芝浦工大が不可視光を可視化する有機結晶材料を開発

    紫外光と近赤外光に応答する二重の光特性を実証

    その他
    2026年1月26日 11:00

    人の目には見えない紫外光や近赤外光を、“色”として可視化できる新しい有機結晶材料を、芝浦工業大学(東京都江東区/学長 山田 純)工学部・堀顕子教授(分子集合学研究室)らの研究チームが早稲田大学、東京科学大学と共同し開発しました。

    本材料は、紫外光と近赤外光という異なる不可視光に応答し、単一の結晶で発色が切り替わるという二重の光特性を示す点が特長です。


    紫外光や近赤外光は、光通信、光計測、光加工、医療・分析分野などで広く利用されている一方、可視光とは異なり、直接目で確認することができません。そのため、不可視光を効率よく可視化したり、別の波長の光へ変換したりする材料は、基礎研究だけでなく産業分野においても重要な役割を担っています。


    今回研究チームが開発した有機結晶材料は、単一の結晶でありながら、励起する光の種類によって異なる発光挙動を示す点が特徴です。紫外光(365 nm)照射下では赤色発光(約613 nm)を示し、近赤外光(1050 nm)照射下では第二高調波発生により緑色光(525 nm)が観測されました。このような二重の光応答特性を一つの有機結晶で実現することに成功しました。


    ※本研究成果は英国王立化学会誌「Chemical Communications」のオンライン版に掲載されています。


    ■ポイント

    ・1,2,5-チアジアゾール誘導体結晶において二重の光応答を実証

    ・紫外光照射下で赤色発光を示す大きなストークスシフト型発光が発生

    ・近赤外光照射下で第二高調波発生によりアップコンバージョン型緑色光を発生

    ・単一結晶による不可視光の可視化を実現


    図. 1,2,5-チアジアゾール誘導体の結晶形成と二重発光特性

    図. 1,2,5-チアジアゾール誘導体の結晶形成と二重発光特性


    ■研究の背景

    不可視光である紫外光(<400 nm)や近赤外光(>800 nm)は、エネルギー源や情報媒体として重要である一方、その存在や挙動を人が直接把握することはできません。そのため、不可視光を可視光へと変換する材料の開発は、光計測やエネルギー利用の分野で長年の課題となってきました。無機材料では低エネルギー光を高エネルギー光に変換するアップコンバージョンや非線形光学現象を利用した光変換が研究されていますが、有機材料において同様の機能を安定に実現することは容易ではありません。有機分子は設計自由度が高い反面、分子運動や熱振動によるエネルギー損失が大きく、固体状態での発光や非線形光学応答が弱くなりやすいという課題があります。このため、分子構造の剛直化や結晶中での分子配列制御を通じて、不可視光に応答する新しい光機能を引き出す研究が求められていました。



    ■研究の概要

    研究チームは、1,2,5-チアジアゾールを導入したピラジン誘導体を合成し、その単結晶の構造と光応答特性を詳細に調べました。その結果、この結晶は紫外光照射下で分子間相互作用(エキシマー形成)に由来する赤色発光を示し、吸収光と発光光の波長差が200 nmを超える非常に大きなストークスシフトを示すことが分かりました。

    さらに、同じ結晶に近赤外光を照射すると、結晶の非中心対称構造に起因する第二高調波発生が起こり、近赤外光が可視光である緑色光へと変換されることが確認されました。

    本研究の新規性は、単一の有機結晶において、紫外光に対する長波長可視発光と、近赤外光に対するアップコンバージョン型(第二高調波発生による)の短波長光変換という、異なる物理機構に基づく二つの光応答を同時に実現した点にあります。これは、有機分子の設計と結晶構造制御によって、光応答を切り替えるという新しい材料設計の考え方を示しており、本研究成果はChemical Communications誌の表紙にも選出されています。



    ■今後の展望

    光波長を大幅に長波長領域に変換する蛍光・燐光やアップコンバージョンを生じる第二高調波のように、励起条件に応じて発光色を自在に制御できる材料は、エネルギー利用、光デバイス、光センシングなどの分野で強く求められています。特に、低エネルギーの近赤外光を可視光として取り出す技術は、エネルギー変換効率の向上や新しい光機能デバイスの実現につながります。本研究で示した分子設計と結晶構造制御の考え方は、今後、発光色や光応答の波長を自在に調整できる有機材料の開発につながる可能性があります。不可視光を有効に利用するための基礎的指針として、工業材料への応用展開が期待されます。



    ■研究助成

    本研究は、JSPS科研費23K21122の助成を受けたものです。また本研究は芝浦工業大学が支援するS-SPIREプログラムにも選ばれています。



    ■論文情報

    著者 : 芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士課程 中村 凌

         芝浦工業大学工学部       学士課程 澤村 裕太

         芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士課程 中田 和志

         早稲田大学先進理工学部     修士課程 溝口 隆介

         早稲田大学先進理工学部      准教授 石井 あゆみ

         東京科学大学物質理工学院    学士課程 山下 智大

         東京科学大学物質理工学院      教授 横田 紘子

         芝浦工業大学大学院理工学研究科  准教授 ゲーリー ジェームズ

                              リチャーズ

         芝浦工業大学大学院理工学研究科   教授 堀 顕子

    論文名: Red-fluorescence under UV and green-SHG under NIR dual-mode

         emission in a yellow crystal of a 1,2,5-thiadiazole derivative

    掲載誌: Chemical Communications

    DOI  : 10.1039/d5cc05735c



    ■芝浦工業大学とは

    工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科

    https://www.shibaura-it.ac.jp/

    理工系大学として日本屈指の学生海外派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の大学です。東京都(豊洲)と埼玉県(大宮)に2つのキャンパス、4学部1研究科を有し、約10,000人の学生と約300人の専任教員が所属。2024年には工学部が学科制から課程制に移行。2025年にデザイン工学部、2026年にはシステム理工学部で教育体制を再編し、新しい理工学教育のあり方を追求していきます。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。

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