世界初、ケモカインCCL28による肝臓保護機構を解明 特殊IgA細胞の動員で慢性肝炎の抑制、新規治療法開発に期待

近畿大学薬学部(大阪府東大阪市)医療薬学科化学療法学研究室 講師 原雄大、同教授 中山隆志らの研究グループは、慢性肝炎のモデルマウスを用いて、ケモカイン※1 の一種であるCCL28が、近年新たに発見された「炎症を抑える働きを持つ特殊なタイプの免疫制御性IgA抗体産生細胞※2」を肝臓へ集積させることを明らかにしました。さらに、この細胞が肝臓で慢性肝炎の病態を抑制するという、これまで知られていなかった新たな免疫による肝臓保護メカニズムを世界で初めて解明しました。
本研究成果は、CCL28を介した新たな免疫制御の仕組みを明らかにしたものであり、CCL28や特殊なIgA抗体産生細胞を利用した慢性肝疾患に対する新規治療戦略の開発につながることが期待されます。
本件に関する論文が、令和8年(2026年)10月15日(木)(現地時間)に、Elsevier(エルゼビア)社が発行する薬理学分野のTop10%ジャーナルである国際学術雑誌「Life Sciences(ライフ サイエンシーズ)」に最終版が掲載されました。
【本件のポイント】
●ケモカインの一種である「CCL28」が、免疫制御性IgA抗体産生細胞を肝臓へ集積させる仕組みを解明
●慢性肝炎のモデルマウスを用いた実験で、同細胞が炎症や肝線維化の進行を抑えることを実証
●本研究で明らかになった免疫による新たな肝臓保護機構は、慢性肝炎に対する新規治療法の開発につながると期待
【本件の背景】
慢性肝炎などの慢性肝疾患は、肝線維化や肝硬変へ進行し、肝細胞がんの発症リスクを高めるため、早期の治療介入が重要です。しかし、慢性肝疾患を直接的かつ効果的に抑制する治療法は、未だ十分に確立されていません。慢性肝炎は、肝臓にコラーゲンなどの線維成分が過剰に蓄積することで生じます。このプロセスにおいて、肝臓に存在する肝星細胞※3 がコラーゲンや炎症関連因子を産生し、肝線維化や炎症の進展を促進することから、肝星細胞は重要な治療標的と考えられています。
一方、免疫細胞の移動を促すタンパク質であるケモカインの一つ「CCL28」は、これまで主に腸管などの粘膜組織において、細菌やウイルスから体を守る「一般的なIgA抗体産生細胞」を集める役割を持つことが知られていました。しかし近年、CCL28が呼び寄せる細胞の中に、感染防御ではなく、免疫反応を抑える物質(IL-10※4 やFasL※5 など)を生み出す「特殊なタイプのIgA抗体産生細胞(免疫制御性IgA抗体産生細胞)」が存在することが分かってきました。しかし、この特殊な細胞が体内のどこで働き、病気に対してどのような役割を果たしているのかは、これまでほとんど明らかになっていませんでした。
【本件の内容】
研究グループは、慢性肝炎のモデルマウスを用いて、肝臓の炎症や線維化を抑える仕組みについて解析しました。その結果、炎症を起こした肝臓では、免疫細胞の移動を制御するCCL28の発現が増加することを発見しました。逆に、CCL28を欠損したマウスでは、肝臓に集積するIgA抗体産生細胞が減少し、肝障害や肝線維化が悪化することが分かりました。一方、肝臓に集積したIgA抗体産生細胞の多くは、IL-10やFasLなどの免疫抑制分子を発現する免疫制御性IgA抗体産生細胞であり、炎症や線維化の進行を抑える働きを持つことが明らかになりました。
次に、免疫制御性IgA抗体産生細胞がどのように肝炎を抑えるのかを解析したところ、これらの細胞は、慢性肝炎の進行に重要な役割を担う肝星細胞に直接作用し、細胞死を誘導することで、肝線維化を抑制することが分かりました。また、IL-10やFasLの働きを阻害すると肝障害や線維化が悪化したことから、これらの分子を介した免疫制御機構が肝臓の恒常性維持に重要であることが示されました。以上の結果から、CCL28は免疫制御性IgA抗体産生細胞を肝臓へ動員することで、慢性肝炎の進行を抑える重要な役割を果たしていることが明らかになりました。本研究成果は、これまで知られていなかった免疫による肝臓保護機構を解明したものであり、新たな慢性肝炎治療法の開発につながることが期待されます。
【論文掲載】
掲載誌:Life Sciences(インパクトファクター:6.4@2025)
論文名:CCL28 ameliorates chronic liver damage associated with the recruitment of
immunosuppressive IgA antibody-secreting cells in mice
(CCL28はマウスにおいて免疫抑制性IgA抗体産生細胞を
遊走することで慢性肝障害を軽減する)
著者 :原雄大、坂東政充、細川隼矢、小河優貴、奥村遼平、松尾一彦、中山隆志* *責任著者
