をきっかけに社会福祉法人経営など福祉の研究に携わる。

経営分析が専門。


公的活動:

厚労省「社会保障審議会福祉部会」委員および「社会保障審議会医療部会」委員

新宿区「地域包括支援センター等運営委員会」会長、日本介護経営学会理事、他多数。



■株式会社土屋の顧問就任の経緯と理由

私は「福祉」を一人一人の「存在意義の発揮の支援」と捉えています。私の研究内容は医療や介護も含む広い意味での福祉のマネジメント、つまり一人一人の存在意義の発揮を支援し、それが持続可能となるマネジメントについてです。顧問就任の直接的なきっかけは株式会社土屋からお声をかけて頂いたことですが、その際に重度の障害をお持ちの方に対する支援を懸命に、誇りをもって行っていらっしゃることを知りました。また社会課題について諦めたり無気力になるのではなく、本気で社会を変革しようと思っている点にも共感しました。こうしたことから、私自身が勉強させて頂き、共に成長していけたらと考えたことが理由です。



■「存在意義の発揮の支援」とは

一人一人に、生きているだけで存在意義があると思っています。例えば、私のゼミやクラスには重度の障害を持ち、日常生活で介護を要する、いわゆる寝たきりの学生がいます。彼女たちは私が連絡すると、いつも明るく「はーい」とLINEで返事をしてくれます。そうした彼女たちの存在に、私も他の学生も刺激を受けていますし、その姿勢を見習ったり、当たり前と思っていたことに感謝するようになったり、元気をもらったり、いろいろと学んでいます。このように彼女たちから影響を受けた私たちが、また他の人に影響を与えることがあるでしょうし、さらにその人たちが別の人たちに影響を与え、未来へ繋がると考えています。


彼女たちはゼミやクラスにいるだけで、「存在意義」を発揮している。またその影響は未来へと繋がっている。つまり存在意義というのは、人と人との関係の中で発揮されるものであり、一人の人間を単体でみて、短期的視野で考える問題ではないということです。別に障害者を美化したいわけではありません。

障害や社会的環境など何等かの理由で存在意義を発揮できないのであれば、そこを支援するのが福祉だと思います。めちゃくちゃイノベーティブな仕事です。



■介護と経営~3つのマネジメントと「福祉の精神」~

介護事業者が、社会に対して存在意義を発揮し続けるためには、どうすればよいか。これには3つのマネジメントが必要になると考えています。

1つ目が「資金」のマネジメント。いくらきれいごとを言っても、資金の裏付けがなければ事業の安定継続はできません。小田原市にある報徳二宮神社の石碑の二宮尊徳(金次郎)の言葉「経済なき道徳は戯言であり、道徳なき経済は犯罪である(道徳経済一元)」は重要なメッセージだと思います。社員一人ひとりが経営を他人事と思わず、自ら考え、ご利用者の存在意義の発揮を支援し続けるためにも、適切な利益を獲得し、持続可能な事業にしていくことが必要です。


2つ目は「組織」のマネジメント。イノベーションを起こしたり、サービスを提供するのは言うまでもなく人です。人によって事業継続が可能になるので、人から成る組織のマネジメントは欠かせません。心理的安全性の構築、モチベーション向上、職位に関係ないリーダーシップの発揮などいろいろ重要な策はありますが、ワクワクする職場となっているかがポイントだと思います。そういうと、ディズニーランドじゃないんだからと冷笑する人がいますが、たとえば鉄道清掃会社のJR東日本テクノハートTESSEIは、清掃というネガティブなイメージがあった仕事を職員たちと一緒に仕事の定義から捉え直し、ハーバードビジネススクールはじめ海外からの視察がくるほど、職員一人ひとりが活躍する職場へと変革させています。


3つ目が「環境」のマネジメント。上記2つの資金と組織のマネジメントは、経営でいうところの人、物、金、情報の話です。それは経営管理という組織の中を中心に見ていますが、環境のマネジメントは組織の外に目を向けています。環境は一般的に、他から与えられた不変の所与のものと思われがちです。もちろん、そういう部分は多いですが、それだけでなく、自ら働きかけて変革させていくものでもあります。特に医療・介護・福祉分野は規制産業であり、いかに自分たちが、よりご利用者のためになるよう、またよりよい社会にするために環境や制度をどう変えていくかという視点は非常に重要です。それには産官学の協力が求められます。これがマクロの環境のマネジメントです。

一方、一人ひとりの存在意義の発揮には、地域環境の構築が必要です。たとえば私の友人は、地域連携先として福祉施設や行政だけではなく、スナックや雀荘、スーパー、地域住民など、あらゆる地域資源を活用し、要介護者本人がその人らしく生活する環境を構築し、まさに地域を耕しています。これがメゾの環境のマネジメントです。

ミクロの環境のマネジメントは企業戦略であると、私は捉えています。


そして介護・福祉事業が一般的な経営と異なるのが、この3つのマネジメントをつなぐ福祉の精神・哲学(人は生きているだけで尊い。一人ひとりの存在意義の発揮を支援する)が根底にある点だと考えています。



