“隠れ医師不足”は指定区域の外にも。医師601人調査で見えた地域医療のひずみ

    「医師1人で入院患者100人」「紹介先が見つからない」「病院周辺から離れられない」 ーー経済的インセンティブ支持66%も、地方勤務意向は14%にとどまる

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    2025年12月23日 11:00

    高齢化と人口減少が進むなか、地域医療の「持続可能性」が各地で揺らいでいます。

    日本最大級の医療機関検索サイト「病院なび」を運営する株式会社eヘルスケア(東京都千代田区、代表取締役社長:尾関賢二)は、Doctors Square登録医師601名を対象に「医師偏在と対策に関する調査」を実施しました。

    調査の結果、公的に定められた「医師少数区域」該当者が23%にとどまる一方で、「医師が少ない」と感じている医師は33%。そのうち約半数は、指定区域外で勤務しており、制度上の指定では見えない“隠れ医師不足”が広がっている実態が明らかになりました。

    【本調査の3つのポイント】

    1. 医師不足の実感は指定区域の外にも拡大

    • 「医師が少ない地域で働いている」と感じる医師:33%
      → 約半数は指定外地域で、医師不足感を抱えながら勤務
    • 実際に都道府県指定の「医師少数区域」に該当:23%


    2. 「お金だけでは動かない」地方勤務——希望する医師は14%

    • 医師偏在是正の重要な取り組み「経済的インセンティブ」:66%が支持
    • それでも「医師少数区域で勤務したい」医師は14%にとどまり、6割超が「勤務したくない」と回答


    3. ICTへの期待は“現場ほど慎重”

    • ICT(オンライン診療・遠隔医療支援など)が偏在是正に「つながると思う」:5〜6割
    • しかし、実際に医師少数区域で働く医師ほど「ICTだけでは解決しない」と冷静な評価

    (1)医師不足を感じている医師たちの声——「医師1人で100人」「紹介先が見つからない」

    「医師が少ない地域で働いている」と感じている医師からは、次のような切迫した声が寄せられました。

    • 「医師1人で100人入院している病院の平日勤務をすることがある」(徳島県・精神科)
    • 「専門医のいない中での対応に迫られる」(長崎県・皮膚科)
    • 「信頼できる紹介先がなかなか見つからない」(茨城県・内科ほか多数)
    • 「救急患者、とくに心肺停止患者が同時に搬送される事態となると心苦しいが断らざるを得ない」(長野県・麻酔科)
    • 「病院周辺から離れられない」(長崎県・産婦人科)
    • 「休みがとれない」(山口県・小児科)
    • 「看護師が退職したあと補充ができなかった」(島根県・内科)

    (2)「指定エリアの外」に広がる医師不足の実感

    調査では、「医師が少ない地域で働いている」と感じている医師のうち、実際に都道府県指定の「医師少数区域」に該当したのは53%にとどまりました。裏を返すと、残り47%は指定外地域で勤務しながら、医師不足を実感していることになります。(図1)

    中規模以上の病院勤務医に限ると、

    • 自身を少数区域勤務と認識:39%
    • 実際の指定区域勤務:24%

    と、認識と指定のギャップはさらに大きくなります。

    図1.医師少数区域での勤務の認識と実態
    図1.医師少数区域での勤務の認識と実態

    自由回答からは、次のような構造的な要因が見えてきました。

    • 救急医療体制の維持困難
      • 「救急搬送患者の対応が困難」
      • 「救急医療が崩壊しかけている」
    • 医師個人への負担集中
      • 「当直の多さ」「休暇取得が困難」「学会に行きづらい」
    • 地域医療連携の課題
      • 「信頼できる紹介先がなかなか見つからない」
      • 「基幹病院が遠く紹介しにくい」
      • 「専門外の患者を紹介する際、受け入れ先を見つけるのが大変」
    • 診療科の偏在・スタッフ不足
      • 「自分の専門外の診療もしなければならない」
      • 「マイナー診療科は夜間や休日に医師がいない」
      • 「看護師や事務員も不足し、退職後の補充ができない」


