東京国立博物館「東洋館インクルーシブ・プロジェクト」スタート! 「博物館でアジアの旅」の会期中に、 視覚障害者の方向けの企画を実施
このたび東京国立博物館は、コレクションの保存と活用、展示、教育、サービスなど包括的な視点で未来を見据え、サステナブルかつインクルーシブなミュージアムを目指すため、「東洋館インクルーシブ・プロジェクト」をスタートいたします。
プロジェクトの企画第1弾として、東洋館で開催する「博物館でアジアの旅」(2025年9月23日(火・祝)~11月16日(日))の会期中、視覚障害者の方も楽しめるハンズオンや、「研究員の話したいこと、たっぷり聴けるAI音声ガイド」を展開、点字マップを配布します。また会期中は、視覚障害者の方とアテンドの方にも楽しく安心して鑑賞いただけるよう、“おしゃべりフリー”な東洋館として、対話のしやすい環境をつくります。コミュニケーション促進のためのハンズオンを設置するなど、作品を介した対話を促す企画もあわせて実施します。
会期終了後も、一部のハンズオンや音声ガイド等のプログラムを継続して実施し、東洋館を皮切りに展示手法のさらなる開発とアクセシビリティ向上の実現を目指してまいります。
画像1 東京国立博物館 東洋館外観
画像2 東洋館1室 展示風景
▼東洋館開館から、プロジェクト立ち上げまでの歩み
【1968年 東洋館開館】
アジアを中心とするさまざまな地域の美術工芸品、考古作品を常設展示している、日本でも珍しい展示館。谷口吉郎設計。地上5階、地下2階。展示室数13室。展示作品数約1000件。東洋美術所蔵作品(約2万件)の幅と質の高さにおいては国内随一を誇る。なかでも、中国の宋・元時代の書画、中国陶磁、中国漆工、西域美術に関しては世界でも有数のコレクションといえる。
【2009年】
耐震補強工事のため休館。
【2013年】
約4年かけて行われた耐震補強工事を経て、リニューアルオープン。
「東洋美術をめぐる旅」をコンセプトとした、東洋館の展示を盛り上げるための企画「博物館でアジアの旅」がスタート。
【2024年】
「博物館でアジアの旅」で、音声ガイドシステムVOXX LITEを試験導入。
「博物館でアジアの旅」の展示作品のなかから選んだ11作品の音声ガイドを制作。大容量のテキストにも対応できるため、小さな解説パネルには書ききれなかった内容を盛り込むことが可能。これにより、作品について深く知りたいというお客様のニーズに応えることができた。
<プロジェクト立ち上げのきっかけ>
当館のアンバサダーの河合純一さん(公益財団法人日本パラスポーツ協会日本パラリンピック委員会委員長)が東洋館に来館され、音声ガイドを評価をいただき、「楽しかった」とのコメントをいただいた。これをきっかけに、研究員ならではの視点から、視覚障害者の方がいつでも安心して来館いただける東洋館を目指したいと考え始めた。
【2025年】
東洋館インクルーシブ・プロジェクト立ち上げ。
東洋館のコレクションの魅力をより広く、あらゆる利用者に向けて、より直接的に伝えていくため、東洋館に関わるさまざまな分野担当の研究員を中心に、博物館教育課、文化財活用センターの異なる専門家によるプロジェクトチーム結成。
▼当事者の方とともにつくるプロジェクト
プロジェクトの最初の取り組みとして着手したのは、視覚障害者の方及びアテンドの方向けの見学会実施でした。ミカンベイビー合同会社が運営する福祉コミュニティ型ラボ「SFC-IFC」運営のもと、東洋館の施設環境や展示内容について、当事者へのヒアリングを2回にわたり実施しました。当事者の方からの具体的なご意見をいただくなかで、弱視の方が見やすい展示や、全盲の方が安全な移動の手段、アテンドの方が解説しやすい展示についてなど、取り組むべきたくさんの課題が浮彫りになりました。
次に、全盲の美術鑑賞研究者である半田こづえさんと、東京都庭園美術館や長野県立美術館等にて視覚障害者向けの教育ツールのデザインに携わってこられた齋藤名穂さん(UNI DESIGN)と一緒に、当館の収蔵品にまつわる音声ガイドとハンズオンの制作に着手しました。ハンズオン「漢字の『手』をさわってみよう」では、彫刻家の大曽根俊輔さんと冨長敦也さん、studio「仕組」の河内晋平さんにもご協力いただいています。
▼“おしゃべりフリー”な東洋館
作品鑑賞の際、特に視覚障害者の方にとっては、アテンドの方との対話が重要となります。そこで、当事者の方々に安心して鑑賞をお楽しみいただけるよう、「博物館でアジアの旅」の会期中は、“おしゃべりフリー”な東洋館とします。東洋館5階10室では、サイコロにある6つのお題で、対話によるコミュニケーションを促すハンズオン「サイコロdeタイムトラベル」も用意します。
