世界11カ国で人材紹介事業を展開する業界大手の株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント(代表取締役会長兼社長:田崎ひろみ、以下JAC)は、大転職時代における転職・雇用への意識や実態を人材紹介会社として調査・発信する「JACリサーチ」を設立し、仕事に関するさまざまな調査レポートを発信しています。
今回は、2024年に実施した調査「ジョブ型雇用の今」の第2弾として、採用される側の従業員、採用する側の中途採用権者、ジョブ型雇用経験者を対象に調査を行いました。調査結果について当社コンサルタントが解説します。

「ジョブ型雇用の今 2025 日本のジョブ型雇用の実態調査」調査概要
■実施時期:2025年11月7日(金)〜11月10日(月)
■調査方法:インターネット調査
■調査対象:会社員として働く人(N=5,508)
●従業員:20~60代の経営者・役員、管理職、正社員の男女1,000人
●中途採用権者:経営者・役員・管理職・正社員で中途採用の人事権のある男女600人
●ジョブ型雇用経験者:経営者・役員・管理職・正社員で、現在または過去にジョブ型雇用として働いた経験がある100人
※本調査は小数第2位以下を四捨五入しているため、合計が100%にならない場合があります。
日本企業のジョブ型雇用導入率は約2割
ジョブ型雇用とは、職務内容や成果が明確に定義され、その職務を前提に採用される雇用形態で、欧米では主流の働き方です。日本では長年、採用後に職務を割り当てる「メンバーシップ型雇用」を選択していましたが、専門性の高い職種が増えたことやコロナ禍の影響でリモートワークが普及したことなどから、日本でもジョブ型雇用への注目が高まりつつあります。そこで、ジョブ型雇用の実態について、2024年に続き2回目の調査を行いました。
会社員として働く人の4人に1人がジョブ型雇用の経験あり
経営者・役員、一般社員など会社員として働く5,508人を対象に、ジョブ型雇用として働いた経験を聞きました。すると、「現在、ジョブ型雇用として働いている」は18.7%、「過去にジョブ型雇用として採用・就職または転職した」は6.3%となり、全体の25.0%、4人に1人がジョブ型雇用経験者となっています[図1]。

ジョブ型雇用の導入率は21.8%、1,000人以上企業では36.0%と前年比6.5ポイントUP 導入理由は「戦略的な人材採用」「従業員のスキルアップ」「より成果に即した評価をしたい」から
中途社員などの採用を担当する採用側の中途採用権者600人に、勤務先のジョブ型雇用の導入状況を聞きました。 約2割が「すでに導入」(21.8%)していますが、従業員規模別に見ると1,000人以上の企業は36.0%、100人未満では11.0%でした。「導入に予定はない」は1,000人以上の企業では19.5%ですが、100人未満では54.4%でした。
2024年の調査結果と比べると、全体の導入率は19.8%から21.8%と2.0ポイントの増加ですが、従業員規模1,000人以上の企業では29.5%から36.0%と6.5ポイント増え、ジョブ型雇用の導入が一層進んでいます[図2-1]。

「すでに導入」「導入を検討」と答えた297人の中途採用権者に、ジョブ型雇用の導入理由を聞くと、「戦略的に人材を採用したいから」(44.4%)、「従業員のスキルや専門力を高めたいから」(43.4%)、「より成果に即した評価をしたいから」(41.8%)が上位に挙げられました[図2-2]。

