植物染料「ニホンアカネ」から皮膚の老化や炎症を防ぐ成分を特定 肌トラブル改善につながる機能性素材への応用に期待

    調査・報告
    2026年7月3日 14:00
    左:近畿大学薬用植物園圃場でのニホンアカネ栽培試験、中央:掘り起こし直後のニホンアカネの根部、右:機能性成分として特定したプルプリン・ムンジスチンの化学構造
    左:近畿大学薬用植物園圃場でのニホンアカネ栽培試験、中央:掘り起こし直後のニホンアカネの根部、右:機能性成分として特定したプルプリン・ムンジスチンの化学構造

    近畿大学薬学総合研究所/アンチエイジングセンター(大阪府東大阪市)教授/センター長 森川敏生、同教授/副センター長 角谷晃司、近畿大学大学院薬学研究科(大阪府東大阪市)薬学専攻博士後期課程2年 高田隆矢(JST-SPRINGプログラム採択)は、一般社団法人日本アカネ再生機構(大阪府泉北郡)との共同研究により、日本古来の植物染料素材である「ニホンアカネ(日本茜)」に含まれる赤色色素成分が、コラーゲンやヒアルロン酸の分解酵素の働きを阻害することで、皮膚の老化や炎症反応を抑制する可能性を明らかにしました。本研究成果により、ニホンアカネに含まれる成分がもたらす効果の一端が明らかになり、今後、肌トラブル改善効果につながる機能性素材への応用が期待されます。
    本件に関する論文が、令和8年(2026年)6月24日(水)に、令和7年(2025年)に新たに発刊された天然物科学に関する学術雑誌"Natural Products: Chemistry, Pharmacology and Nutrition(ナチュラルプロダクツ:ケミストリー ファーマコロジー アンド ニュートリション)"にオンライン掲載されました。

    【本件のポイント】
    ●日本古来の植物染料素材であるニホンアカネに含まれる赤色色素成分が、コラーゲンやヒアルロン酸の分解酵素を阻害することで、皮膚の老化や炎症反応を抑制する可能性を明らかに
    ●コラーゲンやヒアルロン酸の分解酵素阻害効果は、外来種のアカネと比較してニホンアカネの方が強いことを確認
    ●本研究は、肌トラブルに対して改善効果をもたらす機能性素材への応用が期待される成果

    【本件の背景】
    ニホンアカネは、日本において古来より赤色(緋色)の染料として用いられてきましたが、外来種(セイヨウアカネ、インドアカネ)や合成染料の代替使用により、商業的生産が途絶えてしまいました。近畿大学薬学総合研究所の研究グループは、平成15年(2003年)頃からニホンアカネの保全・栽培研究をすすめており、一般社団法人日本アカネ再生機構との先行研究において、ニホンアカネの組織培養による繁殖技術とDNA鑑定による分子系統解析に関する研究成果を令和6年(2024年)に発表するなど、農産物としてのニホンアカネの復興にむけた取り組みを精力的にすすめています。
    アカネ科の植物は多様な成分を含んでおり、関節炎、皮膚疾患、心血管疾患、肝障害などの疾患の治療に用いられてきました。研究グループでも先行研究において、中国産のアカネ科植物から抗炎症作用や抗アレルギー作用を持つ成分を見出しましたが、ニホンアカネに含まれる成分がどのような効果をもたらすかは明らかになっていませんでした。

    【本件の内容】
    研究グループは、ニホンアカネの根からエキスを抽出し機能を確認したところ、コラーゲンの分解酵素であるコラゲナーゼ※1 と、ヒアルロン酸の分解酵素であるヒアルロニダーゼ※2 両方に対する阻害効果が明らかになりました。これらの酵素は、老化・アレルギー・炎症などを促進することが知られており、酵素活性を阻害するニホンアカネエキスは、皮膚の老化や炎症反応を抑制し、肌トラブル改善効果をもたらすことが示唆されました。
    さらに、この効果を示す活性寄与成分として8種類の化合物を特定し、特に赤色色素の「プルプリン」や「ムンジスチン」の活性が強いことを確認しました。また、外来種であるセイヨウアカネやインドアカネに含まれる赤色色素のアリザリンと比較した結果、ニホンアカネに含まれる成分の方が強い活性を示すことが明らかになりました。
    本研究成果により、ニホンアカネは、現在普及している外来種のアカネよりも抗老化や抗アレルギーの分野において、より優れた機能性素材となる可能性が示唆されました。
    なお本研究には、ニホンアカネの栽培・普及啓発活動に取り組む近畿大学アカデミックシアタープロジェクト「日本茜魅力発見プロジェクト」も参画しており、研究と地域連携、次世代人材育成を一体的に推進しています。

    【論文掲載】
    掲載誌:Natural Products: Chemistry, Pharmacology and Nutrition
        (インパクトファクター:新刊雑誌のためなし)
    論文名:Anthraquinones with collagenase and hyaluronidase inhibitory activities
        obtained from Japanese Akane, the roots of Rubia argyi (H. Lev. & Vaniot) H. Hara
        (ニホンアカネから得られたアントラキノン類のコラゲナーゼおよび
         ヒアルロニダーゼ阻害活性)
    著者 :森川敏生1,2*、高田隆矢1(近畿大学大学院薬学研究科)、井上歩美1、森川実咲1
        西村晴1、萬瀬貴昭1、新居慶二3、杉本一郎3、角谷晃司1,2 *責任著者
    所属 :1 近畿大学薬学総合研究所、2 近畿大学アンチエイジングセンター、
        3 一般社団法人日本アカネ再生機構
    URL :https://www.npracademy.com/npcpn/articles?month=2026-06

