音楽に合わせた軽体操は、高齢者の認知機能や気分の向上に効果的

音楽に合わせた軽体操は、高齢者の認知機能や気分の向上に効果的

-少し速いテンポ、休憩を挟みながら行うと、より楽しく快適に-

■ポイント

◎高齢者の認知機能を高める運動様式として、音楽に合わせて楽しく行う軽体操が効果的であることを実証

◎10分間連続して行う場合と、少し動きを速くして休憩を挟みながら行う場合とで認知機能や気分への効果を比較

◎どちらの運動でも認知機能は同様に向上し、休憩を挟んでリズミカルに行った方が気分や楽しさへの効果は大きかった


スローエアロビックの基本の動き


■概要

習慣的な運動は高齢者の認知機能・メンタルヘルスの維持増進に有効ですが、その実践と継続が課題となっています。我々は、場所を選ばず、簡単に楽しくできて、認知機能や気分を高める運動条件を見つけるために、音楽に合わせた軽体操(スローエアロビック(R)※)が高齢者の認知機能や気分に与える効果について研究しています。

近年、楽しく実践できる運動様式として、同じ強さで運動し続けるよりも中・高強度の運動と休憩(または軽い運動)を組み合わせる間欠的運動が注目されています。

本研究は、音楽に合わせた軽体操を、10分間連続して行う(連続運動)より、同じ10分間の中で少しリズムを速めて休憩を挟みながらインターバル形式で行う(間欠運動)ほうが、トータルの運動強度は同じでも気分や認知機能の向上に効果的ではないかという仮説を立て、実施しました。その結果、運動後の認知課題成績の向上は同程度でしたが、間欠運動のほうが、より運動中の気分が良くなり、楽しさも向上することが明らかになりました。この知見は、運動の実践・継続につながり、認知機能・気分を高める運動プログラム開発に貢献することが期待されます。

本研究の成果は、加齢神経科学分野の国際学術雑誌Frontiers in Aging Neuroscienceに2021年10月7日付で公開されました。

※スローエアロビック(R)は筑波大学、公益社団法人日本エアロビック連盟と共同で開発・効果検証をしているリズム体操であり、日本エアロビック連盟の登録商標です。


■背景

高齢化が急速に進む日本において、高齢者のうつ・認知症予防が大きな社会的課題となっています。高齢者の認知機能やメンタルヘルスの向上につながる実践しやすい運動として、身体に負担の少ない低強度運動があげられます。我々は、音楽に合わせた軽体操(スローエアロビック(R))の一過性効果を検証しており、低強度の自転車運動と比べて、認知機能の向上は同程度で、より気分(快適度や活性度)を高めることを明らかにしました(Hyodoら, 体力研究, 2019)。

近年注目されているのが、間欠的な運動様式です。同じ強度で連続的に運動を続ける場合(連続運動)と、休憩・もしくは弱い運動をはさみながら強い運動を行う場合(間欠運動)では、間欠運動のほうが、運動時間が短くても、身体機能に同程度・もしくは大きい効果があることが報告されています。さらに、認知機能・気分の向上にも効果があると言われています。

しかし、低強度の運動でも同様の効果があるのかは不明です。本研究では、音楽に合わせた軽体操を連続的に行う場合と、少しリズムを速くして休憩を挟みながら行う場合で、高齢者の認知機能や気分に与える影響が異なるのかを比較検討しました。


■対象と方法

本研究は健常高齢者15名(65~74歳)を対象にしました。研究参加者は、スローエアロビック(R)を2つの運動様式(連続条件 / 間欠条件)で行いました。

連続条件:スローエアロビック(R)を90bpmのテンポの音楽に合わせて10分間連続して行う

間欠条件:スローエアロビック(R)を120bpmのテンポの音楽に合わせて90秒行って30秒休憩×5セット

トータルの反復回数を揃え、運動強度の指標として、運動中の心拍数から心拍予備率を算出し、さらに自覚的運動強度(RPE)を測定しました。認知機能の評価としてストループ課題を運動の前後に行いました。気分の測定として、運動前後に二次元気分尺度(TDMS)という質問紙によって快適度と覚醒度を評価し、運動中の気分変化をFeeling scaleで評価しました。さらに、運動後に身体活動の楽しさ尺度(PACES)によって運動の楽しさを評価しました。


実験の流れ


■結果

運動中の心拍予備率は連続条件で19.4 ± 6.50% (平均±標準偏差)、間欠条件で22.4 ± 6.91%でした。また、RPEは連続条件で10.3 ± 1.69、間欠条件で10.6 ± 1.9でした。どちらの項目も統計的に有意な差はなく、これらの結果から、どちらの運動も低強度以下の運動であり、強度に違いがないことを確認しました。

認知機能に関しては、どちらの運動後もストループ干渉の時間が短縮しました。

気分を比較すると、運動前後の快適度・覚醒度の変化に違いはありませんでしたが、運動中の気分は間欠条件で、より良い方に変化しました。

さらに、運動後に評価した楽しさも、間欠条件のほうが高いことが明らかになりました。


結果のまとめ


■筆頭著者のコメント

本研究では、音楽に合わせた軽体操が高齢者の認知機能やメンタルヘルスに与える効果を高める方法として、間欠的な運動様式に着目し、その一過性効果を連続的な運動様式と比較検証しました。その結果、認知機能に与える効果は同程度でしたが、運動中の気分や楽しさをより高めることを確認しました。運動中の気分や楽しさは運動の継続率に関係することから、本研究の結果は、より継続しやすく、認知機能・気分を高める低強度運動プログラムの開発に寄与すると考えられます。

本研究に参加した高齢者は習慣的に身体を動かしている高齢者が多かったため、運動不足の高齢者やより高齢でも同様の効果が得られるのか、また長期的に継続したときの効果など、さらなる検討をしていく必要があります。


■用語解説

【心拍予備率】 運動の強度を表す指標の一つ。(運動中の心拍数 - 安静時心拍数) / (最大心拍数* - 安静時心拍数) × 100 [%] という式で求められる。39%以下は低強度以下の運動と定義される。

*本研究では、208 - 0.7 × 年齢 で予測最大心拍数を求めた(Tanakaら, 2001)。

【主観的運動強度 (RPE)】 運動中の身体に感じるきつさの指標。「非常に楽である」状態から「非常にきつい」状態まで6から20の数字で表すBorg scaleを用いた。

【ストループ課題】 心理学者ジョン・ストループが1935年に考案した心理検査。主に前頭前野が担う高次認知機能の検査に用いられる。例えば、色と意味が異なる色文字(たとえば赤インクで“あお”)を見たときに、意味(あお)に対する反応が優先的に起こってしまい、色(あか)に対する反応が遅れる。このように競合する刺激が与えられたときに認知的葛藤が起こる現象はストループ干渉(ストループ効果)と呼ばれる。この干渉時間が少ないほど、認知機能が高いと考えられる。


■利益相反

著者には開示すべき利益相反はありません。


■財源情報

本研究はJSPS科研費JP17H0605、JP19K20138、JSTグラント(JPMJM19D5)、筑波大学体育系ヒューマン・ハイ・パフォーマンス先端研究センター(ARIHHP)における共同研究助成を受けて行われました。記して深謝します。

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