従業員の6割以上が「自分はジョブ型雇用の対象外」と自覚
ジョブ型雇用は「号令だけで実態が伴っていない」と、従業員も中途採用権者も厳しい意見が最多。 従業員は雇用への不安が大きく、中途採用権者はジョブ型ならではのメリットに注目
ジョブ型雇用についての意見を、採用される側の従業員1,000人と採用する側の中途採用権者600人にそれぞれ聞き、4段階(そう思う、まあそう思う、あまりそう思わない、そう思わない)で回答いただきました。
「そう思う」「まあそう思う」の合計値が高い回答は、両者とも「日本においてはジョブ型雇用へシフトという号令だけで、実態が伴っていない」(従業員65.2%、中途採用権者72.7%)、「ジョブ型雇用を適用する場合、人材育成方針を見直す必要がある」(従業員62.2%、中途採用権者71.3%)が上位となり、ジョブ型雇用に対する懸念が大きいようです。
この2つに次いで、従業員側は「自分の能力やスキルでは雇用してもらえるか不安」(61.0%)、「ジョブ型雇用は能力のない社員には不利」(60.2%)と不安が高いのに対し、中途採用権者側は「ジョブ型雇用は雇用の流動性に寄与」(67.5%)、「ジョブ型雇用の推進がグローバル社会では必要」(67.3%)と評価する声が高くなっています[図3]。

従業員の6割以上が「自分はジョブ型雇用の対象外」
従業員に自身がジョブ型雇用の対象になると思うかと聞くと、約半数が「自分はジョブ型雇用の対象にならない」(48.2%)と答え、「どちらかというと自分はジョブ型雇用の対象にならない」(17.1%)と合わせ65.3%が「対象にならない」と感じています。前回結果(66.2%)とほぼ変わらず、ジョブ型雇用への不安は依然高いままです[図4]。

ジョブ型雇用に「反対」する従業員が増加
ジョブ型雇用の普及に対し、中途採用権者は約7割が「賛成」。 従業員は賛成と反対が拮抗し、前回より「反対」が11ポイント増加
日本でのジョブ型雇用が普及することについて賛成か反対か、従業員1,000人と中途採用権者600人に聞きました。
従業員は52.8%が「賛成」(賛成6.5%+どちらかというと賛成46.3%)、47.2%が「反対」(反対7.9%+どちらかというと反対39.3%)と答え、「反対」が前回(36.2%)と比べ11.0ポイント高くなっています。
一方、中途採用権者は、「賛成」72.5%(賛成17.2%+どちらかというと賛成55.3%)、「反対」27.5%(反対4.3%+どちらかというと反対23.2%)と「賛成」が多く、前回(73.7%)と同様、賛成意見が主流となっています[図5-1]。

若い年代はジョブ型雇用に「賛成」が多いが、40代以上では「反対」の割合が半数超
今回の調査では、従業員のジョブ型の雇用の賛否が拮抗する結果となりましたが年代別に見ると、若い年代の従業員は「賛成」(20代63.5%)が多く、40代以上では「反対」の割合が50%を超えています[図5-2]。

ジョブ型雇用普及に対する賛成理由と反対理由
賛成理由 従業員「働く人のスキルを高める制度」、中途採用権者「即戦力を採用しやすくなる」
日本でのジョブ型雇用の普及に「賛成」と答えた従業員528人に賛成の理由を聞くと、「働く人が専門力やスキルを磨き、競争力を高めることのできる制度だから」(48.7%)、「専門力UPやスキルアップを図るモチベーションになるから」(39.4%)、「正しい評価と報酬を得られる制度だから」(32.2%)が上位に挙げられました。1位の「働く人が専門力やスキルを磨き、競争力を高める」という評価は前回(37.9%)より10.7ポイント高くなっています。同じく「賛成」と答えた中途採用権者435人が賛成する理由は、「即戦力人材を採用しやすくなるから」(49.0%)、「より柔軟・戦略的な人材採用ができるから」(46.9%)、「スキルや専門力が高い人材が増える・採用しやすくなるから」(45.7%)でした[図6]。

反対理由 従業員「正しく評価してもらえない」、中途採用権者「採用・評価制度の構築が難しい」
日本でのジョブ型雇用の普及に「反対」と答えた従業員472人に反対の理由を聞くと、「正しく成果を評価してもらえるとは限らない」(27.1%)、「ジョブがない時に失職や減給があると思う」(23.9%)、「キャリアプランの変更をしづらい」(23.5%)が上位に挙げられました。中途採用権者165人の反対理由は、「採用や評価の制度を構築するのが難しい」(34.5%)、「制度が先行して実効性に乏しいものになりそう」(26.1%)、「従業員のスキルや成果を正しく評価できるか疑わしい」(24.2%)となり、2位の「実効性に乏しい」は前回(20.3%)より5.8ポイント増えています[図7]。

