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<スーパー大麦「バーリーマックス」 経口摂取による睡眠改善効果試験> バーリーマックス1日12g摂取で、睡眠改善効果を確認

『腸の奥からの健康を考える研究会』(座長:帝京平成大学健康メディカル学部教授 松井 輝明)の研究活動の一環として、岡山大学大学院環境生命科学研究科 森田 英利教授、帝人株式会社との共同で、スーパー大麦「バーリーマックス(BARLEYmax)」摂取による睡眠改善効果についての評価試験を行いました。

図1:バーリーマックス摂取によるクロストリジウム属4菌種への影響


成人女性を対象とした試験の結果、1日あたり12gのバーリーマックスを経口摂取することにより、ピッツバーグスコアによる評価で睡眠改善効果が示されました。1日あたり12gのバーリーマックス含有食品の経口摂取によって腸内細菌叢が変化しており、不眠に悩みのある成人女性の睡眠改善に効果があることが示唆されました。


近年、腸内細菌叢や腸内代謝物の解析技術の進歩により、実験動物のみならずヒトにおいても腸内環境と疾病との関係が明らかになってきました。このような疾病としては、たとえば、糖尿病(*1)、肥満(*2)、動脈硬化(*3)、炎症性腸疾患(*4)、自閉症などのメンタルヘルス(*5)などがあげられます。


腸内細菌叢の構成細菌による睡眠への影響についても示唆されています。すなわち、嫌気性細菌の作用により消化管内で生成される短鎖脂肪酸には、腸クロム親和性細胞からのセロトニン分泌を促す効果があります(*6)。またクロストリジウム(Clostridium)属が宿主(生体)のセロトニン分泌に関与していると示唆される報告もあります(*7)。さらに、腸内環境の改善において従来食物繊維の摂取は非常に有益であることが知られていますが、食物繊維の摂取により睡眠が改善されるという報告もあります(*8)。


大麦は、穀物のなかでも食物繊維含有量が多く、さらには水溶性食物繊維と不溶性食物繊維がバランスよく含まれており、食物繊維摂取源として非常に適した食品素材だと言われています。現在、大麦の健康機能について世界各地で研究が進められており、食後の血糖上昇の抑制(*9)、正常な腸機能の維持(*10)、コレステロール値の低下(*11)などの効果について報告されています。また、健康増進の視点から世界各国の公的機関は大麦を一定量含有する食品には“健康強調表示”を認めています。


バーリーマックス(BARLEYmax)は、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)で開発された食物繊維を多く含有する大麦で、一般の大麦に対し、総食物繊維量が2倍、レジスタントスターチは4倍も多く含んでいます。レジスタントスターチ、β-グルカン、フルクタンの3種の食物繊維をバランスよく含有し、腸内で段階的に発酵し短鎖脂肪酸などの代謝物を産生します。オーストラリアでの臨床評価において整腸効果(*12)、血糖値の抑制効果(*13)、消化管内での短鎖脂肪酸、とくに酪酸の産生量増加効果(*14)が確認されていますが、バーリーマックスの睡眠への効果については、現在までのところ報告されていません。


そこで、バーリーマックスの摂取量が12g/dayとなるように設計した食品(ショートバー形態)の経口摂取が、睡眠改善にどのような影響を及ぼすか検討するために、アテネ不眠尺度に基づき不眠に悩みのある日本人の成人女性21名(36.59±4.45歳)を被験者として試験を実施しました。摂取期間は4週間とし、摂取前後比較法にて評価を行いました。体調不良とアンケート記載漏れにより、最終的には18名のデータを解析しました。