    公的な「医師少数区域」の内外を問わず、より広い範囲で医療提供体制に歪みが生じていることが分かります。

    (3)経済的インセンティブは“必要条件”——それでも地方勤務は14%止まり

    医師偏在是正のために重要だと思う取り組み(複数回答)では、「経済的インセンティブ」が66%で最多となりました。中規模以上の病院勤務医に限ると、その割合は71%に高まります。(図2)

    図2.医師偏在是正のために重要だと思う取り組み(複数回答)
    図2.医師偏在是正のために重要だと思う取り組み(複数回答)

    自由回答からも、経済的支援への強い期待がうかがえます。

    • 「インセンティブがなければ人は都会に集まるのは当然」(新潟県・外科)
    • 「診療報酬を地域によって変える必要がある」(埼玉県・消化器内科)
    • 「給料数倍&期間限定ならとも思うが、税金もその分取られるので控除も必要」(北海道・循環器内科)


    一方で、現在医師少数区域で勤務していない医師のうち、今後「勤務したい」と答えたのは14%にとどまり、6割超が「勤務したくない」と回答しています。(図3)
    勤務条件として挙がったのは、経済面にとどまりません。

    • 勤務条件の改善(勤務時間・日数):52%
    • 住居等の待遇改善:36%
    • 当直回数の上限設定:34%
    • 生活利便性(交通・商業施設等):33%


    報酬・勤務環境・生活環境をセットで改善しなければ、医師の地方勤務は進みにくいという現実が浮かび上がりました。

    図3.医師少数区域での勤務意向、条件(条件は複数回答)
    図3.医師少数区域での勤務意向、条件(条件は複数回答)

    (4)ICTへの期待と限界——「技術だけでは解決しない」

    オンライン診療や遠隔医療支援など、医療ICTが医師偏在是正につながるかを尋ねたところ、回答者全体では5〜6割が肯定的な回答をしました。しかし、実際に医師少数区域と考える地域で働く医師ほど、ICTへの期待はやや控えめという結果になりました。(図4)

    図4.医療ICTへの期待
    図4.医療ICTへの期待

    現場を知る医師ほど、

    • 「ICTは必要だが、人的リソース不足までは埋めきれない」
    • 「救急や当直負担は、結局リアルな医師がいなければ回らない」

    といった、**“冷静な期待値”**を持っていることがうかがえます。

    (5)医師たちが語る「構造的な課題」

    自由回答では、医師偏在を生む“構造”への指摘も多く寄せられました。

    • 人口動態と医療体制の見直しについて
      • 「人口減の問題・人口偏在が問題」(神奈川県・循環器内科)
      • 「限界集落の集約化等が必要。オラが村、街に医療機関を作れと我儘を言わない」(愛媛県・内科)
      • 「医療機関の統合など集約化が重要では」(神奈川県・泌尿器科)
    • 診療科による偏在の問題
      • 「診療科偏在も問題」(大分県・消化器外科)
      • 「一般外科や産婦人科志望医師減少への有効な歯止めがあれば、若手の成長志向を後押しする流れに繋がるのではないか」(福島県・健診担当)
      • 「内科医の不足、外科医の育成が重要です。医学部の定員を増やしても対策にはならない」(東京都・内科)
    • 医師派遣の仕組みについて
      • 「以前の医局のような制度がないと困難」(茨城県・整形外科)
      • 「大学がコントロールしてた昭和の時代へ戻すこと」(秋田県・糖尿病内科)
      • 「各地大学医局の医師派遣体制を壊し、医師の大都市集中を促した新臨床研修制度の廃止が最も有用と考える」(栃木県・糖尿病内科)

