希少難病「進行性家族性肝内胆汁うっ滞症1型および2型」に対するフェニル酪酸ナトリウム製剤の適応追加が承認 ――基礎研究から希少疾患治療の社会実装へ――

    調査・報告
    2026年9月2日 14:00

    【発表のポイント】
    ●指定難病である進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)に対する治療薬候補として、基礎研究によりフェニル酪酸ナトリウム(NaPB)を見いだしました。多施設で実施した医師主導治験で有効性と安全性を評価し、その成果に基づき、フェニル酪酸ナトリウム製剤(販売名:ブフェニール®)の効能又は効果にPFIC1およびPFIC2が追加されました。
    ●尿素サイクル異常症治療薬の有効成分であるNaPBについて、これまで知られていなかった薬理作用を明らかにしました。NaPBは、胆汁酸を胆汁中へ排出するタンパク質「BSEP」を肝細胞の胆汁側の表面に増やし、胆汁酸排泄を促進します。この新たな分子機序に基づく胆汁酸分泌促進作用をPFICの治療に結び付け、病気が起きる仕組みに基づく治療として実用化した点が、本成果の新規性です。
    ●PFICでは、これまで治療の選択肢が限られ、肝障害の進行に伴い、肝移植が必要とされてきました。本承認により、PFIC1およびPFIC2に対して、病気が起きる仕組みに基づく薬物治療が、初めて選択肢として加わります。症状や肝臓の状態、生活の質の改善に貢献することが期待されます。

    【概要】
    東京大学大学院薬学系研究科の林久允准教授と、近畿大学奈良病院小児科の近藤宏樹教授、大阪大学大学院医学系研究科 情報統合医学講座 小児科学の別所一彦招へい教授、木村武司講師、長谷川泰浩特任助教(研究当時)、順天堂大学医学部附属順天堂医院小児科・思春期科の鈴木光幸准教授(研究当時、現:順天堂大学医学部附属静岡病院小児科教授)、中野聡助教、箕輪圭助教(研究当時)、宮城県立こども病院の虻川大樹院長らによる研究グループは、指定難病である進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)(注1)の新たな治療薬開発に取り組んできました。PFICは、主に乳幼児期に胆汁分泌障害によって発症し、進行に伴い重篤な肝障害を来す難病です。これまで根本的な内科的治療法は確立されておらず、肝移植が必要とされてきました。
    林准教授らは、フェニル酪酸ナトリウム(NaPB)(注2)に、胆汁酸を胆汁中へ排出するタンパク質「BSEP」(注3)を肝細胞の胆汁側の表面に増やし、胆汁酸排泄を促進するという、これまでに知られていなかった薬理作用があることを発見しました。この発見を起点として、本研究グループは、NaPBを有効成分とするフェニル酪酸ナトリウム製剤(販売名:ブフェニール®)をPFIC治療薬として実用化するため、臨床開発を進めました。患者を対象とした臨床研究および多施設共同の医師主導治験を実施し、本剤の有効性と安全性を評価しました。
    これらの成果に基づき、株式会社オーファンパシフィック(本社:東京都港区、代表取締役社長:原愛)が本剤の製造販売承認事項一部変更承認を取得し、本剤の効能又は効果にPFIC1およびPFIC2が追加されました。本承認により、両病型に対して、初めて病気が起きる仕組みに基づく薬物治療が臨床現場で使用可能となり、患者の治療選択肢が大きく広がることが期待されます。

    【発表内容】
    <PFICの病態解明から臨床開発へ>
    進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)は、主に乳幼児期に発症し、胆汁分泌障害によって進行性の肝障害を来す遺伝性の難病です。肝臓から腸への胆汁の流れが障害されることにより、黄疸や強いかゆみ、肝機能障害が生じ、病状が進行すると肝硬変や肝不全に至ります。複数の原因遺伝子が知られており、日本では難病法に基づく指定難病(指定難病338)に定められています。これまでPFICに対する内科的治療は対症療法が中心であり、肝障害の進行に伴い、肝移植が必要とされてきました。しかし、肝移植は患者や家族に大きな負担を伴い、ドナーの確保や移植後の長期的な管理などの課題もあることから、病気が起きる仕組みに基づく新たな薬物治療の確立が求められていました。
    こうした背景のもと、林准教授らは、PFICの病態解明に取り組み、肝細胞から胆汁中への胆汁酸排泄機能の低下が、病態の形成や進行に重要な役割を果たすことを明らかにしてきました。さらに、これらの知見に基づく創薬研究を進めた結果、尿素サイクル異常症治療薬の有効成分であるフェニル酪酸ナトリウム(NaPB)に、胆汁酸を排出するタンパク質「BSEP」を肝細胞の胆汁側の表面に増やし、胆汁酸排泄を促進するという、これまで知られていなかった薬理作用があることを発見しました。この発見をもとに、NaPBを有効成分とするフェニル酪酸ナトリウム製剤(販売名:ブフェニール®)をPFICの治療薬として開発するため、順天堂大学の鈴木准教授(研究当時)、箕輪助教(研究当時)、中野助教らと共同で、PFIC患者を対象とした臨床研究を実施しました。これにより、本剤の有効性と安全性に加え、適切な用法・用量や、治療効果を客観的に評価するための指標に関する知見を得ました。

