「抜くしかない」を過去のものに。レーザー×薬剤送達技術で挑む、歯科根管治療の革命

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    2026年2月25日 11:00

    ReGACY Innovation Group株式会社と東京科学大学(Science Tokyo)が連携して推進する「TOKYO SUTEAM」協定事業。今回は、歯科医療の現場が抱える長年の課題に、革新的な「レーザー技術」と「ビジネスモデル」の両輪で挑む、東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 歯髄生物学分野 教授の八幡 祥生(やはた よしお)先生にお話を伺いました。

    八幡 祥生 東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 歯髄生物学分野 教授
    2009年 東京医科歯科大学大学院修了。昭和大学助教を経て、2014年より米国ウェストバージニア大学および米国国立標準技術研究所(NIST)にて客員研究員として従事。東北大学大学院 准教授などを経て、2025年より現職。「国民のための名医ランキング」にも選出されるなど、臨床医としての顔も持つ。

    後藤 太郎 ReGACY Innovation Group株式会社 Consultant
    2024年 ReGACY Innovation Groupに入社。研究開発型スタートアップの起業支援などアカデミア発研究シーズの社会実装支援に従事。

    後藤:まず、八幡先生が取り組まれている事業の概要と、解決しようとしている課題について教えてください。

    八幡:私たちが取り組んでいるのは、「L-DDS(Laser-assisted Drug Delivery System)」という新しい技術を用いた、新たな根管治療(歯の根の治療)の実現です。
    「根管治療」と聞いても一般の方はイメージが湧きにくいかもしれませんが、これは自分の歯を残せるかどうかの「最後の砦」と言える極めて重要な治療です。
    主な対象は、深い虫歯や過去の治療の再発によって、歯の内部に細菌が入り込み、炎症を起こしてしまった方々で、その原因としては、放置された虫歯菌などが歯の神経を通り越し、さらに奥の「顎の骨」まで到達して、骨を破壊し始めてしまうことにあります。
    これを放置したり、治療がうまくいかなかったりすると、激しい痛みや腫れに苦しむだけでなく、最終的には「抜歯」するしか選択肢がなくなってしまいます。歯を失うことは単に見た目の問題だけではなく、食事の質を下げ、結果として健康寿命を縮めることにも繋がる重大な社会課題でもあるため、単なる治療の繰り返しではなく根幹治療が求められています。
    しかし、実は歯科医師の間でこの治療は「三重苦(治らない・難しい・儲からない)」と呼ばれています。 日本の保険診療の成功率も約50〜60%にとどまり、再治療を繰り返した末に抜歯に至るケースが後を絶ちません。 また、診療報酬が低いため、丁寧に行うほど歯科医院の経営を圧迫するという構造的な問題も抱えています。

    後藤:成功率が50%というのは驚きです。なぜそれほど難しいのでしょうか?

    八幡:従来の治療は、歯の中の感染源(汚れ)を取り除くことが主目的でした。しかし、重症化して炎症が歯を支える「顎骨(あごの骨)」にまで及んで破壊が進んでいる場合、歯の中を掃除するだけでは治りません。特に基礎疾患がある方などは自然治癒が見込めず、炎症部位そのものを叩く必要があります。
    しかし、骨というのは非常に硬く緻密な組織で、単に薬を入れても奥まで浸透しません。そこで私たちが開発したのが、レーザーの力を使って薬剤を骨の奥深くまで強制的に送り込む「L-DDS」という技術です。

    後藤:そこでレーザーが登場するのですね。具体的にはどのような仕組みなのですか?

    八幡:私たちは、パルスレーザーが水中で発生させる「キャビテーション(泡)」に着目しました。 専用の装置を使って歯の内部でレーザーを照射すると、瞬時に泡が発生・膨張し、ジェット水流が生じます。さらにその泡が弾ける時に衝撃圧が生まれます。これらの物理的な力を利用して、抗炎症薬を顎骨内の病変部まで能動的に拡散させるのです。
    動物実験では、この方法で薬剤を投与することで、顎骨の破壊領域が有意に縮小し、治癒が促進されることを確認しています。これにより、これまで「抜くしかない」と言われていた歯を残せる可能性が飛躍的に高まります。

    後藤:まさに技術イノベーションですね。しかし、先生の構想は技術開発だけにとどまらないと伺いました。

    八幡:はい。技術が良いだけでは医療は変わりません。先ほど申し上げた「儲からない(経済合理性がない)」という課題も同時に解決する必要があります。
    現在、日本の歯科医療では、保険診療の限界を感じ、より質の高い治療を提供するために「自由診療」へ移行する動きが加速しています。しかし、高度な根管治療を行うには、高額な顕微鏡やCTへの投資、そしてなによりも熟練した技術が必要です。
    そこで私たちは、L-DDSという医療機器の販売だけでなく、この技術を用いた「専門クリニック」の開業支援や、専門医を育成して派遣する人材サービスまでを含めたパッケージ展開を構想しています。

    後藤:技術だけでなく、ビジネスモデルそのものを変革しようとされているのですね。

    八幡:おっしゃる通りです。不妊治療の分野では専門クリニックが一般的ですが、根管治療でも同様のモデルを目指しています。「L-DDS」というハードウェアと、「確かな技術を持った専門医」というソフトウェアをセットで提供することで、歯科医師は経営と治療に専念でき、患者さんは「歯を残す」という最良の結果を得られる。この「三方よし」の環境を作ることが、私たちの目指す社会実装です。

    TOKYO SUTEAM協定事業での活動と成果

    後藤:本事業や弊社との関わりの中で、どのような変化がありましたか?

    八幡:研究者としての視点だけでなく、「経営者」としての視点を持つことの重要性を痛感しています。これまでは「良いデータが出た」「論文が書けた」がゴールになりがちでしたが、事業化においては「誰がお金を払うのか」「市場規模はどう算出するか」「薬事承認のロードマップはどうするか」といった具体的かつシビアな戦略が求められます。
    貴社のメンタリングを通じた事業計画の精緻化、臨床試験の計画立案等を担う「HeRDやCRIETO」の接続などを通じたご支援は非常に心強いです。現在は、2028年のスタートアップ起業とクリニック開設を目指し、プロトタイプの開発と並行して経営チームの組成を進めています。

    今後の展望

    後藤:最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

    八幡:根管治療の世界市場は、高齢化に伴う歯の保存需要の高まりにより、2030年には220〜370億米ドル(約3兆円以上)へと成長すると予測されています。私たちは日本発のこの技術で、世界の歯科医療を変えていきたいと考えています。
    この技術が普及すれば、世界中の患者さんが自分の歯で噛める喜びを維持し、健康寿命を延ばすことにつながります。道のりは平坦ではありませんが必ず実現させたいと思います。

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