ChatGPTに相談した少女は、なぜ“想像以上の現実”に直面したのか

ある報道から考えたこと
家庭内の出来事についてChatGPTに相談した少女が、児童相談所への相談を促され、その後、警察を含む対応につながったという報道が話題になりました。
この出来事を、「AIが悪い」「児童相談所が大げさだ」という単純な話で終わらせるべきではないと思います。
本質は、私たちがまだ、自分の選択がどのような現実を動かすのかを十分に想像できていないことにあるのではないでしょうか。
相談は、時に制度を動かす
少女は、おそらく「誰かに相談したい」と思っただけだったのかもしれません。
しかし児童相談所は、単なる悩み相談窓口ではありません。子どもの安全に関わる可能性があれば、本人の意図を超えて制度が動きます。必要に応じて、警察や関係機関との連携も起こり得ます。
つまり、「相談する」とは、時に「制度を動かす」ことでもあります。
AI時代の難しさはここにあります。AIは身近で、優しく、匿名の相手のように感じられます。しかし、AIが案内した先にあるのは、生身の社会制度です。
行政、医療、警察、学校、福祉。
そこにはルールがあり、責任があり、介入があります。「ただ相談しただけ」のつもりでも、制度につながった瞬間、想像以上の現実が動き始めることがあります。
医療でも、同じことが起きている
これは医療でも同じです。
「少し見えにくい」「健診で引っかかった」「念のため調べたい」と眼科を受診された方に、緑内障、糖尿病網膜症、網膜裂孔、強度近視に伴う異常などが見つかることがあります。
患者さんは「少し調べるだけ」のつもりだったかもしれません。
しかし病気が見つかれば、精密検査、治療、通院、生活習慣の見直し、場合によっては他科連携が始まります。
検査とは、安心を得る手段であると同時に、現実を知り、未来の選択を迫られる入口でもあります。
自己決定とは、好きに選ぶことではない
これから必要になるのは、単なる知識ではなく、自己決定力です。
自己決定とは、好き勝手に選ぶことではありません。「自己責任でどうぞ」と突き放されることでもありません。
自己決定とは、その選択の先に何が起こり得るかを理解し、自分の未来を引き受ける力です。
医療でいえば、治療するリスク、治療しないリスク、検査を受ける負担、検査を受けない危険、早く知る不安、知らないまま進む危うさ。
その両面を見たうえで選ぶことが、本来の自己決定だと思います。
「お任せします」だけでは未来を守れない
日本では長く、「先生にお任せします」という医療が自然でした。専門家を信頼することは、もちろん大切です。
しかし現代医療では、選択肢が増えています。
点眼、レーザー、手術、経過観察、自費診療、予防医療。
どれにも利点があり、限界があります。
医師がすべてを決める時代でも、患者さんに丸投げする時代でもありません。これから必要なのは、医師が未来の分岐点を示し、患者さんが納得して選べる医療です。
AIが答えをくれる時代に、人間が問われること
今回の出来事は、AIの問題であると同時に、私たち自身の問題でもあります。
AIは答えをくれます。
しかし、その答えの先に進むのは人間です。
病気より怖いのは、「知らなかったこと」かもしれません。
そして、もっと怖いのは、「知らないまま選んでしまうこと」なのだと思います。
今後も、医療や社会におけるリテラシーについて、折に触れて考えていきます。

医療法人社団久視会 いわみ眼科
理事長:岩見 久司(医学博士・日本眼科学会認定 眼科専門医)
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