スルフォラファンに悪酔い軽減が期待できる効果を動物実験で発見

スルフォラファンに悪酔い軽減が期待できる効果を動物実験で発見

~米国Johns Hopkins医科大学と共同研究~

カゴメ株式会社(代表取締役社長:西 秀訓)は、米国のJohns Hopkins医科大学(注1)のPaul Talalay教授(注2)との共同研究により、ブロッコリースプラウトに豊富に含まれる成分(スルフォラファングルコシノレート)から派生する、機能性成分スルフォラファン(注3)の新たな作用として、悪酔いの原因物質であるアセトアルデヒドの代謝を促進する作用を見出しました。

図.アルコール投与後の血中エタノール濃度[A]及びアセトアルデヒド濃度[B]の推移
図.アルコール投与後の血中エタノール濃度[A]及びアセトアルデヒド濃度[B]の推移

飲酒後、体内に吸収されたアルコールは、まずアセトアルデヒドに変換され、ついで酢酸へと代謝されますが、アセトアルデヒドから酢酸への代謝が進まず、血中のアセトアルデヒド濃度が高くなると、頭痛や吐き気、嘔吐などの悪酔い症状を引きおこします。そのため、アセトアルデヒドを速やかに減らすことができれば、悪酔いの軽減が期待できます。

本研究では、マウスを用いた動物実験により、スルフォラファンの摂取がアセトアルデヒドの代謝に及ぼす効果について調べました。スルフォラファンを飼料に混ぜ、あらかじめ7日間摂取させておいたマウスにアルコールを飲ませると、血液中のアルコール濃度の変化はスルフォラファンを含まない飼料を摂取させたマウスと変わりがありませんでした(下図-A)。一方、アルコールの代謝物で悪酔いの原因とも言われるアセトアルデヒドの血中濃度のピークはスルフォラファンを摂取させたマウスで低く、また、血液の中から消失していくスピードも速いことが判りました(下図-B)。この結果より、スルフォラファンは、アルコールの代謝物で悪酔いの原因物質でもあるアセトアルデヒドの代謝を促進する作用を示すことが動物実験で明らかになりました。ヒトでも同様な効果を示すか否かは今後の検討課題であり、鋭意研究を進めてまいります。

なお、本研究内容は、Alcohol and Alcoholism誌の電子版に7月3日付で掲載されました。


図.アルコール投与後の血中エタノール濃度[A]及びアセトアルデヒド濃度[B]の推移

http://www.atpress.ne.jp/releases/37047/1_1.jpg

▲スルフォラファン群:スルフォラファンを含む飼料を摂取させたマウス
●コントロール群  :スルフォラファンを含まない飼料を摂取させたマウス
t1/2:血中濃度の半減期、*:コントロール群と比べて有意差あり(p<0.05)
(平均値±標準誤差、n=9)


■研究概要
<1.背景および目的>

アルコールは洋の東西を問わず嗜好飲料として摂取されていますが、欧米人と比較して日本人などのアジア人には、飲酒するとすぐに顔が赤くなる、お酒に弱い人が多く存在します。そのような人たちの多くは、アルコールから変換されたアセトアルデヒドを代謝するための酵素(アルデヒド脱水素酵素:ALDH,注4)のはたらきが遺伝的に弱いことが知られており、日本人の実に44%が該当します(欧米人は5%未満)。アセトアルデヒドが高い濃度で長く体内に留まると、悪酔いの原因となることはもちろん、様々な疾病の原因ともなります。例えば、アルコールをたくさん飲む方が食道ガンに罹るリスクは、低活性型の酵素を持つ人では、正常型の人のおよそ10倍にもなります。アセトアルデヒドの代謝を速めることができれば、悪酔いの軽減だけではなく、アセトアルデヒドが原因となって引き起こされるさまざまな障害の予防にもつながると考えました。

ブロッコリースプラウトに豊富に含まれる成分から人の体内で派生するスルフォラファンは、種々の解毒酵素の活性を高め、発がん性物質やカビ毒など、様々な有害物質の代謝を促進することが知られていました。しかし、飲酒時のアセトアルデヒドの代謝に及ぼす影響の報告はなく、研究に着手しました。

http://www.atpress.ne.jp/releases/37047/5_5.jpg

図1.エタノールの代謝過程


<2.スルフォラファン摂取がアルコール投与後のアセトアルデヒドの代謝に及ぼす影響>

実際にアルコールを摂取した際のアセトアルデヒドの代謝を、スルフォラファンの摂取が促進するのかどうか、動物実験を用いて検討しました。

実験にはメスのCD-1マウス(1群9匹)を用い、スルフォラファンを含む飼料、ないしはスルフォラファンを含まない飼料で7日間飼育しました。一晩絶食させた後、アルコール溶液を飲ませ、その後の血中エタノールならびにアセトアルデヒド濃度を経時的に測定しました。

