株式会社URリンケージ地域活力共創部

    宇宙産業の「心臓部」に変革を。 ロケットエンジンの再使用時代を切り拓く。

    大田区・六郷BASEに本社を置く株式会社SUIHO SPACE INNOVATIONSの代表取締役である柚沢誠氏に、低コストかつ高頻度な宇宙輸送を支える事業内容や、大田区に拠点を構えた理由を伺いました。

    宇宙ビジネスが急成長する中、その心臓部であるロケットエンジンの開発は、大きな変革期を迎えています。近年、米国ではロケットの打ち上げが年間200回程度に高頻度化し、数万機の小型衛星や探査機が宇宙空間で運用されるようになりました。打ち上げコストを抑えながら増え続ける需要に応えるため、ロケットやエンジンを繰り返し使用する「再使用」の技術が重要になっています。

    大田区・六郷BASEに本社を置く株式会社SUIHO SPACE INNOVATIONSは、再使用型ロケットエンジンの実現に向け、主要部品の研究開発・販売を手がける宇宙スタートアップです。区内のものづくり企業と連携しながら、低コストかつ高頻度な宇宙輸送を支える技術開発を進めています。代表取締役の柚沢 誠(ゆざわ まこと)氏に、事業内容や技術の特徴、大田区に拠点を構えた理由、今後の展望を伺いました。

    ■使い捨てから100回以上再使用へ。市場拡大を支えるエンジン制御に挑む

    まず、同社が開発に取り組む「再使用型ロケットエンジン」について伺いました。

    「従来のロケットエンジンは、ほぼ"使い捨て"を前提としており、極端に言えば『目的の高度に到達するまでの数分間、定格出力が出せれば良い』とする設計思想でした。自動車に例えるなら、アクセルをベタ踏みして、目的地に着いたらアクセルを戻しておしまい、というものです。従来は、限られた回数の打ち上げを前提とした国家主導の開発が中心で、こうしたエンジンが一般的でした。しかし近年は民間企業の参入が進み、ロケットの打ち上げ回数が急激に増加。多数の衛星が打ち上げられ、SpaceX社のStarlinkに代表される衛星通信網、気象予報等に活用される地球観測、宇宙体験のための有人宇宙飛行などのビジネスが拡大しています。さらに、宇宙空間へのデータセンター設置など、新たなビジネス構想も進んでおり、宇宙産業の市場規模は今後も拡大すると見込まれています」

    こうした市場の成長を持続させるには、打ち上げコストのさらなる低減と、高頻度運用を支える仕組みが欠かせません。使い捨て型のロケットやエンジンだけでは、製造能力やコストの面で打ち上げ頻度の向上に限界が生じます。各国の企業が機体やエンジンの再使用化を進め、打ち上げコストは大きく低下しましたが、今後の需要拡大に対応するためには、より高い運用性と経済性が求められています。

    「再使用型のロケットでは、上昇後にエンジンを停止し、着陸時に再点火して出力を高精度に調整するなど、状況に応じた制御が必要です。衛星に搭載するエンジンも、より細かな制御が可能になれば、衛星の機能を効率よく発揮でき、かつ寿命延長が期待できます。弊社が目指しているのは、まさにこうした課題を解決し、100〜200回の再使用を視野に入れたエンジンを開発することです。現在は開発支援事業や部品開発事業・提供を行っており、今後はお客様の要望に応じた超低価格で再使用可能なエンジンの提供を目指しています」

