『親と話してください』と言われたら応じるべき? 元恋人の親から突然連絡が来たときの法的対応を弁護士が解説

「息子(娘)の件で話があります。」
「慰謝料について話したいので来てください。」
交際相手や元交際相手とのトラブルで、突然、相手本人ではなく親から連絡が来るケースは少なくありません。
しかし、相手が成人であれば、親だからといって当然に交渉権限や請求権があるわけではありません。
一方で、未成年者とのトラブルや本人から委任を受けている場合など、例外的に対応が必要なケースもあります。
本記事では、応じるべきケース・応じなくてもよいケースの違いと、対応を誤った場合のリスクについて弁護士が解説します。
前提:成人した子の紛争で、親に当然の交渉権限はあるわけではない
トラブルの相手が18歳以上の成人である場合、その親は原則として紛争の当事者ではありません。
他人に代わって交渉し、合意をする権限(代理権)は、本人から与えられて初めて生じます(民法99条、643条)。親であることを理由に、当然に子の代理人になれるわけではありません。「私が話をつける」と言われても、その人に法律上の権限があるとは限らないのです。
また、「息子(娘)が傷ついた」「親として精神的苦痛を受けた」という理由で、親自身が慰謝料を請求できるかという点も、ハードルは高いのが実情です。民法711条は、生命を侵害された場合に被害者の父母・配偶者・子が固有の慰謝料を請求できると定めています。生命侵害以外の場面については、最高裁昭和33年8月5日判決が、被害者が死亡したときにも比肩しうる精神的苦痛を受けた場合には、近親者が民法709条・710条に基づいて自己の権利として慰謝料を請求できるとしていますが、これは例外的な枠組みです。交際関係のもつれについて、親が自分の名前で慰謝料を請求できる場面は限られます。
なお、親が無報酬で子のために相手方と話をすること自体は、直ちに違法というわけではありません。弁護士法72条が禁じているのは、報酬を得る目的で、業として法律事務を取り扱う行為だからです。「親が出てきた=違法」ではない点は、正確に理解しておく必要があります。
例外:親が正面の相手方になる場面
一方で、親が当事者や法定代理人として登場する場面もあります。
相手が18歳未満の未成年者である場合:親権者は、子の財産に関する法律行為について子を代表します(民法824条)。未成年者との性的な関係が問題になっている事案では、親権者が慰謝料請求や示談交渉の相手方となり、刑事事件に発展する可能性もあります。この場合、連絡を放置するのは適切ではありません。
本人から委任を受けている場合:委任状や本人からの明示的な連絡があるのであれば、窓口として親が出てくること自体が否定されるわけではありません。
親自身が貸主・立替払いをしている場合:親が直接お金を貸した、費用を立て替えたという事実があれば、その部分については親が債権者として請求する立場になり得ます。
弁護士が代理人に就いた場合:これは親からの連絡ではなく代理人からの連絡ですので、応答すべき相手です。
逆に、妊娠・出産にまつわる認知や養育費は、請求権者は子ども(およびその法定代理人)であり、祖父母にあたる相手の親が自分の権利として請求できるものではありません。「孫の面倒をどうするのか」と迫られたとしても、法的な請求と、家族としての感情の表明は分けて考える必要があります。
その場で応じない方がよい4つの理由
当事者以外からの連絡に、その場で内容のある応答をしない方がよい理由は、大きく4つあります。
本人の意思と一致していないことがある:本人が知らないところで親が動いている場合、そこで何かを取り決めても紛争は解決しません。
事実関係が伝聞である:親は当事者から聞いた話を前提にしています。前提が食い違ったまま議論しても噛み合いません。
発言が記録として残る:電話が録音されている可能性があります。その場しのぎの謝罪や「払います」という一言が、事実を認めた証拠として扱われることがあります。
解決が遠回りになる:最終的な解決には本人の関与が必要であり、当事者でない人との協議は迂遠になりがちです。
同事務所の解決事例でも、当事者以外の人物から連絡が来ても基本的に対応すべきではなく、代理人である弁護士以外からの連絡であれば本人から連絡するよう伝えるべきである、という考え方が示されています。
「無視する」と「応じない」は違う
もっとも、着信を拒否して黙り込むことが最善とは限りません。連絡が激化したり、矛先が家族や勤務先に向いたりすることがあるためです。
現実的なのは、内容のある交渉には応じないが、連絡の位置づけだけは確認するという対応です。確認するのは次の3点で足ります。
・誰が(氏名と、本人との関係)
・何を根拠に(どの事実について、どういう請求なのか)
・何を求めているのか(金銭か、謝罪か、話し合いか)
そのうえで、「ご本人から直接ご連絡ください」「以後は書面でお願いします」と伝え、電話中心のやり取りから、メールや手紙など記録の残る形に切り替えます。呼び出しに応じて相手の自宅へ出向く、複数人に囲まれた場で話す、といった状況は冷静な判断が難しくなるため、避けた方が無難です。
一線を越えた連絡には別の対応が必要になる
親からの連絡が、要求を通すための圧力に変わることもあります。次のような行為は犯罪に該当し得ます。
危害を加える旨を告げる:脅迫罪(刑法222条・2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)
脅して義務のないことをさせる:強要罪(刑法223条・3年以下の拘禁刑)
脅して金銭を交付させる:恐喝罪(刑法249条・10年以下の拘禁刑)
