【岡山理科大学】コリトサウルスの収蔵庫から別の恐竜発見 “ダチョウ恐竜”のデイノケイルスか
~北米の恐竜多様性とアジア大陸とのつながりを解明する新発見~
ポイント
・恐竜学博物館の収蔵庫で「コリトサウルス」化石に別種の恐竜が混じっていたことが判明
・北米の“ダチョウ恐竜”の中でも巨大なデイノケイルス類に酷似
・実物化石を岡山理科大学 恐竜学博物館で10月11日(土)から一般公開
概要
ノースカロライナ州立大学のチンゾリグ・ツォクトバートル博士、岡山理科大学の高崎竜司助教、千葉謙太郎講師、實吉玄貴教授、岡山理科大学恐竜学博物館の石垣忍名誉館長らの国際研究グループは、米国モンタナ州のジュディスリバー層(後期白亜紀:約7632万~7521万年前)から、ダチョウ恐竜(オルニトミモサウルス類)の非常に珍しい化石を、同博物館の収蔵庫から発見しました。北米の植物食性恐竜「コリトサウルス」の一部として林原自然科学博物館より移管された化石標本からの新発見です。
この化石(標本番号:OUSM-FV-002)は左右一対の下あごの骨で、これまで北米から知られていたオルニトミモサウルス類と比べて、際立って背が高いというユニークな特徴を持っています 。この形態は、モンゴルで発見された巨大なオルニトミモサウルス類であるデイノケイルス科、特にデイノケイルス・ミリフィクスと類似しています 。
頑丈なあごは、強い力で物を食べる食性への適応を示唆しており、華奢なあごを持つ北米のオルニトミモサウルス類とは異なるニッチ(生態的地位)を占めていた可能性があります 。また、CTスキャンを用いた内部構造の分析により、ケラチン質のくちばしに栄養供給する血管や、神経の通り道の詳細な構造を、オルニトミモサウルス類としては世界で初めて、明らかにしました 。
デイノケイルス科の恐竜は主にアジアで見つかっており、北米ではメキシコでの一例しか記録がありませんでした 。今回のモンタナ州での発見は、アジアと北米南部とをつないだ、大陸移動の証拠であり、この恐竜グループがベーリング海峡(当時は陸続きの時代もあったと考えられます)を渡って広範囲に分布していったことを示唆するものです 。

背景
オルニトミモサウルス類は、現生のダチョウに似た姿から「ダチョウ恐竜」とも呼ばれる獣脚類恐竜の一グループです 。白亜紀に生息し、多くは俊敏な体つきと歯のないくちばしを持っていました 。このグループは大きく二つの科に分けられます。一つは、華奢で走ることに特化したオルニトミムス科で、北米やアジアの地層から比較的よく化石が発見されています 。
もう一つが、より大型でがっしりした体つきのデイノケイルス科です 。この科を代表するデイノケイルスは、1970年にモンゴルで巨大な腕の化石のみが発見され、長年謎に包まれた存在でした 。近年、全身骨格が発見され、その奇妙な姿が明らかになりましたが、化石記録は依然としてアジアに偏っており、北米大陸ではほとんど知られていません。
今回の化石が発見されたジュディスリバー層は、19世紀から恐竜化石の発掘が行われてきた世界的に有名な地層です。これほど長期間にわたり研究されてきた場所から、これまで知られていなかったタイプの恐竜の化石が見つかったことは、この地層が依然として重要な発見の宝庫であることを示しています。今回見つかった化石は、1991年に林原自然科学博物館が米国から購入し、植物食性恐竜コリトサウルス全身骨格標本の一部として2014年に岡山理科大学へ移管され、現在同大学の恐竜学博物館にて所蔵されています。高崎竜司助教と千葉謙太郎講師がコリトサウルスの研究のため全身骨格標本を観察していた際、コリトサウルス以外の化石が混じっていることを発見しました。2024年にコリトサウルス全身骨格標本は記載論文として公表されていますが、引き続いて観察を継続した結果、今回の研究につながりました。
研究成果
• 北米の既知種とは一線を画す、ユニークなあごの化石
発見された化石(OUSM-FV-002)は、オルニトミモサウルス類の下あご(歯骨)です 。全長約17cmで、歯がない(無歯)くちばしを持っていたことが分かります 。最大の特徴は、骨の高さが非常に大きいことです 。その比率は、アジアのデイノケイルス・ミリフィクスに匹敵する一方、北米で一般的なオルニトミムス科の恐竜(ストルティオミムスなど)が持つ、シャベルのように先端が広がった華奢なあごとは明確に異なります 。このことから、本標本はデイノケイルス科に属する可能性が考えられます。
• 世界で初めて明らかになった、くちばしの内部構造
化石をCTスキャンで分析し、オルニトミモサウルス類のあごの内部構造を世界で初めて明らかにしました。あごの内部にある神経や血管が通っていた管の複雑なネットワークが明らかになりました 。これは現生の鳥類と同様に、くちばしを覆う角質が骨の表面を走る多数の血管によって栄養されていたことを示しています 。あごの表面だけでなく、内側にも血管の痕跡が認められ、くちばし全体が精巧なシステムで維持されていたことが示唆されます 。
• 恐竜大陸間移動の「ミッシング・リンク」を埋める発見
これまでデイノケイルス科の化石はアジアに集中しており、北米ではメキシコからパラゼニサウルスのみ報告されています。モンタナ州という、より北の地域でデイノケイルス科の可能性を示す恐竜が見つかったことで、このグループの生息域が大きく広がりました。加えて本発見は、アジアと北米の恐竜生態系が、これまで考えられていた以上に密接につながっていた可能性を示す重要な化石となります。
今後への期待
今回の発見は、世界で最も研究された恐竜化石産地の一つに、まだ知られていない多様性が隠されていることを示しました。今回見つかった化石は下あごのみであり、分類を確定するにはさらなる化石の発見が待たれます。今後もジュディスリバー層での調査が進むことで、この謎の多い恐竜の正体が突き止められ、当時の北米の恐竜生態系の全体像や、大陸間の恐竜の移動史の解明に貢献することが期待されます。
実物化石展示
今回発表されたオルニトミモサウルス類の実物化石を岡山理科大学 恐竜学博物館で10月11日(土)より展示いたします。
論文情報
論文名 A potential deinocheirid ornithomimosaur from the Judith River Formation (Upper Cretaceous: Montana, U.S.A.) and its paleobiogeographic implications
著者名 チンゾリグ・ツォクトバートル1,高崎竜司2,千葉健太郎2,Anthony R. Fiorillo3,小林快次4,實吉玄貴2,石垣忍2(1ノースカロライナ州立大学,2岡山理科大学,3ニューメキシコ自然史科学博物館,4北海道大学)
雑誌名 Journal of Vertebrate Paleontology
DOI 10.1080/02724634.2025.2536844
公表済み
お問い合わせ先
岡山理科大学 助教 高崎竜司【調査研究】
TEL 086-256-9522 メール r-takasaki@ous.ac.jp
岡山理科大学 講師 千葉謙太郎【調査研究】
TEL 086-256-9686 メール chiba@ous.ac.jp
岡山理科大学 教授 實吉玄貴【標本維持管理】
TEL 086-256-9434 メール saneyoshi@ous.ac.jp
岡山理科大学 恐竜学博物館 名誉館長 石垣忍【標本維持管理】
TEL 086-256-9480 メール isgk-7591@wind.email.ne.jp
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