<夏の熱中症対策に向けて> アイススラリーが効果的に身体を冷やすメカニズムを検証

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    2024年5月23日 11:00
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    大正製薬株式会社[本社:東京都豊島区 社長:上原 茂](以下、当社)は、広島大学長谷川博教授との共同研究により、暑熱環境下での「アイススラリー」(シャーベット状の飲料)の飲用が深部体温の上昇を抑制することをヒト試験において確認し、本研究成果を2024年6月3日から7日に韓国で開催される国際学会「ICEE2024※1」にて発表します。
    さらに、当社ではこの研究成果を踏まえ、アイススラリーの効率的な冷却メカニズムを追加検証し、微細な氷の構造と氷の流動性が冷却効率の高さに関係していることを確認しました。
    ※1 20th International Conference on Environmental Ergonomics

    本研究成果を国際学会「ICEE2024」にて発表
    本研究成果を国際学会「ICEE2024」にて発表

    〇研究の背景

    昨今、夏の熱中症対策の重要性が高まっていますが、当社では、その手段として液体に氷の粒が混ざった流動性のあるシャーベット状の飲料:アイススラリーの飲用に注目しています。
    当社ではこれまでも、暑熱環境下でのアイススラリーの飲用が身体の深部体温を低下させることや、運動時の注意力低下を抑制することを発表してきました※2。

    ※2 
    ・2023年7月6日発表「暑熱環境下におけるアイススラリー飲用が深部体温を低下」
    URL:https://www.taisho.co.jp/company/news/2023/20230706001347.html
    ・2023年7月20日発表「暑熱環境下における運動時のアイススラリー飲用が注意力の低下を抑制」
    URL:https://www.taisho.co.jp/company/news/2023/20230720001350.html

    【研究成果①】アイススラリーの深部体温上昇抑制効果

    当社と広島大学長谷川教授との共同研究では、アイススラリーの身体冷却効果を確認しました。
    本研究では、暑熱環境下における運動時のアイススラリーの飲用が、深部体温上昇の抑制をもたらすことを確認しました(図1)。このことからアイススラリーは活動時の暑熱対策として有用であると考えられます。この研究成果を2024年6月3日から7日に韓国で開催される国際学会「ICEE2024」にて発表することとなりました。

    図1. 運動時のアイススラリー飲用による深部体温(直腸温度)変化 ※3
    図1. 運動時のアイススラリー飲用による深部体温(直腸温度)変化 ※3

    ※3 試験概要
    対象者:運動習慣のある成人男性10名
    試験デザイン:ランダム化非盲検クロスオーバー試験
    試験食:32℃の飲料またはアイススラリー(-4℃の飲料)
    暑熱負荷条件:室温32℃、相対湿度60%の環境制御実験室
    運動負荷条件:ウォームアップ後、50%Wattmaxで20分間の自転車運動を3回実施し、その後80%Wattmaxでの自転車運動を疲労困憊まで実施。その後座位安静。
    飲用条件:ウォームアップ後に試験食4g/kg体重を飲用し、3回の運動後にそれぞれ2g/kg体重を飲用(計10g/kg体重)
    統計解析:Bonferroni法

    【研究成果②】アイススラリーの効率的な冷却メカニズム

    さらに当社では、以下の検討によりアイススラリーが高い冷却効率を持つことを確認しました。
    人の体温に近い温水を冷やす速さを比較したところ、アイススラリーは氷や、凍らせた糖酸液(スポーツドリンクのような糖とクエン酸などを使用した飲料)よりも、速く冷やすことができました(図2)。

    図2.サンプル投入後の5秒間の温水の温度推移 ※4
    図2.サンプル投入後の5秒間の温水の温度推移 ※4

    ※4 試験概要
    試験サンプル:アイススラリー、凍らせた糖酸液、氷(各サンプルは氷として同量、同じ容器で冷凍)
    試験条件:37℃±0.5℃の温水に各試験サンプルを投入し、5秒間の温水の温度推移を測定
    試行回数:3回
    統計解析:Bonferroni法

    さらに、このアイススラリーの高い冷却効率が次の2つの特長と関係していることを確認しました。

    1)アイススラリーの凍結時の微細な氷の構造
    アイススラリーと糖酸液の凍結構造の画像を比較してみると、アイススラリーの氷の粒は非常に小さく、数多く存在していることがわかりました(図3)。そのため、アイススラリーでは周囲と氷との接触面積が広くなり、高い冷却効率を発揮できると考えられます。

    図3.アイススラリーと糖酸液の凍結構造の画像※5
    図3.アイススラリーと糖酸液の凍結構造の画像※5

    ※5 撮影概要
    撮影機器:クライオ走査電子顕微鏡(倍率2000倍、加速電圧1.0kV)
    サンプル:凍結状のアイススラリー、凍結状の糖酸液

    2)半解凍の氷の流動性
    凍結状のアイススラリーは、室温で半解凍するとスプーンで容易にかき混ぜることができ、氷が流れる様子が確認できました(図4)。氷と液体が混ざっていることで冷えやすいだけでなく、氷を飲料のようになめらかに飲むこともできます。

    図4. アイススラリーと凍らせた糖酸液の流動性の違い
    図4. アイススラリーと凍らせた糖酸液の流動性の違い

    これらの結果により、アイススラリーは特長的な微細な氷の構造や氷の流動性により、身体の内側から効率的に冷却する可能性が示唆されました。

    〇まとめ

    総務省によると昨年の5月から9月の熱中症による救急搬送人員は91,467人で平成20年の調査開始以降2番目に多い人数を記録しています。気象庁の暖候期予報によると、今年夏(6~8月)の平均気温は全国的に平年を上回る見込みで、熱中症対策がより一層重要となります。
    アイススラリーは飲用によって身体内部からの冷却が可能であることから、その活用は熱中症対策に非常に有用であると考えられます。当社では今後も暑熱環境や温熱生理に関する研究を進め、生活者の皆さまの健康づくりに貢献して参ります。

    すべての画像

    本研究成果を国際学会「ICEE2024」にて発表
    図1. 運動時のアイススラリー飲用による深部体温(直腸温度)変化 ※3
    図2.サンプル投入後の5秒間の温水の温度推移 ※4
    図3.アイススラリーと糖酸液の凍結構造の画像※5
    図4. アイススラリーと凍らせた糖酸液の流動性の違い