所属 :近畿大学薬学部医療薬学科化学療法学研究室
URL :https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0024320526004248?via%3Dihub
DOI :10.1016/j.lfs.2026.124615
【本件の詳細】
本研究グループは過去の研究において、CCL28の受容体となるタンパク質CCR10がヒトやマウスの抗体産生細胞に発現することを明らかにし、CCL28が特にIgA抗体産生細胞の局在を制御することで粘膜組織における感染防御に重要な役割を果たすことを報告してきました。一方、近年の世界的な研究動向として、がん組織や中枢神経系に浸潤したIgA抗体産生細胞の中に、IL-10やFasLなどの免疫抑制分子を発現し、免疫反応の制御に関与する細胞が存在することを他の研究機関なども報告しています。また、CCL28は肝炎の炎症部位でも発現が誘導されることから、研究グループはCCL28が免疫制御性IgA抗体産生細胞を肝臓へ集めて、慢性肝炎の病態を抑制しているのではないかと考え、本研究を行いました。
その結果、肝炎によって発現が誘導されたCCL28が、その受容体であるCCR10を介して、IL-10やFasLなどの免疫抑制分子を発現する免疫制御性IgA抗体産生細胞を肝臓へ選択的に集積させることが分かりました。また、IgA抗体産生細胞におけるCCR10の発現量は、IL-10やFasLの発現量と正の相関を示したことから、CCL28-CCR10経路が免疫制御性IgA抗体産生細胞を介した慢性肝炎の炎症抑制に関与することが示されました。さらに、この細胞がIL-10やFasLを介して肝星細胞の活動を抑え込み、肝線維化を防ぐという具体的なメカニズムまで詳細に解明しました。
近年、制御性T細胞(Treg)に代表される免疫制御細胞の重要性が注目され、これらを利用した自己免疫疾患などの新たな治療戦略の開発が進められています。免疫制御性IgA抗体産生細胞も、Tregと同様に免疫応答を抑制する機能を有する新たな免疫制御細胞です。本研究では、その局在制御機構と慢性肝炎における病態抑制機能を明らかにしました。今後、免疫制御性IgA抗体産生細胞の機能や局在制御機構を応用することで、慢性肝炎のみならず、がんを含むさまざまな免疫関連疾患に対する新たな免疫療法の開発につながることが期待されます。
【研究者のコメント】
原雄大(ハラユウタ)
所属 :近畿大学薬学部医療薬学科化学療法学研究室
職位 :講師
学位 :博士(薬科学)
コメント:世界的にみて肝硬変や肝細胞がんの患者数や死亡者数は増加傾向にあり、今後さらに増加することが予測されています。また、肝線維化を直接標的とした有効な治療薬は未だ開発されていません。今後、慢性肝炎をはじめとする肝疾患におけるケモカインの役割や、免疫制御性IgA抗体産生細胞による病態制御機構をさらに解明することで、肝疾患に対する新たな治療戦略の開発につながる研究を進めていきたいと考えています。
【用語解説】
※1 ケモカイン:サイトカインの一種で、免疫細胞などの移動(遊走)を制御するタンパク質です。感染や炎症、がんなどの病態形成にも関与することが知られています。
※2 抗体産生細胞:B細胞が分化してできる細胞で、IgAやIgGなどの抗体を産生し、生体防御に重要な役割を果たします。
※3 肝星細胞:通常は肝臓内でビタミンAを蓄える役割を持つ細胞ですが、肝臓に炎症が起きると活性化し、コラーゲンなどの線維成分を大量に作り出して肝線維化(肝臓が硬くなる現象)の原因となります。
※4 IL-10:インターロイキン10。免疫反応や炎症を抑制する作用を持つサイトカインの一種です。
※5 FasL:ファスリガンド。細胞表面に発現するタンパク質で、受容体であるFasと結合することで、標的細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導します。
【関連リンク】
薬学部 医療薬学科 教授 中山隆志(ナカヤマタカシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/756-nakayama-takashi.html
薬学部 医療薬学科 講師 原雄大(ハラユウタ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2097-hara-yuta.html
薬学部 医療薬学科 准教授 松尾一彦(マツオカズヒコ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/788-matsuo-kazuhiko.html

















