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武田科学振興財団、「2011年度 武田医学賞」受賞者を発表 ~11月14日(月)、東京・ホテルオークラにて贈呈式を開催~

 公益財団法人 武田科学振興財団(所在地:大阪市淀川区、理事長:横山 巖)では、このほど「2011年度 武田医学賞」を下記の2氏に贈呈することを決定しました。
 受賞者には、賞状、賞牌・盾のほか一件につき1,500万円の副賞が贈呈されます。
 なお、贈呈式は、11月14日(月)午後6時よりホテルオークラ(東京)において行います。
 「武田医学賞」は、医学界で顕著な業績を挙げ、医学ならびに医療に優れた貢献を果たされた学者・研究者に贈呈されるもので、1954年、武田薬品工業株式会社の創業170周年記念事業の一つとして設けられ、1963年 当財団の設立と同時に継承され今日に至っています。
 今年で55回目を迎える「武田医学賞」の受賞者総数は、本年度を含めて113名となります。

<門脇 孝 博士(かどわき たかし)>
東京大学 教授 (59歳)
 受賞テーマ:「2型糖尿病の分子機構に関する研究
         - アディポネクチン受容体の発見と機能解析を中心に」

<水島 昇 博士(みずしま のぼる)>
東京医科歯科大学 教授 (45歳)
 受賞テーマ:「オートファジーの分子機構と生理学的意義に関する研究」


■門脇 孝 博士 略歴
<学歴・職歴>
1978年 3月 東京大学医学部医学科 卒業
1978年 6月 東京大学医学部附属病院 内科研修医
1980年 6月 東京大学医学部第三内科 医員
1986年10月 米国国立衛生研究所(NIH)糖尿病部門 客員研究員
1990年 9月 東京大学医学部第三内科 文部教官助手
1996年 6月 東京大学医学部第三内科 講師
2001年 1月 東京大学大学院医学系研究科代謝・栄養病態学
      (糖尿病・代謝内科)助教授
2003年 8月 東京大学大学院医学系研究科代謝・栄養病態学
      (糖尿病・代謝内科)教授
2011年 4月 東京大学医学部附属病院 病院長

<賞罰>
1993年度  日本糖尿学会学会賞(シオノギ・リリー賞)
1993年度  日本医師会医学研究助成費
2002年度  持田記念学術賞
2004年度  日本糖尿病学会学会賞(ハーゲドーン賞)
2004年度  高峰記念三共賞
2007年度  日本医師会医学賞
2007年度  上原賞
2010年春  紫綬褒章


■門脇 孝 博士の研究業績

受賞テーマ:「2型糖尿病の分子機構に関する研究
        - アディポネクチン受容体の発見と機能解析を中心に」

 糖尿病は、わが国で現在約890万人の患者が罹患し、なお増加している。糖尿病の大部分を占める2型糖尿病の発症要因には、(1)体質(遺伝素因)に基づくものと、(2)環境因子、特に、肥満・内臓脂肪蓄積に基づくものがあり、多くの場合両者が合わさって起こる。しかし、この2型糖尿病の分子機構は1980年代後半の時点で大部分が不明であった。糖代謝の基本経路は、膵β細胞から分泌されるインスリンの肝臓や骨格筋への作用によって媒介され、それを脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンをはじめとするアディポカインが調節している。門脇博士は、インスリンシグナルとアディポネクチンシグナルを中心に、一貫して2型糖尿病の分子機構の解明に取り組んできた。

 門脇博士はインスリン受容体遺伝子異常によるインスリン抵抗性糖尿病を世界に先駆けて同定した。また、インスリン受容体を介する細胞内シグナル伝達機構を解明するためインスリン受容体基質IRS-1欠損マウスを作成し、IRS-1がインスリンによる血糖降下作用に必須の役割を果たすことを初めて明らかにした。また、各臓器で発現される多彩なインスリン作用が、インスリン受容体基質(IRS-1、IRS-2)によりどのように媒介されているのか明らかにした。さらに、発生工学的手法を駆使してインスリンの分泌や作用に係るいくつかの鍵分子の機能と2型糖尿病発症における意義を解明した。

 肥満・内臓脂肪蓄積は2型糖尿病の最も重要な発症因子である。門脇博士は脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンがインスリン感受性を亢進させるアディポカインであること、逆に肥満・内臓脂肪蓄積に伴いアディポネクチンが低下することがインスリン抵抗性・メタボリックシンドローム・糖尿病の主要な原因であることを発見した。特筆すべきことに、門脇博士は、発現クローニング法により世界に先駆けてアディポネクチン受容体(AdipoR1、AdipoR2)の同定に成功した。AdipoR1とAdipoR2は、7回膜貰通型の構造を有するが、既知のGPCRとは逆にN末端側が細胞内となるトポロジーを示し、新規の受容体ファミリーであった。さらに、AdipoR1、AdipoR2の細胞内シグナル伝達機構、生理機能および2型糖尿病発症における意義を解明した。

 このように、門脇博士は2型糖尿病の分子機構について一貫して世界をリードする研究を行ってきた。特に、アディポネクチンのインスリン感受性亢進作用の発見とアディポネクチン受容体の同定は、オリジナリティーが卓越した生命科学・医学研究のブレークスルーである。同時に、門脇博士の研究は2型糖尿病を初めとする生活習慣病の分子機構の本質的理解を可能としたものであり、多数の患者が合併症で苦しみ、今なお増加している2型糖尿病の根本的な治療法開発の基盤となるべきものである。


