不透明な固体試料でも円偏光発光を測定できるCPL評価ユニットを開発 従来法では測定できなかった材料の評価技術の確立に期待

近畿大学理工学部(大阪府東大阪市)応用化学科教授 今井喜胤(よしたね)、日本分光株式会社(東京都八王子市)鈴木仁子らの研究グループは、従来は検出が困難とされていた不透明な固体試料の円偏光発光(CPL)を測定できる、新しいCPL評価ユニットの開発に成功しました。
固体試料はさまざまなノイズが影響してCPLの測定が難しく、これまでは試料に光を透かして裏側から観測する方法が一般的でしたが、その手法では光が透過しない不透明な試料の測定ができませんでした。本研究成果により、非透過の固体試料でもCPLが測定できる手法の確立が可能となり、今後、次世代の光デバイスやセキュリティ材料、量子通信分野における材料評価技術への応用が期待されます。
本件に関する論文が、令和8年(2026年)4月9日(木)に、日本化学会の国際的な学術誌である"Chemistry Letters(ケミストリーレターズ)"にオンライン掲載されました。
【本件のポイント】
●従来は困難とされていた、不透明な固体試料の円偏光発光を測定する評価ユニットを新たに開発
●今回開発した新手法では、幅広い角度条件でCPLが測定でき、汎用性が高いことを確認
●不透明な固体試料のCPL測定に適用可能であり、今後さまざまな分野での材料評価技術の確立に期待
【本件の背景】
特定の方向に振動する光を「偏光」といいます。中でも、円偏光発光(CPL)は、右回り・左回りの光の違いを利用できるらせん状に回転する特殊な発光現象であり、次世代のセンシング技術やセキュリティインク、光通信技術への活用が期待されています。
CPLは、試料が溶液の場合は測定法が十分に確立されていますが、固体の場合は分子の偏りが影響して正確な測定が難しいという課題があります。測定にノイズを与える要素のうち、「蛍光の偏り」は光を照射する向きと検出する向きを一直線にする、あるいは照射と検出を直角に配置して特定の光を用いることで、原理的には回避できると考えられています。一方で、「試料全体の構造の偏り」に由来する影響は、完全に取り除くことが難しいとされています。
このようなノイズを最小限に抑えるため、CPLの測定法は、試料に光を透かして裏側から観察する「透過型」が主流で、日本分光株式会社が開発した「CPL-300円偏光ルミネッセンス測定システム」が広く用いられてきました。しかしこの手法では、試料を粉末にしてペレットにしたり、フィルム状に加工してから計測する必要があり、光が透過しない試料の測定ができないという問題があります。
こうした背景を踏まえ、本研究グループは、不透明な固体試料にも適用できる新しいCPL評価ユニットを開発し、どのような条件で正しくCPLを測定できるかを検証しました。
【本件の内容】
研究グループは、まず固体試料に対して光の照射方向と検出器の方向を直交させた「反射モード」でCPLを測定する、非透過試料にも適用可能な新しい「CPL評価ユニット」を開発しました。また、薄膜の固体試料のサンプルとして、キラル※1 な発光材料を分散させたプラスチックのフィルムを作製しました。この2つを用いて、CPL評価ユニットの検出器とフィルムの角度を変えた際に、測定できるCPLシグナルの形や強さにどのような影響が出るのかを検証しました。
その結果、検出器に対してフィルムが15°~75°の角度の範囲にあるときに、キラルな発光材料に由来するCPLシグナルを高感度に検出することに成功しました。特に、60°~75°の範囲では、強い発光強度と安定したCPLシグナルの両方を得られ、「反射モード」によるCPL測定法が、フィルム状の固体試料に対して有効な手段の一つであることが実証されました。
本研究成果は、光を透過しない試料に対しても適用可能であり、これまで評価が困難であった試料のCPL測定技術として、今後の材料開発や光デバイス研究への応用が期待されます。
【論文掲載】
掲載誌 :Chemistry Letters(インパクトファクター:1.1@2024)
論文名 :Circularly Polarized Luminescence Measurement under Reflection-Mode
Excitation for Solid-State Films