    <医師主導治験の実施>
    これらの成果をもとに、林准教授らは、本剤の効能又は効果にPFICを追加することを目指した医師主導治験(注4)を企画し、関係機関と連携して多施設での実施体制を構築しました。治験の実施にあたっては、近畿大学の近藤宏樹教授を委員長とし、大阪大学の別所一彦招へい教授、木村武司講師を治験調整医師とする治験調整委員会を組織しました。また、大阪大学医学部附属病院未来医療開発部が治験調整事務局を担い、治験の準備、治験全体の進行管理および実務運営を担当しました。治験の企画・準備・実施にあたっては、国立成育医療研究センター開発企画部の中村秀文開発企画主幹から助言・支援を受けました。本治験は、大阪大学医学部附属病院では長谷川泰浩特任助教(研究当時)、別所招へい教授、木村講師が、順天堂大学医学部附属順天堂医院では箕輪助教(研究当時)、鈴木准教授(研究当時)、中野助教が、それぞれの担当期間に治験責任医師を務めました。また宮城県立こども病院では虻川院長、久留米大学病院では水落建輝主任教授、鳥取大学医学部附属病院では村上潤講師が治験責任医師を務めました。

    <PFIC1およびPFIC2への適応追加承認>
    林准教授らによる基礎研究、臨床研究および医師主導治験を通じて得られた一連の成果に基づき、株式会社オーファンパシフィックは、本剤の効能又は効果にPFICを追加するため、厚生労働省に製造販売承認事項一部変更承認申請(注5)を行いました。審査を経て、このたび、本剤の効能又は効果にPFIC1およびPFIC2が追加されました。本承認により、両病型に対して初めて病気が起きる仕組みに基づく薬物治療が臨床現場で使用可能となり、患者の治療選択肢が大きく広がることが期待されます。

    <治療薬開発から次の創薬へ――CIRCLeの構築>
    本剤の開発を通じて、PFICをはじめとする小児肝疾患では、患者数が少なく各地に分散しているため、患者の情報、病気の経過(自然歴)、血液・組織などの試料を十分に集積できず、病気の仕組みを明らかにして新たな治療法を見つけるための研究を進めること自体が難しいという課題が明らかになりました。また、対象となる患者数や病気の経過が分からなければ、治験の実施可能性を判断し、適切な治験計画を立てることも困難です。このような疾患に関する情報の不足は、希少疾患の創薬・臨床開発を進める上で大きな障壁となります。
    林准教授らは、今回の開発経験を次の診断法・治療法の開発に生かすため、患者を継続的に登録・追跡しながら、病気の経過や診療情報、血液・組織などの試料を長期にわたって蓄積し、創薬から臨床開発、承認後の調査まで一貫して活用できる基盤として、小児肝疾患を対象とする患者登録研究CIRCLe(https://www.circle-registry.org/)(注6)を立ち上げました。現在、CIRCLeは一般社団法人Delta Compassが運営主体となり、国内外の医療機関と連携しながら、診断支援から臨床研究、治験、製造販売後調査までを一体的に支援する基盤へと発展しています。大学の研究者による研究に加え、製薬企業による小児肝疾患の創薬・臨床開発から承認後の調査までにも実際に活用されています。
    本成果は、一つの治療薬の実用化にとどまらず、その開発過程で直面した希少疾患創薬の課題をCIRCLeの構築につなげ、次の診断法・治療法の開発を継続的に支える仕組みへと発展させた点にも大きな意義があります。

    CIRCLe公式ウェブサイト
    https://www.circle-registry.org/

    【関連情報】
    「プレスリリース①希少難治性小児肝疾患の薬物治療の確立に光明」(2014/2/14)
    https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/p01_260214.html

    「プレスリリース②大学発の創薬研究による難病の医薬品開発へ」(2017/2/1)
    https://www.kindai.ac.jp/news-pr/news-release/2017/02/008136.html

    【発表者・研究者等情報】
    <東京大学>
     大学院薬学系研究科
      林久允 准教授
      兼:一般社団法人Delta Compass 代表理事

    <株式会社オーファンパシフィック>
      原愛(代表取締役社長)

    <近畿大学>
     奈良病院 小児科
      近藤宏樹 教授

    <大阪大学>
     大学院医学系研究科 情報統合医学講座 小児科学
      別所一彦 招へい教授
      木村武司 講師
      長谷川泰浩 特任助教(研究当時)
     医学部附属病院 未来医療開発部 未来医療センター
      山岸義晃 特任准教授(常勤)

