医療費と心肺停止患者の生存率の関わりを初解明~都道府県ごとの正しい医療費の目標設定に貢献~ 近畿大学医学部 救急医学教室×ハーバード大学

    2015年8月31日 11:30

    近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)救急医学教室(教授:平出 敦)、アメリカ・ハーバード大学の研究グループは、日本の医療費が低い都道府県における、「心肺停止患者が生存する確率」の低さを明らかにし、その研究結果が英科学誌「BMJオープン(電子版)」に平成27年(2015年)8月23日付けで掲載されました。

    本研究において、日本47都道府県を県民一人当たりの医療費で3つのグループに分けて解析したところ、医療費が低い都道府県では他のグループの県と比較すると、院外心肺停止患者の予後が統計学的に悪いという関係が認められました。

    【本件のポイント】
    ● 医療費が低い都道府県は、院外心肺停止患者の予後が統計学的に悪い
    ● 都道府県ごとの「医療の質」のばらつきを検証し、解明することに初めて成功
    ● 今後の各都道府県における医療費の設定における正しい指標を確立

    【掲載論文】 
    ■掲載媒体:「BMJオープン」(2015;5:e008374doi:10.1136/bmjopen-2015-008374)
          英国のオンライン科学誌、インパクトファクター2.271

    ■論 文 名:Regional health expenditure and health outcomes after out-of-hospital cardiac arrest in Japan: an observational study
          (医療費の低い都道府県では病院外心肺停止患者が生存する確率が低いことが明らかに)
          http://bmjopen.bmj.com/content/5/8/e008374.full

    【本件の背景】
    日本では、都道府県によって一人当たりの医療費が大きくばらついていることが問題となっており、都道府県ごとに医療費の目標値を設定することが検討されています。

    しかし、医療費の高い都道府県が、他と比べて医療の質が良いのか、または低いのかということに関してはほとんど解明されていませんでした。また、医療費のばらつきに比べて、医療の質のばらつきについては研究されていませんでした。

    【研究者】 
    近畿大学医学部 救急医学教室 教授 平出 敦
    ハーバード公衆衛生大学院 医療政策管理学 教授 アシシュ・ジャ
    ハーバード公衆衛生大学院 医療政策管理学 リサーチアソシエイト 津川 友介
    マサチューセッツ総合病院 救急部 講師 長谷川 耕平

    【研究の概要】
    近畿大学医学部とハーバード大学の研究者らは、2005~2011年に日本国内で発生し、救急搬送された院外心肺停止の全患者618,154人のデータを解析しました。各県の医療の質の指標として、院外心肺停止患者の1カ月生存率および1カ月後の神経学的予後を用いました。院外心肺停止患者の1カ月生存率は都道府県によってばらつきが認められました。リスク補正後の1カ月生存率は、一番高い富山県で8.4%(95%信頼区間7.7%-9.1%)、一番低い岩手県で3.3%(95%信頼区間2.9%-3.7%)と2倍以上のひらきがありました。東京都が3.4%(95%信頼区間3.3%-3.5%)と悪いのに比べて、大阪府は6.6%(95%信頼区間6.4%-6.9%)と比較的良好であるという結果が得られました。1カ月後の神経学的予後でも同様に大きなばらつきが見られました。

    また添付図のように、医療費が低いにもかかわらず院外心肺停止患者の予後が良好な都道府県がある一方で、医療費が高くて患者の予後も悪い都道府県も認められました。

    47都道府県を人口1人あたりの医療費で3群に分けると、低医療費の都道府県と比べて医療費が中等度の都道府県では1カ月生存率が統計学的に有意に高いことが明らかになりました(リスク補正後のオッズ比1.31、95%信頼区間1.03-1.66、P値=0.03)。

    一方で、医療費が中等度と高い都道府県では患者の予後に差はありませんでした。1カ月後の神経学的予後を用いた解析でも同様の結果が認められました。

    ※人口一人当たりの医療費は2005~2011年の平均値であり、歯科を含まない。 

    【検証結果】
    この研究の結果から、医療費抑制のみを目的にした政策は、県民の健康状態や患者の予後を悪化させてしまうリスクがあることが示唆されました。一方で、医療費が中等度と高医療費の都道府県では患者の予後は変わらなかったため、医療費が中等度は医療の質を損ねることなく医療費を抑制することができている可能性があると考えられます。医療費は医療サービスのインプットであって目的ではないため、医療費のばらつきはそれ単独で評価するのではなく、医療の質や患者の健康指標とセットで評価する必要があると考えます。

    今回の検討は、このような指標の一つをとりあげたもので、この指標だけですべて評価できるものではありません。しかし、医療費だけでなく医療の質や健康指標を考慮することの重要性を示しているものと考えます。

    【用語説明】
    ■ 神経学的予後
    1カ月後に1人で歩けるかなど麻痺の程度

    ■ 95%信頼区間
    100回調査したら95回は、この区間に入るという範囲

    【関連リンク】
    医学部 医学科 教授 平出 敦
    http://www.kindai.ac.jp/meikan/600-hiraide-atsushi.html

    人口一人あたりの医療費(日本円)
    人口一人あたりの医療費(日本円)

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