【名城大学】世界初!一次元状カーボンチェーンを最安定な状態で単層カーボンナノチューブ内に高収率合成

    調査・報告
    2025年9月5日 13:00

    名城大学理工学部応用化学科の丸山隆浩教授と趙新洛特任教授のグループは、直径0.8 nm以下の細径単層カーボンナノチューブ(注1)内に炭素原子が一次元状に連なったカーボンチェーン(注2)を高い収率で合成する方法を開発しました。カーボンチェーンは理論上、世の中で“最も硬い物質”とされており、また、優れた電気的特性をもつことから様々な応用展開が期待できます。
    本研究成果は、2025年8 月 3 日(日本時間3日)にオランダのElsevier B. V.社が出版する国際学術誌「Chemical Physics Letters」に掲載されました。

    【本件のポイント】

    ・直径0.8 nm以下の単層カーボンナノチューブに内包されたカーボンチェーンを合成
    ・エネルギー的に最も安定な状態でカーボンチェーンが単層カーボンナノチューブに内包
    ・前駆体分子の濃度を制御することで内包カーボンチェーンの高収率化を達成

    【研究の背景】

    数十個以上の炭素原子が一次元状に連なった長鎖カーボンチェーンは、世の中で“最も硬い物質”とされ、また、炭素鎖の長さによりバンドギャップが変化するなど、興味深い物性を示すことが予想されています。しかし、カーボンチェーン単独では大気中で安定に存在できないため、その性質はよくわかっていません。そこで、カーボンチェーンをカーボンナノチューブ(CNT)の中心空洞部に内包することで大気中でも安定な状態に保つ試みがなされています。CNTに内包されたカーボンチェーンの分析を行う場合、結晶構造の単純な単層のCNT(単層カーボンナノチューブ:SWCNT)に内包することが有効です(図1)。特に、直径0.7-0.8 nm程度のSWCNTに内包した場合、カーボンチェーンがSWCNTの中心部に位置し、エネルギー的に最も安定な構造となります。しかし、カーボンチェーンの高収率合成は、これ++まで直径1.0 nm以上のSWCNTに対する報告しかありませんでした。今回、新たにカーボンチェーンを形成する前駆体に水素末端ポリイン分子(注3)を用い、その濃度を調整することで、直径0.8 nm以下の細径SWCNT内に高収率でカーボンチェーンを内包させることを試みました。

    図1 (a) カーボンチェーンと(b) SWCNTに内包されたカーボンチェーン
    図1 (a) カーボンチェーンと(b) SWCNTに内包されたカーボンチェーン
    図2 直径の異なるSWCNTに内包されたカーボンチェーン(断面図)
    図2 直径の異なるSWCNTに内包されたカーボンチェーン(断面図)

    【研究内容】

    液体のノルマルヘキサン中で炭素棒電極間のアーク放電を行い、水素末端ポリイン分子を生成させました。ポリイン分子を含むヘキサン溶液を、開端処理を施したSWCNTと混合したのち、高圧反応器に入れて80℃で24時間保つことでポリイン分子をSWCNTに内包させました(図3(a))。なお、今回の研究では内包用に平均直径0.78 nmの細径SWCNTを用いています。さらに赤外線照射装置を用いて、真空中で700℃、4時間の加熱を行い、SWCNT内にカーボンチェーンを形成しました(図3(b))。ラマン分光測定の結果、ヘキサン中のポリイン分子の濃度が高くなるほどSWCNTに内包されるカーボンチェーンの収率も高くなることがわかりました。ラマンスペクトルのL/G比(カーボンチェーン由来のLバンドと、SWCNT由来のGバンドのピーク強度比)は励起エネルギーに依存して変化しますが、ポリイン分子濃度を最適化して合成した試料では、励起波長561 nmのとき、最大で3を越えるL/G比を示しました。この値は、直径0.8 nm以下のSWCNTに内包されたカーボンチェーンとしては最も高い値であり、高収率でカーボンチェーンが内包されていることを示しています。

    図3 SWCNT内への(a) ポリインの内包と(b) カーボンチェーンの形成
    図3 SWCNT内への(a) ポリインの内包と(b) カーボンチェーンの形成

    【今後の展開】

    カーボンチェーンを高収率で、最もエネルギー的に安定な状態でSWCNTに内包できることが明らかになりました。今後、合成法の改良により、高収率でカーボンチェーンが内包されたSWCNTを大量に合成できるようになれば、カーボンチェーンの優れた物性が明らかになり、様々な応用に発展していくことが期待できます。

    【研究助成金】

    ・名城大学ナノマテリアル研究センター

    【用語の解説】

    (注1)単層カーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon Nanotube: SWCNT)
    カーボンナノチューブ(CNT)は炭素原子のみから成る六角網面(グラフェンシート)を円筒状に巻いた構造の物質ですが、特に1層から成るものを単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と呼びます。直径は1~数ナノメートル程度で細いものは1ナノメートル以下のSWCNTも存在します。

    (注2)カーボンチェーン
    炭素原子が鎖状につながった構造の1次元状のナノカーボン材料。これまでCNTに内包されたものとしては、数十~数千個程度の炭素原子から成るカーボンチェーンの合成が報告されています。特に無限の長さのものはカルビン(Carbyne)と呼ばれ、理論上、世の中の物質で最も大きな引張強度をもち、“最も硬い物質”といわれています。

    (注3)水素末端ポリイン分子
    炭素原子が鎖状につらなった分子で両端に水素原子が結合した形状をしています。炭素の数により、C6H2、C8H2などいろいろな分子があります。直線状の分子なので、直径の細いSWCNTにも内包されやすいと考えられています。

    【掲載論文】

    タイトル:Highly efficient synthesis of small-diameter single-walled carbon nanowires through transformation of polyyne molecules into long linear carbon chains inside single-walled carbon nanotubes
    著者:Takahiro Maruyama, Haruma Sunako, Chen Zhao, Takahiro Saida, Yuichi Haruyama, Shu Morita, Minoru Osada, Xinluo Zhao
    掲載誌:Chemical Physics Letters
    DOI:10.1016/j.cplett.2025.142308
    URL: https://doi.org/10.1016/j.cplett.2025.142308

    【お問い合わせ先】

    ・研究内容に関すること
    名城大学 理工学部 教授丸山隆浩
    TEL:052-838-2386
    E-mail:takamaru@meijo-u.ac.jp

    ・広報担当
    名城大学渉外部広報課
    Tel: 052-838-2006
    Email: koho@ccml.meijo-u.ac.jp

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    図1 (a) カーボンチェーンと(b) SWCNTに内包されたカーボンチェーン
    図2 直径の異なるSWCNTに内包されたカーボンチェーン(断面図)
    図3 SWCNT内への(a) ポリインの内包と(b) カーボンチェーンの形成
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