『自然消滅』は法律で認められる? 恋人と連絡が取れなくなったときの法的リスクとは

「突然LINEの返信が来なくなった。」
「電話もつながらず、そのまま自然消滅したと思っていた。」
恋人との"フェードアウト"は珍しいことではありません。しかし、法律上は「連絡が取れない=別れが成立した」というルールは存在しません。
実際には、婚約、妊娠、貸したお金、同棲、ストーカーなどの問題が残ったまま、後日大きなトラブルへ発展するケースもあります。
本記事では、音信不通になった場合の法的な考え方と、男女双方が注意すべきポイントについて弁護士が解説します。
1.交際の「別れ」に、法律上の手続きはない
結婚と離婚には形式があります。婚姻は届出によって効力が生じ(民法739条1項)、協議離婚も届出によって成立します(同763条・764条)。始まりも終わりも公的な記録に残ります。
一方、交際にはこうした仕組みがありません。交際の開始や終了を定めた条文はなく、「付き合おう」も「別れよう」も、法律が形式を要求する行為ではないのです。
このことは、二つの意味を持ちます。
ひとつは、別れるのに相手の同意も、正当な理由も、手続きも要らないということ。「別れたくない」と言われても、交際を続ける法的な義務はありません。
もうひとつは、その裏返しです。「連絡が途絶えたから、その時点で法律上の別れが成立した」と扱う規定も存在しません。「◯か月連絡がなければ自然消滅」といった法的な基準はなく、恋愛メディアなどで語られる期間は、あくまで一般的な感覚を紹介したものです。
つまり「音信不通で別れたことになるか」という問いに、法律が一律の答えを用意しているわけではありません。実務で問題になるのは、別れの成否そのものではなく、関係が終わったかどうかで結論が変わる何かが残っているかどうかです。
2.「別れたかどうか」で変わるもの・変わらないもの
音信不通になっても影響を受けないものとしては、次のようなものが挙げられます。
・貸したお金・立て替えたお金の返還義務
・妊娠している場合の認知や養育費の問題
・借りたまま、預けたままになっている物
・相手の行為が犯罪にあたる場合の刑事責任
これに対して、関係の性質や終わり方が評価に影響しうるのは、次のような場面です。
・婚約していた場合の責任
・内縁(事実婚)だった場合の解消の責任
・相手が既婚者だった場合の関係の評価
・別の相手と交際することが「裏切り」と評価されるか
3.場面別の考え方
(1)婚約していた場合
婚約は将来結婚する旨の合意であり、指輪の購入や結納といった形式は必要ありません。婚約が成立していた場合、正当な理由のない一方的な破棄については、慰謝料の問題が生じることがあります。
音信不通にされた側から見ると、長期間連絡が取れず話し合いにも応じないという事情は、こちらから関係を解消しても不当な破棄とは評価されにくい方向に働くと考えられます。婚約の履行を求める調停を家庭裁判所で利用する方法を挙げる法律事務所もありますが、実際には解消を前提に清算を求める選択をとる例が多いようです。
逆に、自分から連絡を絶つ形で婚約を終わらせた場合には、正当な理由のない破棄と評価されるおそれがあります。式場や新居の費用など、実費の清算が問題になることもあります。
なお、相手が婚約の成立自体を否定してきた場合、成立を主張する側がそれを裏づける必要があります。
(2)同棲・内縁だった場合
単なる同棲と内縁は同じではありません。内縁と評価されるには、婚姻に準ずる共同生活の実体があることが必要とされ、交際期間の長さや子どもの有無だけで当然に保護が及ぶわけではないと判断された裁判例もあります。
内縁にあたる関係を一方的に解消した場合には慰謝料の問題が生じうる一方、住まいの問題はこれとは別の話です。名義人でない側を実力で追い出したり、残された荷物を勝手に処分したりすることは認められません。賃貸借契約の名義や連帯保証、公共料金の契約も、連絡が途絶えただけでは消えません。
(3)相手が既婚者だった場合
既婚であることを隠されて交際していたのであれば、貞操権の侵害として相手本人に請求できる余地があります。
