精神障害の労災請求4,958件。50人未満の事業場にも広がるストレスチェック義務化に、今からどう備える?
鈴木 枝里子医師が解説。精神科医療の視点から考える「早期の気づき」と「職場のメンタルヘルス対策」

「最近、社員の元気がない」
「以前より休みが増えた気がする」
「仕事の相談を受ける機会が増えた」
職場でこのような変化に気づいたとしても、会社としてどのように対応すればよいのか迷うケースは少なくありません。
特に注目したいのが、働く人のメンタルヘルスをめぐる状況です。
厚生労働省が公表した令和7年度「過労死等の労災補償状況」によると、業務災害に係る精神障害の労災請求件数は4,958件、支給決定件数は1,082件でした。前年度と比較すると、請求件数は1,178件、支給決定件数は26件増加しています。
また、支給決定の対象となった出来事では、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が222件、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」と「セクシュアルハラスメントを受けた」がそれぞれ127件となっています。
こうした状況を踏まえ、企業にとって職場のメンタルヘルス対策は、特定の人だけの問題ではなく、職場全体で考えるテーマとなっています。
50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化
現在、労働者数50人以上の事業場では、ストレスチェックの実施が義務付けられています。
一方、50人未満の事業場では、これまでストレスチェックの実施は努力義務でした。
しかし、2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、50人未満の事業場についてもストレスチェックの実施が義務化されることになりました。
厚生労働省は、施行日を2028年4月1日としています。
つまり、従業員数50人未満の事業場も、これからストレスチェックを実施するための体制を整えていく必要があります。
ストレスチェックは「病気を診断する検査」ではない
ストレスチェックは、労働者自身の心理的な負担の程度を把握するための制度です。
検査によって高ストレスと判定された場合には、本人が希望すれば医師による面接指導を受けることができます。
重要なのは、ストレスチェックの結果を「本人の評価」や「人事評価」として扱わないことです。
厚生労働省は、ストレスチェックを受けないことや、結果を事業者に提供することに同意しないこと、面接指導を申し出たことなどを理由とした不利益な取扱いを禁止しています。
そのため、制度を導入する際には、実施方法だけでなく、結果の取扱いやプライバシー保護についても、あらかじめ社内でルールを整えておくことが重要です。
小規模事業場では「誰に相談するか」も準備しておく
50人未満の事業場では、50人以上の事業場とは異なり、産業医や衛生管理者、衛生委員会などについて同じ選任・設置義務があるわけではありません。
そこで厚生労働省は、50人未満の事業場向けに「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表しています。
また、全国の産業保健総合支援センターでは、ストレスチェック制度を含むメンタルヘルス対策について、相談対応や制度導入支援などを無料で行っています。
さらに、地域産業保健センターでは、50人未満の小規模事業場を対象として、高ストレス者に対する医師の面接指導などの産業保健サービスを無料で提供しています。
「社内に専門職がいないから何もできない」と考えるのではなく、外部の相談先や支援機関を含めて体制を考えることがポイントです。
ストレスチェックを「実施して終わり」にしないために

ストレスチェックの目的は、検査を実施することだけではありません。
厚生労働省は、集団ごとの集計・分析や、その結果に基づく職場環境改善について、事業者の努力義務としています。
例えば、
業務量や仕事の進め方
職場の人間関係
上司・同僚からの支援
働く環境
など、職場の状況を考える材料として活用することができます。
ただし、小規模な職場では個人が特定されるリスクへの配慮が特に重要です。
厚生労働省のマニュアルでは、10人未満の集団について、プライバシー保護の観点から原則として集団分析を実施しないことが示されています。
2028年4月を「直前対応」にしないために
50人未満の事業場に対するストレスチェック義務化は、2028年4月1日からです。
まだ時間があるからと後回しにするのではなく、
① 制度の内容を確認する
② 実施方法や外部支援先を調べる
③ 結果の管理・プライバシー保護の方法を決める
④ 高ストレス者への面接指導などの対応体制を確認する
⑤ 社員への周知方法を検討する
といった準備を段階的に進めることができます。
鈴木 枝里子医師は、精神科医療の視点から、働く人のこころの健康について考える情報を発信しています。
ストレスチェック制度を正しく理解し、働く人のこころの健康や職場環境について考える機会として活用することが大切です。
【監修】
鈴木 枝里子医師
医療法人社団 ユーアイエメリー会 理事長
https://www.mentalcare.or.jp/
医療法人大壮会 久喜すずのき病院 理事
https://suzunoki.net/
東京女子医科大学 神経精神科 助教
うつ病、不安障害、発達障害、認知症まで、幅広い心の不調に寄り添う精神科医。埼玉県指定「認知症疾患医療センター」で地域の中核を担い、丁寧な診察と最新のエビデンスに基づく治療で、「もう少し楽に生きられる毎日」を一緒に目指している。医学博士、精神保健指定医、日本専門医機構認定 精神科専門医・指導医、日本精神神経学会 認知症診療医、認定産業医。





