1.睡眠への影響

被験者に対して、試験食のバーリーマックスを毎日経口摂取してもらいましたが、被験者はこの味覚と量において苦痛感なく摂取できました。睡眠への影響として、睡眠時間、入眠時間、ピッツバーグスコア値、睡眠の質、睡眠困難、中途覚醒、日中の眠気のスコア変化について表1に示しました。睡眠時間については、0週目と比較して2週目で有意に減少し、4週目と摂取終了後4週目で平均値が減少することが確認されました。入眠時間については、0週目と比較して2、4、摂取終了後4週目で平均値が減少していました。ピッツバーグスコア値については、0週目と比較して2週目で平均値が増加するものの、4週目と摂取終了後4週目で平均値が減少しました。また、睡眠の質については、0週目と比較して2週目と摂取終了後4週目で平均値が増加し、4週目で有意に増加することが確認されました。睡眠困難については、0週目と比較して2週目で平均値が減少し、4週目と摂取終了後4週目で有意に減少しました。中途覚醒については、0週目と比較して2週目で平均値は変わらないが、4週目と摂取終了後4週目で有意に増加することが認められました。興味深いことに、日中の眠気のスコアについて0週目と比較して2週目で平均値は変わらないが、4週目と摂取終了後4週目で有意に増加し、日中の眠気が抑えられていることが確認されました。

バーリーマックスの摂取前後を比較した結果、摂取4週目においてピッツバーグスコアの平均値の減少、睡眠の質、中途覚醒および日中の眠気のスコア値の有意な増加、そして睡眠困難のスコア値の有意な減少が確認されたことから、バーリーマックスの経口摂取による睡眠改善効果が示唆されました。


表1:バーリーマックス摂取における睡眠への影響に関する総合評価


■ピッツバーグ睡眠質問項目 スコア表

(1) 睡眠の質

1点:非常に悪い、2点:かなり悪い、3点:かなり良い、4点:非常に良い


(2) 睡眠困難

0点:なし、1点:1週間に1回未満、2点:1週間に1・2回、3点:1週間に3回以上

0点:上記合計が0、1点:1~9、2点:10~18、3点:19~27


(3) 中途覚醒、(4) 日中の眠気

1点:1週間に3回以上、2点:1週間に1~2回、3点:1週間に1回未満、4点:なし



2.バーリーマックスの経口摂取による腸内細菌叢の変化

今回の実験において、睡眠と関係のあるセロトニン合成・制御に関与する、クロストリジウム(Clostridium)に属するC. hiranonis、C. leptum、C. hylemonae およびC. scindens(*7)に着目し、菌種レベルで推定したこれら4菌種の合計の構成割合(%)の増減を図1に示しました。その結果、0週目と比較してバーリーマックスを経口摂取し続けた4週目にこれらのクロストリジウム属4菌種は1.6倍程度の増加傾向があり、その後、4週間の非摂取期間を挟むことでそれらクロストリジウム属はバーリーマックスの摂取前から摂取2週間目の構成比にまで低下していました。


図1:バーリーマックス摂取によるクロストリジウム属4菌種への影響



≪試験方法≫

1.被験者

不眠に悩みのある者を選択し、アテネ不眠尺度で4~9点の成人女性21名(36.59±4.45歳)とした。

WHOが設立した「睡眠と健康に関する世界プロジェクト」で作成した不眠症判定法


2.試験食品

試験食品は、バーリーマックスの摂取量が12g/dayになるように設計したショートバーを作製し、被験者は1日1回このショートバー1本を4週間摂取した。


3.睡眠日誌(ピッツバーグ睡眠質問票)

被験者は、摂取前、摂取期間2週目、4週目、そしてwash out期間を設けた摂取終了後4週目に、ピッツバーグ睡眠質問票に回答した。


ピッツバーグスコア:睡眠の質、睡眠時間の長さ・入眠時間(量)を同時に評価することができる測定法


≪文献≫

(*1) Wen L, Ley RE, Volchkov PY, Stranges PB, Avanesyan L,Stonebraker AC, et al. Innate immunity and intestinalmicrobiota in the development of Type 1 diabetes. Nature2008; 455: 1109|13.

(*2) Vijay|Kumar M, Aitken JD, Carvalho FA, Cullender TC,Mwangi S, Srinivasan S, et al. Metabolic syndrome andaltered gut microbiota in mice lacking Toll|like receptor 5.Science 2010; 328: 228|31.

