介護ヘルスケア業界の政策提言ブログ Rehapoli

    牧島かれん元大臣が語る、「介護DX」への挑戦

     超高齢社会を迎えた日本において、介護保険サービスを持続可能なものとしていくには、生産性の向上を推し進めていく必要がある。そのキーとなるのが介護現場におけるDXの推進、ICTの利活用だ。
     岸田内閣においてデジタル/規制改革担当大臣として介護DXに取り組んだのが牧島かれん衆議院議員である。
     就任に際して「医療や介護、教育といった国民にとって身近な分野での改革を進めたい」と語った牧島議員は、在任中、介護DXの推進に向けて、人員配置基準の見直しや、介護事業所の文書負担の軽減の議論を前に進めるとともに、介護職員が自宅で新型コロナウィルス感染症の陰性確認ができるよう「抗原検査キット」の薬局販売の実現に力を注いだ。デジタル/規制改革担当大臣として、「介護DX」に向けた政策をどのようにして推し進めたのか、牧島議員に聞いた。
    (聞き手は Rehapoli編集長、村田)

    規制を変える、介護職員が家でも「抗原検査」を受けられるように

    - 医療や介護に関わる領域で、大臣在任中、力を入れて取り組まれたお仕事についてお聞かせください。

    一例をあげると、コロナの「抗原検査キット」の薬局での販売の実現には力を入れて取り組みました。規制改革推進会議で厚生労働省の担当者の皆さんと向き合って、一歩一歩進めていった案件です。
    当初、抗原検査キットは「医療機関のみ」利用可能というルールでした。それをまずは薬局での「対面販売」から解禁して、次に薬局における陳列、そして広告、ネット販売と供給のルートを広げていったのです。
    その後、これは介護施設の職員の皆さんにも関わるところだと思いますが、職場でしか認められていなかった抗原検査を、自宅でできるように規制緩和をしました。

    - 抗原検査を自宅でできるようになったことで、介護施設の職員にとってはかなりの負担軽減につながりそうですね。

    そうですね。介護施設の職員の皆さんが自宅で検査を済ませてから出勤できるようになりました。
    それまでは、施設職員の方々が「陽性かも」という状態で職場に向かい、検査をして、「やはり陽性だった」と家に帰る、といった事態が生じていました。「職場でなければ検査キットを使ってはいけない」というルールが、職員の皆さんに大きな負担を課す結果になってしまっていました。感染リスクを高めてしまうという点でも、大きな問題がありました。

    - 「コロナ」と「インフルエンザ」の両方の検査が一度にできる混合検査キットの薬局販売に関しても議論を進めました。

    大臣は退任しましたが、当時から議論をしていた「混合検査キット」についても、「薬局では販売できません」というルールを変えるために規制改革推進会議で議論を重ねて、ようやく今年(2022年)の12月、薬局での販売ができるようになりました。
    抗原検査キットの規制改革では、何回も何回も事業者の方々の声、働いてる方々のご意見を聞きながら、厚生労働省とお話することを心がけてきました。医療・介護というものが、いかに国民の生活にとって大事なものかということをあらためて痛感しました。

    介護職員「業務の13%が書類づくり」という現状を変える

    - 大臣在任中、「(介護職員の)書類負担の軽減」に取り組まれておられましたが、介護事業者の方々からの要望が強かったのでしょうか。

    規制改革推進会議では介護事業者の方々のお話も伺いました。介護職員の皆さんにとって、書類作成の手間というのはすごく大きいですよね。
    業界団体の皆さんからもデータをご提供いただきましたけれども、入居者一人に対する介護職員の業務時間の13%が書類の作成にあてられている現状があるわけです。一方で、「食事の介助」にあてられている時間が17%です。介護本来の仕事と同じ水準の業務時間が、書類の作成に充てられている状況にありました。
    事業者の方々のお話も伺いながら、書類作りの負担が重いために、本来的な介護の業務にも差し障りが出てきてしまっているのではないか、という問題意識を強く持っていました。

    人員配置基準の緩和に向けて、「デジタル介護人材」の育成を

    - 様々な意見のある「人員配置基準の見直し」に関しても、大臣在任中、厚生労働省による実証事業の実施が決まりました。民間からはどのような意見が寄せられましたか?

    民間の関係者の皆さんから、様々なご意見をいただきました。例えば、同じ敷地の中に複数の施設がある場合、「兼業の職員」も認めるべきではないか。特に事務のお仕事をされる職員に関しては、常駐でなくとも良いのではないか。一人の職員が複数の施設をサポートすることが可能なのではないか。リモートで実施することが可能な業務もあるのではないか。
    こういった議論もありましたので、どのような業務に、どのような人材が配置されるべきで、テクノロジーがそこをどのように補えるのか、といった点について、どこかの時点で結論を出すべきだと思います。
    この点については、いずれ「デジタル臨時行政調査会」などで議論が進められ、法改正がなされていく可能性もあるのではないかと見ています。

