日本の書と香道をパリで紹介──村田清雪、初の海外個展「筆に香りをのせて」を開催 古典芸道の継承をテーマに、パリで新たな文化対話に挑む!
消えゆく日本の伝統芸道「香道」の未来を守るために──若手プロデューサーが100人の仲間を募るクラファンを年末まで実施
日本の伝統芸道である古筆かな書と香道(こうどう)を専門に研鑽してきた書家・香道家、村田清雪(むらた・せいせつ)が、2026年2月、フランス・パリのサンジェルマン地区で個展「筆に香りをのせて|Traits Parfumés」を開催する。和歌の余情を筆に託す古筆かなと、香りを「聞く」所作を重ねる香道を総合的に紹介する、日本でも希少な試みだ。香道を体験したことのある人口は、日本国内でもわずか8.1%とされ、継承の危機に直面する今、この企画を通じて芸道の未来を支える〈100人の仲間〉を募るクラウドファンディングを、年末まで実施している。
プロジェクトの企画・プロデュースは、作家の娘であり、パリ在住の建築家でもある村田百合が担う。
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■ 古筆かなと香道――日本文化の真髄に光を当てる試み
「書」と聞けば、真っ先に漢字を思い浮かべるかもしれないが、村田清雪が専門とする「古筆かな」は、和歌を書くために平安時代の歌人たちが育み、日本で独自の発展を遂げた、もっとも日本的な書の様式である。そして、茶道が「一服のお茶」を心を込めて点てることを通じて、そのひとときをもてなす芸道であるように、香道もまた、席主が趣味趣向を凝らた「席」にて、香木の小片を炷き(たき)、その香りを心を傾け、全で味わうことで、その場に集う方々と一期一会の時間と空間を分かち合う作法の芸道である。
「古筆かな書」や「香道」は、茶道や華道に比べると、現代ではあまり知られていない日本の伝統芸術であるが、これらは、日本人が大切にしてきた美の精神を深く映し出すものである。

■ なぜ今、継承が困難なのか――8.1%という現実
現代の日本では、古筆かなや香道に触れる機会は少ない。香道を実際に体験したことがある人は、国内でわずか8.1%にとどまるとされる。高度な教養と専門的な修練を必要とするがゆえに「敷居が高い」といったイメージが先行しているからか、学ぶ側・教える側の双方が減少し、体験の場も縮小しているのが現状だ。
継承の担い手が限られ、香道具を支える職人も減りつつある今、このままでは香道の技法だけでなく、その精神性や感性の体系そのものが失われかねない。機能性・効率・わかりやすさなどといったキーワードが重視される現代のデジタル時代において、言語化しにくい〈曖昧さ〉や、理解に時間がかかる〈余白の美〉といった日本人ならではの美意識を扱う芸道は、可視化されにくいがゆえに周縁化されやすい。
ゆえに本プロジェクトは、作品を見せることや一度きりの香席を開くことにとどまらず、「理解し、支え、育てる人の母体=100人の仲間」をつくることを第一の目的に掲げている。

■ 村田清雪の経歴――「1000年残る作品をつくる」ことを志す書家・香道家
村田清雪は、日展常務理事・池田桂鳳氏に師事し、古筆かなを専門に研鑽を積んできた書家である。映画『武士の家計簿』や企業広告の題字、美術背景作品の揮毫、陶芸・日本画とのコラボレーションなど、その活動は多岐にわたるが、一貫して「1000年残る作品をつくる」という志のもと制作を続けている。
同時に清雪は、安藤家御家流の直門として香道・茶道・礼法を学び、香席の所作・間合い・設えの感性を身体で身につけてきた香道家でもある。香席の記録である香記や、場を彩る短冊・和歌懐紙の軸など、香道に欠かせない書の世界を、古典資料の徹底的な研究と実作を通じて継承している。
清雪にとって、香道と古筆かなは切り離せない。「香席のなかでこそ、古筆かなはもっとも美しく生きる」という彼女自身の言葉どおり、彼女がつくる屏風や掛軸といった作品は、香席において人々を、美しき日本語の世界へといざなうための入り口となっている。繊細な香りを聞きながら、平安時代の歌人たちの言葉に触れるとき、香席は単なる嗅覚の場を超え、自分の記憶と香りの余韻が重なり合う、とても豊かな時間が流れるのである。


■ 展示内容――書と香りが演出する、時間と感性の展示
会場となるのは、建築家・隈研吾が手がけた日本茶専門店「寿月堂パリ」の地下にある畳の和空間。個展は二部構成となる。
第一部では、村田清雪の代表作である短冊、香記(こうき)、和歌懐紙など、和歌文学と香道の世界が重なり合う古筆かな作品を展示する。香席の世界観を支える屏風・掛軸・短冊といった作品は、香りの余韻と記憶を文字に託し、見る者それぞれの心に情景を繰り広げる。
第二部では、清雪自身が香元・書記を務める香席を開催。「源氏香」をテーマに、約290年前の香木や、聞香炉・乱箱・香棚・文台など、職人の技による香道具を日本から持ち込み、実際の席で使用する。道具をガラス越しに眺めるだけの展示ではなく、美しい道具たちが本来備える機能美と存在感を、参加者が間近に味わえることこそが、本個展ならではの魅力となっている。
平安から室町、江戸へと続く日本文化の時間を、パリという土地で追体験する試みとなる。


