【ダニ被害も急増中】「殺す」だけでは不十分…現代の住宅が“ダニ天国”になった理由を専門家が解説

「殺す」だけでは不十分…現代の住宅が“ダニ天国”になった理由
元サッカー女子日本代表でタレントの丸山桂里奈さんが、自宅の庭で草取りをしていた際、マダニにかまれて皮膚科を受診したことが話題となりました。気温と湿度が上がる季節は、屋外だけでなく、家の中に潜むダニにも注意が必要です。
ただし、丸山さんをかんだマダニと、家庭内でアレルギーの原因となるチリダニは別の種類です。チリダニは人をかみませんが、生きている個体だけでなく、死骸やフン、脱皮した皮、細かく砕けた体の一部までアレルゲンになります。
つまり、ダニを殺しただけでは問題は解決しません。重要なのは、ダニが繁殖しにくい住環境をつくり、残されたアレルゲンを取り除くことです。
なぜ現代の住宅ではダニが増えやすいのでしょうか。家庭でできる対策とは何なのでしょうか。ダニの専門家で、医学博士・獣医師でもある高岡正敏著『お父さん、お母さんが知っておきたい ダニとアレルギーの話』より紹介します。
資料ニュース
「日本ならでは」の住宅事情がダニを増やしている
なぜ、現代の日本の家ではダニが増えやすいのでしょうか。
その背景には、住宅の構造と、私たちの暮らし方の変化があります。
高気密・高断熱の住宅が増えた
1955年から1975年にかけて、それまで主流だった風通しのよい木造住宅に代わり、プレハブ住宅やコンクリート造の住宅が増えていきました。現在では、木造住宅でも高気密・高断熱化が進んでいます。
高気密・高断熱の住宅には、外気の影響を受けにくく、夏は涼しく冬は暖かく過ごせるという利点があります。その一方で、室内に熱や湿気がこもりやすいという側面もあります。
かつては冬の寒さによって死んだり、活動が鈍くなったりしていたダニも、暖かい室内では越冬できます。エアコンや暖房器具の普及も加わり、今では一年を通して繁殖しやすくなっているのです。
チリダニは、人の住居内を主な生息場所とし、温度20~35℃、湿度60~85%の環境で繁殖しやすいとされています。高温多湿の日本の気候に、住宅の高気密・高断熱化が重なり、ダニにとって好都合な環境がつくられてきました。
湿気を調整する自然素材が減った
昔の日本家屋では、木材、土壁、障子、襖、畳などの自然素材が多く使われていました。
これらの素材には、湿度が高いときには水分を吸い、乾燥すると湿気を放出する性質があります。室内の湿度が自然に調整されるため、チリダニが大量に増えにくい環境だったと考えられます。
しかし、現在の住宅では、ビニールクロス、合板、フローリング、アルミサッシなどが主流です。
こうした素材は、自然素材ほど室内の湿気を吸収しません。そのため、生活の中で発生した水分が室内に残りやすくなり、壁や窓のまわりに結露が生じます。
湿気がこもりやすく、乾きにくい現代の住宅は、ダニにとって暮らしやすい環境なのです。
大掃除や虫干しの習慣がなくなった
しかし、これらは単なる年中行事ではありません。畳や衣類、寝具を乾燥させ、ほこりやダニを物理的に取り除くという点で、優れたダニ対策でもありました。
畳を上げて天日干しにすれば、畳やその下にたまった湿気を逃がせます。梅雨の前後に衣類や本を虫干しすることも、じめじめした場所でダニが増えるのを防ぐうえで役立っていました。
ふとんの打ち直しも同様です。古いふとんの表面にたまった汗やフケ、毛髪、ほこりなどを取り除くことで、ダニやカビが繁殖しやすい部分を物理的に減らしていました。
便利な暮らしを手に入れる一方で、私たちはダニを増やさないための生活の知恵を、少しずつ手放してきたのかもしれません。
一人暮らしや共働きの家は蒸れやすい
一人暮らしや共働き世帯が増えたことも、ダニの増加と関係しています。
両者に共通するのは、昼間に家を留守にする時間が長いことです。
窓を開けて換気する機会が減り、仕事から帰宅した後も、掃除や洗濯、寝具の手入れまで十分に手が回らないことがあります。
人が少ないから、家が汚れにくいとは限りません。むしろ、換気や掃除の頻度が下がることで、ハウスダストがたまり、室内が蒸れやすくなります。
著者が学生の一人暮らしの部屋と一般家庭を比較した調査では、一人暮らしの住まいのほうがハウスダストの量が多く、ダニの数は一般家庭の約5倍に達したといいます。
共働き家庭を対象にした調査でも、共働きではない家庭と比べて、ダニの数が約2倍多いという結果が出ています。
家にいる人数の少なさよりも、住まいを換気し、掃除し、乾燥させる機会が少ないことが、ダニの増殖につながっているのです。
ペットや観葉植物も影響する
室内でペットを飼う家庭が増えたことも、ダニにとっては好都合です。
ペットがいれば、毛やフケが室内に落ちます。これらはダニのエサになります。散歩などによって土やほこりを室内へ持ち込む機会も増えるでしょう。
観葉植物そのものが悪いわけではありませんが、鉢の土や水分によって、室内の湿度が上がることがあります。
もちろん、ペットや植物を室内から排除する必要はありません。ただ、一緒に暮らすのであれば、毛やほこりをためないように掃除し、換気や湿度管理を心がけることが大切です
家具や家電もダニの繁殖を助ける
家具や家電が増えるほど、部屋の掃除はしにくくなります。
ソファー、カーペット、カーテンなどの布製品は、ほこりがたまりやすく、ダニの隠れ場所にもなります。特に、畳の上にカーペットを敷くような重ね敷きは、湿気が逃げにくくなり、ダニが繁殖しやすい環境をつくります。
さらに、家電製品は静電気を帯びるため、ハウスダストを引き寄せます。テレビや冷蔵庫の裏側など、暖かく掃除しにくい場所には、細かいほこりがたまりやすくなります。
暖房器具の普及によって、室内全体が冬でも暖かく保たれるようになったことも、ダニの繁殖を助けています。
かつて、暖房の中心だったこたつは、限られた場所だけを暖めるものでした。ところが現在は、エアコンやファンヒーターなどによって、部屋全体が暖められます。
その結果、ダニは冬でも室内のさまざまな場所で生き残り、繁殖できるようになりました。
私たちにとって便利で快適な住環境が、皮肉にもダニにとっても快適な環境になっているのです。
ダニが生きられる環境そのものを変える
ダニがいたということは、そこにダニが生息できる条件がそろっていたということでもあります。
温度、湿度、エサ、隠れ場所が変わらなければ、一度減らしても、また増えてしまいます。
チリダニの雌は、繁殖に適した条件が整えば、計算上は約3カ月後に100万匹に達する可能性があるといいます。
だからこそ、目の前のダニを一時的に駆除するだけでなく、繁殖しにくい環境をつくることが重要です。
基本になるのは、室内や寝具を乾燥させること、換気によって湿気を逃がすこと、こまめな掃除でハウスダストをためないことです。家具や布製品を増やしすぎず、掃除しやすい室内をつくることも有効です。
高気密・高断熱の住宅や、家具や家電に囲まれた暮らしは、私たちに多くの快適さをもたらしました。その一方で、熱や湿気がこもりやすく、ダニにとっても暮らしやすい環境をつくっています。
ダニ対策というと、殺虫剤や高温処理に目が向きがちです。しかし、アレルギーの原因となるのは、生きたダニだけではありません。死骸やフンもアレルゲンとして残ります。
大切なのは、ダニを見つけてから退治することではなく、日頃からダニが増えにくい住環境を整えることです。
住宅の特徴や生活習慣を改めて見直し、乾燥、換気、掃除を続けること。それが、ダニによるアレルギーを防ぐ第一歩になるのです
書籍概要

