IEEEメンバーが提言 宇宙空間における半導体研究の専門家 ...

IEEEメンバーが提言  宇宙空間における半導体研究の専門家  国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 小林 大輔准教授

IEEE(アイ・トリプル・イー)は世界各国の技術専門家が会員として参加しており、ネットワークセキュリティーやロボティクス、半導体など電気・情報通信系の世界的な諸課題に関しても、さまざまな提言やイベント、標準化活動を通じ技術進化へ貢献しています。


IEEEシニアメンバーである宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小林 大輔准教授は、宇宙空間でも故障せず利用できる半導体チップを簡単に選定する方法などを研究しています。


国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 小林 大輔准教授


宇宙では宇宙線と呼ぶ高エネルギーの放射線が飛び交っています。宇宙線は生物に有害なだけでなく、半導体を搭載したコンピューターや通信機器などの故障の原因となるものです。


小林准教授は、高エネルギーの宇宙線が原因でおきる半導体の誤動作について、そのメカニズムを研究してきました。それを生かし、一般的なテスターのような簡単な機器で半導体をテストし、事前に宇宙でも信頼性高く利用できるかどうかを判定できるようにしたいと考えています。


宇宙線の影響を知るには、現在のところ宇宙線を半導体に当てるしかありません。宇宙線を地上で再現するには加速器が必要で、大がかりな実験になります。これを仮想空間に置き換えてシミュレーションする方法もありますが、高性能のコンピューターを長時間使う必要があります。いずれも結果がわかるまでに時間がかかり、一年がかりになることも珍しくないそうです。また、当てないとわからないため、ありとあらゆる条件で実験を繰り返しており高コストになっているそうです。リスクを増やさずに宇宙線を当てる回数を減らすことが、宇宙関連の研究開発やビジネスを促すことになります。小林准教授はその究極の形、すなわち、「当てないとわからない」という現状の壁を乗り越えて「当てなくてもわかる」「宇宙線実験をゼロ」にしたいと提言しています。「実現は近づいており、あと一歩」な段階にきているということです。


小林准教授は、宇宙線が半導体に与える影響について「びっくりするコンピューター」と呼んでいます。半導体に宇宙線が当たると、10億分の1秒という瞬間的な時間ながら、高エネルギーの電気ショックを引き起こします。この様子を「びっくり」という言葉で分かりやすく表現したものです。アニメの世界では人がびっくりして気絶したり記憶を失ったりします。それが実際にコンピューターで起きるそうです。そうしてコンピューターの計算が狂うと各種機器の故障につながるため、どうやって防ぐかを研究することが重要となっています。


小林准教授によると、宇宙線が半導体に当ってもびっくりしないようにする対策技術は複数あり、例えば分厚い金属カバーで覆う、宇宙線に強い材料で半導体を作る、複数のチップで多数決をとる、といった方法などがあるそうです。ただ、宇宙に運ぶ機器は運ぶコストを鑑みて小型軽量であることが求められ、かつ調達も低コストである必要があります。そのため、地球で一般的に使われる機器、半導体チップをなるべく対策せずに宇宙で使うことが理想となります。そのためテスターのような簡単な機器でびっくりしにくい半導体チップを選定できることは極めて重要です。


小林准教授は東京大学の学生時代に、人の右脳に近い直感型のコンピューターを研究し、2005年にJAXAに入ってからは長く、びっくりするコンピューターのメカニズムの研究に携わっています。宇宙で使われる半導体の種類は地球とほぼ変わらず、センサー、中央演算処理装置(CPU)、グラフィックス・プロセッシング・ユニット、IC、パワー半導体など多くの種類があります。その中で、メモリーの一種であるスタティック・ランダム・アクセス・メモリー(SRAM)は宇宙線の影響を受けやすい上に、CPUに内蔵されるなど重要な役割を持つため、主にSRAMを研究対象にしているそうです。


半導体チップは処理の高速化が進み、2000年代に入って処理速度がギガヘルツ(ギガは10億)の領域に入り、従来以上に宇宙線の影響を受けるようになりました。それ以降もさまざまな新技術が導入され、コンピューターがびっくりするメカニズムも複雑化しています。小林准教授は最先端の半導体研究開発の様子を注視しながら、日々、びっくりするコンピューターのメカニズムを研究しています。加速器実験のデータを見返しては背景にある物理メカニズムを想像し、それを簡単な数式で書くことで、理想とする宇宙線実験ゼロを目指しています。小林准教授は「先日提案した方程式は高校で習うような簡単な式です。宇宙線実験をしないと決められないパラメーターは一つだけです。その一つも物理的な意味がわかっているので、似たような現象を起こす宇宙線によらない別の物理を使って推定できるに違いありません」と手応えを持っています。


ただ、半導体自体が進化しており、常に高速化し、新しい材料や技術が取り入れられているため、信頼性の研究に終わりはないそうです。


こうした研究は、小林准教授が学生時代の研究で活用した半導体物理の知識のほか、相対性理論、素粒子物理、符号理論といった多くの学問を複合的に使うもので、若い学生にとっても楽しい研究であることは間違いないそうです。また、小林准教授はびっくりするコンピューターの研究が宇宙産業を加速するために重要なだけでなく、宇宙線は地球上にも降り注いでいることから地上の産業の発展にも役立つと訴えています。



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