日本の薬剤耐性(AMR)による疾病負荷を調査  MRSAによる社会の負担はヨーロッパの3.6倍  薬剤耐性大腸菌による社会の負担は年々増加

AMR臨床リファレンスセンターは、国立感染症研究所との共同研究で、2015年から2018年までの日本で薬剤耐性菌による菌血症がもたらした疾病負荷(その病気が社会に対してどの程度の負担になっているか)を推定しました。



●日本では、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)と薬剤耐性大腸菌の菌血症が社会に与える負担が大きい。

●日本におけるMRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による負担は欧州の3.6倍である。

●日本では薬剤耐性大腸菌の菌血症が社会に与える影響は、年々増加している。



薬剤耐性菌による影響は、日本では2019年に、国立感染症研究所と当センターがMRSA菌血症とフルオロキノロン耐性大腸菌血症で年間約8,000名が死亡と推定した研究があります(リリース 2019年12月) ※1 。しかし、薬剤耐性菌による疾病がどのくらい社会に負担をかけるのかを、死亡者数だけで推定するのは不十分な面があり、今回 DALY(障害調整生命年) ※2 という指標を用いました。その結果、2018年、日本では人口10万人あたり137.9 DALYsの薬剤耐性菌による疾病負荷があったと推定されました ※3 。中でも、日本はMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)と薬剤耐性大腸菌による負担が大きく、MRSAによる負担は欧州の3.6倍 ※4 となっています。


また日本では、薬剤耐性大腸菌の菌血症が社会に与える影響は年々増加傾向にあります。死亡数も第三世代セファロスポリン耐性大腸菌の菌血症は2018年には2,784名(95%信頼区間1,497-4,090)、フルオロキノロン耐性大腸菌の菌血症は3,936名(95%信頼区間3,704-4,176)と増加してきています ※3 。ただ、第三世代セファロスポリン耐性肺炎桿菌やカルバペネム耐性緑膿菌など、大腸菌以外のグラム陰性桿菌による負担は少なくなっています。


MRSAによるDALYsの比較


薬剤耐性菌の菌血症による疾病負荷


薬剤耐性大腸菌による疾病負荷の推移


以前の研究 ※1 で、日本ではMRSA菌血症とフルオロキノロン耐性大腸菌血症の死亡者数を推定し、AMRによる影響が少なくないことを明らかにしました。今回の調査結果はこれと矛盾しないものであり、日本ではMRSAと薬剤耐性大腸菌が今後、AMR対策の重要な対象と言えます。


本研究結果は、International Journal of Infectious Diseasesに掲載されました。死亡率や後遺症の発症率など、結果の計算に必要なパラメータの幾つかは海外の先行研究を参考にしているため、必ずしも日本の状況を反映していない可能性があり、その点は解釈に注意が必要です。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1201971221004197



※1 Tsuzuki S et al. JIC. ther 26 (2020) 367e371368.

   https://doi.org/10.1016/j.jiac.2019.10.017

※2 Murray CJ, Lopez AD. The utility of DALYs for public health policy and research: a reply.

   Bull World Health Organ 1997;75:377-81.

※3 論文より

   https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1201971221004197

※4 Cassini A et al. Lancet Infect Dis. 2018 Nov 5. pii: S1473-3099(18)30605-4.



■“DALY”障害調整生命年(Disability-adjusted life year)とは?

病気は、死亡以外にも後遺症や生活の質の低下といった形で、私達の生活にさまざまな影響及ぼします。このような死亡以外も含めた、疾病が社会にもたらす負担を総合的に数値化した指標のひとつがDALYです。

DALYは、疾病や障害のために失われた健康的な生活の年数の障害生存年数(Years Lived with Disability:YLD)と、それにより早死にで失われた損失生存年数(Years of Life Lost:YLL)の和(共通指標の統合)で表されます。YLDとは「後遺症によって生活の質(Quality of Life, QOL)が低下した状態で生きた年数」であり、YLLとは「その病気で死ぬことがなければ生きられたはずの年数」です。DALYは、1990年に世界銀行の研究として提唱され後にWHOに採用されました。公衆衛生と健康影響評価の分野で次第に一般的なものとなってきています。


DALY(障害調整生命年 ダリ)


例えば、糖尿病によって60歳で透析をしなければならない身体になり、糖尿病性腎症により70歳で亡くなられた方がいるとします。仮にわれわれの平均寿命を80歳とします。この方のYLLは亡くなったのが70歳なので、80-70で10です。次に話を簡略化するため、透析をしながら生きていくQOLを0.8とします(健康な状態が1.0です)。すると60歳から70歳までの10年間を0.8のQOLで生きたことになるので、この方のYLDは(1.0-0.8)×(70-60)=0.2×10で2となります。この方のDALYsはYLL+YLDで表されるので、10+2で12となります。

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