■医療・介護・福祉の現状と課題

医療・介護・福祉業界に共通する問題点としては、そもそも報酬が低いことが挙げられますが、医療・介護・福祉に関する誤解が多いゆえに、企業も国民も負担を毛嫌いし、報酬が抑制され続けていると思います。


例えば、生活習慣病は自堕落な生活が原因で、そのために高い保険料を自分が負担するのは迷惑だという声が政界からも聞こえてきます。けれど、生活習慣病の要因は生活習慣だけではなく、遺伝や社会的環境もその一因です。

日本は先進国の中で最もシングルマザーの貧困率が高い国ですが、例えば非正規雇用で、いくら働いても時給が安いがために貧困に陥り、ダブルワークやトリプルワークで余裕もなく、毎日インスタント食品を食べ、体調が悪くても病院に行く時間もない。そうした中で起きる生活習慣病は、自堕落ゆえでなく、社会的環境が原因です。


このように、医療・介護・福祉分野は誤解が多い分野ですが、最も問題なのは、医療・介護・福祉のベースとなる社会保障が経済のお荷物で、小さいほど良いと誤解されている点です。こうした誤解を生む背景には、「市場に任せれば全てうまくいくという価値観」と「生産性で人を判断するという価値観」があるからだと思います。


まず、人は生産性で判断されるべきではありませんし、さまざまな人との関係性の中で各人が生きている以上、個人だけを見た短期的視野による生産性の判断は、大きな間違いだと思います。

また、人は誰でも「消費者」です。介護が必要であろうとなかろうと、生きている限り人は誰でも消費しますので、企業にとってどのような人も貴重な消費者だということを忘れてはならないと思います。


一方、社会保障を不十分な状態にしておくとなれば、皆が将来の医療・介護・福祉に備えて過剰に貯蓄するようになり、消費が減少し、ますます経済は縮小していきます。

また、日本のような成熟した社会において、医療・介護・福祉分野における従事者の就業者に占める比率が高くなるのは自然です。ですから、従事者比率が高くなっているこの分野の給与を上げると消費はもっと増えます。

社会保障の充実は、市場経済発展のエンジンとなるということです。


例えば、スウェーデンなど北欧諸国は、対GDP比でみた社会保障費の比率も国民負担率も高いですが、その分、医療費も大学の授業料も原則無料など、必要なサービスが受けられます。社会保障を充実させると人間が甘えてダメになるという指摘を聞きますが、北欧をみると、社会保障が充実し社会の根っこがしっかりしていることから、みなが安心してチャレンジしやすい社会を構築している様子が推測されます。事実、IMD国際競争力ランキング(2022年)をみると、デンマーク1位、スウェーデン4位、フィンランド8位、ノルウェー9位に対して日本は34位です。成熟した国としての社会保障の充実と、それによる経済の後押しが求められます。


医療・介護・福祉分野において報酬を上げるという事は、国民や企業の負担を増やすということにつながります。そうした負担増を国民や企業に要求する以上、当該分野の経営は説明責任を果たし、さらにしっかりすべきということでもあります。



■現在の研究テーマ

一つは、介護・福祉経営の指標の開発です。介護・福祉分野は利益を出せば儲け過ぎと叩かれ、赤字が続けば倒産リスクを負い、どっちを向いて経営をすれば良いのかわかりにくい状況にあると思います。わかりやすい経営指標の開発に挑戦しています。

もう一つは、生産性に関する研究です。特に介護分野は、一般の産業と比べて生産性が低いと、メディアから批判されています。この場合、「付加価値生産性」という指標が使われますが、付加価値とは人件費・利益・利子等を指します。

報酬が上がれば付加価値生産性は上がるものですが、公定価格で報酬を抑制しながら付加価値生産性が低いとメディアは批判するわけです。しまいには、倒産リスクを負う事業であるにも関わらず、「競争環境がないから付加価値生産性を上げるインセンティブがない」などと無茶苦茶なことを言っています。

こうした医療・介護・福祉分野の誤解を解き、マネジメントの在り方を研究していきたいと思っています。



■介護の仕事を志す方へのメッセージ

介護や福祉は「存在意義の発揮を支援する」仕事であり、「地域文化を作る」仕事でもあると思います。マネジメントが良ければ、介護や福祉は大変だけど、日々心が熱くなり、とても刺激的で、イノベーティブな仕事です。

私も、共に人の存在意義の発揮を支援する、地域文化を作る取組みを、研究の側面から応援させて頂きたいと思います。



【関連URL】

<公式サイト>

https://bit.ly/press-tsuchiya


<公式Twitter>

https://twitter.com/tcy_honsha


<公式YouTubeチャンネル>

https://www.youtube.com/channel/UCboj8uAyr_W7Vw4kT9HS7ng



【会社概要】

会社名  :株式会社土屋

所在地  :岡山県井原市井原町192-2 久安セントラルビル2F

代表取締役:高浜 敏之

設立   :2020年8月

事業内容 :障害福祉サービス事業及び地域生活支援事業、

      介護保険法に基づく居宅サービス事業、

      講演会及び講習会等の企画・開催及び運営事業、研修事業、

      訪問看護事業

カテゴリ:
企業動向
ジャンル:
介護 福祉 ビジネス全般
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