反対に、相手の配偶者から慰謝料を請求される立場に立つこともあります。この場面で「いつ関係が終わったか」は、金額の評価などに影響しうる事情です。ただし、時効の起算点は請求する配偶者が不貞の事実と相手方を知った時とされており(民法724条。知った時から3年、行為の時から20年)、音信不通になった日ではありません。
(4)妊娠しているとき
関係の終わり方は、父子関係に影響しません。婚姻していない場合、法律上の父子関係は認知によって生じ(民法779条)、養育費はそこが入口になります。
相手が応じない、連絡が取れないという場合には、家庭裁判所の認知調停や認知の訴え(同787条)という手続きがあります。出生前に認知してもらう胎児認知には母の承諾が必要です(同783条1項)。「認知しない」という当事者間の約束によって、子の側の請求権が失われるわけではありません。
(5)お金や物のやり取りがあるとき
貸したお金の返還義務は、交際が終わったかどうかとは関係なく残ります。返済期限を決めていなかった場合の時効の考え方も、別の枠組みで判断されます(民法166条1項。権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年)。
もっとも、渡したものが贈与なのか貸付なのかは、当事者の呼び方ではなく実態と証拠で判断されます。デート代やプレゼントは贈与と評価されることが多く、連絡が取れなくなったからといって当然に返還を求められるものではありません。
(6)音信不通のまま、別の人と交際してよいか
婚姻していない交際関係に、法律上の貞操義務があるわけではありません。そのため、後から「浮気だ」と言われても、慰謝料が認められるのは限られた場面です。ただし、婚約や内縁と評価される関係であれば別に考える必要があります。あいまいなまま関係を重ねるより、区切りを一度伝えておくほうが、後の争いを避けやすいといえます。
4.連絡が途絶えた側にできること
(1)まず安否を考える
事故や急病、事件に巻き込まれている可能性もあります。警察への行方不明者届は、親権者、配偶者(事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)、現に監護する者のほか、同居人、雇主その他社会生活において密接な関係を有する者が出せるとされています。都道府県警の案内では恋人を例示しているところもありますが、同居していない交際相手の場合は受理されないこともあります。事件性がうかがわれるときは、警察相談専用電話(#9110)に相談してください。なお、長期の行方不明について定められた失踪宣告の制度は要件が重く、交際相手が気軽に使えるものではありません。
(2)自分の側で区切りをつける
返事がなくても、こちらの意思は一度、記録の残る形で伝えておくことが考えられます。関係を終わりにすること、以後連絡しないこと、貸したお金があればいつまでに返してほしいこと。後日「別れたつもりはなかった」と言われたときの手がかりになりますし、復縁を迫られた場合には、拒絶の意思を示した記録としても意味を持ちます。何度も送るのではなく、一度、簡潔にというのが基本です。
(3)所在が分からない相手に請求したいとき
弁護士が事件を受任した場合には、弁護士会照会(弁護士法23条の2)によって契約者情報などの照会を求められることがあります。ただし、必ず回答が得られるとは限らず、調査だけを単独で依頼することは基本的にできません。
所在が判明しない場合でも、付郵便送達や公示送達といった方法で手続きを進める余地はありますが、公示送達が認められるハードルは高く、判決を得られたとしても実際に回収できるかは別の問題です。
(4)避けたい対応
SNSや共通の知人への暴露。内容が真実であっても名誉毀損(刑法230条。3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)やプライバシー侵害の問題が生じえます。
職場や実家への繰り返しの連絡・訪問。ストーカー規制法の対象になりうる行為です。同法2条1項3号は「面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること」を掲げており、相手が明確に拒んでいることは3号の要件ではありません。「相手が音信不通にしたのが悪い」という事情も、該当性を左右するものではありません。
