理工学部准教授 副島哲朗の研究が光化学分野の重要論文に選出 光触媒を用いた過酸化水素合成について分野を牽引する成果

    調査・報告
    2026年3月19日 14:00
    Chemical Science(ケミカル サイエンス)のMost popular articles 2025: photochemistry collection
    Chemical Science(ケミカル サイエンス)のMost popular articles 2025: photochemistry collection

    近畿大学理工学部(大阪府東大阪市)応用化学科准教授 副島哲朗、近畿大学大学院総合理工学研究科博士後期課程2年 エンヨウソウ、学校法人近畿大学法人本部管理部技術課長 納谷真一、東海国立大学機構(愛知県名古屋市)客員教授 多田弘明らの研究グループは、次世代のクリーン燃料として注目される「過酸化水素」を高効率に合成する研究に取り組んでいます。その一環で、「光触媒※1」を用いて太陽光・水・酸素からクリーンに過酸化水素を合成することに成功し、令和7年(2025年)5月に、Royal Society of Chemistry(英国王立化学会)が発行する世界トップレベルの国際学術誌"Chemical Science(ケミカル サイエンス)"に研究成果が掲載されました(令和7年(2025年)5月プレスリリース)
    本論文が、同学術誌において過去1年間に掲載された論文のうち、光化学分野で最も注目を集めた"Most popular articles 2025: photochemistry collection"に選出されました。
    また、本研究成果を中心に、光触媒による過酸化水素合成の近年の世界的潮流を新しい視点でまとめた総説が、国際学術誌"Chemical Communications(ケミカル コミュニケーションズ)"と"Chemistry - A European Journal(ケミストリー ア ユーロピアン ジャーナル)"に掲載されました。

    【本件のポイント】
    ●「過酸化水素」をクリーンに合成する画期的な手法を開発し、令和7年(2025年)5月に国際学術誌"Chemical Science"に論文掲載
    ● "Chemical Science"において、令和7年(2025年)に光化学分野で最も注目を集めた論文として選出
    ● 光触媒を用いた過酸化水素合成について、新しい観点からまとめた総説も発表し、この分野を牽引

    【選出された論文の概要】
    過酸化水素は、次世代燃料電池の燃料や、汎用性の高いクリーンな酸化剤として注目されていますが、従来の製造法では原料となる水素ガスや莫大な電力が必要となります。こうした製造プロセスを改善するために、太陽光・水・酸素だけで過酸化水素を合成する、光触媒を用いた合成の研究が進んでいます。しかしこの合成法は、照射した光の利用効率※2 が20%程度と低く、まだ実用には至っていません。効率が低い原因として、合成した過酸化水素が触媒表面で分解されてしまう点が挙げられており、新たな触媒の開発が求められていました。
    そこで研究グループは、無機物質である酸化スズや酸化亜鉛を複合化させた「ハイブリッド材料」を、光触媒として開発しました。この触媒を用いて過酸化水素を合成したところ、先行研究において報告されている最高濃度の3倍以上を達成し、光の利用効率が約500%となりました。この革新的な光触媒反応を開拓した研究成果は、令和7年(2025年)5月に "Chemical Science"に掲載されました(図1①)。
    令和7年(2025年)5月プレスリリース

    【本件の内容】
    Royal Society of Chemistry(英国王立化学会)は、世界的に高く評価される雑誌を多数発行しており、そのフラッグシップとなる学術誌が"Chemical Science"です。 "Chemical Science"は毎年、前年に発表された論文について、さまざまな利用指標に基づき注目を集めたものを選出しています。今回、本研究グループが発表した論文が令和7年(2025年)に光化学分野で最も注目を集めた"Most popular articles 2025: photochemistry collection"に選出されました。
    また、研究グループは、光触媒による過酸化水素合成に関するこれまでの研究を精査し、新しい観点からまとめ上げた総説2報を発表しました(図1②)。なお、その一つは、出版社John Wiley & Sons, Inc.による依頼によって執筆しました。総説とは、特定の研究分野の成果を俯瞰して体系的に整理し、今後の研究の道筋を示す論文のことです。十分な知識と経験を有する信頼された専門家によって執筆されるもので、その分野における現在までの理解と今後の発展の方向性を示す教科書となります。

