血液中のIgA高値を特徴とするメタボ由来の 脂肪肝(MASLD)の高リスク病型を同定
信州大学医学部内科学第二教室の木村 岳史講師、若林 俊一診療助教、同大学医学部国際医学研究推進学教室の田中 直樹教授らを中心とする研究グループは、信州大学医学部附属病院臨床検査部、大垣市民病院、岐阜協立大学、大分大学などとの共同研究により、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD:肥満や糖尿病などの代謝異常を背景とする、いわゆる「メタボ由来の脂肪肝」)において、血清IgA高値を特徴とする新たな高リスク病型を同定しました。
【概要】
この病型では、肝がん、治療を要する静脈瘤、入院を要する腹水、肝性脳症などの「肝関連イベント」が将来起こりやすく、そのリスクは肝線維化の重症度だけでは説明できませんでした。さらに、肝臓と腸管の組織解析を組み合わせることで、IgAを介した腸-肝免疫連関が病態進行に関与する可能性を示しました。
本成果は、一般診療で測定可能な血清IgAを、従来の線維化評価に加えることで、MASLD患者のリスク評価をより精密にできる可能性を示すものです。本研究成果は、肝臓学分野の国際学術誌「Journal of Hepatology」に2026年7月15日付でオンライン先行掲載されました。
【研究成果のポイント】
・肝生検で診断されたメタボ由来の脂肪肝(代謝機能異常関連脂肪性肝疾患:MASLD)患者349例について、病理所見や将来の転帰を用いず、51項目の臨床・血液検査データを機械学習で解析し、4つの患者群を同定しました。
・そのうち血清IgA高値を特徴とする群では、5年間の肝関連イベント累積発生率が24.0%と高く、進行した肝線維化を考慮してもリスク上昇が残りました。
・血清IgA 318mg/dL以上は、進行肝線維化とは独立して肝関連イベントを予測しました(ハザード比3.17)。この関連は、VCTEを用いた別コホート287例および外部多施設コホート272例でも確認されました。
・空間トランスクリプトミクス、単一細胞RNA解析、免疫組織化学により、IgAを産生するB細胞系細胞が肝臓の門脈域に集積し、免疫活性化、細胞外マトリックス再構築、血管リモデリングに関わることが示されました。
・腸粘膜のIgA陽性細胞増加と腸管透過性指標の解析から、腸管バリア機能の変化を起点とする「腸-肝軸」の免疫活性化が、MASLD進展に関与する可能性が示されました。
【背景】
MASLDは、肥満、2型糖尿病、脂質異常症などの代謝異常を背景に肝臓へ脂肪が蓄積する疾患で、慢性肝疾患の主要な原因となっています。病気が進行すると、肝硬変や肝がん、腹水、静脈瘤、肝性脳症などを生じることがあります。
これまで、肝線維化の程度が将来の肝関連イベントを予測する最も重要な指標と考えられてきました。しかし、同じ線維化段階でも経過が異なる患者が存在し、線維化以外の免疫・代謝・腸管由来因子を含む病態の多様性を捉える必要があります。本研究では、先入観を置かずに患者を分類する機械学習と、組織内の遺伝子発現位置を調べる空間解析を統合し、高リスク病型とその生物学的背景を検討しました。
【研究手法・成果】
1.臨床・血液検査データのみから4つのMASLD病型を同定
信州大学医学部附属病院で肝生検によりMASLDと診断された349例を対象に、年齢、性別、併存疾患、肝機能、代謝指標、免疫グロブリンなど51項目を用いて、変分ベイズガウス混合モデルによる教師なしクラスタリングを実施しました。分類には肝組織所見や肝関連イベントの情報を含めず、データの特徴だけから4群を抽出しました。
2.IgA高値群で肝関連イベントが著しく増加
4群のうち、血清IgAとヒアルロン酸が高く、血小板が低い群(Cluster 2、72例)は、糖尿病や高血圧を伴うことが多く、進行肝線維化の割合も高い病型でした。追跡期間中央値6.8年の間に20件の肝関連イベントが発生し、この群の5年累積発生率は24.0%(95%信頼区間14.8~37.4%)でした。進行肝線維化などを調整した解析でも、Cluster 2は強いリスク因子でした。
3.血清IgA 318mg/dL以上は線維化とは独立した予測因子
血清IgAの最適カットオフ値を318mg/dLとした場合、肝関連イベントに対する感度は60.0%、特異度は80.4%、ROC曲線下面積は0.73でした。進行肝線維化を同時に含めた多変量解析でも、IgA高値は独立した予測因子でした(ハザード比3.17、95%信頼区間1.27~7.91)。さらに、IgA高値と進行肝線維化の両方を有する患者では、10年累積発生率が48%に達し、それ以外の患者では5%未満でした。
4.別コホートと外部多施設データで再現
肝生検を行わずVCTE(振動制御一過性エラストグラフィ)で評価した信州大学の別コホート287例では、肝関連イベントを発症した患者の血清IgAが有意に高値でした。また、大垣市民病院と大分大学医学部附属病院の外部多施設コホート272例でも、IgA高値を特徴とする高リスク群が再現され、IgA 318mg/dL以上の患者で肝関連イベントが多いことが確認されました。
5.肝臓の門脈域にIgA産生細胞が集積