相手のSNSやメールのアカウントに無断でログインすること。不正アクセス禁止法の問題になります。
5.連絡を絶つ側が意識しておきたいこと
フェードアウトそのものを禁じる法律はありません。身の危険を感じる相手と距離を取るための沈黙が責められるものでもありません。そのうえで、次の点は意識しておく価値があります。
相手が「まだ終わっていない」と考えていれば、連絡や訪問が続きやすくなります。安全上の問題がなければ、一度は明確に伝え、その記録を残しておく。
借りている物、同棲していた住居の名義や連帯保証、共同の契約は、連絡を絶っても自動的には解消されません。
妊娠、金銭、婚約に関する問題は、音信不通にしても残ります。
相手からの言動に危険を感じるときは、無理に会おうとせず、警察や弁護士を窓口にすることを検討してください。
6.よくある疑問
Q:何か月連絡がなければ、法律上「別れた」ことになりますか。
A:期間の基準はありません。争いになった場面ごとに、やり取りの内容や当事者の言動から判断されます。
Q:音信不通にされたこと自体で慰謝料を請求できますか。
A:交際関係の解消それ自体を理由とする慰謝料は、原則として認められにくいと考えられています。婚約や内縁だった場合、妊娠を告げた後の一方的な対応、暴力や暴露といった別の事情があるときは、評価が変わりえます。
Q:「別れるとは言っていない」と復縁を迫られています。
A:交際を続ける義務はありません。拒絶の意思を一度伝え、それでも続く場合には、ストーカー規制法に基づく警告や禁止命令、民事上の対応を検討することになります。
Q:本人ではなく相手の親から連絡が来ました。
A:成人同士のトラブルについて、親であるというだけで当然に交渉権限が生じるわけではありません。本人から連絡するよう伝えるのが原則的な対応です。
まとめ
交際の開始・終了に法律上の形式はなく、音信不通を「別れの成立」と扱う規定もない
「◯か月で自然消滅」という法的基準は存在しない
貸金、妊娠と認知、預けた物、刑事責任は、連絡が途絶えても残る
婚約・内縁だった場合は、解消の仕方が責任の評価に影響しうる
相手を追う行為も、連絡を絶つ行為も、行き過ぎると別の法的問題を生む
連絡が取れないまま時間だけが過ぎると、金銭の回収や妊娠への対応など、期限のある問題ほど動きにくくなります。整理すべきことが残っていると感じたら、早い段階で弁護士に相談し、事実関係と手元の記録を確認しておくことをおすすめします。
若井綜合法律事務所には、「突然連絡が取れなくなった恋人とは、法律上もう別れたことになるのでしょうか」「自然消滅だと思って別の相手と交際したところ、後からトラブルになった」といった相談が継続的に寄せられています。SNSやマッチングアプリの普及により、LINEのブロックや既読スルーをきっかけに交際が曖昧なまま終わるケースが増える一方、その後の法的トラブルも少なくありません。
この記事の監修者
若井 亮(わかい りょう)
/代表弁護士 弁護士法人若井綜合法律事務所(東京弁護士会所属)
男女問題・男女トラブルに強い法律事務所の代表弁護士。不倫慰謝料、妊娠トラブル、婚約破棄、パパ活トラブル、ストーカー被害など、他人に相談しづらい問題を穏便かつ内密に解決することを得意とする。相手の脅迫的な言動にも毅然と対応し、依頼者の平穏な生活を取り戻すために尽力している。
問い合わせ先
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TEL: 03-5924-6845
当事務所は、恐喝・脅迫被害をはじめとする男女間のトラブルを数多く取り扱ってまいりました(男女トラブルのご相談は類型23,000件以上お受けしてまいりました)。「家族や勤務先に影響が及ばないように」という点に最大限配慮しながら、内密かつ穏便な解決を最優先に対応いたします。すでに個人情報を知られてしまっている場合や、要求がエスカレートしている場合も、状況に応じて被害の拡大を防ぐ手立てがあります。
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