    地域医療の課題は、「どこに医師を増やすか」だけでなく、人口配置・医療機関の集約・派遣スキームといった“設計そのもの”の問題でもあることが示唆されました。


    eヘルスケアの考え方と取り組み——医療情報の流通を軸に、ICTとAIで「現場の負担」を減らす

    今回の調査が浮かび上がらせたのは、「認識と指定のズレ」と「負担と生活の現実」です。これらの解決に向けては、

    • 報酬、当直負担、人員体制の見直し
    • 地域医療連携ネットワークや遠隔支援の実装
    • オンライン診療・AIなどのテクノロジー活用


    これらを“バラバラにではなく、現場にとって意味のある組み合わせで実装すること”が不可欠だと、当社は考えています。
    株式会社eヘルスケアは、次の3つのアプローチで地域医療の課題解決に貢献していきます。

    1. 医療機関向けWeb構築・情報発信支援
      • 病院・クリニックのホームページ制作・運用支援を通じて、地域の医療情報流通を整備
    2. 患者向け医療情報サービス「病院なび」
      • 全国23万件以上の医療機関情報を提供し、患者さんの適切な受療行動を後押し
    3. AI等の新技術による業務効率化
      • 医師の負担を定量的に削減できるようなICT・AIサービスを開発・提供


    今後も、現場の声を社会に届けるとともに、ICTおよびAIを「現場で役に立つかたち」で提供し、地域医療の維持と課題解決に取り組んでまいります。

    詳しい結果は、調査レポートをご覧ください。
    (調査レポートURL:https://info.drsquare.jp/202512drsurvey_PR.pdf

    【調査概要】

    1. 調査対象:弊社医師向けサービス Doctors Squareの登録会員医師
    2. 調査方法:インターネットアンケート
    3. 調査期間:2025年10月9日 (木)〜10月20日 (月)
    4. 有効回答者数:601名
    5. 配信対象者の属性:全国の病院、診療所の勤務医及び開業医(内科28%、精神科7%、整形外科6%ほか)
    6. 主な調査内容:
      • 医師少数区域での勤務の認識と実態(※実態については、都道府県別に医師少数区域のリストを提示し実際の勤務地が該当するかを尋ねた)
      • 今後の医師少数区域での勤務意向と勤務条件
      • 医師少数区域での勤務障壁と実際に経験した問題と困難
      • 医師偏在是正のために重要だと思う取り組み
      • 医療ICTへの期待度

    【eヘルスケアについて】

    株式会社eヘルスケアは、日本最大級の医療機関検索サイト「病院なび」の運営を通じて、年間数千万人の患者さんと全国23万件以上の医療機関をつなぐ役割を担っています。また、医師向けサービス「Doctors Square」では、全国の医師とのネットワークを構築しています。医療現場と社会の橋渡し役として、現場の声を社会に届けることが私たちの責務だと考えています。
    「すべての人の健康のために」
    「患者さんの安心と満足のために」
    「医療品質の向上のために」
    私たちの3つの理念のもと、今後もより良い医療体制の実現に貢献してまいります。

    主なサービス

    • 病院なび (https://byoinnavi.jp/):全国23万件以上の医療機関・薬局を検索できる日本最大級の医療機関検索サイト(年間利用者数:数千万人)
    • 病院なびDOCTORVIEW:医師の専門分野や診療への想いを患者さんへ伝える情報発信サービス
    • 病院なび医療相談サービス:国家資格を持つ医師が無料で回答するオンライン医療相談(登録ユーザー40万人以上)
    • 病院なびホームページサービス:5,000件以上の医療機関へのホームページ制作・運用支援


    株式会社eヘルスケアは、医薬品卸売業を中心に医療・健康・介護分野に携わる事業を展開する東邦ホールディングス株式会社のグループ企業として、医薬品流通と医療情報の両面から地域医療を支えています。

    【本プレスリリースに関するお問い合わせ】

    株式会社eヘルスケア 事業開発部
    担当: 尾形
    代表: 03-6632-6230
    Email: info@ehealthcare.co.jp
    〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町3-8 第2紀尾井町ビル1F
    HP: https://www.ehealthcare.jp/

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