【開催報告】Global Seminar Series No.5:「The Homeland ~故郷に帰還するシリア難民~」

    小松由佳氏が語る 現地取材から見えたシリアの人々と今

    サービス
    2025年7月28日 13:00
    FacebookTwitterLine

    麗澤大学(千葉県柏市/学長:徳永澄憲)は、2025年7月15日、「Global Seminar Series No.5」としてドキュメンタリーフォトグラファー・小松由佳氏による講演会を開催いたしました。

    本セミナーは、麗澤大学国際交流センター(黒須里美・河野洋)の主催、株式会社C's CREATIVE(大坪祐三子氏)および今井尚氏の企画支援、麗大麗澤会の後援により開催されました。国際学部の授業「国際社会学」「社会学概要」との連携講義として実施し、学内外に広く公開いたしました。

    第1部:「"生きていること"の意味を問う山岳から、シリアへ」

    講義の前半では、登山家としてのキャリアからドキュメンタリーフォトグラファーへの転身、そして取材地としてのシリアとの出会いについて語られました。

    世界で最も過酷とされるK2登頂に成功した経験を持つ小松氏は、「命のない環境に身を置いたからこそ、"生きている"という実感があった」と語ります。
    登山を通して「風土と共に暮らす人間そのものへの関心」が芽生え、次第にレンズの向こうに広がる"人の暮らし"を見つめるようになったといいます。

    その活動の中心地が、長年内戦が続くシリア。独裁政権下における厳しい取材状況や、言論の自由が制限される現地の実情にも触れ、「なぜ自分が現地で取材をするのか」という問いを常に抱えながら活動を続けていると述べました。

    「私たちにできることは、知ること、考え続けることです。報道の内側だけでなく、報道の"外側"にある現実に意識を向け続けてほしい」。そんな静かな力強い言葉が、参加学生の胸に深く響きました。

    学生との対話:問いかけから広がる共生の視点

    質疑応答では、シリアにおける言論の自由や文化的共生に関する具体的な課題について、小松氏より現地での実体験に基づく回答がなされました。特に取材活動における制約や、異文化間の相互理解の重要性について言及がありました。

    第2部:「難民として生きるということ」--レンズ越しの希望と現実

    後半では、シリアの社会情勢と難民問題について解説がなされました。2011年以前の平和な日常から内戦後の変化、「ラーハ(休息)」を重んじる文化や家族観について、具体的な事例とともに説明がありました。

    参加学生の声:希望と問いを持ち帰って

    「分断が進む社会に絶望しかけていたけれど、希望を持ち続けることの大切さを学んだ」
    「遠い国の話ではなく、自分自身にも関係のある"共生"の問題だと感じた」
    参加された方からは、そんな声が多く聞かれました。

    本講義は、"現地の息遣いが伝わってくるようなリアルな視点"で語られる貴重な機会となりました。
    報道やSNSだけでは見えてこない世界の現実に触れ、私たち自身の「知る責任」や「共に生きる覚悟」について考える時間となったことでしょう。

    小松由佳氏の活動からは、「見る」「知る」「考える」ことの積み重ねが世界との確かな接点になるということをあらためて教えられました。

    今後も、「Global Seminar Series」では世界で活躍する実践者の知見に触れ、グローバルな視座を育む機会を提供してまいります。

    「※写真提供:今井尚氏」

    【講師プロフィール】

    小松由佳(こまつ・ゆか)/ ドキュメンタリーフォトグラファー

    1982年秋田県生まれ。幼少時より山に魅せられ、2006年、世界第二の高峰K2(8611M/パキスタン)登頂。植村直己冒険賞受賞。次第に風土に根ざした人間の営みに惹かれ、写真家に転向。2012年からシリア内戦・難民を取材。著書に『人間の土地へ』 (集英社インターナショナル) 。第8回山本美香記念国際ジャーナリス ト賞受賞。

    【参加をした学生の感想(抜粋)】

    ・今回、初めてシリアの過酷さを学びました。子供の頃から爆弾について学んだりと日本にいては理解できないようなことばかりでした。
    今回の講義を機に、そのような国がほかにもないか興味を持つところから始めようと思いました。

    ・本日の特別講義で印象に残ったのは、小松由佳さんが「登山の道はいろいろあるけれど、自分にとって大切なのは自分が選んだその一つの道だけだ」と語った部分です。この言葉を聞いて、自分の人生にも当てはまると感じました。社会の中にはいろいろな「正解」や「成功の道」があるように思われますが、本当に大切なのは他人の評価ではなく、自分が納得して選んだ道を信じて進むことだと思います。

    ・本日の小松さんの講義は、シリアという国について深く考えるきっかけとなりました。
    特に印象的だったのは、戦争で破壊された街並みと、その後少しずつ再建されていく様子を写した写真です。
    崩れ落ちた家々と、そこに再び灯る人々の生活の明かりを比べると、シリアの人々の強さと、どんな状況でも未来を信じて生きる希望を強く感じました。

    ・戦場にあった弾の痕跡の展示が印象に残りました。本来ならば触れることの無いものであるし、戦争の悲惨さが生々しく伝わる展示であったと思います。
    このようなものを持ち帰ってくるということは、写真と同様に後世に伝えるための最も強い説得力があると感じました。
    銃弾の跡があれほど悲惨なものなのに、あれが人間に向けられ、しかも大量の人たちがお互いに使用していたということに改めて驚きを隠せませんでした。

    ・今回の授業で私は難民になることの過酷さと日本と中東との文化の違いを大きく実感しました。
    今回の講義を通じてアサド政権の自国民たちに対する残虐行為やそこから難民となって自国を出ていくことの重みを知ることができました。

    ・本日の特別講義で印象に残ったのは、小松由佳さんがら見た「写真に写らないものを見る力」の重要性だ。
    シリアの荒廃した街並みの中にも、人々の暮らしや希望が確かに存在していた。
    私は、報道では見えない現地の「日常」にこそ真実があると感じた。
    目に見えるものだけで判断せず、その背後にある人々の声や背景に耳を傾ける姿勢が、これからの国際理解に必要であると考えている。

    すべての画像

    zStebT5LBiiBcMScxxta.jpg?w=940&h=940
    fs4XYGSbtp831Z9JImPU.jpg?w=940&h=940
    9M0VVghLUmdRBRRRFdnY.jpg?w=940&h=940
    Me3Q8KwC51sR5q3deogK.jpg?w=940&h=940
    QajQh3JgFxs5QYK6UHW1.jpg?w=940&h=940
    Kcracv95ktVDTgFRWxDF.jpg?w=940&h=940
    0Y7OpPRfYZZGTlPDirZn.png?w=940&h=940
    881Hhnz4uQhcYnRe8sY2.jpg?w=940&h=940
    nPLVaxlCqC7PIqbQXzKk.jpg?w=940&h=940
    a5dU9Icpap6B6HnZxfvZ.jpg?w=940&h=940
    iR0YmXD8OrCcP5N5VBUl.jpg?w=940&h=940
    vCkQ5KdDivBLNebMlkSz.jpg?w=940&h=940
    yr5HeGpV8VGuGTtan6Kd.jpg?w=940&h=940
    【開催報告】Global Seminar Series No.5:「The Homeland ~故郷に帰還するシリア難民~」 | 麗澤大学