モノづくりやモノの流れの組合せ最適化をエッジデバイスで可能に...

モノづくりやモノの流れの組合せ最適化を エッジデバイスで可能にする「アメーバコンピュータ」  AMOEBA ENERGYとベクトロジーの共同開発により実現

アメーバ型組合せ最適化アルゴリズムを提供するAmoeba Energy株式会社(本社:神奈川県藤沢市/代表取締役:青野真士、以下「AMOEBA ENERGY」)とFPGAコンピューティングのエキスパートである株式会社ベクトロジー(本社:神奈川県横浜市/代表取締役:篠田義一、以下「ベクトロジー」)は、AMOEBA ENERGYが考案した新方式の高密度・高汎用性アルゴリズム「AmoebaSAT」をベクトロジーのFPGAコンピューティング技術により実装することで、実社会の様々な最適化アプリの目的関数を表現できるよう重み付け可能な充足可能性問題(SAT)を高速に解く「アメーバコンピュータ」の共同開発に成功いたしました。



【ポイント】

・単細胞アメーバ生物「粘菌」の環境適応能力に学んだ新方式「アメーバコンピュータ」を開発

・1枚のFPGAで最大3万変数の様々な組合せ最適化問題をプログラムして解くことが可能

・モノづくりやモノの流れの最適化を小型・低消費電力で実現、IoTデバイス等にも組込み可能



【背景】

製造、物流、通信などの様々な社会システムで運行計画やスケジュールを効率化する課題は、最適な変数の組合せを探し出す「組合せ最適化問題」と呼ばれる数学的問題を解くことで解決できます。しかし、組合せ最適化は、システムサイズが大きくなると「組合せ爆発」が生じるため、従来型コンピュータ(Central Processing Unit:CPU)が苦手とするタスクであり、世界最速スパコンでも手に負えなくなるほどに複雑化してしまう課題です。そこで近年、「量子コンピュータ」や、そこから着想を得た「アニーリング方式」に基づく組合せ最適化専用マシンの提案が相次いでいます。しかし、この方式は、解くべき問題をマシンが扱える「イジングモデル」の形式に変換する際に高度な専門知識の提供や技術的制約の解決が必要となり、そのために生じる導入・計算コストの高さが、実用上のネックとなっていました。また、同方式の素子を回路上に高密度で配置することは容易ではなく、1枚のFPGA(Field Programmable Gate Array)やGPU(Graphics Processing Unit)で、数万変数以上の規模の問題を実用的な時間で解くことは困難でした。


2020年11月、AMOEBA ENERGYと北海道大学の共同研究グループは、単細胞アメーバ生物「粘菌」が不定形の体を環境に適した最も良い形に変えられるメカニズムをヒントに、アナログ電子回路中にアメーバ素子を高密度で配置する「電子アメーバ」のプロトタイプを発表しました。電子アメーバは、難度の高い組合せ最適化問題「巡回セールスマン問題」の良い解を高速に探索でき、他の様々な最適化アプリを回路に入力する際の導入・計算コストも低く抑えられる点が大きな魅力となっています。この研究成果は、Nature Researchの学術論文誌『Scientific Reports』[文献1]に掲載されると、国内外の多数のオンラインメディア[文献2]に取り上げられ、大きな注目を集めました。



【開発成果】

「アメーバコンピュータ」は、論理的制約条件の集合として様々なアプリケーションを表現する定式化が既になされている「充足可能性問題(Boolean Satisfiability Problem:SAT)」を、AMOEBA ENERGYが独自に開発したアルゴリズム「AmoebaSAT」により解く方式です[文献3,4]。AmoebaSATは、多数の素子の並行的状態更新と確率的動作を再現できるアーキテクチャを前提に設計されていますが、そのためのハードウェアとして、量子効果が現れるような特殊な回路の使用は不要です。従来の半導体技術で構築されるFPGAは、AmoebaSATの並行的・確率的プロセスの実装に好適であり、その効果的な解探索能力を存分に発揮することが可能です。AMOEBA ENERGYとベクトロジーは、アナログ回路からなる電子アメーバのコンセプトをデジタル回路の表現に落とし込み、株式会社PALTEK製FPGA基板「M-KUBOS」を用いることで、実用的規模の問題を扱えるアメーバコンピュータを開発することに成功いたしました。


このたびAMOEBA ENERGYが開発した新方式のAmoebaSATは、各変数へ任意の重み付けが可能となっており、実社会の様々な最適化アプリの目的関数を表現することができます。また、任意の制約条件や初期状態をファイル入力によりプログラム可能です。従来方式のアメーバコンピュータは、扱う最適化アプリを変更する際に数時間におよぶFPGAの合成工程が必要でしたが、新方式の高汎用性アルゴリズムを搭載したアメーバコンピュータでは、入力ファイルを指定するだけで直ちに新たな問題の解探索が可能です。さらに、制約条件を回路として表現するためのルールの数を大幅に削減し、ベクトロジーの培ってきたFPGAコンピューティング技術により回路資源をフル活用することで、アメーバ素子を高密度で集積できるようになりました。これらの新技術により、アメーバコンピュータは重み付けされた3万変数のSAT問題例(3-SAT)の解を1秒以内に導出することが可能になり、新方式アルゴリズムを従来型コンピュータで実装した場合と比較すると300倍以上の高速化を達成いたしました。



