-未就学児の親への抗菌薬に関する調査- 抗菌薬はかぜを治す薬...

-未就学児の親への抗菌薬に関する調査-  抗菌薬はかぜを治す薬ではありません

4割もの親が子どもが「かぜ」の時、抗菌薬をのませたいと思っている  誤った知識が抗菌薬の不適切な服用につながる

 AMR臨床リファレンスセンターでは、2023年6月に、全国の20歳-59歳の未就学児の親を対象とした「抗菌薬(抗生物質)に関する調査」を行いました。今回は、かぜ症状で医療機関を受診する場合の対処方法や処方された薬について、抗菌薬を中心に調査しました。

 小さい子どもはすぐに熱を出したり、保育園などの集団生活の中で、かぜなどの感染症をもらってきます。それだけに医療機関にかかる回数は多く、自ずと処方薬をもらう機会が大人に比べて多くなります。では、その親御さんたちはどれほど薬に対して関心を持っているのでしょうか。特にかぜをひいた子どもの具合が悪い時には、どのようにしたいと思っているのでしょうか。

 昨今、話題となっている抗菌薬が効かない「薬剤耐性(AMR)」が起こる要因の一つに、抗菌薬の不適切な使用があげられています。抗菌薬を正しく使用するための第一歩として、子どもにのませる薬を正しく理解することが重要です。



▼調査概要

1. 調査方法 :インターネット調査

2. 調査機関 :国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院

        AMR臨床リファレンスセンター

3. 調査対象者:全国の20歳-59歳の小学生未満(0歳-5歳)の子どもの親

4. 有効回答数:500サンプル

5. 調査実施日:2023年6月16日-6月19日

*本調査では小数点第2位を四捨五入しています。

 そのため数字の合計が100%とならない場合があります。


子どもが薬をのむイメージ図



▼調査結果のポイント

●夜間、子どものかぜ症状が悪化した場合、8割以上の人が様子を見た上で受診を検討

 また、受診した診療科は約7割の人が「小児科」であった

●余った抗菌薬を取っておいたことがある人は半数近くいることが判明

 そのうち、6割以上が別の機会に子どもに服用させていた

●7割近くの人が「抗菌薬はウイルスをやっつける」と誤った認識をしている



■子どもがかぜをひいた時の対応方法について

Q 子どもに下記症状がある際に、病院に行くタイミングを教えてください。

 また、受診する診療科を教えてください。(それぞれ単数回答、n=500)


 日曜日の昼頃に初期症状として「鼻水のみ」があり、午後8時頃、「鼻水、咳、体温が38.0℃」と悪化していた。


図1


受診するタイミングは、翌朝の「一般外来」が42.8%、次いで、「様子を見て症状が長引いた・少し悪化した場合」30.2%と続く受診する診療科は「小児科」が最も多く、69.0%となっています


 子どもがかぜをひいた時の対応を聞いたところ、受診するタイミングは、「翌朝、一般外来が開いた時に」が最も多く、42.8%という結果に。また、「様子を見て、症状が長引いた・少し悪化した場合」30.2%、「様子を見て、症状がひどく悪化した場合」10.8%と続き、「様子を見た上で行動する人」が合計41.0%いることがわかりました。



■受診するタイミング・診療科を決める理由(自由回答)

受診するタイミングや診療科を決める際、どのような理由で決めているのかを具体的に聞きました。


★深夜・休日外来を調べてすぐに

・熱が高いので何かあったら心配だから診てくれるところがあればみてもらいたい。(女性/30代/北海道)


★翌朝、一般外来が開いたタイミングですぐに

・ぐったりして、飲み物すらも飲まないなら行くと思うが、意識がはっきりして元気なら行かない。(女性/30代/兵庫県)

・急を要することではないため、明日小児科でいいと思えるから。(男性/30代/神奈川県)


★様子を見て、症状が長引いた・少し悪化した場合

・咳とか酷くなったら受診の目安にしているので。(女性/30代/兵庫県)


●小児科

・かかりつけ病院では小児科しか行った事がなく、小児科の専門医であれば流行っている感染症にも詳しそうだから。(女性/30代/長崎県)

・小児科なら子どもの体調に合わせた診療をしてくれて、もし、別の科を受診した方がいいならアドバイスをくれるから。(女性/30代/岡山県)


●内科

・熱があるから、とりあえずかかりつけ医の内科。(男性/30代/山口県)


●耳鼻咽喉科

・鼻水があるときは耳鼻咽喉科に行きます。(女性/30代/埼玉県)



Q 子どもがかぜをひいたら、抗菌薬をのませたいと思いますか(単数回答、n=500)

子どもがかぜをひいた時、抗菌薬をのませたいかどうかを聞いたところ、44.4%の方がのませたいと思っていることが判明しました。


子どもがかぜの時に抗菌薬をのませたい理由(自由回答、n=222)

のませたいと答えた人に、その理由を聞いたところ、“早く治りそう”、“症状が治まる”や“治してあげたいから”といった回答が多く見られました。


図2


・早く治りそうだから。(女性/20代/茨城県)

・症状が緩和されるから。(男性/30代/香川県)

・短期的に飲む分には効果がありそうなため(男性/40代/埼玉県)

・長引く辛い症状を早く治してあげたい(女性/40代/兵庫県)

・悪化することを防ぐことができると思うから。

 これまで抗生物質を飲ませたら症状が改善されたことが多かったから。(女性/30代/東京都)

・すぐに効果が出ると思うから。(男性/40代/三重県)

・高熱がでているときなど効果が高いから。(女性/40代/東京都)


■抗菌薬の効能について

Q あなたが抗菌薬ついて当てはまると思うことをお答えください(それぞれ単数回答、n=500)