    図1 研究グループが発表した、光触媒に関する論文の概要
    図1 研究グループが発表した、光触媒に関する論文の概要

    【Most popular articles 選出論文】
    掲載誌:Chemical Science(インパクトファクター:7.6@2024)
    論文名:Photocatalytic hydrogen peroxide production with an external quantum yield of almost 500%
        (外部量子収率500%の光触媒的過酸化水素合成)
    著者 :エンヨウソウ1、納谷真一2*、杉目恒志1,3、多田弘明4*、副島哲朗1,3* *責任著者
    所属 :1 近畿大学大学院総合理工学研究科、2 近畿大学法人本部管理部、
        3 近畿大学理工学部応用化学科、4 東海国立大学機構
    掲載日:令和7年(2025年)5月2日
    URL :https://doi.org/10.1039/D5SC01447F
        Most popular articles 2025: photochemistry collection

    【総説①】
    掲載誌:Chemical Communications(インパクトファクター:4.2@2024)
    論文名:Photocatalytic hydrogen peroxide production toward quantum yields exceeding 100%
        (量子収率100%超を目指す光触媒的過酸化水素合成)
    著者 :副島哲朗1,2、エンヨウソウ2、多田弘明3* *責任著者
    所属 :1 近畿大学理工学部応用化学科、2 近畿大学大学院総合理工学研究科、3 東海国立大学機構
    掲載日:令和7年(2025年)10月27日
    URL :https://doi.org/10.1039/D5CC05863E

    【総説②】
    掲載誌:Chemistry - A European Journal(インパクトファクター:3.7@2024)
    論文名:Photoelectrochemical Hydrogen Peroxide Production via Simultaneous Reduction
        and Oxidation Processes
        (酸化・還元の協奏で進む光電気化学過酸化水素合成)
    著者 :副島哲朗1*、納谷真一2、多田弘明3* *責任著者
    所属 :1 近畿大学理工学部応用化学科、2 近畿大学法人本部管理部、3 東海国立大学機構
    掲載日:令和8年(2026年)1月27日
    URL  :https://doi.org/10.1002/chem.202503451

    【本件の詳細】
    オキシドールとして知られる過酸化水素(H2O2)は、医療機器の滅菌、化成品の合成やパルプの漂白だけでなく、半導体などの電子機器製造プロセスを含む幅広い分野で利用される重要な化学物質で、次世代燃料電池用クリーン燃料などの最先端領域でも注目されています。現在、過酸化水素は多量のエネルギーを用いて製造されていることから、環境負荷の小さな光触媒反応により合成・製造する方法が世界中で検討されています。研究グループは、市販の無機物質を混ぜるだけで簡単に得られるナノサイズのハイブリッド材料(光触媒)を用いて、酸素とエタノールから、先行研究で報告されている最高濃度の3倍以上となる過酸化水素の合成を達成しました。また、光の利用効率は約500%という、これまでの光触媒の常識では説明できない現象であることを明らかにしました(図2)。

    図2 光触媒と連鎖反応による革新的な過酸化水素合成
    図2 光触媒と連鎖反応による革新的な過酸化水素合成

    研究で得られる成果は、さまざまな形で学術界や社会に発信されています。その発信方法の一つとして、出版社が発行する学術雑誌に論文として掲載されるものがあります。化学分野においてはAmerican Chemical Society(アメリカ化学会)やWileyなど主要な国際的出版社がありますが、その一つであるRoyal Society of Chemistry(英国王立化学会)は、世界的に注目を集める多数の学術雑誌を発行しています。その中でも、"Chemical Science"は英国王立化学会を代表するフラッグシップ雑誌という位置づけで、化学分野で最重要・最先端の論文が、複数の専門家による厳格な審査の上で掲載されています。
    研究グループによる今回の研究成果は、令和7年(2025年)5月に"Chemical Science"に掲載され、 "Most popular articles 2025: photochemistry collection"に選出されました。このコレクションは、令和7年(2025年)に光化学分野で最も注目を集めた論文をまとめたもので、引用数、ダウンロード数、オルトメトリクスなど、さまざまな利用指標に基づいて選定されています。
    学術論文にはいくつかの種類がありますが、大まかにわけて研究論文と総説があります(下記、学術論文における研究論文と総説の違い参照)。

