武田科学振興財団、「2010年度 武田医学賞」受賞者を発表

武田科学振興財団、「2010年度 武田医学賞」受賞者を発表

 財団法人 武田科学振興財団(所在地:大阪府大阪市、理事長:横山 巖)は、このほど「2010年度武田医学賞」を下記の2氏に贈呈することを決定しました。
 受賞者には、賞状、賞牌・盾のほか一件につき1,500万円の副賞が贈呈されます。
 なお、贈呈式は、11月12日(金)午後6時よりホテルオークラ(東京)において行います。
 「武田医学賞」は、医学界で顕著な業績を挙げ、医学ならびに医療に優れた貢献を果たされた学者・研究者に贈呈されるもので、1954年、武田薬品工業株式会社の創業170周年記念事業の一つとして設けられ、1963年の当財団設立と同時に継承され今日に至っています。
 今年で54回目を迎える「武田医学賞」の受賞者総数は、本年度を含めて111名となります。

                 記

<西田 栄介 博士 (にしだ えいすけ)>
京都大学 教授
受賞研究課題:「細胞内シグナル伝達の分子機構に関する研究」

<間野 博行 博士(まの ひろゆき)>
自治医科大学 教授、東京大学 特任教授
受賞研究課題:「肺がん原因遺伝子の発見と分子標的療法への展開」

                                 以上

■西田 栄介 博士について

【西田 栄介 博士 略歴】

1976年3月 東京大学理学部生物化学科卒業
1978年3月 東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修士課程修了
1981年3月 東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程修了 理学博士
1981年4月 日本学術振興会奨励研究員
1981年6月 東京大学理学部助手
1993年5月 京都大学ウイルス研究所教授
1997年3月 京都大学大学院理学研究科教授
1999年4月 京都大学大学院生命科学研究科教授

<受賞歴>
2001年:第 9回 日産科学賞
2002年:第19回 井上学術賞
2003年:第21回 大阪科学賞
2009年:      上原賞


【西田 栄介博士の研究業績】
受賞テーマ:細胞内シグナル伝達の分子機構に関する研究

高等動物細胞において、細胞増殖因子が細胞膜上の受容体に結合することによって誘起される一連の反応の連鎖が細胞核に伝わり、遺伝子発現の変化を引き起こすことによって、細胞の増殖や分化などの細胞運命の決定がなされる。この細胞膜から核へ至る細胞内シグナル伝達経路は1980年代後半まで不明であった。
西田 博士は、種々の細胞増殖因子や発癌プロモーターの刺激で共通に活性化するタンパク質キナーゼMAPキナーゼを見出した。さらに西田 博士はMAPキナーゼを活性化する因子、MAPキナーゼキナーゼ(MAPKKあるいはMEK)を発見し、そのMAPキナーゼに対する作用機構とMAPキナーゼキナーゼ自体の活性化機構を解明し、MAPキナーゼカスケードの概念を確立した。
すなわち、MAPキナーゼキナーゼはMAPキナーゼをリン酸化して活性化し、自身もMAPキナーゼキナーゼキナーゼによってリン酸化されて活性化するタンパク質キナーゼであることを示し、MAPキナーゼキナーゼキナーゼ/MAPキナーゼキナーゼ/MAPキナーゼというキナーゼの連鎖反応の存在を初めて明らかにした。
これらの研究成果から、細胞増殖因子受容体/Grb2/SOS/Ras/Raf(MAPキナーゼキナーゼキナーゼ)/MAPキナーゼキナーゼ/MAPキナーゼというシグナル伝達経路が解明された。この経路は、Ras/MAPキナーゼ経路と呼ばれ、その後の西田博士を含む世界中の精力的な研究により、細胞の増殖・分化および発生、さらには個体の寿命をも制御する進化的に高度に保存されたシグナル伝達の中枢経路であることが確立した。この経路の発見は、生命科学・医学の大きなブレークスルーである。

現在、細胞内シグナル伝達の研究は益々その重要性が高まっており、世界中の研究者がしのぎを削っている。西田 博士は、MAPキナーゼを含む細胞内シグナル伝達経路の新たな機能(寿命制御、細胞周期制御、ならびに体内時計リズムの制御など)や新しい制御機構の発見を次々と発表している。このように、西田博士は、MAPキナーゼ研究のパイオニアであるとともに、現在の細胞内シグナル伝達研究の中心的推進者となっている。