■ 若手プロデューサー・村田百合の視点――今の時代にこそ、AIには決して成しえない「感性を磨く」価値をもとめて
本個展の企画・プロデュースを担うのは、建築設計の仕事に携わりながらパリで暮らす村田百合である。書家・香道家である母の背中を見て育った彼女は、「日本文化の本質はどこにあるのか」という問いを抱えてフランスへ渡り、都市や建築の仕事を通して〈文化がどのように位置づけられ、受け取られているのか〉を見つめ直してきた。
パリは、文化そのものが経済とは別の位相で尊重される稀有な都市である。芸術の都としての歴史を背景に、香水やワインに象徴される「香り」や味わいへの感性が生活に深く根づき、“文化が文化として存在すること”に社会が価値を認めている。こうした土壌の上では、香道の繊細さや古筆かなの余白の美が、経済的ロジックとは異なる文脈で自然に受け止められる可能性がある。
清雪の活動をフランス人に紹介すると、「実際に体験してみたい」「香りを聞くとはどういうことか」と興味を示す人が多い一方、抹茶カフェや寿司、築地を模したラーメン店といった〈わかりやすく消費される日本文化〉が切り取られているのが目立つ。その光景を目の当たりにした百合の中で、「日本文化の深層はどこへ行ってしまうのか」という問いが強まった。
母の背中を見て育った彼女が理解したことは、日本伝統文化に息づく美意識は、わかりにくさや余白、曖昧さを否定せず受けとめる姿勢に支えられているということだ。
その一方、現代では、デジタルコンテンツの充実により、機能性・効率・わかりやすさがより強く求められ、加工された「二次情報」の世界で過ごす時間が増えている。また、School(skholē=余暇)という語源が示すように、人は本来、暇な時間を楽しむための教養を身に着けるために、学校に通った。時間を味わい、思考し、感受する力は、AIには決して成しえない、人間ならではのスーパーパワーなのである。生身で世界に触れる機会が確実に減っていくなか、五感を働かせる感覚の鋭さこそが、これからの時代のアドバンテージになると、村田百合は考える。
香道や古筆かなは、素養を身に着け、感性を鍛える総合芸術である。「気配」という一次情報を身体で受けとめることで、世界の見え方が変わり、生活の速度や姿勢を変える力を秘めている。文化は生活をつくり、生活は人生を変える――その転換点となり得る体験が、これらの芸道の核心にあると、強く感じている。

■ なぜクラウドファンディングなのか――100人の仲間を募る理由
古筆かなと香道は、専門的な知識や感性を要するため、現代の日本において体験できる機会はごく限られている。海外で触れる場はさらに少なく、日本国内でも香道の体験者は8.1%にとどまり、継承の担い手や体験の場は減少の傾向にある。技法・精神性・感性の体系そのものが継続の危機にあるといえる。
文化を未来へ残すためには、作品や体験を一方向的に届けるだけでは足りず、そこに込められた技法や精神性を理解し、継続的に支えていく「人の母体」が必要だと、村田清雪・百合は考る。ゆえに今回のパリ個展は、香道と古筆かなの世界を国際的な文脈にひらき、再び日本へ還流させるための起点として位置づけられている。
そのため、本プロジェクトでは、古筆かなと香道を理解し、共に文化を育てていく「100人の仲間」を募ることを第一の目的としている。クラウドファンディングという形は、文化に共感し参加する人々を可視化し、文化の担い手を広げる役割を果たす。今回のクラウドファンディングは、香道と古筆かなを専門家の世界だけに留めず、社会全体で支える基盤をつくるための試みの、最初の一歩なのである。

本プロジェクトの見どころ
1. 消えゆく文化をパリから救う
香道体験率8.1%という瀬戸際の芸道を、国際的文脈で再び灯そうとする企画
2. 日本文化の深層を扱う稀少性
古筆かなと香道という「わかりやすさ」では届かない領域を、正面から紹介する誠実な試み
3. 日本人の美意識と感性を展示する企画
約290年前の香木を焚き、道具を実際に使い、書が香りとともに立ち上がる。展示ではなく“場そのもの”が作品になる。
4. パリという街での開催の必然性
香りを文化として受けとめる土壌を持つ都市だからこそ、香道の繊細さが新しい対話の回路を得る可能性
5. 1000年先のこる作品作りを志す書家の実践
村田清雪が古典の精度、書と香の結び目、精神性の継承に人生を捧げてきた姿勢そのものを物語化
6. AIの時代にこそ必要な「感性」をもとめて
AI・効率化の時代に、五感で世界を受けとめる力を取り戻すための文化アクションとして読める点
7. お金ではなく〈人〉で文化を支える
100人の仲間づくりとしてクラファンを位置づけ、文化を社会の側に開く新しい継承の形を提案
8. パリ在住若手プロデューサーの挑戦
パリで建築設計を営み、日本文化の深層を問い続けてきた村田百合が、母の芸道を未来へ橋渡しする物語性
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村田百合(プロデューサー・実行委員会事務局長)
Email:seisetsu.murata@gmail.com
Tel:+33 7 45 03 50 47