    - 「配置基準の見直し」を進めていく上では、「デジタル介護人材」の育成も重要だ、と主張されています。

    今は、例えば布団の下にパッドを敷いて、オムツを替えるタイミングを把握したり、いろいろなテクノロジーが実装されつつあります。一方で、「(ICTツールの)導入はしたけど、活用しきれなかった」といった声も聞きます。
    より少ない数の職員の皆さんで、テクノロジーを活用しながら介護サービスを提供していこうとするならば、介護の専門性のある皆さんに、「ICTの活用」についても専門性を高めていただくことが必要だと思います。「配置基準の緩和」だけが一つの目標になってしまうのは望ましくないと思っています。
    介護の現場でお仕事をされている方たちの中には、「新しいことを学びたい」、「スキルを向上させたい」という意欲をお持ちの方もたくさんいらっしゃるというのが分かってきているので、そういう方たちが学ぶ時間を取れるようにすることが重要だと思います。
    人手不足が深刻化する中で、今は職員の皆さんも時間が取れないような状況だと思うんですが、お時間を確保していただける環境がつくれれば、介護DXも次のステップに進むことができると思います。

    「介護DX」、民間のアイデアを国へ伝える方法

    - 介護DXに関わる民間の企業や団体が、国に新しいアイデアを提案したいと考えた場合、どのような場を通じて意見を伝えることが望ましいのでしょうか。

    一つは「介護」や「デジタル」をテーマとして国会議員が集まっている議員連盟の協力を得るという方法があります。議員連盟の勉強会は、政府の政策担当者にきちんと話を聞いてもらえる場の一つだと言えます。
    規制改革推進会議の各ワーキンググループも、最近はオンラインで会議を実施していることもあって、日本全国、どちらに住んでいらっしゃる方であっても意見の表明できる場にしていきましょう、という流れが出てきています。

    - 特定の地域で自治体と連携をしながら「新しいサービスのモデルをつくりたい」という声も、企業関係者からはよく聞きます。

    地域包括ケアの流れもありますので、まずは特定のエリアで成功事例を創り、国の支援を得ながら「横展開」を目指す、という方法もあるでしょう。
    岸田総理の下で「デジタル田園都市国家構想交付金」という支援制度が新たに設けられました。デジタルを活用しながらウェルビーイングの実現を目指すための交付金です。地方自治体はこの交付金を活用することで、スタートアップと連携しながら少子高齢化といった課題に取り組むことができます。

    -「デジタル田園都市国家構想交付金」の具体的な例があれば教えてください。

    例えば、北海道の更別村という人口3,000人ほどの村があります。基幹産業は農業で、かつては村民がお互いに収穫を手伝う慣習があり、それが高齢の村民を見守ることにつながっていました。ところが機械化の進展で、その「見守り機能」が弱ってしまったのです。
    更別村は今、高齢者がウェアラブルウォッチを身に着け、家族が遠隔からバイタル情報を確認することで見守る、という取り組みを行っています。
    高齢者がサブスクでウェアラブルデバイスを身に着け、無料の健康相談サービスなども利用しながら、お稽古ごとやコミュニティ活動に参加しているのです。
    キーワードはやはりデータだと思います。自分の健康に関するデータを医師にも、薬剤師にも、介護関係者にも見てもらって、自分の健康を皆に考えてもらう。そういった取組は今後、さらに増えてくると見ています。「地域の中でこういったことをやってみたい」、「こういった計画がある」というようなお話だと、国も含めて、いろいろなところに繋がっていく可能性があると思います。

    医療DXの次は、「介護DX」の議論がいよいよ本格化

    - 国は「介護DX」について、どのような将来像を描いているのでしょうか。

    今、政府は「医療DX」に力を入れています。司令塔機能を設ける、ということで首相をトップとする推進本部が設置されました。
    そこではデータの利活用という観点から、「全国医療情報プラットフォーム」をはじめとした国の将来ビジョンが示されています。患者さんがマイナ保険証を持っていれば、意識を失った状態で救急搬送をされるケースでも、持病に関する情報を踏まえた搬送先の決定が行われ、受け入れ病院も早いタイミングで治療の準備に入れる、といった世界を実現することを国は目指しています。
    こういった医療DXに向けた取り組みに、いずれは介護の領域も関わってくることになります。例えば、ケアプランのデータを含めて「全国医療情報プラットフォーム」に格納していく、という方向です。
    今は医療DXの文脈で議論がされていますが、いずれは介護の関係者の皆さんにもプレイヤーとして関わって頂かざるを得ない状況になると思います。医療機関に通っている高齢者には、介護サービスを利用されている方も多いと思いますので。

    - 最後に、介護DXに取り組む民間の関係者にメッセージをお願いします。
    国は「医療・介護に関わる様々な情報が一つのプラットフォームの中で活用されていく」という将来像を描いていますので、介護事業者やベンダーの皆さんには、この将来像も踏まえながら、いろいろなご意見をいただけると、とてもありがたいです。
    (編集協力=藤原昇平)

    牧島かれん 衆議院議員 インタビューに際して
    牧島かれん 衆議院議員 インタビューに際して

    村田 章吾 MURATA Shogo
    『Rehapoli』編集長
    2002年、慶應義塾大学法学部 卒、東京医科歯科大学大学院 修士課程修了(医療政策学)。ハーバード公衆衛生大学院ECPEプログラム修了(Leadership Strategies for IT in Healthcare)。
    衆議院議員(内閣府大臣補佐官)秘書、パブリック・アフェアーズ ファームのマカイラ株式会社ディレクターを経て、2022年4月、介護SaaS事業を展開する株式会社Rehab for JAPANに参画、同社オウンドメディア 『Rehapoli』編集長を務める。
    社会福祉士(東京社会福祉士会所属)。

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