(*3) Wang Z, Klipfell E, Bennett BJ, Koeth R, Levison BS,Dugar B, et al. Gut flora metabolism of phosphatidylcholinepromotes cardiovascular disease. Nature 2011; 472:57|63.

(*4) Atarashi K, Tanoue T, Oshima K, Suda W, Nagano Y,Nishikawa H, et al. Treg induction by a rationally selectedmixture of Clostridia strains from the human microbiota

(*5) Furusawa Y, Obata Y, Fukuda S, Endo T, Nakato G, TakahashiD, et al. Commensal microbe|derived butyrateinduces the differentiation of colonic regulatory T cells.Nature 2013; 504: 446|50.

(*6) Fukumoto S, Tatewaki M, Yamada T, Fujimiya M, MantyhC, Voss M, et al. Short|chain fatty acids stimulate colonictransit via intraluminal 5|HT release in rats. Am J PhysiolRegul Integr Comp Physiol 2003; 284: 1269|76.

(*7) Yano JM, Yu K, Donaldon GP, Shastri GG, Ann P, Ma L, etal. Indigenous bacteria from the gut microbiota regulatehost serotonin biosynthesis. Cell 2015; 161: 264|76.

(*8) St|Onge MP, Roberts A, Shechter A, Choudhury AR. Fiber and saturated fat are associated with sleep arousals andslow wave sleep. J Clin Sleep Med 2016; 12: 19|24.

(*9) Thondre PS, Clegg ME, Shafat A. Molecular weight of barley β| glucan influences energy expenditure, gastricemptying and glycaemic response in human subjects. Br J Nutr 2013; 110: 2173|9.

(*10) Nilsson AC, Ostman EM, Knudsen KE, Holst JJ, Bjorck IM. A cereal|based evening meal rich in indigestible carbohydrates

increases plasma butyrate the next morning. J Nutr 2010; 140: 1932|6.

(*11) Ibrugger S, Kristensen M, Poulsen MW, Mikkelsen MS, Bugel S. Extracted oat and barley β|glucans do not affect cholesterol metabolism in young healthy adults. J Nutr 2013; 143: 1579|85.

(*12) Bird AR, Vuaran MS, King RA, Noakes M, Keogh J, Morell MK, et al. Wholegrain foods made from a novel high|amylose barley variety(Himalaya 292)improve indices of bowel health in human subjects. Br J Nutr 2008; 99: 1032|40.

(*13) King RA, Noakes M, Bird AR, Morell MK, Topping DL. An extruded breakfast cereal made from a high amylose barley cultivar has a low glycemic index and lower plasma insulin response than one made from a standard barley. J Cereal Sci 2008; 48: 526|30.

(*14) Bird AR, Flory C, Davies DA, Usher S, Topping DL. A novel barley cultivar(Himalaya 292)with a specific gene mutation in starch synthase IIa raises large bowel starch and short|chain fatty acids in rats. J Nutr 2004; 134: 831|5.



本原稿は、薬理と治療に掲載された以下の論文をもとに、まとめました。

北薗 英一、西村 文、妹脊 和男、森田 英利。

機能性大麦BARLEYmax(Tantangara)経口摂取による睡眠改善効果について

薬理と治療 2017、 45(8):1351-1357

受理日(2017|6|28)、採択日(2017|7|28)



≪『腸の奥からの健康を考える研究会』概要≫

『腸の奥からの健康を考える研究会』は、食物繊維による腸内環境改善、特に大腸の奥の改善からもたらされる様々な健康効果、肌荒れ・肌の張り・ニキビ等の美容効果に対するメカニズムの研究を行い、そのエビデンスをベースに、本質的な健康についての啓発を行うことを目的として発足。

スーパー大麦「バーリーマックス」を中心とする食物繊維のメカニズムの研究及び、学会・論文発表を行っています。また生活者に腸内環境を整えることによる健康保持についての啓発を行っています。

研究会ホームページ: http://www.cholabo.org/

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