「広報」とは違う?企業の未来を創る「IR」とは?

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皆さんは「IR」について考えたことはありますか? 
主に企業のコーポレートサイトなどで目にすることが多いですが、本記事では、「IR」の目的や、どのような役割を担っているのか、「広報」との違いについても触れながら解説していきます。

IRについて 

IRとは? 

「IR」とは「Investor Relations(インベスターリレーションズ)」の略で、日本語では“投資家向け広報”と訳されます。機関投資家や株主に対して会社の経営・財務状況、業績動向に関する情報を発信し、経営の理解を深める活動を指し、会社内では広報部門や決算情報を扱うことから経理部門が担当することがあります。 

なお、世界最大のIR(投資家向け広報)団体「全米IR協会(NIRI)」では、「IR」について以下のように定義しています。 

企業の証券が公正な価値評価を受けることを最終目標とするものであり、企業と金融コミュニティやその他のステークホルダーとの間に最も効果的な双方的コミュニケーションを実現するため、財務活動やコミュニケーション、マーケティング、そして証券関係法の下でのコンプライアンス活動を統合した、戦略的な経営責務である 

全米IR協会(NIRI)

IR活動の普及と質の向上を目指して活動している「一般社団法人日本IR協議会」が2022年6月に実施した調査『第29回「IR活動の実態調査」(2022年6月)』によると、回答した企業のうちIR活動を実施していると答えた企業は約97%と高い水準で推移しています。実施企業は年々増加しており、企業にとってIRの重要性が高まってきていることが分かります。

 参考: 一般社団法人日本IR協議会_2022 年「IR 活動の実態調査」結果まとまる

IRの歴史 

「IR」は、1950年頃にアメリカ合衆国を拠点とした複合会社(コングロマリット)「ゼネラル・エレクトリック」(英語: General Electric Company、略称: GE)のCEOラルフ・コーディナー氏が立ち上げた“IR部門”がはじまりといわれています。投資家とより深く継続的にコミュニケーションを取る方法を考えたことから生まれた部門であり、その後1970年以降にアメリカ合衆国では本格的にIR部門が定着し、日本が本格的にIR活動を実施し始めたのは1990年代頃です。バブル崩壊で財政破綻していく企業、金融ビッグバンにより市場のグローバル化が進んでいた時代の中で、会社の経営実態を公平に開示すべく日本企業は積極的にIR活動に取り組むようになりました。

IR活動の重要性の高まりによって日本でも実施している企業は多いですが、アメリカから始まった歴史を見ると、実は日本ではまだまだ新しい職種といわれています。 

広報との違い 

「IR」と「広報」の違いは、大きく”誰に向けて何を発信するか”にあります。

広報

会社と“一般の人々”を繋ぐため、自社商品・サービスの情報や社会に対する取り組みをイメージアップを目的として発信するもの。

IR

会社と会社を支援してくれる人(投資家・株主)”を繋ぐため、投資判断に関わる情報を継続して発信するもの。

しかし、近年は個人投資家が増加傾向にあり、IRが発信する情報にも一般的なものが多くなってきているため、「IR」も「広報」と近い存在になりつつあります。

IRの目的

では、IR活動は具体的に企業がどのような目的を持って行うものなのでしょうか?

自社へ投資してくれる人を増やす

IRは、前述の通り “投資家向け広報”といわれています。経営状況や業績、また近年では社会に対する姿勢など全面的にクリーンな会社であることを投資家へアピールして、“投資するに値する会社”として評価を得ることが大切です。市場内で評価が高くなれば結果的に株価の上昇・スムーズな資金調達が可能になります。

機関投資家や株主と良好な関係を築く

会社は“株主のもの”です。株主と良好な関係を築き信頼を得るためには、まず業績や経営方針への理解を深めてもらう必要があり、そのために、企業は自社の経営・財政状況を継続的かつ公正に情報共有していく説明責任があります。中長期で会社をサポートしてくれる存在になってもらうために、株主とは良好な関係を築いていく必要があります。 

IRのターゲット 

IR活動において意識するべき主なターゲットを紹介します。 

株主

会社に出資してくれた人に発行する証券「株式」を受け取った人を指し、株を購入すれば基本的に誰でも株主になることができます。株主になると、出資した金額に応じて配当金や株主優待をもらえたり、保有株数によっては取締役の選出・解任などの経営権の取得が可能になる議決権を得ることができます。

個人投資家 

組織に属さず“個人”で投資を行っている人を指します。 
証券会社経由で株を買う「富裕層型」や、自ら情報収集して見つけた会社に投資する「中長期型」、短期的な売買を目的とした「トレーダー型」など様々なタイプがいます。 

※株主と投資家の違い 
投資家:利益を目的に出資する人(株式以外にも不動産や通貨など所有) 
株主:株式を持っている人(株式を購入すれば誰でも株主になれる) 

機関投資家 

個人投資家が拠出した資金を運用・管理する社団や法人が該当し、一般的に「生命保険会社」「投資信託会社」「損害保険会社」を指します。特に機関投資家の中で資産の運用を行う組織「アセットマネージャー」は、会社のIR情報から“投資するに値する会社”か判断してリターンを出していきます。 