ジョブ型雇用の効果と課題
ジョブ型雇用導入企業の約7割で全社的に導入されているが、「十分に機能している」のは26.8%
ここからは、ジョブ型雇用を導入している企業に勤めている、またはジョブ型雇用で就職・転職した経験がある中途採用権者295人に、ジョブ型雇用の実態を聞きました。
勤務先のジョブ型雇用がどの程度機能しているかを聞くと、「全体に導入され機能している」が26.8%、「全体に導入されたが十分には機能していない」が42.7%でした。全体の約7割(69.5%)で全社的に導入されていますが、十分には機能していない企業が多いようです[図8]。

ジョブ型雇用の導入効果として、「役割意識の向上」「専門スキルの活用」「スキルアップの明確化」。 一方、「成果を出すプレッシャーが大きい」「現職以外のスキルが付きにくい」という課題も明らかに
ジョブ型雇用の導入でどんな効果を感じたか、4段階(そう思う、まあそう思う、あまりそう思わない、そう思わない)で答えてもらいました。すると、「職務や成果の明確化により、役割意識が高まった」(72.9%=そう思う18.6%+まあそう思う54.2%)、「専門スキルが十分に活かせるようになった」(70.8%=そう思う17.6%+まあそう思う53.2%)、「スキルアップの方向性が明確になった」(70.8%=そう思う20.7%+まあそう思う50.2%)が上位に挙げられました[図9]。
また、ジョブ型雇用を導入・運用する上での課題や難しさを4段階(そう思う、まあそう思う、あまりそう思わない、そう思わない)で聞くと、「成果を出すプレッシャーが大きい」(62.7%=そう思う16.3%+まあそう思う46.4%)、「現職以外のスキルが付きにくい」(61.7%=そう思う17.6%+まあそう思う44.1%)、「異動・キャリアパス設計が難しい」(60.7%=そう思う14.9%+まあそう思う45.8%)が上位に挙げられました[図10]。

ジョブ型雇用を機能させるポイント
ジョブ型雇用を機能させるポイントは 「評価・給与の仕組み」「キャリアに合った仕事」「仕事内容の明確化と定期的な見直し」
ジョブ型雇用を社内でうまく機能させるためのポイントを聞くと、「評価や給与の仕組みが仕事内容や成果とちゃんとつながっていること」(34.2%)、「自分のスキルやキャリアに合った仕事・成長の機会があること」(30.2%)、「仕事内容が明確に定められ、定期的に見直されること」(29.5%)が上位に挙げられました[図11]。

ジョブ型雇用で働く人のホンネ
ジョブ型雇用という働き方を選んだ理由は、「会社よりも仕事内容に魅力を感じた」から
ここからは、現在ジョブ型雇用で働いている、または働いたことがあるジョブ型雇用経験者100人に聞きました。ジョブ型雇用という働き方を選んだ理由を聞くと、「会社よりも仕事(職務)内容に魅力を感じた」(25.0%)、「たまたま応募先がジョブ型だった」(22.0%)、「自分の専門スキルを活かせる仕事をしたかった」(20.0%)が上位に挙げられました[図12]。

ジョブ型雇用で働き始めたときに感じることは、「スキルを発揮しやすい環境」と良い印象の一方で 「職務境界が不明確」「契約に対する不安」など不安が半々
また、ジョブ型雇用での入社時に印象に残っていることを4段階(そう思う、まあそう思う、あまりそう思わない、そう思わない)で聞くと、約半数が「これまでのスキルや経験を発揮しやすい環境だった」(52.0%=そう思う11.0%+まあそう思う41.0%)と良い印象を抱いています。一方、ほぼ同数が「他の社員との職務境界が不明確だった」(51.0%=そう思う9.0%+まあそう思う42.0%)、「職務内容が変わった場合の契約について不安があった」(50.0%=そう思う14.0%+まあそう思う36.0%)と不安を感じています[図13]。