自宅や実家に上がり込む、退去を求めても帰らない:住居侵入罪・不退去罪(刑法130条)
勤務先に押しかけて業務を妨げる:偽計業務妨害罪・威力業務妨害罪(刑法233条・234条)
注意したいのは、請求そのものに理由があっても、手段が行き過ぎれば違法と評価され得るという点です。最高裁昭和30年10月14日判決は、権利を有する者がその権利を実行することは、権利の範囲内であり、かつその方法が社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を超えない限り違法の問題を生じないが、その範囲・程度を逸脱するときは違法となり、恐喝罪が成立することがあると判示しています。「親として当然の要求だ」という言い分が、やり方次第で成り立たなくなることもあるのです。
一方、ストーカー規制法は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われる「つきまとい等」を対象としています。行為者が相手の親である場合、この目的要件を満たすとは限らず、同法による対応が難しい場面があります。その場合でも、脅迫・強要・業務妨害といった犯罪としての対応や、民事上の面談強要禁止の仮処分といった手段を検討することになります。身の危険を感じる言動があれば、警察相談専用電話「#9110」や最寄りの警察署への相談も選択肢です。
避けたい5つの対応
・その場で事実を認める、反射的に謝ってしまう
・言われた金額をその場で約束する、支払ってしまう
・内容を十分に確認しないまま念書や示談書に署名・押印する
・感情的に言い返す、経緯をSNSで公表する(名誉毀損など別の問題が生じ得ます)
・LINEやメールの履歴を削除する(自分に有利な事情まで失われます)
応じる場合は「誰と合意するのか」を間違えない
話し合いに応じて解決を図る選択肢も、もちろんあります。その際に見落とされやすいのが、書面の当事者は誰かという点です。
相手が成人である場合、紛争の相手方は本人です。親との間で示談書を交わしても、本人との間の請求が処理されたことにはならず、後日あらためて本人から請求を受けるおそれがあります。書面を作成するのであれば、当事者を正確に特定したうえで、支払いの有無や金額のほか、清算条項(以後互いに債権債務が存在しないことの確認)や接触禁止に関する条項を入れるかどうかを検討する必要があります。相手が未成年であれば、親権者との間で合意することに意味がありますので、この点は場面によって結論が変わります。
窓口を一本化するという方法
連絡が止まらない、家族や勤務先に接触されそうだ、という段階では、弁護士を窓口にする方法があります。代理人が就いたことを通知し、以後の連絡先を弁護士に一本化することで、当事者間の直接のやり取りを避けられます。
前述の解決事例でも、依頼を受けた弁護士が相手方の親族に対し、代理人に就いたこと、今後の対応を引き取ること、依頼者本人や家族への連絡は控えてほしいことを伝えたところ、連絡が止み、家族への接触も生じなかった経過が紹介されています。犯罪に該当する事実があれば警察への相談が先になりますが、直ちに刑事事件とはいえないものの、圧力を伴う要求が続くという中間的な場面は少なくありません。
まとめ
相手が成人であれば、その親は原則として紛争の当事者ではなく、当然の交渉権限を持つわけでもない
相手が未成年である、本人の委任がある、親自身が貸主である、といった場合は例外
その場で認めない・約束しない・署名しないことが基本
電話から記録の残る形に切り替え、誰が・何を根拠に・何を求めているかだけを確認する
危害を告げる、押しかけるといった行為は犯罪に当たり得る
話し合いに応じるなら、誰との間で合意するのかを間違えない
感情が高ぶった状態でのやり取りは、それ自体が新たなトラブルの火種になります。連絡の位置づけがわからない、対応を誤りたくないという段階で、早めに弁護士へ相談しておくことが、結果的に穏便な解決につながります。
若井綜合法律事務所には、「別れ話の後に相手の親から突然電話が来た」「慰謝料を請求された」「実家や勤務先に連絡すると言われた」といった相談が継続的に寄せられています。SNSやマッチングアプリをきっかけとした交際が増える中、本人ではなく家族が交渉に介入するケースも少なくありません。しかし、相手が成人であれば、親だからという理由だけで法的な交渉権限が認められるわけではなく、対応を誤るとかえって紛争が長期化することもあります。
この記事の監修者
若井 亮(わかい りょう)
/代表弁護士 弁護士法人若井綜合法律事務所(東京弁護士会所属)
男女問題・男女トラブルに強い法律事務所の代表弁護士。不倫慰謝料、妊娠トラブル、婚約破棄、パパ活トラブル、ストーカー被害など、他人に相談しづらい問題を穏便かつ内密に解決することを得意とする。相手の脅迫的な言動にも毅然と対応し、依頼者の平穏な生活を取り戻すために尽力している。
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TEL: 03-5924-6845
当事務所は、恐喝・脅迫被害をはじめとする男女間のトラブルを数多く取り扱ってまいりました(男女トラブルのご相談は類型23,000件以上お受けしてまいりました)。「家族や勤務先に影響が及ばないように」という点に最大限配慮しながら、内密かつ穏便な解決を最優先に対応いたします。すでに個人情報を知られてしまっている場合や、要求がエスカレートしている場合も、状況に応じて被害の拡大を防ぐ手立てがあります。
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