海外投資家

言葉の意味の通り、外国籍の個人投資家や機関投資家を指します。
東京証券取引所の調査「2021年度株式分布状況調査の調査結果について」によると、2020年度の日本株の外国人保有比率は全体の30.4%を占めており、数字からも分かる通り海外投資家のシェア率は高く、今後も増加傾向にあるといわれています。 

上記の結果から、IR情報の英語対応も将来的に視野に入れていく必要があるでしょう。 

参考:2021年度株式分布状況調査の調査結果について

IRの業務内容 

IRの業務は対内的なものから対外的なものまで多岐にわたります。今回は多くのIR担当者が行う5つの重要業務についてまとめてみました。 

有価証券報告書の作成 

「有価証券報告書」とは、株式を発行している企業が自社の企業状況や経営状況を開示するためにまとめた報告書です。「有報」ともいいます。金融商品取引法により作成・提出が義務付けられており、事業年度終了後の3ヶ月以内に金融庁に提出しなければなりません。 

決算短信の作成 

「決算短信」とは、株式を発行している企業が証券取引所のルールに則り、決算発表の内容をまとめた書類(決算速報)です。証券取引所が企業に対して決算短信の作成を要請し、決算後45日以内に決算短信を開示することになっています。企業の計画(業績予想)の進捗状況を確認する重要な書類です。

IRサイトでの情報発信と問い合わせ対応 

企業の公式サイトにIR情報を発信することで株主・投資家がタイムリーに情報を把握できます。あらゆる株主・投資家の求める情報を提供するために常に最新情報を更新していくことが大切です。また、近年ですと個人投資家用に分かりやすく情報をまとめた動画をアップする企業も増えています。 

統合報告書の作成 

「統合報告書」とは、“財務情報”(会社の売上・資産)に加えてCSR(企業統治や社会的責任)や損益計算書などの“非財務情報”をまとめた報告書です。財務情報と非財務情報の両方の観点から、企業の経営ビジョンや今後の事業展開をみるために必要な情報です。非財務情報は、数字で表し切れない商品開発力・仕入れ先などをまとめた知的財産情報(見えざる資産)などを含めているため、株主・投資家に向けて会社の未来をプレゼンする重要資料といえます。 

株主総会の運営 

「株主総会」とは、株主で構成された会社の重要事項を決める意思決定会です。主な決議内容としては、取締役・監査役の選任/解任、企業の合併、定款変更など、とにかく会社の未来を決める最高機関といってもいいでしょう。決議は基本的に株主の多数決によって決定されます。会社の設立や運営の手続きを定める「会社法」に違反しないよう株主への通知と事前準備をしっかり行う必要があります。

IRに必要とされるスキル 

IRを担当するうえで“あったほうが業務に役立つ”スキルをまとめてみました。 

会計や税務知識 

売り上げなど基本的な数字のデータ集計や決算書の作成は経理部・財務部が行いますが、IR担当は株主・投資家を含めたステークホルダーに向けて会社の経営状況を報告することが主な役目のため、会計知識があると効率よく決算書から会社の現状を把握することができるでしょう。また、税務知識においては、税務申告書類の内容を確認する際に役立ちます。 

コミュニケーション力 

IR担当者は、株主・投資家に対して投資の判断材料を提供しなければなりません。企業の業績状況の説明も然り、自社製品(サービス)を魅力的に伝える“説明能力”が必要です。株主・投資家との良好な関係を続けるため、また、新しい投資家の獲得のためにも高いコミュニケーション力が求められます。近年の海外投資家のシェア率も考慮すると、英語などの語学力もあると役立つでしょう。 

広報担当者が IRを担うメリット・デメリット 

会社によってIRと広報の進め方は個性があります。 
広報担当者がIR業務を担うことで、メディアに向けて発信する情報と株主・投資家に向けて発信する情報を一元化でき業務効率化や企業の認知度拡大の可能性が出てきます。しかし、IRと広報はターゲット層・目的が異なることを理解しておくことが必要であり、伝える相手・タイミングを誤れば会社の大きな損失に繋がりかねないため注意深く知識を以て進めていきましょう。IRと広報それぞれの特性を生かし統制のとれた活動にすることが大切です。

IR業務に役立てるおすすめツール 

実務で必要なときにすぐ使えるおすすめ参考書(のようなもの)として紹介します。 

IR用語集/一般社団法人日本IR協議会 

IR業務で使用される用語がまとめられています。 

一般社団法人日本IR協議会 _IRライブラリ

会社四季報/株式会社東洋経済新報社 

1936年の創刊以来、上場企業のデータを網羅した企業情報収集の定番。株式投資や取引先の調査に活用できます。 

会社四季報オンライン

Yahoo!ファイナンス 

株価情報サイト。有望株(銘柄)の発掘・選択をサポートするサイト「株探」が配信している市況や速報記事をリアルタイムで閲覧できます。競合他社の株価状況など、株主・投資家目線でいち早く把握・理解していきましょう。 

Yahoo!ファイナンス

さいごに 

本記事では、「広報」との違いにも触れながら「IR」の目的や業務内容を中心に解説しました。
企業によってIR担当者の業務範囲もそれぞれだと思いますが、どの企業も自社の発展のためにIRが存在していることに違いはありません。一人の CEO が会社を大きくするために作った部署が、現在もなお世界共通のビジネス業務として存在し続けている歴史ある誇り高き仕事である「IR」について、本記事で少しでも理解を深めてくださったら嬉しいです。 

参考記事

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