無料会員登録

たった一つの表でわかる 「日本に財政問題はない」 髙橋 洋一 著『99%の日本人がわかっていない新・国債の真実』より

2021.12.03 18:00

金融市場では、日本国債ほど安牌と見られている商品も珍しいといえる。

だから国債そのものの金利も低いし、破綻時に損失保証するCDSの保証料率も低い。すべてが「日本国債は安全」ということを示している。
 すなわち、日本の財政破綻のリスクは今のところ、ほとんどないと見ていいということだ。少なくともそれが、金融市場の見方である。

 いっておくが、市場ほど明瞭に、世の中の実相を映し出すものはない。
 都合のいいことも悪いことも、すべて明らかにしてしまう。
 そういう意味では非情ともいえるが、うがった見方や忖度(そんたく)など働く余地もない、正直な世界なのである。その市場が、日本の財政破綻リスクは低いと見ているわけだ。 そして、そういう見方は、後で述べる日本政府の統合政府(日銀などいわば連結子会社ともいえるものを含めたもの)のバランスシートで見れば正当化できる。
 それなのに、

単なる官僚の都合で「財政難だから増税」と繰り返す財務省、その肩をもつ(というか、理解できないから財務省のいうことを鵜呑みにする)マスコミのせいで、根拠のない財政破綻論が根強く流布されている。

これは受け取る側のリテラシーが問われていると考えたほうがいい。
流言飛語に惑わされるのは、危機感とは呼べない。単なる雰囲気で怖がっているだけだ。

金融市場は、日本の財政破綻のリスクはきわめて低いと見ている。
市場は世の中の実相を非情なまでに映し出すといったが、今度は実相そのものに目を向けてみよう。

日本の財政は、実際のところ、どうなっているのか。じつはたった一つの表――「バランスシート」で、国の財政状態がわかるのだ。
バランスシートとは「貸借対照表」、つまり組織の「資産」と「負債」のバランスを1枚の表にまとめたものだ。要するに1枚の表で財務状態がわかる、非常に便利で重要な書類なのである。

企業であれば、バランスシートは必ず作らなくてはならない。
国の財政状態も、バランスシートを見れば一発でわかる。

ちなみに20年ほど前の1995年ごろ、最初に政府のバランスシートを作ったのは私だ。

信じがたいことに、それまで大蔵省はバランスシートで財政状態を把握してこなかったのだ。私が作った後も10年ぐらいは公表せずお蔵入りにされたが、小泉政権になってようやく公開された。

さて、政府と中央銀行のバランスシートを合体させた「統合政府バランスシート」を見れば、日本に財政問題がないことは明らかだ。 
にもかかわらず「財政問題がある」と主張する人は、いったい何を根拠にしているのだろうか。
会計学では、負債の総額を「グロス」、負債から資産を引いた額を「ネット」という。このうちどちらに着目するかが、ポイントだ。

ひとことでいえば、財政問題があるといっている人たちは、政府のバランスシートの右側(負債)だけ、つまりグロス債務またはグロス債務残高の対GDP比を見ているのだ。
政府のグロス債務残高は1000兆円、これはGDPの2倍である。だから「日本は大変な財政問題を抱えている」「財政再建が必要だ」「そのためには増税と歳出カットだ」と主張しているわけである。
これほどの財政難のなかで借金がさらに増えては困る(国債をたくさん発行しては困る)から、増税で税収を増やす一方、政府の支出を減らそう、もっと倹約しようというわけだ。

これの何がおかしいか。

彼らは、「借金」だけを見て騒いでいるのである。 大事なのはグロスではなくネット、つまり負債の総額ではなく負債と資産の差し引き額だ。バランスシートの右側の数字から左側の数字を引いてみると、本当の財政状態が見えてくるのである。

たしかに政府の債務残高1000兆円はGDPの2倍だ。
ただ一方で、政府には豊富な金融資産がある。さらに政府の「子会社」である日銀の負債と資産を合体させれば、政府の負債は相殺されてしまう。
したがって、増税の必要も歳出カットの必要もない。じつに単純な話である。