以上のプログラムは、今秋の「博物館でアジアの旅」から展開予定です。小さな取り組みですが、これまでとは異なる視点による、作品との新鮮な出会いや、新しい風を感じていただけたら幸いです。
東洋館は、2028年に開館60年を迎えます。未来へ向けたコレクションの保存と活用、展示、教育、サービスなどの包括的な広い視点で、サステナブルかつインクルーシブなミュージアムを目指すべく、このプロジェクトを皮切りに、さまざまなチャレンジを続けてまいります。
博物館でアジアの旅 日韓国交正常化60周年
「てくてくコリア―韓国文化のさんぽみち―」
会期:2025年9月23日(火・祝)~11月16日(日)
「博物館でアジアの旅」は、アジアの美術・工芸・考古遺物が集まる「東洋館」を舞台に、毎年異なるテーマを掲げて作品を展示する、東京国立博物館の秋の恒例企画です。
今年の「博物館でアジアの旅」は、日韓国交正常化60周年を記念して、「てくてくコリア―韓国文化のさんぽみち―」と題し、当館が所蔵する、韓国にちなんだ作品の数々をご紹介します。本企画は「朝鮮時代の書画と交流」「日本にもたらされた朝鮮半島の文化」「韓国タイムトラベル―ここで・ひと・とき―」の3つの特集展示から構成され、書画、考古、美術工芸など多彩な作品を通じて、韓国の歴史と文化、そして日本との交流の軌跡をたどります。
画像3 博物館でアジアの旅 日韓国交正常化60周年 てくてくコリア―韓国文化のさんぽみち― キービジュアル
▼主な展示作品 ※すべて東京国立博物館蔵
【特集 朝鮮時代の書画と交流(東洋館8室)】
画像4 雀猫図軸
●雀猫図軸(じゃくびょうずじく)
伝卞相壁筆 朝鮮半島 朝鮮時代・18世紀 小倉コレクション保存会寄贈
*2025年10月19日(日)まで展示
クチナシの木を背景に、猫と4羽の雀が描かれます。東アジアにおいて、猫はただかわいらしいだけでなく、長生きを意味するおめでたいモチーフでした。雀も立身出世の象徴とされます。作者と伝えられた卞相壁(べんそうへき)は、猫を描く名手としても知られる宮廷画家です。耳の中のしわ、体の毛1本1本に至るまで緻密に表わされた見事な猫の図です。
画像5 草書「本固邦寧」額
●草書「本固邦寧」額(そうしょ「ほんこほうねい」がく)
原跡:伝英祖筆 朝鮮半島 原跡:朝鮮時代・18世紀
治世の名句「民は惟(こ)れ邦(くに)の本なり、本固ければ邦寧(やす)し」にもとづく4字を刻した扁額(へんがく)です。流暢で力強い書は、名君の第21代朝鮮国王・英祖(えいそ)(ヨンジョ、1694~1776)の筆跡と伝えられます。文字は金泥(きんでい)で着彩され、彩り豊かな余白と縁には吉祥(きっしょう)文様が描かれます。
【特集 日本にもたらされた朝鮮半島の文化(東洋館9室)】
画像6 重要文化財 如来および両脇侍立像
●重要文化財 如来(にょらい)および両脇侍立像(りょうきょうじりゅうぞう)
朝鮮半島 朝鮮・三国時代・6~7世紀 法隆寺献納宝物
蓮弁をかたどった大きな光背に、如来と両脇の菩薩の三尊が収まる姿の仏像を一光三尊と呼びます。中国や朝鮮半島では類例が多く確認されており、仏教が伝来した飛鳥時代の日本では、こうした大陸由来の仏像が信仰されたと考えられます。
【特集 韓国タイムトラベル―ここで・ひと・とき―(東洋館10室)】
画像7 男児用上着
●男児用上着(だんじよううわぎ)
朝鮮半島 朝鮮時代・19世紀 徳川頼貞氏寄贈
カラフルな縞(セクトン)模様が可愛らしい子供用の上着(チョゴリ)です。青色の結び紐は男児用、赤色は女児用といわれています。満1歳の誕生日を迎えた子供のお祝い(トルチャンチ)に着せたもので、今日も盛大に行なわれる韓国の伝統行事のひとつです。
画像8 土偶 亀
●土偶 亀(どぐう かめ)
韓国 三国時代(新羅)・5~6世紀 小倉コレクション保存会寄贈
新羅には土器に動物や人物を象った土偶を装飾する文化があり、本作もその一部であったと考えられます。粘土で作ったパーツを組み合わせ、シンプルながらも見事に亀を表現しています。頭から尾までの長さが3.8 センチメートルの非常に小さな作品ですが、SNSでもたびたび注目を集める隠れた人気者です。
画像9 青磁蓮唐草文瓶
●青磁蓮唐草文瓶(せいじはすからくさもんへい)
韓国 高麗時代・12世紀
12世紀になると、朝鮮半島では透明度が高く安定した釉色の青磁がつくられるようになり、生産は最盛期を迎えます。それらは翡翠(カワセミ)の青い羽の色にたとえて「翡色」と呼ばれました。陰影豊かに刻まれた蓮唐草文が釉の美しさをいっそう引き立てています。
