一般社団法人日本性機能学会(理事長:佐々木春明)の臨床研究促進委員会(委員長:辻村晃)は、25年ぶりとなる我が国における性機能調査を行い、現在の日本人男性の性機能、性生活の状態を明らかにしました。そこでこれらの研究成果を基に、臨床研究促進委員会(日本性機能学会)、札幌医科大学医学部泌尿器科学講座(舛森直哉教授)および三樹会泌尿器科病院 理事長の佐藤嘉一らによる研究チームを通じ、30年間の日本人男性の性機能変遷を明らかにしました。
本研究成果は、国際学術誌『International Journal of Urology』に掲載、承認されました。1991年に札幌で実施された調査データと、2023年の最新データを比較分析した結果、この30年間で日本人男性の性生活および勃起機能が全世代において著しく変化・低下していることが浮き彫りとなりました。
■本調査の背景と目的
本研究では、1991年に札幌医科大学が実施した大規模調査と、2023年に日本性機能学会臨床研究促進委員会(辻村委員長)が実施した全国調査を比較しました。2つの全国での大規模調査を比較することにより、現在の日本人男性の推移と現状がより明確に位置づけられました。今回の検討ではより正確な比較のため既婚男性に限定し、可能な限り条件を揃えた解析を行っています。
その結果、以下の三点が明確に示されました。
■調査結果のポイント_30年間の比較から浮き彫りになった「三つの変化」
1. 性交渉回数の著明な減少(図1)
月1回未満の性交渉(いわゆるセックスレス)の割合は、20代を除くすべての年齢層で有意に増加していました。特に30代後半から50代において顕著であり、働き盛り世代における変化が際立っていました。
日本では「恥ずかしい」「人に言えない」と感じる男性が多く、羞恥心やスティグマによって医療機関への相談が極めて少ないのが現状です。そのため、悩んでいる人は多いのに、治療を受ける人はごくわずかという乖離が生じています。
こうした状況は、性生活の満足度低下や夫婦関係の悪化につながり、さらには少子化など社会的課題にも影響を及ぼす可能性があり、個人の問題にとどまらない重要なテーマです。

図1
2.勃起硬度の低下(図2)
挿入に十分な硬度を得られない男性の割合は、ほぼ全世代で有意に増加していました。この結果は、単なる加齢現象では説明できない世代的変化の存在を示唆しています。

図2
3. 朝立ち(夜間勃起)の自覚低下(図3)
「朝立ちを全く自覚しない」とする割合は、全年齢層で有意に増加していました。夜間勃起は生理的勃起機能の指標であり、その低下は潜在的な性機能の変化を反映している可能性があります。

図3
■本研究の意義
本研究の重要な点は、性交頻度の低下と勃起機能の低下が並行して進行していることを、30年スパンで初めて明確に示した点にあります。
1. 器質的要因の関与
勃起硬度および朝立ちの低下は、神経血管機能や内分泌環境の変化を反映している可能性があります。その背景として、この30年間で日本人男性の肥満傾向が進行していることが挙げられます。肥満はメタボリックシンドロームの基盤となり、血管機能低下、神経機能低下、さらにはテストステロン低下を引き起こしうる要因です。
また、この30年間で睡眠時間の短縮や睡眠障害の増加が報告されており、これらも夜間勃起の減少と関連する可能性が示唆されます。
2. ライフスタイルおよび社会環境の影響
一方で、本研究で観察された変化の大きさは、器質的要因のみでは説明困難です。
身体活動量の低下、ストレスの増加、睡眠習慣の変化といった現代的ライフスタイルに加え、インターネット環境の普及も重要な要因と考えられます。特に、性交機会の減少に対し、マスターベーションの頻度は維持あるいは増加している可能性が指摘されており、性欲の低下というよりは、本人およびパートナーとの性行動の変化が関与している可能性があります。
3. 若年層における変化の重要性
本研究において特に注目すべきは、20~30代における変化です。従来、勃起機能低下は加齢性と捉えられてきましたが、若年層においても同様の傾向が認められました。
これは、デジタル環境や生活様式の変化、さらにはそれに伴う血管・神経・内分泌機能の変化が性機能に影響を及ぼしている可能性を示唆しています。これら若年男性における性機能および性交頻度の低下は、日本の少子化問題とも関連しうる重要な課題であります。
4. 中高齢者におけるカップル医療の視点
中高年においては、女性側の更年期変化や性機能低下(GSM)との相互作用、さらには男女間の性意識の乖離が、性交頻度の低下に関与している可能性があります。今後は、カップル医療として包括的アプローチが重要と考えられます。
■おわりに
本研究は、日本人男性の性行動および性機能がこの30年間で大きく変化していることを示しました。特に、性交頻度の低下と器質的性機能低下が並行して進行しているという結果は、重要なメッセージと考えています。
今後は、単なる症状治療にとどまらず、少子化への影響、生活習慣、全身疾患、さらにはパートナー要因を含めた包括的診療が求められます。本研究が、臨床および研究の新たな視点につながることを期待します。
■論文
Y.Sato, A Tsujimura, M.Shirai et al., “Three Decades of Change in Frequency of Sexual Intercourse and Sexual Function Among Japanese Men: A Comparative National Survey,” Int J Urol 2026 33 :e70344. doi: 10.1111/iju.70344.
■一般社団法人 日本性機能学会について
性機能に関連する基礎的及び臨床的研究の発展、進歩に貢献し、会員相互の自由で幅広い意見交換、国内外の学会を通じての情報交換や交流などを行い、学術の発展と人類の健康・福祉に寄与することを目的としています。
【概要】
名称 : 一般社団法人 日本性機能学会
事務局所在地: 東京都大田区大森西6-11-1 東邦大医学部 泌尿器科学講座 内
理事長 : 佐々木春明(昭和医科大学藤が丘病院 泌尿器科 教授)
設立 : 1978年(インポテンス研究会として発足)
事業内容 : 学術集会の開催、学会誌の発行、各種ガイドラインの作製、
学会自主研究の導入など




