■間野 博行 博士について

【間野 博行 博士 略歴】

1984年 3月 東京大学医学部医学科 卒業
1984年 6月 東京大学医学部附属病院 内科研修医
1985年12月 自治医科大学附属病院 血液内科研修医
1986年 6月 東京大学医学部第三内科 医員
1989年 5月 米国St.Jude小児研究病院生化学部門 客員研究員
1991年 8月 東京大学医学部第三内科 文部教官助手
1993年 8月 自治医科大学医学部分子生物学講座 講師
1995年 6月 自治医科大学医学部分子生物学講座 助教授
2000年 4月 自治医科大学分子病態治療研究センターゲノム機能研究部助教授
2001年 6月 自治医科大学分子病態治療研究センターゲノム機能研究部教授
2009年 9月 東京大学大学院医学系研究科ゲノム医学講座特任教授、現在に至る

<受賞歴>
1993年:                日本癌学会 奨励賞
1998年:         日本白血病研究基金 荻村孝特別賞
2000年:             日本医師会 医学研究助成
2008年:           高松宮妃癌研究基金 研究助成
2008年:          日本癌学会 JCA-Mauvernay Award
2008年:                日本医師会 医学賞
2009年:東京テクノ・フォーラム21 第15回ゴールド・メダル賞
2009年: 佐川がん研究助成振興財団 第7回佐川特別研究助成賞
2010年:            高松宮妃癌研究基金 学術賞


【間野 博行 博士の研究業績】
受賞テーマ:肺がん原因遺伝子の発見と分子標的療法への展開

がんは今も先進諸国における主要死因であり、世界中で毎年約700万人ががんのために命を落としている。がん治療のブレークスルーとなる分子標的療法剤の登場が待たれている状況下にあって、間野 博士は独自のスクリーニング技術を開発することで、肺がんの新しい融合型がん遺伝子EML4-ALKを発見することに成功した。これは単に肺がんの有望な治療標的を同定したのみならず、「上皮性腫瘍では染色体転座によるがん遺伝子はほとんど存在しない」という旧来の常識を根底から覆すものであった。

I. EML4-ALKがん遺伝子の発見と分子診断法の確立
間野 博士は、微量の臨床検体からでも効率よく良質なcDNA発現ライブラリーを構築する手法を開発した。これを用いて肺腺がん検体からcDNA発現ライブラリーを作成し3T3細胞フォーカスフォーメーションアッセイを行った結果、形質転換cDNAを複数同定した。驚くべき事に、あるcDNAの5'側は微小管会合タンパクの一種であるEML4(echinoderm microtubule-associated protein-like 4)のアミノ末端側約半分をコードし、3'側は受容体型チロシンキナーゼALK(anaplastic lymphoma kinase)の細胞内チロシンキナーゼドメインをコードしていた。
EML4、ALK両遺伝子は共に正常細胞内で存在しているが、両者が融合したEML4-ALK遺伝子は肺がん細胞内でしか存在しない。しかも両遺伝子は、本来2番染色体内で反対向きに存在しているため、EML4-ALKの融合点を挟む様に設置したプライマーによるRT-PCR法は、同融合遺伝子が存在しない限り決してPCR産物を生じない。したがって、臨床試料を用いたRT-PCR法によりEML4-ALK mRNAを検出するシステムは、極めて鋭敏かつ精度の高い肺がんの分子診断法になると期待される。
実際EML4-ALK陽性細胞を喀痰中に様々な濃度で混和しRT-PCR実験を行ったところ、わずか10個/mLの陽性細胞を含む喀痰からも明瞭なPCR産物が検出された。以上より、極めて高感度にEML4-ALK陽性肺がんの分子診断が実現可能なことが証明された。