【アメーバコンピュータの用途】

組合せ最適化問題として定式化される様々なアプリケーション

スマート工場/倉庫:自動搬送システム最適化

スマートオフィス :勤務スケジュール最適化

スマート病院   :手術スケジュール最適化

スマート物流/交通:配車計画最適化

ロボット制御   :アーム等による物体移動プランニング

P2P取引      :モノ・サービス・エネルギーなどの取引き

通信       :無線ネットワークにおけるリアルタイムルーティング

など



【今後への期待】

1枚のFPGAで最大3万変数の組合せ最適化問題を自在にプログラムして解くことが可能なアメーバコンピュータは、小型で省電力性に優れており、様々なIoTデバイスに組み込むことが可能で、モノづくりやモノの流れをエッジで高速に最適化したいというニーズに応えることができます。こうして「考える力」を獲得したエッジデバイスは、超スマート社会「Society 5.0」の実現に向け、様々な場面で活躍を期待されています。


現在AMOEBA ENERGYは、スマート工場における自動搬送システムやスマート病院における手術スケジュールの最適化など、アメーバコンピュータを用いた組合せ最適化アプリの実現に向けた共同研究開発を、複数のパートナーと進めさせていただいております。ベクトロジーのFPGAコンピューティング技術は、高汎用性設計となっているアメーバコンピュータを、より個別のアプリに特化した構成に変更することで、さらなる高速化を可能にします。アプリの仕様に応じ、書換えが不要になる制約条件は固定回路にすることで、さらに数桁の速度向上が見込まれます[文献5]。また、FPGAを複数接続したクラスターを形成することにより、さらなる大規模化も可能になります。両社の技術をベースに、新たなアプリケーションの創造やデジタルトランスフォーメーションの実現にご協力いただけるパートナーを、広く募集いたしております。



【展示会情報】

流通業向けITシステム総合展「リテールテックJAPAN 2021」のベクトロジーのブースにて、アメーバコンピュータの詳細をご紹介いたします。


期間: 2021年3月9日(火)~3月12日(金)

会場: 東京ビッグサイト 南展示棟

URL : https://messe.nikkei.co.jp/rt/



【文献】

[1] アナログ電子アメーバの研究論文 (英語): K. Saito, M. Aono, S. Kasai, "Amoeba-inspired analog electronic computing system integrating resistance crossbar for solving the travelling salesman problem," Scientific Reports 10, 20772 (2020).

https://www.nature.com/articles/s41598-020-77617-7


[2] アナログ電子アメーバの紹介記事 (英語): "`Electronic amoeba' finds approximate solution to traveling salesman problem in linear time," Phys.org (2020).

https://phys.org/news/2020-12-electronic-amoeba-approximate-solution-salesman.html


[3] アメーバコンピュータのレビュー論文 (英語): M.Aono,“Amoeba-inspired combinatorial optimization machines,” Jpn. J. Appl. Phys. 59, 060502 (2020).

https://iopscience.iop.org/article/10.35848/1347-4065/ab8e05


[4] アメーバコンピュータの研究紹介論文 (日本語): 青野真士, 大古田香織, "アメーバ型組合せ最適化マシン," 応用物理学会機関誌『応用物理』89巻10号, 580-584 (2020).

https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/89/10/89_580/_article/-char/ja/


[5] FPGA実装AmoebaSATの研究論文 (英語): A. H. N. Nguyen, M. Aono, Y. Hara-Azumi, "FPGA-based hardware/software co-design of a bio-inspired SAT solver," IEEE Access 8, 49053-49065 (2020).

https://ieeexplore.ieee.org/document/9032106


ロゴ AMOEBA ENERGY

■Amoeba Energy株式会社について

AMOEBA ENERGYは、次世代を担うコンピューティング技術のヒントは自然界を生き抜く生物の情報処理原理から得られると信じています。慶應義塾大学の研究者でもある代表・青野は、単細胞アメーバ・粘菌が環境に適応し最適パターンに変形する振舞いに学び、「巡回セールスマン問題」や「充足可能性問題」等の複雑な組合せ最適化問題の解を、電子回路により高速に探索する生物型コンピュータの研究開発を続けてきました。「アメーバコンピュータ」は、回路を流れる電流ダイナミクスの並行性や、デバイスの揺らぎからもたらされる確率的動作を活用し、適切なパターンを従来型コンピュータより素早く確実に得る手段を提供します。それは、多様な制約をもつニーズ、変わり続けるリクエスト、増大していくシステムサイズに対応できる「ヤワラカさ」を体現できます。


名称 : Amoeba Energy株式会社

所在地: 〒251-0052 神奈川県藤沢市藤沢1009-6 中島ビル3F

代表 : 代表取締役 青野真士

設立 : 2018年1月

資本金: 1億円

URL  : https://amoebaenergy.com/


ベクトロジー ロゴ

■株式会社ベクトロジーについて

ベクトロジーは主にFPGAコンピューティングに基づくGPUを凌駕する専用演算器の開発、FPGAによる数値演算専シミュレーションの高速化、超微小信号アナログ/高周波アナログ、ASIC向けFPGAプロトタイピング、筐体設計・設計・製造・量産対応の5つの分野に特化してサービスをご提供しています。車載、医療、仮想現実、音声/画像認識、ディープラーニング等、ベクトロジーはFPGAをベースに最新のIoT事業へ貢献しています。リアルタイムで制限の多い環境下での演算処理が必要なこれらの分野にこそ、ベクトロジーのFPGAコンピューティング技術は最適と言えます。製品開発の複雑化、先進化に伴い、求められる演算処理能力のハードルはますます高くなるでしょう。ベクトロジーのFPGAコンピューティング技術が最適であることは、これまでの採用実績によって裏付けられています。


名称 : 株式会社ベクトロジー

所在地: 〒222-0033 神奈川県横浜市港北区新横浜2-5-2

代表 : 代表取締役 篠田義一

設立 : 2016年1月

資本金: 999万円

URL  : https://vectology.jp/

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