タイトル:お父さん、お母さんが知っておきたい
ダニとアレルギーの話
ページ数:224ページ 著者:髙岡正敏
価格:1,540円(10%税込) 発売日:2021年11月24日
ISBN:978-4-86667-322-6
http://www.asa21.com/book/b593467.html
【目次】
第1章 ダニとアレルギーとはどんな関係がある?
第2章 「日本ならでは」の住宅事情が原因の一つ
第3章 そもそもダニってなんだ?
第4章 まずダニ対策の基本を理解しよう
第5章 寝室はダニの楽園だ!
第6章 寝具の正しいダニ対策
第7章 場所別にダニ対策を立てる
第8章 アレルギー対策の未来はどうなる?
著者プロフィール

髙岡 正敏(たかおか・まさとし)
株式会社ペストマネジメントラボ代表取締役。医学博士。獣医師
1947 年三重県松阪市生まれ。日本獣医畜産大学卒業。東京大学医科学研究所寄生虫研究部でダニの研究を始める。1975 年東京医科歯科大学医動物研究室教務技官に就任。1978年獨協医科大学医動物学教室講師に。グアテマラにフィラリア症対策プロジェクトの専門員として1年間派遣される。1980 年埼玉県衛生研究所環境衛生部技術吏員に就任。埼玉県立衛生短期大学非常勤講師、埼玉医科大学非常勤講師などを兼務。住居内のダニに関する調査を続け、莫大なデータを集める。2008 年埼玉県衛生研究所を定年退職。
これまで行ってきたダニに対する調査結果をまとめ、アレルギー疾患に対する治療法と予防法を確立するため、株式会社ペストマネジメントラボを設立。アレルギー患者宅を訪問し、環境改善によるアレルギーの予防や改善に取り組む一方、住居内のダニに関する調査結果をまとめ、その体系化をめざしている。
主な著書に『ダニ病学』(東海大学出版会)、『ダニの生物学』(共著、東京大学出版会)、『アレルギー病学』(共著、朝倉書店)などがある。







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