    自動車、航空機、宇宙へと広がるモビリティ産業。宇宙領域は今後最も有望な分野のひとつに(画像提供:SUIHO SPACE INNOVATIONS)
    自動車、航空機、宇宙へと広がるモビリティ産業。宇宙領域は今後最も有望な分野のひとつに(画像提供:SUIHO SPACE INNOVATIONS)
    SUIHO SPACE INNOVATIONSは、事業展開のロードマップを4段階で描いている。現在は「開発支援」を経て「部品提供」のフェーズに。今年中に顧客要件に合わせたベースエンジンのカスタマイズ提供へ移行。成熟後は「そのまま使える」標準化エンジンの一括提供を目指す(画像提供:SUIHO SPACE INNOVATIONS)
    SUIHO SPACE INNOVATIONSは、事業展開のロードマップを4段階で描いている。現在は「開発支援」を経て「部品提供」のフェーズに。今年中に顧客要件に合わせたベースエンジンのカスタマイズ提供へ移行。成熟後は「そのまま使える」標準化エンジンの一括提供を目指す(画像提供:SUIHO SPACE INNOVATIONS)

    ■次世代モビリティの進化を志し、社内起業を経て独立創業

    レーシングカーのエンジン設計・試験、自動車やバイク、ジェット機の部品開発、レベル3の自動運転技術開発など、「移動の利便性向上」を一貫したテーマにキャリアを重ねてきた柚沢氏。宇宙産業への参入は、2021年頃、前職の社内起業制度を活用し、ロケットの再使用時代を見据えた要素技術開発を企画したことがきっかけでした。その後、複数のロケット事業者と連携することで開発を加速させるため独立し、2024年11月にSUIHO SPACE INNOVATIONSを創業。翌月には六郷BASEに入居しました。

    「創業地として大田区を選んだ一番の理由は、区内に日本でも屈指の技術力、経験値を備える製造業の工場が集積しているためです。私はこれまで、日本各地の優れたものづくり企業と仕事をしてきましたが、スピードが求められるスタートアップにとって、必要なときにすぐに駆け付けられる距離感の近さや、短納期の試作・追加工にも柔軟に対応していただけることは、かけがえのない魅力です。急な設計変更や追加工が生じたとき、その日のうちに相談し、試作や修正に着手できる場合もあります。大田区の製造事業者の技術力と対応力は、本当に頼もしい存在です」

    2026年5月25日〜6月5日、室蘭工業大学航空宇宙機システム研究センターの協力のもと、北海道白老町の実験場で、10トンクラスのロケットエンジン向け主要コンポーネントの燃焼試験を100回以上実施。運用性・信頼性や、将来のエンジンシステムへの適用に関する重要な知見を得た(画像提供:SUIHO SPACE INNOVATIONS)
    2026年5月25日〜6月5日、室蘭工業大学航空宇宙機システム研究センターの協力のもと、北海道白老町の実験場で、10トンクラスのロケットエンジン向け主要コンポーネントの燃焼試験を100回以上実施。運用性・信頼性や、将来のエンジンシステムへの適用に関する重要な知見を得た(画像提供:SUIHO SPACE INNOVATIONS)

    大田区内で宇宙産業に直接関わる製造事業者はまだ一部ですが、長年培われてきた基盤技術を宇宙分野に展開できる可能性は大きいと、柚沢氏は話します。

    「現在、弊社が連携している区内の製造事業者は5〜10社ほどですが、大田区には約3,500の製造事業所があると聞いています。企業同士の横のつながりも強く、今後、非常に重要な開発パートナーがさらに増えることを期待しています。弊社の部品製作に必要な基盤技術の多くは、区内企業が既に持つ技術を応用できると考えています。比較的短期間かつ適正なコストで、年間100個程度の少量生産にも高精度で対応していただけることは、大きな強みです」

    ■ハードウェア開発の理想郷。アクセスの良さと手厚いサポートも魅力に

     柚沢氏は、大田区内の開発パートナーについて、大田区、(公財)大田区産業振興協会、六郷BASEの支援を通じて紹介を受けたと話します。

    「『このような目的で、こんな部品を作りたい』と相談すると、複数の候補企業をご紹介いただきました。大田区、(公財)大田区産業振興協会、六郷BASEは、区内の製造事業者と深く連携しており、必要な技術を持つ企業とつないでいただけることが大きな助けになっています。宇宙産業は、世界的に成長が期待される市場です。宇宙分野のものづくりに関心のある区内企業の皆さんと、将来を見据えたコミュニケーションを深め、共に新しい技術や事業をつくっていきたいですね」