▼東洋館インクルーシブ・プロジェクトによるプログラム
【「研究員の話したいこと、たっぷり聴けるAI音声ガイド」音声ガイド】
「作品をもっと深く、詳しく知りたい」というお客様のお声にお応えし、「博物館でアジアの旅」の会期中、音声ガイドシステムVOXX LITEを導入します。この音声ガイドは、視覚に障害がある方にもわかりやすい内容を目指し、作品のかたちや大きさについて、そしてどのような材質・技法でつくられたのか、さらに制作背景や研究員おすすめの見どころなど、作品キャプションだけでは伝えきれない情報を詳しく丁寧に解説している点が特徴です。対象作品点数は5点です。ご自身のスマートフォンで、展示作品のそばに配置された二次元コードを読み込むと、文字または音声で作品の詳細な解説をお楽しみいただけます。アプリのダウンロードは不要です。音声でご利用の際は、音量をおさえるかイヤホン等でお楽しみください。
【ハンズオン「漢字の『手』をさわってみよう」】
東洋館4階8室で展開する「漢字の『手』をさわってみよう」は、「手」という漢字をとりあげたアートカード式のハンズオンです。3000年以上も前に、中国でうまれた漢字は、長い歴史のなか、書きやすさや美しさが工夫され、5つのスタイル(書体)があらわれました。アートカードをさわって新しくて楽しい発見を感じてみてください。
東洋館5階10室で展開する「サイコロdeタイムトラベル」は、視覚障害者とアテンドの来館者の方も安心して鑑賞と対話が楽しめるように、コミュニケーションを促すハンズオンです。おしゃべりフリーな東洋館で、ぜひ自由な作品鑑賞の時間をお過ごしください。
【点字マップ】
「博物館でアジアの旅」の対象となる東洋館8・9・10室の点字マップを、東洋館1階インフォメーションカウンターにて配布します。音声ガイド対象作品の情報も掲載しています。ご入用の方は、ぜひお手にとってご活用ください。
▼オリジナルグッズを東洋館ミュージアムショップで販売
画像10 オリジナルグッズ ピンバッジ
絵画や工芸品の中に描かれた猫や鹿、鳥などの愛らしい姿を小さなピンバッジにしました。モチーフになった作品を会場でじっくりと探してみてください。
ピンバッジ 各1,430円(税込)
(右上から時計回りに) 長生文華角貼合子/七宝簪・粧刀・眼鏡入/猫図軸/男児用上着/絵刷毛目魚文徳利
画像11 オリジナルグッズ フルカラーバッグ他
「雀猫図軸」をプリントしたトートバッグと、「足袋」をモチーフにカラフルな刺繍にこだわって製作したマスコットとタオルハンカチです。秋のお出かけにいかがでしょうか。
マスコット 足袋 白木綿地花文様刺繍 1,375円(税込)
フルカラーバッグ 雀猫図軸 1,760円(税込)
タオルハンカチ 足袋 白木綿地花文様刺繍 990円(税込)
*サンプルのため、実物と異なる場合がございます
*このほかにもオリジナルグッズを多数ご用意しております
▼関連イベント
【ギャラリートーク】
本企画に関連した展示作品について、研究員による解説を行います。
*参加方法等の詳細は決定次第ウェブサイトでお知らせします。
(1)2025年9月30日(火) 14:00~(約20分)
講師:玉城真紀子(東洋考古)
場所:東洋館10室
(2)2025年10月28日(火) 14:00~(約20分)
講師:冨岡采花(日本・東洋彫刻)
場所:東洋館9室
【ボランティアによるガイドツアー】
東京国立博物館ボランティアによる、東洋館やアジアに関連する樹木を紹介するガイドツアーなどを実施予定です。
▼博物館でアジアの旅 日韓国交正常化60周年 てくてくコリア―韓国文化のさんぽみち―
会期 :2025年9月23日(火・祝)~11月16日(日)
会場 :東京国立博物館 東洋館
開館時間:9時30分~17時00分 ※金・土曜日、10月12日(日)、11月2日(日)は20時00分まで
※入館は閉館の30分前まで
休館日 :月曜日(ただし月曜日が祝日または休日の場合は開館し、翌平日に休館)
観覧料 :一般 1,000円/大学生 500円
※東博コレクション展(平常展)観覧料でご覧いただけます。(特別展や有料イベントは別料金)
※高校生以下および満18歳未満、満70歳以上の方は無料。入館の際に年齢のわかるものをご提示ください。
※障がい者とその介護者1名は無料。入館の際に障がい者手帳などをご提示ください。
※会期・開館日・開館時間・展示作品・展示期間等については、今後の諸事情により変更する場合がありますので、東京国立博物館ウェブサイト等でご確認ください。
ウェブサイト: https://www.tnm.jp/