II. EML4-ALKを標的とした肺がん治療の展開
間野 博士はEML4-ALKキナーゼを肺胞上皮細胞特異的に発現するトランスジェニックマウスを作成した。驚くべき事に、これらマウスはいずれも生後僅か数週で両肺に数百個の肺腺がんを多発発症し、しかも同マウスに経口摂取可能なALK特異的阻害剤を投与したところ、巨大な肺腫瘍のほぼ全てが消失した。すなわちEML4-ALK融合キナーゼを標的とする治療法は、同キナーゼ陽性腫瘍に極めて有効な分子標的療法となるのだ。
間野 博士らの発見を受けて、既にALK阻害剤単剤の肺がん治療臨床試験が行われており、目覚ましい治療効果が確認されている。しかし、当初の臨床試験は日本において行われなかったため、間野 博士は我が国のEML4-ALK陽性患者を救うべく、all JapanでEML4-ALK陽性患者を見つけるボランティア診断ネットワーク「ALK肺がん研究会:ALCAS」を2009年3月に開設した。以来約1,000例に及ぶ肺がん患者の診断を無償で行っており、既に数十例の陽性症例を検出しただけでなく、その過半数が海外で行われている臨床試験に参加できるようにサポートを行っている。
間野 博士が発見したEML4-ALK陽性肺がんは、非小細胞肺がんの約4-5%に相当し、また50歳以下の若年性肺がんに限ると陽性率は35%に及ぶ。肺がん全体で毎年約130万人の人命が世界で失われており、その4-5%は約5万人に相当する。間野博士の我が国における発見によって、今後世界中で何万人、何十万人の肺がん患者の生命予後が大きく変わろうとしている。


〈FAQ〉
Q.武田医学賞は国際賞ですか?
A.武田医学賞は日本人研究者を対象に贈呈しております。国際賞ではありません。

Q.武田医学賞の選考方法は?
A.財団理事、評議員、名誉顧問、武田医学賞選考委員、武田医学賞受賞者、日本学士院会員(第7分科)、日本学士院賞受賞者(1999年以降医学関連)の85名からの推薦をもとに、9名からなる選考委員会で公正に決定いたします。今回は16件16名からの選考でした。選考委員長は豊島 久真男 先生(理化学研究所 研究顧問)にお願いしています。
その他8名の選考委員については公表を控えさせていただいております。

Q.武田医学賞の起源について教えてください。
A.1954年、武田薬品工業株式会社の創業170周年記念事業の一つとして和敬翁(五代武田 長兵衞氏)の発意を受け、六代武田 長兵衞氏により武田医学賞の褒賞事業が始まる。1963年、武田科学振興財団設立。武田医学賞を武田薬品から当財団に移管。

Q.武田科学振興財団の財源は?
A.1963年財団創設以来の武田薬品工業株式会社の寄付、および1980年、武田 彰郎氏(当時武田薬品工業株式会社副社長)の遺志により寄贈を受けた同社株式が基盤になっています。
当財団は、同社株式の2.27%を保有する第4位の株主です(2010年3月末現在)。

詳細につきましては武田科学振興財団ホームページ( http://www.takeda-sci.or.jp/ )をご覧ください。


                                 以上


【財団法人 武田科学振興財団の概要】
財団法人 武田科学振興財団は、「科学技術の研究を助成・振興し、国内外の科学技術及び文化の向上発展に寄与する」ことを目的とし、武田薬品工業株式会社からの寄付を基金として1963年に設立されました。詳細については、財団ホームページをご覧ください。

1.名称  : 財団法人 武田科学振興財団(主務官庁:文部科学省)
2.所在地 : 大阪市淀川区十三本町2丁目17-85
3.理事長 : 横山 巖
4.設立  : 1963年9月30日
5.基本財産: 542億7,107万円(2009年3月31日現在)
6.事業規模: 2008年度実績18億9,206万円
7.URL   : http://www.takeda-sci.or.jp
8.主な事業: 1.研究助成事業(87.5%)
       ・科学技術に関する研究機関および
        科学技術の研究者に対する奨励金の贈呈(研究助成金)
       ・科学技術に関する注目すべき研究業績に対する褒賞(武田医学賞)
       ・科学技術に関する国際シンポジウムの開催

       2.外国人留学生事業(5.8%)
       ・留学研究者に対する助成金の支給

       3.杏雨書屋事業(6.7%)
       ・東洋医書その他図書資料の保管・整理・公開
       ・科学技術振興のための出版物の刊行

※( )内の%は、2008年度事業実績(金額)による事業比率

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