米糠の副産物から3種の新規化合物を発見し、その化学構造を解明 このうち1種が皮膚のバリア機能を高めることを明らかに

    調査・報告
    2025年12月15日 14:00
    米糠(左)と、米糠から発見した新規のアシル化グルコシルセラミド3種の化学構造(右)
    米糠(左)と、米糠から発見した新規のアシル化グルコシルセラミド3種の化学構造(右)

    近畿大学薬学総合研究所(大阪府東大阪市)教授 森川敏生と、オリザ油化株式会社(愛知県一宮市)研究開発本部長 下田博司らの研究グループは、米糠から油を抽出する際に生じる副産物から、脂質である「アシル化グルコシルセラミド※1」の新規化合物3種を世界で初めて発見し、その化学構造を明らかにしました。さらに、そのうちの1種が角層のバリア機能を高めることを、ヒトの表皮を再現した組織モデルを用いて明らかにしました。本研究成果によって米糠の副産物から得られる新しい脂質の機能性が明らかになり、今後その機能性をさらに解明することで、化粧品や機能性食品への応用が期待されます。
    本件に関する論文が、令和7年(2025年)11月26日(水)に、天然物に関する専門紙"Phytochemistry Letters(ファイトケミストリー レターズ)"にオンライン掲載されました。

    【本件のポイント】
    ●米糠の副産物から脂質である「アシル化グルコシルセラミド」の新規化合物3種を発見し、化学構造を解明
    ●ヒト表皮の再現組織モデルを用いて、アシル化グルコシルセラミドが角層のバリア機能を高めることを明らかに
    ●今後、この新規化合物の機能性をさらに解明することで、化粧品や機能性食品への応用に期待

    【本件の背景】
    植物由来の脂質の一種である「グルコシルセラミド」は、細胞間脂質の主成分であるセラミドに糖(グルコース)が結合した化合物で、主に植物に含まれます。経口摂取や塗布によって皮膚の保湿作用を示すことが報告されており、この成分を含む米・こんにゃく芋・パイナップルなどの植物エキスは機能性素材として販売され、機能性表示食品としても受理されています。
    オリザ油化株式会社は、米糠から米油を製造する際に生じる副産物からグルコシルセラミドを高濃度化し、「オリザセラミド*」として、平成11年(1999年)から国内外の食品・化粧品メーカーに販売しています。さらに、本来捨てられるはずの副産物のさらなる有効活用法を検討するため、近畿大学薬学総合研究所の研究グループとともにグルコシルセラミド以外の有効成分の探索を実施し、令和3年(2021年)には米糠からヒト型セラミド※2 である「エラスティカミド」を単離・同定することに世界で初めて成功し、共同で特許も出願しました。
    *オリザセラミドは、オリザ油化の登録商標です。

    【本件の内容】
    研究グループは、まだあまり機能が解明されていない、「アシル化グルコシルセラミド」という脂質に着目し、米糠の副産物から新たに3種類を単離して、その化学構造を明らかにしました。いずれも新規の化合物だったため、米の学名Oryza sativaに因んで「oryzaceramide A」、「oryzaceramide B」、「oryzaceramide C」と命名しました。
    また、ヒトの表皮を再現した組織モデルを用いて、oryzaceramides A~Cが皮膚から蒸発する水分量に及ぼす影響を評価した結果、中でも「oryzaceramide A」が有意に皮膚から蒸発する水分量を減少させ、角層のバリア機能を高めることが示唆されました。

    【論文掲載】
    掲載誌:Phytochemistry Letters(インパクトファクター:1.4@2024)
    論文名:
    Oryzaceramides A–C, acylated glucosylceramides with epidermal barrier functions, isolated from rice bran
    (米糠から単離された、皮膚バリア機能をもつアシル化グルコシルセラミドであるoryzaceramides A-C)
    著者 :竹田翔伍1、下田博司1、米田朱里1、萬瀬貴昭2、森川敏生2,3* *責任著者
    所属 :1 オリザ油化株式会社、2 近畿大学薬学総合研究所、3 近畿大学アンチエイジングセンター
    URL  :https://doi.org/10.1016/j.phytol.2025.104086
    DOI  :10.1016/j.phytol.2025.104086