    【学術論文における研究論文と総説の違い】
    研究論文:内容新しい発見(材料・現象など)を報告するもので、
         その分野の"最前線"を押し広げるもの。
    総説  :これまでの成果を体系的に整理・分析して執筆されるもので、
         その分野の"地図"を提供し方向性を示すもの。

    研究論文は、未発表の研究内容の成果をまとめたもので、新規性の提示が重要な目的となります。一方総説は、特定の研究分野の成果を体系的に整理し、現状と課題、そして今後の方向性を記述した論文です。総説は、その研究分野を俯瞰してまとめ上げるだけの深い理解や経験、そして広い視野を持つ信頼された研究者によって記述されます。

    研究グループは、"Chemical Science"と同様に国際的に著名な2つの学術雑誌に、新しい観点で光が関係する過酸化水素合成について、総説を発表しました。一報は、これまでの光触媒による過酸化水素合成の歴史を振り返りつつ、光の利用効率が100%をはるかに超える最新研究について、光化学の分野での新たな位置づけを体系的にまとめた内容で、令和7年(2025年)10月に"Chemical Communications"に掲載されました。もう一報は、光電気化学プロセスによる過酸化水素合成の最新動向を網羅的に解説し、実用化に向けて効率的なシステムの設計を示した内容で、令和8年(2026年)1月に"Chemistry - A European Journal"に掲載されました。なお、"Chemistry - A European Journal"に掲載された総説は、研究グループが"Chemical Science"に発表した高効率な光触媒反応による過酸化水素合成の成果を受けて、出版社の編集者から直接執筆を依頼されたものです。

    【研究者のコメント】
    副島哲朗(ソエジマテツロウ)
    所属  :近畿大学理工学部応用化学科、近畿大学大学院総合理工学研究科
    職位  :准教授
    学位  :博士(工学)
    コメント:"Chemical Science"誌は、化学分野において世界を代表する学術雑誌であり、そこに研究成果が掲載されるだけでなく、今回のように光化学分野で最も注目された論文に選出されることは大変名誉なことと思っています。近年、過酸化水素の重要性は増すばかりで、その観点からも光触媒によるクリーンな過酸化水素合成は、今後も光化学における一大トピックスとして注目され続けるものと期待されます。今回の成果や総説は、この分野の牽引役としてきわめて重要な役割を果たすものと思います。

    【研究支援】
    本発表において重要な役割となっている成果は、日本学術振興会による科研費(課題番号20K05275、20K05674)ならびに日本板硝子材料工学助成会、双葉電子記念財団、泉科学技術振興財団による研究助成の支援を受けて行われました。

    【用語解説】
    ※1 光触媒:触媒とは、特定の化学反応を速める性質がある物質で、その物質自体は化学反応の前後で変化しないもの。化学工業的にきわめて重要な物質で、代表的なものとして、化学製造における基礎的な窒素源になるアンモニアは、鉄系の化合物が触媒となり製造が可能となる。光触媒は、光照射により触媒作用を発現する。
    ※2 光の利用効率:光触媒では、光を当てることにより化学反応が進行する。光の利用効率は、入力した光がどのくらいの割合で目的物質を合成に利用できたかの効率を示すもので、通常、100%が上限となる。

    【関連リンク】
    理工学部 応用化学科 准教授 副島哲朗(ソエジマテツロウ)
    https://www.kindai.ac.jp/meikan/378-soejima-tetsurou.html

    理工学部
    https://www.kindai.ac.jp/science-engineering/

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