「黄斑変性」と言われた。でも、それは本当に加齢黄斑変性ですか?

SNSを見ていると、
「黄斑変性ですね」
「スマホの見過ぎで黄斑変性」
「紫外線を浴びたから黄斑変性」
「ゆがむなら黄斑変性」
という表現を見かけます。
しかし、これはかなり危うい言い方です。
まず、黄斑は“場所”の名前です。
ものを見る中心であり、カメラで言えばセンサーのど真ん中です。
一方で、「黄斑変性」という言葉は、本来かなり曖昧な言葉です。
昔は、黄斑の病気を今ほど細かく見ることはできませんでした。
黄斑の厚みは、わずか200〜300ミクロン程度です。
現在のOCTは、その薄い組織を数ミクロン単位で描き出します。
私が網膜診療を始めた頃は、ちょうど高解像度のSD-OCTが臨床現場に広がり始めた時代でした。
大学病院では最先端のOCT画像で病態を学び、関連病院ではその知見をもとに、眼底を肉眼で読む力を鍛えていました。
だからこそ今でも思います。
黄斑の病気は、見た目だけで雑にまとめてよいものではありません。
「ゆがむ=加齢黄斑変性」ではありません
黄斑は視機能の中心なので、ここに異常が起これば、
ゆがむ。
中心が見えにくい。
文字が欠ける。
にじむ。
小さく見える。
このような症状が出ます。
しかし、その原因は一つではありません。
黄斑上膜は、網膜表面に膜が張り、網膜がしわのように引っ張られる病気です。
黄斑浮腫は、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などにより、網膜の中に水がたまる病気です。
黄斑出血は、出血している“状態”であり、加齢黄斑変性だけでなく、近視性脈絡膜新生血管、網膜細動脈瘤、網膜血管障害などでも起こります。
黄斑円孔は、ものを見る中心に穴があく病気です。
黄斑萎縮は、網膜や網膜色素上皮が痩せている“結果”であり、加齢、強度近視、遺伝性疾患、加齢黄斑変性など原因はさまざまです。
中心性漿液性脈絡網膜症は、網膜の下に水がたまる病気で、中年男性にも多く、典型的な加齢黄斑変性とは病態が異なります。
これらはいずれも、ゆがみ、中心暗点、文字の見えにくさを起こします。
しかし、機序も治療も予後も全く違います。
つまり、
「黄斑に異常がある」
=
「加齢黄斑変性」
ではありません。
スマホや紫外線で加齢黄斑変性になる、とは言えません
スマホや紫外線についても注意が必要です。
スマホの見過ぎで加齢黄斑変性になる、という言い方は医学的にはかなり不正確です。
日常的なスマホやパソコン使用で、網膜障害や加齢黄斑変性を起こすという明確な証拠はありません。
紫外線についても、「紫外線を浴びたから黄斑変性」と単純に言えるものではありません。
紫外線対策は白内障や翼状片などの予防の観点では重要ですが、加齢黄斑変性をスマホや紫外線だけで説明するのは無理があります。
加齢黄斑変性で重要なリスクとしては、年齢、喫煙、遺伝的背景、生活習慣、ドルーゼンや網膜色素上皮異常などの眼底所見が中心です。
だからこそ、
「スマホのせいですね」
「紫外線のせいですね」
「黄斑に異常があるから黄斑変性ですね」
という説明では不十分です。
本当に見るべきなのは、
膜なのか。
水なのか。
出血なのか。
萎縮なのか。
新生血管なのか。
ドルーゼンなのか。
pachychoroid関連なのか。
近視性病変なのか。
そこを分けて初めて、治療方針が決まります。
日本人の加齢黄斑変性は「100人に1人ちょっと」
実は、日本人における加齢黄斑変性は、決して“誰にでも簡単にある病気”ではありません。
久山町研究では、50歳以上における加齢黄斑変性の有病率は1%強と報告されています。
言い換えると、
「100人に1人ちょっと」
です。
SNSで「黄斑変性」という言葉を頻繁に見かける印象ほど、そこら中にある病気ではありません。
もちろん、高齢化に伴い患者数は増えています。
また、早期の加齢黄斑変性や前駆病変まで含めれば、注意すべき眼底所見を持つ方は増えます。
しかし、黄斑に少し異常があるだけで、全部を「黄斑変性」と呼んでしまうのは乱暴です。
“予備軍”までAMDに含まれる時代になってきた
加齢黄斑変性は、英語で Age-related Macular Degeneration と呼ばれ、AMDと略されます。
そのため、医学的な分類では、早期AMD、中期AMD、後期AMDという表現が使われます。
