子どもの精神科外来初診患者の幻聴体験と自殺リスクに関する研究...

子どもの精神科外来初診患者の幻聴体験と自殺リスクに関する研究について ~ 10~15歳の患者の13%に幻聴体験、 自殺念慮を抱く子どもの幻声体験は自殺企図に関連 ~

地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター(所在地:横浜市南区、総長:廉井 制洋)は、児童思春期精神科の藤田 純一医長(現所属:横浜市立大学附属病院助教)らが行った、精神科外来を初診する子どもの幻聴体験に関する研究成果を「Schizophrenia Research」にて発表しましたのでその概要をお知らせいたします。

図表1
図表1

精神科外来を初診した10~15歳の初診患者608名のうち、13%の人が過去2週間以内に他の人には聞こえない声が聞こえている体験(幻聴体験)をしたことがあると回答しました。自殺ハイリスク群である自殺念慮を抱く患者188名のうち、幻聴体験のある人は、自殺念慮だけにとどまらず自殺企図の経験も有している可能性が3.4倍(調整済みオッズ比)高いことが明らかになりました。

詳細: http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S092099641500393X


【子どもの精神科外来初診患者の幻聴体験と自殺リスクに関する研究の概要】

■1.背景
自殺は10代の死因の第一位を占めています。10代の若者が自殺に至る一因として精神疾患の存在が少なからず関与しているため、精神医療関係者は死にたい気持ち(自殺念慮)を抱く子どもに出会うことは稀ではありません。医療関係者は自殺念慮を抱く子どもに出会った場合、実際に自殺行動に至ってしまう前に、そのリスクを把握して予防的に支援することが求められます。
一般の中高生を対象とした疫学研究から、他の人には聞こえない声が聞こえる体験(幻聴体験)は統合失調症などの精神病性疾患に限らず一般人口の約8%程度に存在し、自傷行為や自殺企図などの自殺関連事象のリスクと関連があることが示唆されています。
しかし、実際精神科外来に初診する子どもの患者において、幻聴体験のある人の割合やそれによって自殺リスクが高まる程度を調査した臨床的な研究は世界的にも限られていました。


■2.研究方法
神奈川県立こども医療センター児童思春期精神科と横浜市立大学附属市民総合医療センター児童精神科において、2010年から2012年の間に、横断研究を実施しました。
調査対象の適格基準は、(1)初診、(2)10~15歳、(3)知的障害を有さない、(4)自己記入式の質問票に回答可能、(5)何らかの精神科診断に該当、としました。
本研究の分析対象者は608名となりました。抑うつ症状の有無と幻聴体験の有無によって自殺リスクの程度を検討しました。


■3.解析結果のポイント
(1)10~15歳の精神科初診患者の13%に幻聴体験、12%に自殺企図歴

・608名のうち、79名(13%)が「過去2週間以内に他の人には聞こえない声を聞いたことがある」と回答しました。

・608名のうち、188名(31%)が「過去2週間以内に死にたい気持ちになったことがある」(自殺念慮)、さらに70名(12%)は「過去2週間以内に自殺しようとしたことがある」(自殺企図)、と回答しました。

(2)自殺念慮を抱く子どもの幻聴体験は自殺企図に関連

・608名のうち、幻聴体験のある人は、幻聴体験のない人と比べ、自殺念慮を抱いている可能性が3.4倍(調整済みオッズ比)高いことが明らかになりました。また、抑うつ症状のある人は、抑うつ症状のない人と比べ、自殺念慮を抱いている可能性が3.9倍高いことが明らかになりました。
自殺ハイリスク者である自殺念慮を抱く188名のうち、幻聴体験のある人は、幻聴体験のない人と比べ、自殺企図の経験を有している可能性が3.4倍(調整済みオッズ比)高いことが明らかになりました(図表1右、図表2)。
一方で、抑うつ症状の有無により、自殺企図の経験を有している可能性は変わりませんでした(図表1左、図表2)。

・これらの結果により、幻聴体験は自殺念慮に関連するだけでなく、自殺念慮を抱く子どもの自殺企図にも関連する可能性が示唆されました。自殺念慮を抱く子どものその後の自殺リスクを適切に評価するために、精神医療の関係者は、抑うつ症状ばかりでなく、幻聴体験を評価する必要性があることが示唆されます。


■図表1.自殺念慮を認める188名中の自殺企図経験と抑うつ症状および幻聴体験の関係-1

https://www.atpress.ne.jp/releases/70283/img_70283_1.png

注)縦軸は自殺企図経験を認める患者(“(過去2週間以内に)自殺しようとしたことはありますか?”という質問に“ある”と回答したもの)

注)PHQ-2:“何をしてもつまらない、楽しめないと感じることはどれくらいありますか?”、“気持ちが落ち込んで元気が無いなと感じることはどれくらいありますか?”の2項目の質問より構成される抑うつ症状管理スクリーニングツール。「0:全くない、1:数日、2:半分以上、3:ほとんど毎日」で回答し合計点で3点以上を抑うつ症状陽性と定義。


■図表2.自殺念慮を認める188名中の自殺企図経験と抑うつ症状および幻聴体験の関係-2
https://www.atpress.ne.jp/releases/70283/att_70283_1.pdf

           自殺企図,N(%)   調整オッズ比(95%信頼区間)
<幻聴体験>
幻聴体験なし (n =141)  42 (29.8%)                ‐
幻聴体験あり (n =47)  28 (59.6%)         3.4 (1.7-6.9)*

<抑うつ症状>
PHQ-2<3 (n =88)    35 (39.8%)                ‐
PHQ-2>3 (n =100)    35 (35.0%)          0.7 (0.4-1.3)


【書誌情報】
著者名:藤田 純一、高橋 雄一、西田 淳志、奥村 泰之、安藤 俊太郎、
    河野 美帆、豊原 公司、庄 紀子、南 達哉、新井 卓
標題 :Auditory verbal hallucinations increase the risk for suicide
    attempts in adolescents with suicidal ideation
雑誌名:Schizophrenia Research(オンライン版公開日2015年7月28日)
Doi  :10.1016/j.schres.2015.07.028.


神奈川県立こども医療センター児童思春期精神科
http://kcmc.kanagawa-pho.jp/department/psychiatry.html
藤田 純一 履歴
http://researchmap.jp/7000012189/

プレスリリース添付資料

カテゴリ:
調査・報告
ジャンル:
医療

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