    【本件の詳細】
    研究グループは、ニホンアカネエキスとその赤色色素成分であるプルプリンとムンジスチンが、コラゲナーゼやヒアルロニダーゼに対する阻害活性を示すことを明らかにしました。
    まず、ニホンアカネの80%含水アセトン抽出エキスの活性を分析したところ、コラゲナーゼ阻害活性(IC50※3 =236μg/mL)およびヒアルロニダーゼ阻害活性(IC50=69.4μg/mL)が認められました。活性を指標に含有成分を精査したところ、8種のアントラキノン化合物※4 を単離・同定し、そのうちコラゲナーゼ阻害活性成分としてプルプリン(IC50=56.0μM)を見出しました。一方、ヒアルロニダーゼ阻害活性成分としてはムンジスチン(IC50=147μM)を特定しました。さらに、これらの活性強度は、外来種であるセイヨウアカネやインドアカネに含まれる赤色色素のアリザリンよりも強いことが明らかとなりました。
    これらの結果から、ニホンアカネエキスとその赤色色素成分であるプルプリンとムンジスチンは、細胞外マトリックスであるコラーゲンやヒアルロン酸を分解する酵素を阻害することで皮膚の老化や炎症反応を抑制し、肌にやさしい効果をもたらすことが示唆されました。機能性染料(機能性色素)素材として、肌トラブル改善につながる詳細な作用機序の解明や、その臨床的意義を評価するためには、今後さらなる研究が必要です。

    【研究者のコメント】
    森川敏生(モリカワトシオ)
    所属  :近畿大学薬学総合研究所、近畿大学アンチエイジングセンター
    職位  :教授/センター長
    学位  :博士(薬学)
    コメント:本研究では、ニホンアカネに含まれる赤色色素成分「プルプリン」や「ムンジスチン」が、コラーゲンやヒアルロン酸の分解に関わる酵素を阻害することを明らかにしました。これは、我が国において古来より草木染めに使われる長い歴史を持つニホンアカネから肌にやさしい効果をもたらす可能性のある成分を同定したもので、今後は、機能性染料素材への応用や、肌トラブルの改善に役立つ機能性色素開発への展開をめざして研究をすすめたいと考えています。

    角谷晃司(カクタニコウジ)
    所属  :近畿大学薬学総合研究所、近畿大学アンチエイジングセンター
    職位  :教授/副センター長
    学位  :博士(農学)
    コメント:ニホンアカネの繁殖・普及活動を進める中で、その主要な赤色色素に新たな機能性が見出されたことは大変意義深い成果です。本研究成果は、ニホンアカネを草木染料としてだけでなく、機能性素材や化粧品原料などへ活用できる可能性を示しています。また、近畿大学アカデミックシアタープロジェクト「日本茜魅力発見プロジェクト」の学生とともに栽培・普及活動を行うことで、ニホンアカネの新たな価値を広く社会へ発信していきたいと考えています。

    【近畿大学アカデミックシアタープロジェクト「日本茜魅力発見プロジェクト」】
    近畿大学の学生が主体となって取り組み、新しい価値の創造に挑戦する「アカデミックシアタープロジェクト」の一つ。近畿大学生と一般社団法人日本アカネ再生機構が連携し、日本茜を追求・普及することによって、斬新な新商品の開発を目指すプロジェクト。
    https://act.kindai.ac.jp/projects/64b5ee7f8d14a6d29d3d18f8b884996d4df5ec08.html

    【用語解説】
    ※1 コラゲナーゼ:コラーゲンを分解する酵素。コラーゲンは皮膚や血管、骨などを構成する主要なタンパク質であり、コラゲナーゼ活性が高まると皮膚のハリや弾力の低下、しわの形成などに関与すると考えられている。
    ※2 ヒアルロニダーゼ:ヒアルロン酸を分解する酵素。ヒアルロン酸は皮膚や関節などに存在し、高い保水性を持つ成分。ヒアルロニダーゼは炎症やアレルギー反応にも関与することが知られており、その阻害は組織保護や抗炎症作用につながる可能性がある。
    ※3 IC50:Half maximal inhibitory concentration(50%阻害濃度)の略。酵素活性や生理活性を50%抑制するために必要な試験物質の濃度を示す指標であり、値が小さいほど強い活性を有することを意味する。
    ※4 アントラキノン化合物:アカネ科植物の根に豊富に含まれる天然色素の一群。植物が身を守るために作り出す成分の一つで、伝統的な染色技法「茜染め」の赤色の主成分。

    【関連リンク】
    薬学総合研究所 教授 森川敏生(モリカワトシオ)
    https://www.kindai.ac.jp/meikan/823-morikawa-toshio.html
    薬学総合研究所 教授 角谷晃司(カクタニコウジ)
    https://www.kindai.ac.jp/meikan/819-kakutani-kouji.html

    薬学総合研究所
    https://www.kindai.ac.jp/rd/research-center/prti/
    アンチエイジングセンター
    https://www.kindai.ac.jp/antiaging/
    アカデミックシアター
    https://act.kindai.ac.jp/

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