肝組織のIGHA1(IgA1をコードする遺伝子)発現は線維化の進行とともに増加し、血清IgA値とも相関しました。空間トランスクリプトミクスでは、高度線維化肝でIGHA1発現が増加し、主に門脈域に局在しました。単一細胞RNA解析では、IGHA1は形質細胞を含むB細胞系細胞に強く発現していました。IGHA1高発現領域では、B細胞受容体シグナル、細胞外マトリックス再構築、TGF-β応答、血管リモデリング関連経路が活性化していました。
6.腸管バリア機能とIgA免疫活性化の関連
進行肝線維化を有するMASLD患者では、対照群と比べて大腸粘膜・粘膜下層のIgA陽性細胞が増加していました。また、腸管由来抗原への曝露を反映するEndoCAb IgGは、血清IgAおよび肝内IGHA1発現と正の相関を示しました。これらの結果は、腸管透過性の亢進に伴う抗原刺激が、全身および肝内のIgA関連免疫活性化につながる可能性を支持します。

図1 研究の全体像(論文Graphical Abstract)
【波及効果・今後の予定】
本研究は、従来の「肝線維化の程度」に加えて、「IgAを中心とする免疫活性化」という新たな軸から、MASLD患者の将来的なリスクを評価できる可能性を示しました。特に、進行肝線維化とIgA高値を併せ持つ患者は、肝がんや肝硬変合併症の発症リスクが高く、より慎重な経過観察が必要となる可能性があります。
また、腸管バリア機能、B細胞系免疫応答、門脈域における免疫・線維化微小環境は、MASLDの病態を理解する上で重要な研究対象となる可能性があります。今後は、国内外の前向きコホートにおける再検証、IgA高値をもたらす背景因子の解明、ならびに腸内細菌叢や腸管透過性との関連について、さらに検討を進める必要があります。
【用語解説】
MASLD … Metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)。肥満、糖尿病などの代謝異常を背景とする脂肪性肝疾患。
IgA … 免疫グロブリンA。腸管や気道などの粘膜免疫で重要な役割を担う抗体。
肝関連イベント(LRE) … 本研究では、肝がん、グレードII以上の肝性脳症、入院を要する難治性腹水、治療を要する静脈瘤を指す。
VCTE … 超音波を用いて肝臓の硬さを非侵襲的に測定する検査。FibroScanなどで用いられる。
空間トランスクリプトミクス … 組織内の「どこで」どの遺伝子が発現しているかを位置情報とともに解析する技術。
単一細胞RNA解析(scRNA-seq) … 組織を構成する細胞を一細胞単位で解析し、各細胞の遺伝子発現を調べる技術。
EndoCAb IgG … 腸内細菌由来エンドトキシンに対する抗体。腸管バリア機能や微生物由来抗原への曝露を評価する指標として用いられる。
【論文情報】
論文タイトル: IgA-Enriched Phenotype Predicts Liver-Related Events in MASLD
(IgA高値を特徴とする病型はMASLDの肝関連イベントを予測する)
掲載誌 : Journal of Hepatology
公開日 : 2026年7月15日(オンライン先行公開)
DOI : 10.1016/j.jhep.2026.06.044
PMID : 42457042
研究支援 : 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)
肝炎等克服実用化研究事業・肝炎等克服緊急対策研究事業
「肝線維化を規定する体質・分子機構の解明と新規治療基盤の
構築」をはじめ、AMED(JP24fk0210125、JP256f0137007)、
日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP22K20884、
JP24K11087)および大分大学グローカル感染症研究センター
(2024B11)の支援を受けて実施されました。
利益相反 : 本論文に関して申告すべき企業等との利益相反はありません。
【著者・所属】
木村 岳史 [1,2,3]*、若林 俊一 [1]*、岩垂 隆諒 [1]、近藤 翔平 [1]、奥村 太規 [1]、小林 浩幸 [1]、山下 裕騎 [1]、上條 優真 [1]、藤田 楓 [1]、中嶋 智之 [4]、内田 宅郎 [5,6]、山崎 智生 [1,7]、岩谷 舞 [4]、上原 剛 [4]、豊田 秀徳 [8]、熊田 卓 [9]、梅村 武司 [10]、田中 直樹 [3,11,12]
* 共同筆頭著者
1 信州大学医学部 内科学第二教室(消化器内科)
2 信州大学医学部附属病院 肝疾患診療相談センター
3 信州大学バイオメディカル研究所
4 信州大学医学部附属病院 臨床検査部
5 大分大学グローカル感染症研究センター
6 大分大学医学部 消化器内科学講座
7 カリフォルニア大学サンディエゴ校 医学部
8 大垣市民病院 消化器内科
9 岐阜協立大学
10 信州大学医学部
11 信州大学大学院医学系研究科 国際医学研究推進学
12 信州大学医学部 国際交流推進室

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