    <順天堂大学>
     医学部附属静岡病院 小児科
      鈴木光幸 教授
     医学部附属順天堂医院 小児科・思春期科
      中野聡 助教
      箕輪圭 非常勤助教

    <宮城県立こども病院>
      虻川大樹 院長

    【研究助成】
    本研究は、AMED難治性疾患実用化研究事業「進行性家族性肝内胆汁うっ滞症2型に対する世界初・日本発の内科的治療法の確立に向けたブフェニールの医薬品開発研究(課題番号:JP20ek0109298)」、AMED創薬基盤研究推進事業「ドラッグ・リポジショニングによる難治性小児肝内胆汁鬱滞症の特効薬開発を指向したフェニル酪酸ナトリウムの有効性と安全性の検討を目的とした臨床研究(課題番号:JP17ak0101036)」、公益財団法人アステラス病態代謝研究会、公益財団法人中冨健康科学振興財団、公益社団法人日本医師会治験促進センターの支援により実施されました。

    【用語解説】
    (注1)進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)
    主に乳幼児期に発症する遺伝性の難治性肝疾患です。遺伝子の異常によって肝細胞から胆汁を排泄する仕組みが障害され、黄疸や強いかゆみ、肝機能障害などが生じます。病状が進行すると肝硬変や肝不全に至ることがあり、重症例では肝移植が必要となります。日本では、難病法に基づく指定難病338に定められています。
    (注2)フェニル酪酸ナトリウム(NaPB、販売名:ブフェニール®)
    NaPBを有効成分とする製剤は、尿素サイクル異常症の治療薬として承認されています。国内では「ブフェニール®錠500mg」および「ブフェニール®顆粒94%」の販売名で、株式会社オーファンパシフィックから販売されています。体内に蓄積する窒素を尿中へ排泄する別の経路をつくることで、血中アンモニアの上昇を抑えます。本研究では、NaPBが肝細胞の胆汁側の表面に存在するBSEPの量を増やし、胆汁酸排泄を促進するという、これまで知られていなかった薬理作用を明らかにしました。さらに、この知見をPFIC1およびPFIC2の治療薬開発へとつなげました。
    (注3)BSEP
    BSEP(bile salt export pump)は、肝細胞の毛細胆管膜(胆汁側の表面)に存在し、胆汁酸を胆汁中へ排出するタンパク質です。胆汁酸は脂肪の消化・吸収を助ける胆汁の主要な成分ですが、肝臓に過剰に蓄積すると肝障害を引き起こします。PFICでは、BSEPの量や機能の低下が胆汁酸排泄障害に関与します。
    (注4)医師主導治験
    製薬企業が主体となる企業治験に対し、医師が自ら治験を企画し、治験届を提出して実施する治験です。医薬品の承認申請に必要な有効性や安全性のデータを収集するもので、希少疾患など、医療上の必要性が高い領域における治療薬開発にも活用されています。
    (注5)製造販売承認事項一部変更承認申請
    既に承認されている医薬品について、新たな効能又は効果、用法・用量などを追加または変更するために行う申請です。今回のフェニル酪酸ナトリウム製剤では、既承認の「尿素サイクル異常症」に加え、新たにPFIC1およびPFIC2が承認対象となりました。
    (注6)CIRCLe(https://www.circle-registry.org/
    小児肝疾患を対象とする多施設共同の患者登録研究です。国内外の医療機関と連携して、診断支援、診療情報や患者由来試料の収集・活用を進め、病態解明や新たな診断法・治療法の開発に取り組んでいます。また、適切な手続きのもと、研究機関だけでなく製薬企業による医薬品開発、治験、承認後の安全性や有効性を確認する製造販売後調査にも活用されており、小児肝疾患領域における産学連携の創薬支援基盤として機能しています。

    【株式会社オーファンパシフィックについて】
    株式会社オーファンパシフィックは、シミックグループの一員として希少疾病領域の医薬品の開発、製造および販売を行う製薬企業です。同社は、希少疾病を対象とした治療薬の研究開発および患者への提供に取り組んでいます。
    https://www.orphanpacific.com/

    【関連リンク】
    医学部 近畿大学奈良病院 教授 近藤宏樹(コンドウヒロキ)
    https://www.kindai.ac.jp/meikan/1399-kondou-hiroki.html

    近畿大学奈良病院
    https://www.med.kindai.ac.jp/nara/

    カテゴリ

    調査

    シェア
    FacebookTwitterLine

    配信企業へのお問い合わせ

    取材依頼・商品に対するお問い合わせに関しては、プレスリリース内に記載されている企業・団体に直接ご連絡ください。

    Loading...
    希少難病「進行性家族性肝内胆汁うっ滞症1型および2型」に対するフェニル酪酸ナトリウム製剤の適応追加が承認 ――基礎研究から希少疾患治療の社会実装へ―― | 学校法人近畿大学