図3


「抗菌薬はウイルスをやっつける」と誤った認識の人が7割近く


 上記の質問項目は、抗菌薬に対してすべてあてはまりません。抗菌薬の知識に関して、「抗菌薬・抗生物質はウイルスをやっつける」と間違えている人が最も多く66.8%、次いで、「抗菌薬・抗生物質はかぜに効く」55.8%、「抗菌薬・抗生物質は治ったら早くやめる方がよい」53.4%と続きます。すべての項目において、半数近くの人が誤って認識しており、誤った認識はかぜの時に抗菌薬を求めたり、服用することにつながる可能性があります。

 ウイルスが原因となるかぜには抗菌薬は効きません。それどころか、不必要な服用により副作用が出現したり、薬剤耐性菌が出現することがあります。



■家庭での抗菌薬の管理について

Q 家に抗菌薬を取っておいたことがありますか(単数回答、n=500)


図4


Q 取っておいた抗菌薬を子どもに使ったことがありますか(単数回答、n=207)


図5


41.4%の人が家に抗菌薬を取っておいたことがある

そのうち、6割以上が別の機会に使っていることが判明


 余った抗菌薬を取っておいたことがあるかどうかを聞いたところ、「子どもの抗菌薬を取っておいたことがある」25.8%、また、「子ども以外の抗菌薬を取っておいたことがある」10.6%、「子どものものおよび子ども以外の抗菌薬両方を取っておいたことがある」5.0%となっており、合計で41.4%が抗菌薬を取っている実態が判明しました。

 また、抗菌薬を取っておいたことがあると回答した人に、その抗菌薬を子どもに使用したことがあるかどうかを聞いたところ、64.3%の人が使用したことがあると回答しました。

 「本人が以前処方された抗菌薬」の使用は45.4%、「本人以外の家族に処方された抗菌薬」を使用した人は13.0%、「本人に処方された抗菌薬および本人以外の家族に処方された抗菌薬の両方」を使用した人は5.8%で、抗菌薬が不適切に使われていました。

 抗菌薬は自分に処方された分を指示通りに最後までのみきることで効果が発揮されます。勝手な判断で服用したり止めたりしてはいけません。



<総括>

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院

AMR臨床リファレンスセンター 情報・教育支援室長

藤友 結実子


藤友 結実子


 今回の調査では約6割の人が「抗菌薬・抗生物質はかぜに効く」と誤って考えていることがわかりました。抗菌薬に関する正しい知識はまだまだ普及していないといえます。

 小さい子どもはよく熱を出したりかぜをひいたりします。子どもの体調が悪いのを見ると、早く治してあげたい、なんとかしてあげたいという気持ちになります。また親御さん自身にも、仕事を休みにくかったり、子どもをみてくれる人がいない、といったさまざまな状況があると思います。しかし、よかれ、と思ってのませている抗菌薬が実はかぜには効果がなく、かえって下痢や発疹などの副作用の原因となること、不要な抗菌薬をのむことがひいては薬剤耐性菌の出現につながる可能性があり、本当に抗菌薬が必要な病気の時に、使える抗菌薬がないという事態が将来起こり得ることを、子どもを持つ親御さんにぜひ知っていただきたいです。

 かぜの原因はほとんどがウイルスです。普段健康で免疫に問題ない子どもであれば、かぜは自分の免疫力で自然に治っていきます。かぜをひいた時の対処方法はこちらに詳しくありますのでご覧ください。

https://amr.ncgm.go.jp/pdf/20230412_kanbo.pdf

 「抗菌薬(抗生物質)はかぜを治す薬ではない」「かぜをひいた時に抗菌薬をのんでも早く治ることはないし、症状は緩和されない」という知識が当たり前の世の中になることを目指して、当センターでは今後も広報・教育活動を続けていきたいと思います。



■「抗菌薬(抗生物質)」

 感染症を引き起こす原因は、細菌やウイルスなどの微生物です。「抗菌薬」は細菌が原因となる感染症の治療に用いられる薬です。ウイルスが原因となる感染症には効果がありません。細菌とウイルスは、目に見えないくらい小さいという点では同じですが、大きさや仕組みがまったく違う生き物です。一般的な「かぜ」や「インフルエンザ」などは、ウイルスが原因ですので、抗菌薬をのんでも効果はありません。


・抗菌薬は細菌をやっつける薬で、ウイルスには効きません

・抗菌薬は処方された日数、用量を守ってのみ切りましょう

・抗菌薬をのんでもかぜは早く治りません

・抗菌薬はかぜやインフルエンザの熱を下げる効果はありません

・抗菌薬はのどの痛みに効果はありません

・抗菌薬をのんでもかぜの鼻水は止まりません



■「薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)」

 「薬剤耐性」とは、感染症の原因となる細菌に、抗菌薬が効かなくなることです。細菌が体に入り、病気を引き起こした時には、抗菌薬を使用して治療しますが、抗菌薬を使用しているうちに、「薬剤耐性菌」が出現することがあります。また、抗菌薬は病原菌だけでなく健康バランスを保っている細菌(常在菌)も排除して、ヒトの体の中にいる細菌同士のバランスを崩し、薬剤耐性菌が増えやすい環境を作ってしまうことがあります。自己判断で抗菌薬を服用したり、医師の処方指示を守らなかったり、といった不適切な使用は、病気が治らないばかりか、副作用や薬剤耐性菌の出現する機会を増やしてしまいます。「薬剤耐性」は感染症の治療ができなくなるだけでなく、ひいては手術や抗がん剤治療などさまざまな医療の妨げになる大きな問題です。

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