飼料中のスルフォラファン濃度:3gの飼料(1日の推定摂取量)あたり20μmol含有
アルコールの投与量:体重1kgあたり2.0gのエタノールを35%アルコール溶液として投与

http://www.atpress.ne.jp/releases/37047/1_1.jpg

図2.アルコール投与後の血中エタノール濃度[A]及びアセトアルデヒド濃度[B]の推移(再掲)

▲スルフォラファン群:スルフォラファンを含む飼料を摂取させたマウス
●コントロール群  :スルフォラファンを含まない飼料を摂取させたマウス
t1/2:血中濃度の半減期、*:コントロール群と比べて有意差あり(p<0.05)
(平均値±標準誤差、n=9)

その結果、血中エタノール濃度の推移は、スルフォラファンを与えた場合と与えなかった場合とで差がありませんでした(図2-A)。このことは、アルコールの吸収や、アルコールからアセトアルデヒドへの代謝に対しては、スルフォラファンが何ら影響を及ぼさなかったことを示しています。

一方、血中アセトアルデヒド濃度の最高値は、スルフォラファンを与えたグループの方がおよそ30%低い値でした。また、血中アセトアルデヒド濃度の半減期(血中濃度が半分になるのに要する時間)は、スルフォラファンを含まない飼料を摂取したグループでは3.34±0.23時間であったのに対して、スルフォラファン摂取グループでは1.77±0.12時間と、およそ半分程度に短縮されていました(図2-B)。

すなわち、スルフォラファンを摂取することは、アルコールを飲んだ後のアセトアルデヒドの代謝を、生体においても確かに促進することが明らかになりました。


<3.スルフォラファンが肝細胞のALDH活性に及ぼす影響の評価>

この作用が、アセトアルデヒドを酢酸に変換する酵素(ALDH,注4)の活性を高めることによってもたらされるものであるのかを明らかにするために、アルコール代謝の主戦場である肝臓の培養細胞(Hepa1c1c7細胞)を使った実験を行ないました。

肝細胞の培養液にスルフォラファンを加えて48時間培養し、細胞のALDH活性を測定したところ、スルフォラファンを加えた量に比例してALDH活性が高まりました(図3-A)。また、スルフォラファンの濃度を3μMに固定して、時間を追って活性の変化を見たところ、スルフォラファンを培養液に加えた後12~48時間の範囲で、培養時間が長くなるにつれてALDH活性が高くなることも判りました(図3-B)。

これらの結果から、スルフォラファンは、アセトアルデヒドの代謝を担っているALDHの活性を高めることが明らかになりました。

http://www.atpress.ne.jp/releases/37047/2_2.jpg

図3.肝臓の細胞においてスルフォラファンがALDH活性に及ぼす効果
(平均値±標準誤差、n=8、*:p<0.05、**:p<0.01 [0μMまたは0hとの比較])


<4.スルフォラファンがALDHの活性を高めるメカニズム>

では、スルフォラファンはどのようにしてALDHの活性を高めているのでしょうか。

これまで、スルフォラファンは解毒に関わる多くの酵素の遺伝子発現を高め、それらの酵素の量を増やすことが報告されています。そのメカニズムを図4に示しました。細胞に取り込まれたスルフォラファンは、細胞質中に存在するKeap1というたんぱく質に作用し、Keap1に捕捉されていたNrf2という別のたんぱく質を自由に動けるようにします。すると、Nrf2は核内に移動し、遺伝子(DNA)のARE/EqRE部位に結合し、その下流の遺伝子の発現を高めます。すなわち、ARE/EqRE部位が遺伝子の「スイッチ」で、Nrf2がそのスイッチをONにする「鍵」といった関係になります。このスイッチが、解毒に関わる多くの酵素の遺伝子に存在しているので、スルフォラファンがNrf2という一つの鍵を使えるようにすることによって、解毒に関連する多くの酵素がたくさん作られるようになるのです。

http://www.atpress.ne.jp/releases/37047/3_3.jpg

図4.スルフォラファンが解毒関連酵素群の遺伝子発現を上昇させるメカニズム

私たちが見出した、スルフォラファンがALDHの活性を上昇させる作用も、このメカニズムを介したものであるのか、次に調べました。その方法としては、遺伝的にNrf2を持たない動物から採取した細胞にスルフォラファンを作用させ、ALDH活性が上昇するかどうかを評価しました。もしも、これまでに報告されているような、Nrf2を介した作用であるならば、Nrf2を持たない動物では、スルフォラファンの作用は見られなくなってしまうはずです。

http://www.atpress.ne.jp/releases/37047/4_4.jpg

図5.Nrf2欠損動物由来の細胞のALDH活性に対するスルフォラファンの効果
(平均値±標準誤差、n=8、**:p<0.01 [0μMとの比較])

