英語の語彙を増やす学校での授業とは

CLIL学習者はEFL学習者より第二言語(英語)の理解語彙数が多い

ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>では、CLIL(内容言語統合型学習)授業に参加した子どもと、従来のEFL(外国語しての英語)授業に参加した子どもの学習状況から、第二言語(英語)でより多くの語彙を身につけられるのは、どちらの授業に参加した子どもかという研究に関する記事を公開しました。

取り上げる論文は「The development of  receptive vocabulary in CLIL vs EFL: Is the learning context the main variable?  (2020)(CLIL授業とEFL授業で比較する理解語彙の発達 ~学習状況は主な影響要因か?~)」(著者はCastellano-Risco, I., Alejo-Gonzalez, R. & Piquer-Piriz, A. M.、ジャーナル「System 91: 1-10」)です。

結果、研究では、子どもたちが

・インプットの種類が豊富であり、かつインプット量が多い。

・生徒同士のやりとりを特に重要視する。

・言語の形式に注目するだけではなく、教科学習という文脈のなかで第二言語を学ぶことに重点を置く。

という条件で学習すると、より多くの語彙を習得することができることがわかりました。

日本の学校では「EFL」が一般的

日本では多くの学校で、すべての教科を日本語で学び、英語の授業のときだけ英語を学ぶ、EFL(English as a Foreign Language/外国語としての英語)が採用され、コミュニケーション能力を身につけることを目標に、日常的な英語表現を学ぶことに重点が置かれています。

一方、最近注目されているのが、一部の授業を社会の多数派言語(例:日本における日本語)で行い、ほかの授業を外国語(例:日本における英語)で行われるCLIL(Content and Language Integrated  Learning/内容言語統合型学習)(原田(2019))です。

CLIL授業では、学習指導要領に基づき、さまざまな教科を第二言語(L2)で指導します。そのため、CLILのカリキュラムの子どもたちは、EFL授業のみで英語を学ぶ子どもたちよりも、L2のインプット量が多くなります。また、EFL授業よりも、ふれる言語の性質が、よりアカデミックなものになり、言語使用に関与する認知能力のレベルが比較的高くなります(Dalton-Puffer 2007)。そして、言語の学習が主な目的ではないため、生徒は暗示的な言語処理を行う場合があり、これは自然な言語習得のプロセスにより近くなります。

コミュニケーションと教科学習のための語彙学習

今回の研究(Castellano-Risco, Alejo-Gonzalez,  and Piquer-Piriz 2020)の主な目的は、CLIL授業とEFL授業の生徒の理解語彙の知識を比較し、L2への接触量が語彙学習にどのような役割を果たすか、そして、どちらの学習環境のほうが語彙力をより高めるか、という点を理解することでした。研究では以下の3つの疑問に対する答えを得るため、参加者にある語彙力テストが行われました。

 

1)CLIL学習者とEFL学習者の間で、非アカデミックな理解語彙の数に違いがあるか?

2)CLIL学習者とEFL学習者の間で、アカデミックな理解語彙の数に違いがあるか?

3)インプットの量や種類は、学習者の語彙数に影響を与えるか?

 

参加者はスペインのエストレマドゥーラ州にある学校で中等教育を受ける生徒138人(14~15歳)。CLILプログラムに在籍している生徒は82人、EFLプログラムに在籍している生徒は56人です。生徒たちは4グループに分けられました。


【グループ1:  CLIL1(早期CLIL学習者23人)】

小学1年生のときからCLIL授業で学習し始め、さらに、週に1時間のEFL授業を受けてきた生徒。英語への接触時間は、計3,000時間(EFL授業で1,300時間+教科学習の授業で1,700時間)。

【グループ2:  CLIL 2 (標準的CLIL学習者25人)】

小学4年生~6年生のときからCLIL授業で学習し始めた生徒。英語への接触時間は、計2,400時間。

【グループ3:  CLIL 3 (後期CLIL学習者34人)】

中学生になってからCLIL授業で学習し始めた生徒。英語への接触時間は、計2,000時間(EFL授業で1,300時間+教科学習の授業で700時間)。

【グループ4:  EFL学習者56人】

プリスクールで3歳のときから英語を学習し始めた生徒。英語への接触時間は、計1,200時間。

 

生徒たちは、それぞれ2種類の語彙レベルテスト(Vocabulary Levels Tests/VLT)を受けました。一つ目のテストでは、最も頻繁に使われる2,000語の非アカデミックな単語(非アカデミック語彙)、二つ目のテストでは、570語のアカデミックな単語(アカデミック語彙)の知識を調べました。

結果、早期CLIL学習者が最も理解語彙が多く、非アカデミック語彙が約1,490語(全2,000語のうち74.5%)、アカデミック語彙が401語(全570語のうち70.4%)でした。またすべてのCLILグループは、EFLグループよりも高いスコアを出しました。

考察:なぜCLIL授業のほうが効果的なのか?

研究では、CLILプログラムに最も長い期間参加していた生徒が理解語彙テストで最も高いスコアを出したことがわかりました。CLIL授業の生徒の語彙力が高いことを説明するためには、言語への接触量、そして、学習が行われる文脈が重要な要素となります。

生徒たちは、外国語を使ってさまざまな教科の授業を受けることによって、教科に関連する多種多様なインプットに接触することとなり、より意味のある練習(Kasprowicz 2019の要約記事を参照)ができるようになります。教科の種類が多様なだけでなく、生徒同士がやりとりをするよう教師が働きかけることで、生徒たちに豊富なインプットを与え、語彙学習を後押しする可能性があります。

意味のある他者とのやりとりは、言語学習において重要な要素です(Grossmann 2015の要約記事を参照)。生徒が学校に通い始めて学年が上がっていくと、前年に学んだ知識や経験に基づいて学習を進めていくことができ、言語の発達も促進されていきます(Mehisto, Marsh, and Frigols 2008; Dalton-Puffer 2007)。

ただし、この研究では、CLILの生徒は EFL の生徒よりも高い語彙力を示しましたが、EFLのプログラムが効果的でないということを意味するものではありません。EFL授業では、研究に基づいたアプローチが数多く実践されており、それらが言語学習を促進できることがわかっています。

 

詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。

 

■教室環境で第二言語の語彙を増やす

https://bilingualscience.com/introduction/%e6%95%99%e5%ae%a4%e7%92%b0%e5%a2%83%e3%81%a7%e7%ac%ac%e4%ba%8c%e8%a8%80%e8%aa%9e%e3%81%ae%e8%aa%9e%e5%bd%99%e3%82%92%e5%a2%97%e3%82%84%e3%81%99/


■ワールド・ファミリーバイリンガル  サイエンス研究所(World Family's Institute Of Bilingual Science)

事業内容:教育に関する研究機関

所   長:大井静雄(脳神経外科医・発達脳科学研究者)

所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7 パシフィックマークス新宿パークサイド1階

設   立:2016年10 月              

URL:https://bilingualscience.com/

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