(ポイント)
● 日本の大規模レセプトデータ(診療報酬請求情報)を用い、外来患者を中心とした市中発症急性腎障害(AKI)の季節変動を解析しました。
● AKIの発症は6月から7月にかけて増加し、7月に最も高く、2月と比べて約1.2倍でした。
● 特に0〜19歳の若年層で夏季の増加傾向が顕著であり、季節性や環境要因を考慮したAKI予防の重要性が示唆されました。
(概要説明)
熊本大学大学院薬学教育部博士課程の坂﨑友香大学院生、大学院生命科学研究部の近藤悠希准教授、石塚洋一教授、名城大学薬学部の酒井隆全准教授らの研究グループは、日本の保険者レセプトデータを用いて、外来患者を中心とした市中発症急性腎障害(AKI)の発症が夏季に増加することを明らかにしました。
解析の結果、AKIの発症は6月から7月にかけて増加し、7月に最も高くなりました。2月と比較した7月の発症率比(IRR)は約1.2倍であり、特に0〜19歳の若年層では約1.5倍と、夏季の増加傾向が顕著でした。
本研究は、外来患者を中心とした市中発症AKIに季節性が存在する可能性を示すものです。ただし、レセプトデータに基づく解析であり、気温、湿度、脱水、暑熱曝露などを直接測定したものではありません。そのため、夏季の環境要因がAKI発症に関与する可能性を示唆する結果であり、因果関係を直接証明したものではありません。
今後、検査値データや臨床情報に加え、気温や湿度、暑さ指数などの環境情報を組み合わせた研究を進めることで、季節を考慮したAKI予防対策の確立に役立つことが期待されます。
本研究成果は、令和8年7月27日(英国時間10時)に科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。
本研究は、JSPS科研費 JP19K13914の助成を受けて実施されました。
(説明)
[背景]
急性腎障害(AKI)*1は、短期間で腎機能が低下する状態であり、重症化すると入院や透析、死亡などのリスクが高まることがあります。AKIは入院中だけでなく、日常生活を送る地域社会や外来診療の中でも発症します。
脱水や循環血液量の低下はAKIの重要な危険因子とされており、気温や湿度などの環境要因もAKI発症に関係する可能性があります。しかし、日本において、外来患者を中心とした市中発症AKI*2の季節変動は十分に明らかではありませんでした。
[研究の内容]
本研究では、日本の保険者レセプトデータ*3のデータベースであるJMDC Claims Databaseを用いて、2016年8月から2018年7月までのデータを有する65歳未満の約428万人を対象に解析しました。レセプトに記録された傷病名に基づき、外来でAKIと診断された症例や、入院前や入院時点ですでにAKIを発症していたと考えられる症例を「市中発症AKI」として抽出し、月ごとの発症頻度を比較しました。一方、入院2日目以降にAKIが記録された症例は、入院後に発症したAKIと考え、解析から除外しました。
また、本研究は保険請求のために作成されたレセプトデータに基づくため、AKIの発症数を完全に把握できているわけではありません。そのため、本研究では推定された発症率そのものよりも、主に季節間の違いに着目しました。
[成果]
解析の結果、20,634例の新規市中発症AKIが同定されました。AKIの発症は6月から7月にかけて増加し、7月に最も高い発症率を示しました。2月と比較した7月の発症率比(IRR)*4は約1.2倍でした。

この傾向は、外来診療で記録された症例のみに限定した解析や、確定診断のみに限定した解析でも概ね一貫していました。また、0〜19歳の若年層では、7月の発症率比が2月と比べて約1.5倍であり、夏季の増加傾向が特に顕著でした。
これらの結果は、外来患者を中心とした市中発症AKIに季節性が存在する可能性を示しています。ただし、本研究では気温、湿度、暑さ指数、個人の暑熱曝露、地域ごとの気候差などを直接測定していません。そのため、夏季に関連する環境要因がAKI発症に関与する可能性を示唆する結果として、慎重に解釈する必要があります。
[展開]
今後は、検査値データや臨床情報に加え、気温、湿度、暑さ指数、地域ごとの気候情報などを組み合わせた研究により、どのような環境要因がAKI発症に関与するのかをさらに検討する必要があります。
本研究成果は、夏季における脱水や暑熱環境への注意喚起、外来診療や地域医療におけるAKIリスク評価、季節を考慮した予防対策の検討に役立つことが期待されます。
[用語解説]
*1 急性腎障害(AKI:Acute Kidney Injury)
短期間で腎機能が低下する状態。重症化すると、入院や透析などが必要になることがある。
*2 市中発症AKI
入院中ではなく、地域社会や外来診療の中で発症したと考えられるAKIのこと。
*3 レセプトデータ
医療機関や薬局が保険請求のために作成する診療情報のデータ。病名、診療行為、処方薬などの情報が含まれる。
*4 発症率比(IRR:Incidence Rate Ratio)
ある時期や条件と別の時期や条件で、病気の発症頻度を比べるための指標。1より大きい場合、比較対象より発症頻度が高いことを示し、例えば1.2であれば約20%高いことを意味する。
(論文情報)
論文名:Seasonality of acute kidney injury incidence in Japanese outpatient
著者:Yuka Sakazaki, Yuki Kondo, Mizuki Okuma, Ayaka Seki, Takamasa Sakai, Tetsumi Irie, Yoichi Ishitsuka
掲載誌:Scientific Reports
doi:10.1038/s41598-026-61190-6
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-026-61190-6
【本件に関するお問い合わせ先】
・研究内容に関すること
熊本大学大学院生命科学研究部
准教授 近藤悠希
TEL:096-371-4559
E-mail:ykondo@kumamoto-u.ac.jp
・報道に関すること
熊本大学 総務部総務課広報戦略室
TEL: 096-342-3269
E-mail:sos-koho@jimu.kumamto-u.ac.jp
名城大学渉外部広報課
TEL: 052-838-2006
E-mail: koho@ccml.meijo-u.ac.jp



