さらにややこしいのは、この加齢黄斑変性、つまりAMDの分類そのものも変化していることです。
昔の日本の診断基準では、軟性ドルーゼンや網膜色素上皮異常などは「前駆病変」として扱われていました。
一方で、現在の国際分類寄りの考え方では、
早期AMD
中期AMD
後期AMD
という病期分類で整理されます。
つまり、昔なら「予備軍」と説明されていたものが、現在では早期AMDや中期AMDとして扱われることがあります。
そのため、
「黄斑変性があります」
という言葉の中に、
軽度のドルーゼン。
大型ドルーゼン。
網膜色素上皮異常。
pachydrusen。
萎縮性変化。
本格的な新生血管型加齢黄斑変性。
これらが混ざってしまうことがあります。
ここを分けずに話すと、患者さんは必要以上に不安になります。
逆に、本当に危険な状態を軽く見てしまうこともあります。
私が本当に恐れているのは、本物の新生血管型加齢黄斑変性です
私はmedical retina、つまり網膜疾患を専門にしてきました。
加齢黄斑変性、ポリープ状脈絡膜血管症、網膜血管腫状増殖、近視性脈絡膜新生血管、糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫など、黄斑疾患は私が最も深く診てきた領域です。
だからこそ、「黄斑変性」という一言で片づけられることには強い違和感があります。
新生血管型加齢黄斑変性は、単なる「目の老化」ではありません。
網膜の下に異常な血管が生え、そこから水や血液が漏れ、黄斑の構造を壊していく病気です。
放置すれば、中心視力が大きく損なわれます。
読書が難しくなる。
運転が難しくなる。
人の顔が分かりにくくなる。
仕事や趣味が制限される。
日常生活の自立度が下がる。
黄斑は、人生の質を支える場所です。
そして現在の新生血管型加齢黄斑変性の標準治療は、抗VEGF薬の硝子体注射です。
これは一度注射して終わり、という治療ではありません。
多くの場合、再発を抑えながら長期に管理していく必要があります。
治療間隔を調整しながら、OCTで水の再燃を確認し、必要に応じて注射を継続します。
患者さんにとっても、医療者にとっても、負担の大きい治療です。
治療費だけを見てはいけない
抗VEGF治療は、たしかに安い治療ではありません。
しかし、治療をしない方が本当に社会にとって低コストなのかというと、そうではありません。
新生血管型加齢黄斑変性を放置して視覚障害が進めば、本人の生活の質が下がるだけでなく、家族や介護者の負担も増えます。
通院の付き添い。
日常生活の支援。
介護に伴う時間的・経済的損失。
視力を守ることは、単に「目だけ」の問題ではありません。
日本における医療経済分析でも、新生血管型加齢黄斑変性に対する抗VEGF治療は、社会的視点から見て重要な意味を持つことが示されています。
治療費だけを見ると高く見えます。
しかし、視覚障害による介護負担や社会的損失まで含めて考えると、視力を維持することの価値は非常に大きいのです。
ここに、加齢黄斑変性という病気の重さがあります。
「黄斑に異常があります」は、診断の入口にすぎない
黄斑疾患は、名前だけでは分かりません。
症状も似ています。
眼底写真だけでは判断が難しいこともあります。
OCT、OCTA、自発蛍光、造影検査、広角眼底画像などを組み合わせ、病変の深さ、場所、血管の有無、滲出の有無を読み解く必要があります。
「黄斑に異常があります」
という情報だけでは、まだ診断の入口に立ったにすぎません。
大切なのは、その異常が何なのかを分けることです。
そして、本当に加齢黄斑変性であれば、軽く扱ってはいけません。
頻度としては「100人に1人ちょっと」の病気でも、発症した一人にとっては、人生の見え方を大きく変える病気です。
黄斑変性という言葉を、怖がりすぎる必要はありません。
しかし、雑に使ってよい言葉でもありません。
言葉を正確に使うことは、診断を正確にすることにつながります。
そして診断を正確にすることは、未来の見え方を守ることにつながります。
黄斑疾患は、「黄斑変性」という一言では語れません。

医療法人社団久視会 いわみ眼科
理事長:岩見 久司(医学博士・日本眼科学会認定 眼科専門医)
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