高まる地政学的緊張、EUの貯蔵指令の柔軟化の中で、LNG供給量の増加加速市場の逼迫感緩和へ

エネルギーおよび海上輸送市場向けのリアルタイムエネルギーフロー分析やフレート分析プラットフォームを提供するテクノロジー企業、Vortexa（ボルテクサ：本社＝英国、ロンドン）はこのほどグローバルにおける直近のLNG市場動向を分析した特別レポートを発行した。

北東アジア市場におけるLNG需要は、現在、中国のガス需要の減少によって弱まりつつある。欧州のLNG輸入量は、直近では厳しい寒さで冬季にガス貯蔵量が枯渇したため、第1四半期に過去最高の伸びを記録したが、EUの貯蔵目標において、より柔軟性が高まるとの期待値の上昇により、市場は緩和傾向にある。また米国のプラークミンズの急速な立ち上がりとカタールからの記録的な輸出に支えられて、供給状況はより好転している。しかし、LNG新造船の流入はLNG供給の伸びを上回り続けており、その結果、歴史的に低い稼働率となり、より多くの蒸気タービンをエンジンの推進力として運航する船舶がレイアップまたは引退を余儀なくされている。

国際社会における液化天然ガス（LNG）市場は現在、いわゆる「ショルダー・シーズン（端境期）」に突入しており、2025年夏に向けた需給見通しは弱まっている。市場動向を左右する主な要因は以下の三つと考えられている。

まず、中国におけるLNG需要の減少が目立っており、米中貿易摩擦の影響を受けた工業生産の鈍化がその背景にある。また、欧州連合（EU）はガス貯蔵目標の運用に柔軟性を持たせる動きを見せており、夏季の補充需要が抑制される見通しだ。これにより、2025〜26年には再び夏季と冬季に価格差（プレミアム）が発生する可能性も指摘されている。
一方で、供給サイドでは好材料もある。米国・ルイジアナ州の「プラークミンズ」LNGプロジェクトが急ピッチで立ち上がっているほか、カタールは生産能力の110％を超える記録的な輸出実績を達成。これらの動きにより、世界的なLNG供給の見通しは改善基調にある。

海運分野では、LNG運搬船の新造ラッシュが続く中、航海距離の短縮も相まって、スポット運賃に下押し圧力がかかっている。特に、旧式の蒸気タービン推進船は極端な低稼働率に直面しており、休航（レイアップ）や解撤（スクラップ）を余儀なくされるケースも増えている。
一方で、米国通商代表部（USTR）が発表した指令案では、中国で建造されたLNG船は追加関税の対象外とされており、業界内では一定の安心感が広がる。ただし、米国内でのLNG船建造・運航体制の確立という長年の構想は、依然として具体化に至っていない。

筆者：VORTEXA LNG部門責任者 フェリックス・ブース　（＊写真別添）

Vortexa（ボルテクサ）は、世界のエネルギーおよび海上輸送市場に向けてリアルタイムのインテリジェンスと分析を提供する英国ロンドン発のテクノロジー企業です。2016年にエネルギートレーディングの専門家であるファビオ・クーン氏によって設立されて以来、同社はAIと機械学習を駆使し、原油、石油製品、LNG、LPGなどの流通動態や船舶の運航状況、フレート市場の需給バランスを瞬時に可視化・予測する統合プラットフォームを開発・運営しています。

世界中のトレーダー、海運会社、政府関係機関、アナリストに利用されており、1,000を超えるAISデータ受信源と多様な市場情報ソースを統合。米国、シンガポール、ドバイ、ジェノバなどにも拠点を構え、グローバルな情報ネットワークを構築しています。
Vortexaは「データと透明性によってエネルギーの流れを理解し、より良い意思決定を可能にする」ことをミッションに掲げ、世界中のエネルギー供給チェーンの最前線に立ち続けています。詳しくは：https://www.vortexa.com/をご参照ください。