【岡山理科大学】たまたま見つけた化石が世界的な発見に!! 美術館展示の岩石で西日本初の魚竜化石確認 後期三畳紀の魚竜化石は国内で初めて

恐竜学科・加藤教授らの研究グループ

調査・報告
2025年6月30日 09:40
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魚竜化石をじっくりと観察する加藤教授=高梁市役所で
魚竜化石をじっくりと観察する加藤教授=高梁市役所で

 岡山県高梁市で産出した後期三畳紀(約2億2000万年前)の岩石から見つかった脊椎動物化石が、西日本初の魚竜の化石であることが、岡山理科大学などの共同研究で分かり、加藤敬史・恐竜学科教授らが6月29日、北海道大学で開かれた日本古生物学会で発表しました。この時期の地層から魚竜が発見されたのは国内で初めて。魚竜の専門家は「この時代の魚竜化石は世界的に稀」として注目しています。

 この岩石は幅59㌢、奥行き34.5㌢、高さ26㌢の泥質砂岩。後期三畳紀の示準化石となっている2枚貝「モノチス」の化石標本として、高梁市成羽美術館で展示されていました。1994年に新築開館する前の旧館時代から既に展示されていたといい、産地は高梁市であるとの記録が残っていました。
 2023年7月26日、加藤教授が旧知の福井県立恐竜博物館の湯川弘一研究員とともに中高生を対象にした授業で、地層や岩石などを調べる野外実習をしている中で、同美術館化石展示室での講義中、ふと目をやった岩石の側面に大きめの骨片が含まれているのを発見。「わっ、骨じゃ!」。よく見てみると「海綿骨が多くて緻密骨が極めて薄い。海生適応した爬虫類か」。古生物学が専門の加藤教授はこう考えました。

 この中に一体どれぐらいの化石が埋まっているのか――。化石を含む部分を厚さ約14㌢の板状に切断して福井大学医学部のエックス線CTで調べたところ、肋骨や椎体、肩甲骨など21点の骨片を確認。研究の結果、①椎体が薄いうえ砂時計のようにくぼんでいる②椎体に二つの肋骨関節面がある③肋骨に溝が入って断面がヒョウタン型である④肩甲骨がくびれて細長い――という特徴が判明したため、魚竜と特定しました。

 これまで国内で見つかっている魚竜化石は前期三畳紀のウタツギョリュウ、中期三畳紀のクダノハマギョリュウ、前期ジュラ紀のホソウラギョリュウで、いずれも宮城県南三陸町で発見されました。

 今回の発見について、魚竜研究の世界的権威、カリフォルニア大学デービス校の藻谷亮介教授は「ノーリアンという時代は魚竜類の進化における重要な転換期で、近海型から遠洋型への進化がほぼ完成した時期にあたります。しかしこの時代の魚竜化石は世界的に稀で、まとまった化石はカナダのブリティッシュコロンビアから知られているのみです。日本からこの時代の魚竜化石が出たといういことは、進化した魚竜類が太平洋より大きかった当時のパンサラッサ海を実際に渡ることができた可能性を示し、大きな意義があります」とコメントしています。
 「ノーリアン」は、後期三畳紀のうち約2億2700万年前~2億600万年前の時期。「パンサラッサ海」は三畳紀、現在の主要な大陸が一つの非常に大きな超大陸パンゲアを形成しており、パンゲアを取り囲んでいた超海洋のことです。

 日本古生物学会に先立って高梁市役所で記者会見があり、石田芳生市長はじめ、共同研究者の加藤教授、湯川研究員、成羽美術館の碇京子学芸員らが出席。石田市長は「引き続き詳細な調査や研究が行われるとのことで、さらなる発見があるのではないかと期待しています。この発見をさまざまな地域の活性化につなげていきたい」と述べました。

 加藤教授は「成羽美術館が郷土の資料の保存、管理を継続してきたことと、教育のプラットフォームとして機能していたことが今回の発見につながりました」と背景に言及したうえで、化石について「肩甲骨の形状が非常に重要だと思っています。その形状から見て遊泳能力が高いのではないか、と推測していますが、さらに詳細な調査が必要です。いずれにしても魚竜の進化の過程を解明する貴重な資料になると思います」との知見を示しました。
 また発見時の様子について「普段から地層や化石を見る時には『他に何かないか』といろんな方向から見てみる癖があるんですが、こんなことを40年以上続けてきて、今回のような発見があったのは初めてです」と感動の瞬間を振り返りました。

 今回の魚竜化石は夏休み期間中に1カ月程度、成羽美術館で展示される予定で、子どもたちには地球の歴史、郷土の歴史を考える格好の教材になりそうです。

エックス線CTによる化石岩塊の断層画像(提供:福井県立大学・福井大学医学部)
エックス線CTによる化石岩塊の断層画像(提供:福井県立大学・福井大学医学部)
断層画像から骨の部位を示したもの
断層画像から骨の部位を示したもの
記者会見する(左から)加藤教授、湯川研究員、碇学芸員=高梁市役所で
記者会見する(左から)加藤教授、湯川研究員、碇学芸員=高梁市役所で
大勢のマスコミが詰めかけた記者会見
大勢のマスコミが詰めかけた記者会見
肩甲骨のレプリカと発見位置を示す加藤教授
肩甲骨のレプリカと発見位置を示す加藤教授
レプリカで再現された(左から)肩甲骨と2つの椎体
レプリカで再現された(左から)肩甲骨と2つの椎体
椎体のレプリカを手にする加藤教授
椎体のレプリカを手にする加藤教授
成羽の魚竜イメージイラスト(提供:碇京子)
成羽の魚竜イメージイラスト(提供:碇京子)
成羽の魚竜化石産出部位
成羽の魚竜化石産出部位
「この発見を地域の活性化につなげていきたい」と話す石田市長
「この発見を地域の活性化につなげていきたい」と話す石田市長
岩石を囲んで会話が弾む(左から)湯川研究員、加藤教授、碇学芸員
岩石を囲んで会話が弾む(左から)湯川研究員、加藤教授、碇学芸員
日本古生物学会で魚竜化石について発表する加藤教授=北海道大学で29日、碇京子さん撮影
日本古生物学会で魚竜化石について発表する加藤教授=北海道大学で29日、碇京子さん撮影

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魚竜化石をじっくりと観察する加藤教授=高梁市役所で
エックス線CTによる化石岩塊の断層画像(提供:福井県立大学・福井大学医学部)
断層画像から骨の部位を示したもの
記者会見する(左から)加藤教授、湯川研究員、碇学芸員=高梁市役所で
大勢のマスコミが詰めかけた記者会見
肩甲骨のレプリカと発見位置を示す加藤教授
レプリカで再現された(左から)肩甲骨と2つの椎体
椎体のレプリカを手にする加藤教授
成羽の魚竜イメージイラスト(提供:碇京子)
成羽の魚竜化石産出部位
「この発見を地域の活性化につなげていきたい」と話す石田市長
岩石を囲んで会話が弾む(左から)湯川研究員、加藤教授、碇学芸員
日本古生物学会で魚竜化石について発表する加藤教授=北海道大学で29日、碇京子さん撮影