     また、六郷BASEでは、資金調達・資金繰りに関する助言や金融機関とのマッチングなど、経営面の支援も受けています。

    「宇宙産業に参入した当初は社内起業だったため、経営実務に携わる機会が限られていました。こうした支援は非常に勉強になります。また、六郷BASEを通じて区内の操業場所も紹介していただきました。特に『工場アパート』の紹介は、弊社にとって大きな助けになりました」

    大田区の「工場アパート」は、一つの建物に複数の町工場や研究開発型スタートアップなどが入居する、賃貸型の産業支援施設。研究開発や試作に適した設備・環境に加え、入居企業同士の交流や共創が生まれやすいことも大きな特長です。

    弊社は現在、桂川精螺製作所さんが自社研究棟に併設する工場アパートに入居しています。研究開発や製作に集中しやすいだけでなく、桂川精螺製作所さんとの協業も進んでいます。施設内には、区内のほかの宇宙関連スタートアップも入居しており、日常的に情報交換できることもメリットです」

    大田区への立地を検討する宇宙・ロボティクス分野のスタートアップにとって、区内にものづくり企業が集積する環境は、開発スピードと品質を高めるのに最適です。また、現場の開発エンジニアにとっても、設計・製造・試験を素早く幅広く経験できる環境だと柚沢氏は話します。

    自社開発・販売するロケットエンジン用部品。左はエンジン推力を調整する「推力調整バルブ」。右はターボポンプを回すガスを発生する燃焼器「ガス発生器」(3Dプリンタで製造)。(画像提供:SUIHO SPACE INNOVATIONS)
    自社開発・販売するロケットエンジン用部品。左はエンジン推力を調整する「推力調整バルブ」。右はターボポンプを回すガスを発生する燃焼器「ガス発生器」(3Dプリンタで製造)。(画像提供:SUIHO SPACE INNOVATIONS)

    「高度な技術を持つ製造事業者との距離の近さ、行政による企業マッチングや経営面の助言、資金調達に関する相談体制。さらに、23区内としては比較的手ごろな賃料、羽田空港や新幹線駅、宇宙関連企業が集まる日本橋へのアクセスの良さもあります。ハードウェア開発を行うスタートアップにとって、大田区は創業・成長の拠点として非常に魅力的な場所だと思います」

    ■企業概要

    会  社:株式会社SUIHO SPACE INNOVATIONS
    住  所:東京都大田区南六郷3-10-16/桂川オフィス:東京都大田区矢口3丁目24-1
    代  表:代表取締役 柚沢 誠
    設  立:2024年(令和6年)11月22日
    事業内容:ロケット・衛星用部品に関する研究開発、製造、販売/ロケット・衛星用部品に関する技術支援、開発環境の提供/宇宙産業の発展および技術展開への貢献
    H  P:https://www.suiho-space.co.jp/

    ■URリンケージの取組みについて

    株式会社URリンケージは、まちづくり・すまいづくりの総合支援会社です。地域活力共創部では、地域の方々との共創のもと、持続可能な地域の活性化・賑わいづくり・生業づくりに取組んでいます。大田区から「宇宙産業関連スタートアップ立地促進事業業務委託」の受託を受け、企業集積の維持・発展に資する効果的な立地促進事業を行っております。この事業をきっかけに、区内産業と宇宙事業が大田区から大きく飛躍し、より多くの事業者の皆様の認知に繋がれるよう努めて参ります。

    ▼宇宙産業スタートアップ支援サイト「大田区から宇宙をめざせ!」
    https://www.ilsc.metro.tokyo.lg.jp/unv/index.html

    【本件に関するお問い合わせ】
    担当:鈴木
    TEL:080-2304-0418
    メールアドレス:suzuki-aki@urlk.co.jp

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