当社コンサルタントによる調査への見解
企業フェーズで異なる「ジョブ型導入」の現在地
今回の調査結果について、ジェイ エイ シー リクルートメントのコンサルタント、水上悠一が分析します。
拡大期企業はジョブ型へ、既存の事業を維持する企業はメンバーシップ型へ ─現場の実感から見える「二分化」の実態
今回の調査でジョブ型雇用の導入は企業規模が小さいほど少ないという結果が出ましたが(1p図2-1)、中小規模の企業におけるジョブ型雇用の導入は二分化しているというのが、現場の実感です。
IPO準備中の企業なども含めたスタートアップ、ベンチャー企業など、事業立ち上げ、拡大フェーズの企業は実力に応じた報酬を用意する必要があるため、実質的にはジョブ型の人事制度がほとんどです。優秀な人材を採用するためには、競合他社よりも魅力的な処遇を提示する必要があり、事業拡大においては早期に実力を発揮してもらう必要性が高いという理由からです。
一方で、同じ小規模企業でも既存事業を維持している非上場企業の場合は、ビジネスに大きな変化や事業を大幅に拡大する可能性が少ないため、多くの企業が従来のメンバーシップ型を維持したままです。
従業員数が1,000人~2,000人程度の中堅規模の企業ではメンバーシップ型とジョブ型のハイブリッド型が多いと感じます。メンバーシップ型の人事制度でキャリアを積んできた40代以上の既存社員の人数も多い中、評価制度を急激に変化させることが難しい一方で、優秀な若手社員を処遇する必要もあり、苦肉の策としてメンバーシップ型を残しつつ、部分的にジョブ型を導入する移行期となっている企業が多く見られます。
3,000人以上の大手企業では、先進的なジョブ型制度を既に運用し、改善を重ね、生産性の向上や人材の獲得につなげているケースも見られます。ただし、製造業の領域においては、全社社員における40代以上の比率が高いため、中堅規模の企業と同様の状況にあり、ジョブ型に完全に移行できないケースも多いです。
事業規模や経営フェーズによってジョブ型雇用の導入はまだ浸透度合いに差があります。また、各社の風土や実態に合わせた活用方法を模索している期間であるとも言えるでしょう。

水上 悠一(みずかみ ゆういち)
株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント コーポレートサービス第2ディビジョン 部長
日系中堅規模~小規模企業、IPOフェーズ企業の管理部門全般を網羅しており、特に管理職クラスや専門性の高いポジションの採用/転職支援の経験が豊富。 実際の面談や商談も行い、日々マーケットの動きをキャッチアップしている。
求職者、クライアントと直接対話することによって、求職者のコアキャリアと今後のキャリア形成を踏まえた求人のご紹介、クライアントの経営課題の解決につながるご紹介を心掛けている。
【株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント】
JAC Recruitment は1975年に英国で設立、日本では株式会社ジェイ エイ シー リクルートメントとして1988年設立。スペシャリストや管理職人材の紹介に特化し、コンサルタント型の人材紹介会社としては、国内最大クラスの東証プライム市場上場企業です。国際ビジネス経験をもつ人材紹介が強みで、日本国内では外資系企業や日系企業の海外事業などのグローバル領域の採用を多数支援しています。
日本の他、英国、ドイツ、アメリカおよびアジアの世界11ヵ国、34拠点で事業を展開し、人材紹介事業の他、雇用代行サービスやコンサルティング事業も行っています。その他グループ会社として、外資系企業に特化した JAC Internationalや、グローバル、バイリンガル人材に特化した求人サイトを運営するキャリアクロスを傘下にもつグローバル企業です。
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