実験の結果、正常なマウスから得た細胞では、スルフォラファンによってALDH活性が上昇したのに対して、Nrf2を欠損した動物から得た細胞では、スルフォラファン添加によるALDH活性の上昇は観察されませんでした(図5)。すなわち、この作用は図4で示したような、Nrf2を介したものと考えられました。


【まとめ】
今回の一連の実験結果から、ブロッコリースプラウトに豊富に含まれる成分から生体内で派生するスルフォラファンには、アルコールの代謝物で悪酔いの原因物質でもあるアセトアルデヒドの代謝を促進する作用があることが判りました。今回の結果は動物実験で得られたものであり、実際にヒトがスルフォラファンを摂取することでアセトアルデヒドの代謝が促進されるか否かは今後の検討課題です。しかし、スルフォラファンを摂取することで解毒に関わる様々な酵素の働きが高まることが、これまでにもヒトで確認されており、同様のメカニズムを介する今回のアセトアルデヒド代謝促進作用もヒトで再現できる可能性は高いものと考えています。


※本リリース内容が掲載された論文の書誌事項
Ushida, Y., and Talalay, P.: Sulforaphane Accelerates Acetaldehyde Metabolism by Inducing Aldehyde Dehydrogenases: Relevance to Ethanol Intolerance, Alcohol and Alcoholism, first published online July 3, 2013


■用語の説明
1.Johns Hopkins医科大学:
米国メリーランド州ボルチモアにある、1876年に世界初の研究大学院大学として設立された私立大学。特に医学・生理学分野の研究が盛んであり、多くのノーベル賞科学者を輩出。カゴメは2009年4月より、Lewis B. and Dorothy Cullman Chemoprotection Center(Paul Talalay教授)に、Kagome Research Scholar Programとして奨学金を提供するとともに、研究者を派遣しています。

2.Paul Talalay教授:
植物性食品に含まれる成分によるガン予防の研究の第一人者であり、有害な化学物質を解毒する力が強い成分としてスルフォラファンを見出した科学者。(90才を超えた現在でも最先端の研究を行なっているのは、このスルフォラファンによる効果ではないかと言われています。)

3.スルフォラファン:
ブロッコリーやその発芽物であるブロッコリースプラウトに多く含まれるグルコラファニン(別名、スルフォラファングルコシノレート:SGS)から派生する成分であり、解毒酵素や抗酸化酵素の活性を高める作用があることが知られています。前駆体であるSGSからスルフォラファンへの変換には、植物体や腸内細菌が持つ酵素が関わっています。ブロッコリーやブロッコリースプラウトを咀嚼する際、ないしは腸管内で、その酵素との反応が起こり、スルフォラファンに変化し、体内に吸収されることが分かっています。スルフォラファンの生体調節作用は多数報告されていますが、当社においても、静岡大学との共同研究で肝障害を抑制する効果を、東京理科大学との共同研究で花粉症を抑制する効果を明らかにしてきています。

4.アルデヒド脱水素酵素(ALDH):
アルデヒド類を代謝する酵素の総称。ヒトの体内には複数のALDHが存在しますが、主にALDH1とALDH2の二種類がアセトアルデヒドを酢酸に代謝する反応を担っています。そのうちALDH2は通常型と低活性型とに分類されますが、日本人の約44%は低活性型のものを持っていると言われています。この酵素の活性の強弱が、お酒に「強い」、「弱い」を決める重要な因子と言われています。自分がどちらのタイプのALDH2を持っているかは、アルコールパッチテスト(アルコールをしみこませた脱脂綿を皮膚に一定時間貼り付け、その後、皮膚が赤くなってくるかどうかで判断する。赤くなれば低活性型を持っていると考えられる。)により簡単に知ることができます。

プレスリリース添付資料

カテゴリ:
調査・報告
ジャンル:
健康・ヘルスケア

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