    【本件の詳細】
    研究グループはまず、米糠抽出物をクロマトグラフィーによって分画し、3種類の未知化合物(oryzaceramides A~C)を単離しました。次に、NMRや質量分析などの分光学的手法に、化学的処理を組み合わせることで、それぞれの立体構造を詳細に解析しました。その結果、これらの化合物は従来の植物由来グルコシルセラミドとは異なり、脂肪酸がアシル化された新しい構造を持つことが明らかになり、それぞれ脂肪酸のうちパルミチン酸(oryzaceramide A)、オレイン酸(oryzaceramide B)、リノール酸(oryzaceramide C)が結合していることがわかりました。
    次に、単離した化合物の生理活性を評価するために、ヒト表皮三次元培養モデル※3 を用いて角層バリア機能への影響を調べました。その結果、oryzaceramide Aを10µMの濃度で添加すると、経表皮水分蒸散量※4 が有意に減少し、角層バリア機能が改善することが明らかになりました。また、この作用には、グルコシルセラミドに付加したアシル基、特に飽和脂肪酸エステル部分が関与している可能性が示唆されました。さらに、これらの結果を基に、研究グループは共同で特許を出願しました。
    これらの結果から、米糠にはこれまで知られていなかったアシル化グルコシルセラミドが存在し、それらが皮膚の保湿・バリア機能を高める可能性が示唆されました。本研究成果は、米糠という米油の副産物から得られる新しい脂質の機能性を示した点で意義が大きく、今後保湿作用以外の機能も明らかにすることで、化粧品や機能性食品へのさらなる応用が期待されます。

    【研究者のコメント】
    森川敏生(モリカワトシオ)
    所属  :近畿大学薬学総合研究所、近畿大学アンチエイジングセンター
    職位  :教授/センター長
    学位  :博士(薬学)
    コメント:グルコシルセラミドは、動物・植物・微生物など多様な生物が細胞膜の構成成分としてもっていますが、その構造は生物種によって異なります。そのため、進化生物学では分子系統解析のマーカーとしてひろく認識されています。今回の発見では、これまで見いだされていなかった、糖部にアシル基をもつ「アシル化グルコシルセラミド」の存在が明らかになりました。この知見により、「アシル化グルコシルセラミド」の生合成機構や責任酵素の同定、代謝経路の解析など、生化学的な研究が進展することが期待されます。

    【研究支援】
    本研究は令和5年度(2023年度)Go-Tech事業(成長型中小企業等研究開発支援事業)(JPJ005698)の助成を受けて、近畿大学薬学総合研究所とオリザ油化株式会社の産学連携により実施しました。

    【用語解説】
    ※1 アシル化グルコシルセラミド:グルコシルセラミドのグルコース(糖)部分に、アシル基として脂肪酸が結合した構造を持つ化合物。これまで植物からは見つかっていなかった。
    ※2 ヒト型セラミド:ヒトの皮膚に存在し、肌を外部刺激から守るバリア機能のための必須成分であるセラミドと同一の構造を持つ化合物。
    ※3 ヒト表皮三次元培養モデル:ヒトの皮膚構造のうち、最も外側である表皮を再現した組織モデル。角層のバリア機能などを評価する際の実験に広く利用されている。
    ※4 経表皮水分蒸散量:皮膚から蒸散していく水分量の測定値。値が大きいほど水分が蒸散しており、バリア機能が弱くなっていることを示す。

    【関連リンク】
    薬学総合研究所 教授 森川敏生(モリカワトシオ)
    https://www.kindai.ac.jp/meikan/823-morikawa-toshio.html

    近畿大学薬学総合研究所
    https://www.phar.kindai.ac.jp/centers/

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