■水島 昇 博士 略歴
<学歴・職歴>
1991年 3月 東京医科歯科大学医学部医学科 卒業
1996月 3月 東京医科歯科大学大学院医学研究科博士課程修了 博士(医学)
1996年 1月 日本学術振興会 特別研究員(PD)
1998年10月 岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所 非常勤研究員
1999年10月 科学技術振興事業団さきがけ研究21 研究員(専任)
2002年 4月 岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所 助手
2004年 4月 (財)東京都医学研究機構 東京都臨床医学総合研究所 室長
2006年 9月 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 教授

<賞罰>
2001年10月 日本生化学会奨励賞
2005年12月 日本分子生物学会三菱化学奨励賞
2006年 4月 文部科学大臣表彰若手科学者賞
2007年 7月 FEBS Letters Young Scientist Award
2008年 3月 日本学術振興会賞
2008年 7月 塚原仲晃記念賞
2009年 2月 井上学術賞
2010年10月 日本生化学会柿内三郎記念賞


■水島 昇 博士の研究業績

受賞テーマ:「オートファジーの分子機構と生理学的意義に関する研究」

 細胞が健全であるためには、細胞の構成因子であるタンパク質や細胞内小器官を作るだけではなく、それらを適切に分解処理し、常に新しい状態に保つことが重要である。オートファジーは、細胞内の分解系のひとつであり、細胞質の一部を直径約1μmの袋状膜構造(オートファゴソーム)で取り囲んで分解する方法のことをさす。分解されて生じたアミノ酸などは、再び細胞質に戻って再利用されるので、オートファジーは細胞が持っているリサイクルシステムであるとも言える。

 水島博士は、酵母細胞でオートファジーの研究をスタートし、その成果を速やかに哺乳類へと応用してきた。まず、哺乳類でのオートファジーに必要な遺伝子を多数同定し、自身の一部を分解するという危険なオートファジーがどのように制御され、どのようにオートファゴソームが作られているかに関する分子機構のモデルを提唱した。

 つぎに、これらの分子を利用して、水島博士は全身のオートファゴソームが蛍光標識されたマウスを作製した。このマウスを利用することで、マウス臓器のオートファジー活性を蛍光顕微鏡で簡便に観察できるようになった。例えば、オートファジーが飢餓時の全身臓器や、受精直後の胚で顕著に誘導されることなどが示された。このマウスはすでに400近い国内外の研究室で使われており、世界のオートファジー研究を加速させた。

 さらに水島博士はさまざまなオートファジー機能欠損マウスを作製し、オートファジーの生理的・病態生理的意義を世界に先駆けて報告してきた。例えば、(1)新生仔マウスは自己タンパク質の分解で得られるアミノ酸を利用することで出生に伴う飢餓に適応していること、(2)哺乳類の受精卵でもオートファジーが栄養供給源として着床までの胚発生に重要であること、(3)オートファジーによる細胞内の日常的な浄化が老廃物や不良小器官の蓄積を防いでいること、(4)この細胞内浄化が神経変性や腫瘍発生を予防するのに重要であることなどを明らかにした。その他共同研究によって細胞内侵入細菌分解、心不全、抗原提示、自然免疫、急性膵炎などの幅広い生命現象・疾患とオートファジーの関連を明らかにしてきた。

 オートファジーは生命科学領域でも現在最も注目を集めているトピックスのひとつであり、治療のターゲットとしてもオートファジーが想定されるようにさえなってきた。水島博士は、この新しい研究領域を独自の手法と視点で細胞生物学から生理学・病態生理学へと発展させ、細胞が自分自身を大規模に分解するメカニズムとその生体内での役割の理解に大きく貢献した。


<FAQ>
Q.武田医学賞は国際賞ですか?
A.武田医学賞は日本人研究者を対象に贈呈しております。国際賞ではありません。

Q.武田医学賞の選考方法は?
A.財団理事、評議員、名誉顧問、武田医学賞選考委員、武田医学賞受賞者、日本学士院会員(第7分科)、日本学士院賞受賞者(1999年以降医学関連)の85名からの推薦をもとに、9名からなる選考委員会で公正に決定いたします。
今回は14名からの選考でした。
選考委員長は岸本 忠三 先生(大阪大学 元総長)にお願いしています。
その他8名の選考委員については公表を控えさせていただいております。

Q.武田医学賞の起源について教えてください。
A.1954年、武田薬品工業株式会社の創業170周年記念事業の一つとして和敬翁(五代 武田 長兵衞氏)の発意を受け、六代 武田 長兵衞氏により武田医学賞の褒賞事業が始まる。1963年、武田科学振興財団設立。武田医学賞を武田薬品から当財団に移管

Q.武田科学振興財団の財源は?
A.1963年財団創設以来の武田薬品工業株式会社の寄付、および1980年、武田 彰郎氏(当時武田薬品工業株式会社副社長)の遺志により寄贈を受けた同社株式が基盤になっています。
当財団は、同社株式の2.27%を保有する第4位の株主です(2011年3月末現在)。

詳細につきましては武田科学振興財団ホームページ( http://www.takeda-sci.or.jp/ )をご覧ください。

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