日本初!メス化したシベリアチョウザメからの採卵・ふ化に成功 オスによるキャビア生産が可能に

    調査・報告
    2025年9月1日 14:00
    性転換個体から採取した成熟卵(左)、性転換個体から採取した成熟卵の顕微鏡写真(右)
    性転換個体から採取した成熟卵(左)、性転換個体から採取した成熟卵の顕微鏡写真(右)

    近畿大学水産研究所新宮実験場(和歌山県新宮市)准教授 稻野俊直(いねのとしなお)、助教 木南竜平(きなみりゅうへい)の研究グループは、オスからメスに性転換させたシベリアチョウザメからの採卵・ふ化に成功しました。日本で初めての成果であり、キャビアの生産効率の向上につながることが期待されます。

    【本件のポイント】
    ●人為的に性転換させたシベリアチョウザメからの採卵、ふ化に日本で初めて成功
    ●性転換させたシベリアチョウザメの稚魚が遺伝的オス(ZZ)になる理論を、世界で初めて証明
    ●オスのチョウザメからキャビアを生産する技術の向上に一歩前進

    【本件の背景】
    シベリアチョウザメ(Acipenser baerii ssp. baerii)は、ユーラシア大陸に広く分布している中型で淡水棲のチョウザメであり、水質変化に強いことから世界で最も多く養殖されている種です。生まれてから5年程度でキャビアが生産でき、ロシアチョウザメやオオチョウザメに比べて卵径が小さいものの、キャビアの生産サイクルが短いことから日本国内でも多数養殖されています。
    シベリアチョウザメは、ZZ/ZW型の遺伝的性決定様式を有する種であることが分かっており、オス(ZZ)と通常のメス(ZW)の交配によりオスとメスが1:1の割合で生まれます。キャビアの生産においては、採卵対象ではないオスの有効利用が課題になっています。

    【本件の内容】
    近畿大学水産研究所新宮実験場では、平成29年(2017年)12月に、ドイツから受精卵を輸入し、人工ふ化したシベリアチョウザメに女性ホルモンを経口投与して、令和元年(2019年)に全メス化に成功しました。(参考:https://www.kindai.ac.jp/news-pr/news-release/2019/12/018683.html
    その後、供試魚※1 の一部に、女性ホルモンを含まない通常の配合飼料を与えながら、卵巣が正常に発達することを確認するために継続飼育していました。
    供試魚が7歳2カ月(86カ月)になったところで、1尾が卵径3.1mmの成熟卵を抱卵していることが確認されました。この個体のDNAをPCRにより分析したところ、遺伝的オス(ZZ)であったことから、性転換したシベリアチョウザメがキャビアを製造できる卵を持つことが明らかとなりました。
    約2カ月後、この個体から約1,050g(約68,000粒)の採卵に成功し、別のシベリアチョウザメの精子を授精させたところ、その5日後にふ化が確認され、性転換したシベリアチョウザメから採卵してふ化させた日本初の事例となりました。また、ふ化したシベリアチョウザメを無作為に採取し、DNAを抽出してPCRによる性判別を実施したところ、全個体が遺伝的オス(ZZ)であることが判明しました。

    シベリアチョウザメの研究フロー
    シベリアチョウザメの研究フロー

    本件においては、性転換したシベリアチョウザメのメス(ZZ)と通常のオス(ZZ)の交配であるため、理論上はオス(ZZ)だけが生まれてくると考えられますが、研究グループはこのことを世界で初めて実践・証明しました。

    【今後の展望】
    オスをメス化して採卵することに成功したため、オスからのキャビア生産が可能となりましたが、さらに効率化するためには、生まれながらに全個体がメスである全メス種苗を生産する必要があります。今後は、チョウザメの全メス種苗(養殖用稚魚)生産の実現をめざします。
    今回ふ化したシベリアチョウザメは全てオスのため、このままではキャビア生産に利用することはできません。しかし、研究グループがこれまでに開発した大豆イソフラボンを用いたメス化の技術や、新たに独自製造した酵素処理大豆粕※2 を含む配合飼料でオスのコチョウザメの生殖腺を卵巣に誘導する研究成果を応用すれば、全オスのシベリアチョウザメからのキャビア生産も期待できます。

    【研究者のコメント】
    稻野俊直(イネノトシナオ)
    所属  :近畿大学水産研究所新宮実験場
    職位  :准教授
    学位  :博士(農学)
    コメント:一部のチョウザメは、遺伝子によって雌雄判別が可能になっています。国内のチョウザメ養殖では稚魚期にオスを選別して、メスだけを養殖することがスタンダードになりつつあります。私たちが開発した技術が産業実装され、オスからキャビア生産が可能になり、オスが廃棄されることのないチョウザメ養殖産業になることを期待します。

    木南竜平(キナミリュウヘイ)
    所属  :近畿大学水産研究所新宮実験場
    職位  :助教
    学位  :修士(農学)
    コメント:本研究は、親魚の性転換から開始し、約8年間かけて得られた成果です。
    本研究により、チョウザメのような古代魚も、真骨魚類と同様に高い性の可塑性を有し、本来はオスとなる個体から受精可能な卵やキャビアが得られることが分かりました。今後は、すべてのチョウザメからキャビアが生産できる未来の実現に向け、安全・安心なメス化技術などの研究を進めます。

    【用語解説】
    ※1供試魚:試験や実験に使用される魚のこと。
    ※2酵素処理大豆粕:大豆粕を酵素によって加水分解し、ゲニステイン含有量を増加させた原料。

    【関連リンク】
    水産研究所 准教授 稻野俊直(イネノトシナオ)
    https://www.kindai.ac.jp/meikan/2074-ineno-toshinao.html
    水産研究所 助教 木南竜平(キナミリュウヘイ)
    https://www.kindai.ac.jp/meikan/2515-kinami-ryuhei.html

    近畿大学水産研究所
    https://www.kindai.ac.jp/rd/research-center/aqua-research/

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