人手不足の今、企業が考えたい「働く人のこころの健康」。50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化へ
鈴木 枝里子医師が解説。採用だけではなく、働き続けられる職場環境を考えるメンタルヘルス対策

企業にとって、「人を採用すること」と同じように重要になるのが、働く人が健康を維持しながら仕事を続けられる環境を整えることです。
仕事量や職場の人間関係などによって心理的な負担が高まると、心身の不調につながることがあります。
厚生労働省の令和7年度「過労死等の労災補償状況」では、業務災害に係る精神障害の労災請求件数は4,958件、支給決定件数は1,082件でした。
また、支給決定の出来事別では、パワーハラスメントや顧客・取引先等からの著しい迷惑行為、セクシュアルハラスメントなどが挙げられています。
メンタルヘルス対策は、特別な企業だけが行うものではありません。
50人未満の事業場にもストレスチェックが必要に
ストレスチェック制度は2015年から導入され、これまで労働者数50人以上の事業場を中心に義務化されてきました。
2025年5月の改正労働安全衛生法により、労働者数50人未満の事業場についてもストレスチェックが義務化されます。
施行日は2028年4月1日です。
厚生労働省は、50人未満の事業場向けに、プライバシーを保護しながら現実的に制度を運用するための「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」も公開しています。
「採用のため」ではなく、まずは職場の状態を把握する
ストレスチェックについて、「採用力を高める制度」「離職を防ぐ制度」と一面的に考えるのではなく、まずは働く人の心理的な負担を把握するための制度として理解することが重要です。
ストレスチェックによって、労働者自身が自分のストレス状態に気づくきっかけになるほか、集団分析を行えば、職場単位でストレスの傾向を把握することもできます。
厚生労働省は、集団分析の結果を、部署の業務内容や労働時間などの情報と合わせて評価し、職場環境改善につなげることを示しています。
例えば、
「特定の時期に業務量が集中していないか」
「仕事の進め方について相談できる環境があるか」
「職場内のコミュニケーションに課題がないか」
といった視点から職場環境を考える材料になります。
小規模事業場だからこそ、制度設計をシンプルに
50人未満の事業場では、必ずしも社内に産業保健スタッフがそろっているとは限りません。
そのため、厚生労働省は、産業保健総合支援センターや地域産業保健センターなどの外部資源を案内しています。
産業保健総合支援センターは全国47都道府県に設置され、ストレスチェック制度を含むメンタルヘルス対策について相談や制度導入支援などを無料で行っています。
地域産業保健センターは全国に設置され、50人未満の小規模事業場を対象に、高ストレス者への医師による面接指導などの産業保健サービスを無料で提供しています。
自社だけですべてを用意するのではなく、利用できる公的支援を確認することも準備の一つです。
「働きやすさ」は一度の施策ではなく、継続的に考える

メンタルヘルス対策では、一度アンケートを実施して終了するのではなく、職場の状態を確認し、その結果をもとに職場環境について考えることが重要です。
ただし、集団分析では個人が特定されないようにする必要があります。
厚生労働省は、10人未満の集団について、個人特定を防ぐ観点から原則として集団分析を実施しないことを示しています。
「少人数だからこそ、誰の回答なのか分かってしまう」という小規模事業場特有の問題に配慮する必要があります。
2028年4月に向けて、今からできること
ストレスチェック義務化に向けて、企業がまず確認したいのは次の5点です。
1.自社の対象事業場と労働者数を確認する
2.ストレスチェックの実施方法を検討する
3.個人結果の管理方法を決める
4.高ストレス者への対応方法を確認する
5.外部の相談・支援機関を把握する
2028年4月1日の義務化に向け、厚生労働省から小規模事業場向けのマニュアルも公開されています。
まずは制度を正しく知り、自社で必要となる準備を整理することから始めてみてはいかがでしょうか。
鈴木 枝里子医師は、精神科医療の視点から、働く人のこころの健康について考える取り組みを行っています。
【監修】
鈴木 枝里子医師
医療法人社団 ユーアイエメリー会 理事長
https://www.mentalcare.or.jp/
医療法人大壮会 久喜すずのき病院 理事
https://suzunoki.net/
東京女子医科大学 神経精神科 助教
うつ病、不安障害、発達障害、認知症まで、幅広い心の不調に寄り添う精神科医。埼玉県指定「認知症疾患医療センター」で地域の中核を担い、丁寧な診察と最新のエビデンスに基づく治療で、「もう少し楽に生きられる毎日」を一緒に目指している。医学博士、精神保健指定医、日本専門医機構認定 精神科専門医・指導医、日本精神神経学会 認知症診療医、認定産業医。





















