『豪雨災害の水文学』(著:谷誠)を重版 川の氾濫や土砂くずれの多発を受け、いま必要な最新科学を解説
山地斜面の雨水流出メカニズムと森林土壌の機能について常識を刷新する
株式会社 鹿島出版会は、水害・土砂災害の発生メカニズムに関する最新の科学成果を解説した谷 誠(たに・まこと)著『豪雨災害の水文学 流域治水に必要な流出モデルのパラダイムシフト』(2026年5月刊)を緊急重版します。

『豪雨災害の水文学』表紙
■本書における画期的なポイント
今年は、豪雨によって全国各地で川の氾濫や土砂くずれが起こり、甚大な被害が繰り返しもたらされました。温暖化によって豪雨規模が大きく、かつその発生頻度が高くなってきたことが誰にも実感されたところです。この気候変動を受け、さまざまな減災の工夫が求められますが、それには正しい科学知見に基づく必要があります。そこで降雨条件を予測する気象学に加え、水源山地に降った雨水がどのように流れ下って災害をもたらすのかを明らかにする「水文学」がますます重要になっています。
この社会的要請を受けて2026年5月に刊行された、谷 誠(京都大学名誉教授、水文・水資源学会元会長)著の『豪雨災害の水文学 流域治水に必要な流出モデルのパラダイムシフト』が10月に重版されました。
本書の最大のトピックは、「水源山地に激しい雨が降るとただちに川の氾濫や土砂崩れが起こるという現象を説明する雨水の流出メカニズム」について、図1のAに示す「雨水が斜面の地表面を一気に流れ下る、地表流のメカニズム」によるのではなく、図1のBに示す「土壌層の中に雨水が鉛直に浸みこんでからパイプ状の水みちを通って速やかに排水される、鉛直浸透流のメカニズム」によるとの知見を、現場観測と理論的解析の両面から世界で初めて明らかにしたことにあります。
ですから、雨水が地表を流れるのではなく土壌層を通過することになり、図2に示すように、大雨の場合であっても森林土壌が川のピーク流量を低くする「緑のダム」のはたらきは発揮され続けます。本書ではこの流出メカニズムを、図3に示す急斜面試験地における土壌層内の水移動観測で実証するとともに、その根拠を土壌物理学の理論によって詳しく説明しています。

図1 山腹斜面における豪雨時の流出メカニズムの概念図 A:これまでの常識、B:本書による説明

図2 降雨条件が同じで総流量も同じであっても、土壌の種類(左図に間隙サイズの分布の違いを示す)によって、流量の時間変化やピーク流量の高さが異なることを示すシミュレーション結果(右図)

図3 急斜面試験地における流出メカニズムの観測状況
著者のホームページには、次の3点についての解説がありますのでご覧ください。
・大雨時の川のピーク流量を低くする森林のはたらき: https://hakulan.com/wp/foresth/
・流域条件の洪水ピーク流量に及ぼす影響評価: https://hakulan.com/wp/hydro/
・土砂災害発生危険度を知らせる土壌雨量指数: https://hakulan.com/wp/sabo/
また、本書の新しい知見については、Wileyの国際科学雑誌「Hydrological Processes」にも概要が掲載されています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/hyp.70627
鹿島出版会のホームページ( https://kajima-publishing.co.jp/books/civil-engineering/okbeserb5/ )、Amazon( https://www.amazon.co.jp/dp/4306025284/ref=nosim?tag=hanmotocom-22 )に内容紹介がありますのでご参照ください。
■国の進める「流域治水」の基礎的な知見として
温暖化による海水面温度の上昇等によって大規模な豪雨が頻発するようになり、川の氾濫、内水浸水などによる水害、斜面崩壊などによる土砂災害が各地で起こっています。そのため、国(国土交通省)は、堤防・ダム・砂防ダム等のインフラを整備するだけでは十分ではなく、集水域から氾濫域にわたる流域のあらゆる利害関係者の協力を得なければならないとして、流域治水を推進しています( https://www.mlit.go.jp/river/kasen/suisin/index.html )。
そのためには基礎となる科学研究を推進する必要があり、線状降水帯の発生など降雨の予測に加えて、川の氾濫や斜面崩壊の発生メカニズムの解明が欠かせません。地殻変動帯にある日本では、水源山地の急斜面での雨水の流出メカニズムに関する研究がとくに重要です。また多くの方は、森林の保水機能や崩壊防止機能について、また、都市開発やメガソーラー開発などが災害を大きくする恐れについて、大いに関心を持っておられることでしょう。そこで、地質・地形・土壌・植生などの水源山地の流域条件が河川氾濫や土砂くずれに及ぼす影響を科学する水文学の研究が、災害対策において重要な社会的役割を持っています。
また豪雨災害を防ぐ治水対策の実用面においては、水文学の研究成果を応用し、降雨条件に対する川の流量の時間変化を計算する「流出モデル」が重要な役割を果たします。ですから、本書で解説されている「図1B」のような新しい知見をふまえなければならず、その副題にあるように、「流域治水に必要な流出モデルのパラダイムシフト」がまさに求められているのです。
■書籍情報
『豪雨災害の水文学 流域治水に必要な流出モデルのパラダイムシフト』
著者:谷 誠
価格:3,000円(+税10%)
ISBN:9784306025288
体裁:A5・272頁
【ご購入はこちらから】
https://kajima-publishing.co.jp/books/civil-engineering/okbeserb5/
■著者略歴
谷 誠(たに・まこと)
1950年 大阪市生まれ
1973年 京都大学農学部林学科卒業
1980年 京都大学農学研究科博士後期課程修了(京都大学農学博士)
1981年 農林水産省林野庁入省(砂防職)林業試験場関西支場防災研究室研究員
1988年 林業試験場防災部気象研究室長
同年 森林総合研究所森林環境部気象研究室長(改組による)
1999年 京都大学大学院農学研究科森林水文学分野教授
2016年 京都大学名誉教授
2016~2021年 人間環境大学特任教授
2012~14年 一般社団法人 水文・水資源学会会長
2014年 公益社団法人 日本地球惑星科学連合(JpGU)フェロー顕彰
2020年 水文・水資源学会功績賞受賞
2022年 日本農学賞・読売農学賞受賞
2024年 水文・水資源学会論文賞受賞
【著者出版物】
(単著)
2016年 水と土と森の科学、京都大学学術出版会
2023年 矛盾の水害対策、新泉社
2026年 豪雨災害の水文学、鹿島出版会
(共著)
1992年 塚本良則編:森林水文学、文永堂出版
2012年 柳澤雅之・河野泰之・甲山治・神崎護編:
地球圏・生命圏の潜在力、京都大学学術出版会
2013年 及川武久・山本晋編:
陸域生態系の炭素動態、京都大学学術出版会、
2014年 蔵治光一郎・保屋野初子編:緑のダムの科学、築地書館
2018年 中村太士・菊沢喜八郎編:森林と災害、共立出版



