(反射励起法による固体薄膜の円偏光発光測定)
著者 :鈴木太哉1、中嶋晴香1、鈴木仁子2、金田昭男2、近藤吉朗2、永森浩司2、今井喜胤1*
*責任著者
所属 :1 近畿大学大学院総合理工学研究科、2 日本分光株式会社
DOI :10.1093/chemle/upag052
論文掲載:https://doi.org/10.1093/chemle/upag052
【本件の詳細】
研究グループは、キラルなペリレンジイミド誘導体(CPDI)※2 をポリメチルメタクリレート(PMMA)※3 中に分散させた固体薄膜発光試料をモデル系として用い、反射モード90°配置(励起光と検出方向が直交)における円偏光発光(CPL)測定が可能なCPL評価ユニットを開発し、評価しました。なお開発したユニットは、固体測定で生じやすいノイズを回避するため、励起光路に水平直線偏光板を導入しています。
検出角度を0°~90°まで系統的に変化させ評価した結果、15°~75°の範囲において明瞭で再現性の高いCPLシグナルが観測され、特に60°~75°では発光強度とCPL応答の両方が最も安定かつ高強度となることが明らかになりました。一方で、0°や90°の配置では、発光強度が極めて弱くなるか、表面反射や試料内部に閉じ込められた光の影響により、正確な測定が困難になることも分かりました。
また、ラセミ体※4 試料およびPMMA単独膜ではCPLシグナルが測定できなかったことから、検出されたCPLは基板やポリマー由来のノイズではなく、発光材料のキラリティに由来することが実証されました。さらに、従来の透過法による測定結果と比較したところ、スペクトル形状および異方性因子※5 は良好に一致し、本手法の信頼性が確認されました。
以上の結果から、反射モード測定は、光を透過しない厚いフィルムや不透明な材料などの非透過性試料に対しても、高精度なCPL評価が可能となる新しい測定法の一つであることが明らかになりました。
【研究者のコメント】
今井喜胤(イマイヨシタネ)
所属 :近畿大学理工学部応用化学科
近畿大学大学院総合理工学研究科
職位 :教授
学位 :博士(工学)
コメント:本研究により、これまで測定が困難であった固体試料の円偏光発光を、簡便かつ高精度に評価できる可能性を提示することができました。本技術は、円偏光発光塗料などの特殊色素開発に向けた基盤評価技術として重要な役割を果たすと考えています。
【研究支援】
本研究は、科学研究費補助金 基盤研究(B)(課題番号 JP23H02040)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST研究領域「独創的原理に基づく革新的光科学技術の創成」(研究総括:河田聡)研究課題「円偏光発光材料の開発に向けた革新的基盤技術の創成」(研究代表者:赤木和夫)、JSPS研究拠点形成事業-A.先端拠点形成型-Core-to-Core program「多彩なキラル場と物質的キラリティが織りなす未踏科学創成研究」(課題番号 JPJSCCA20250005)によって実施されました。
【用語解説】
※1 キラル:その物体や分子が鏡に映した像と重ね合わせることができない性質のこと。
※2 ペリレンジイミド誘導体(CPDI):有機半導体や光機能性材料として注目される化合物。分子がキラルな構造を持っており、プラスチックなどの材料に混ぜることで、非常に効率よく円偏光を発する特性がある。
※3 ポリメチルメタクリレート(PMMA):アクリル樹脂として知られる、透明度の高いプラスチックの一種。本研究では、発光材料であるペリレンジイミド誘導体を均一に混ぜ込み、安定した薄膜を作製する基盤として用いた。
※4 ラセミ体:「右向き」と「左向き」の鏡合わせの構造を持つ分子が、ちょうど半分ずつ混ざり合った状態のこと。ラセミ体は円偏光の性質を示さない。
※5 異方性因子:光がどの程度「円偏光」の性質を持っているかを表す指標。+2(完全な左円偏光)から-2(完全な右円偏光)の間で表される。
【関連リンク】
理工学部 応用化学科 教授 今井喜胤(イマイヨシタネ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/362-imai-yoshitane.html

