伝統的な財政の考え方では、政府のグロス債務、またはグロス債務残高の対GDP比に着目する。バランスシートの右側だけを見て、借金がどれだけあるか、その借金がGDPに占める割合はどれくらいか、ということだ。
ただし、借金だけを見るのは一面的過ぎて、本当の財政状態はつかめない。それを、まずバランスシートの右側と左側の両方を見よう、しかも日銀のバランスシートも合体させて見よう、というのが「統合政府バランスシート」だ。
これは私が勝手にいっていることではない。

一国の財務状態を「統合政府バランスシート」で考えるのは、海外では当たり前なのである。何も私が無理筋を通そうとしているのではなく、しごくまっとうな見方だと思ってほしい。

「政府の借金が増えているから問題」という偏った批判がある一方で、「日銀が大損をするから問題」という偏った批判もある。

これも見当違いな批判であることを、説明しておこう。

まず「日銀が大損をする」というのは、次のようなことだ。
日銀が、民間金融機関から高値で大量に国債を買っているが、景気がよくなれば国債価格は下落する。そこで金融緩和策から金融引き締め策へと転じれば、日銀には逆ザヤとなって巨額の損失が出てしまう。
要するに、日銀が高値で買った国債は、いずれ価格が下落するだろうから、大きな評価損が生じる(下がった差額分、損をする)、といいたいわけだ。

じつは15年ほどまえから、こうした議論はあった。
元アメリカ財務長官のローレンス・サマーズ氏や、FRB前議長のベン・バーナンキ氏が来日したときにも、日銀関係者などから「日銀の評価損は問題ではないか?」という質問が出ている。
それに対するサマーズ氏の答えはひとこと、「だから何?」だった。もっともな答えだと膝を打ったが、素人には何のことやらわからないだろう。

もう少し親切に説明するなら、

バーナンキ氏の「日銀資産の評価損は、政府負債の評価益だから問題ない。もし気にするなら、政府と日銀の間で損失補填契約を結べばいい」という答えがわかりやすい。

サマーズ氏はちょっと意地悪だったかもしれないが、バーナンキ氏は誠実で親切丁寧な経済学者らしく、ちゃんと答えてくれたのだ。
この二人に共通しているのも、「統合政府バランスシート」で財政を見ている、という点だ。

日銀と政府は、子会社と親会社であるかのように一体である。そして資産と負債は背中合わせである。
したがって、日銀の「資産」である国債の「評価損」は、政府の「負債」である国債の「評価益」となるため、政府と日銀のバランスシートを合算すれば問題ない。

サマーズ氏もバーナンキ氏も、こういうことがいいたかったのだ。彼らにとっては常識中の常識だったから、サマーズ氏に至っては「だから何?」という答えになったに過ぎない。
「統合政府バランスシート」は、それくらいスタンダードな考え方なのである。

政府と日銀を一体と考えれば、どちらかの「資産」は、もう一方の「負債」であり、どちらかの「損」は、もう一方の「益」になる。
これは騙しのロジックでも何でもなく、もっとも財政の本当の姿がわかる見方であることを、ここで再度強調しておこう。

【著者プロフィール】髙橋 洋一

髙橋 洋一(たかはし・よういち)  
 
1955 年東京都生まれ。都立小石川高校(現・都立小石川中等教育学校)を経て、東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980 年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)等を歴任。小泉内閣・第一次安倍内閣ではブレーンとして活躍し、「霞が関埋蔵金」の公表や「ふるさと納税」「ねんきん定期便」など数々の政策提案・実現をしてきた。また、戦後の日本で経済の最重要問題ともいえる、バブル崩壊後の「不良債権処理」の陣頭指揮をとり、不良債権償却の「大魔王」のあだ名を頂戴した。2008 年退官。その後内閣官房参与などもつとめ、現在、嘉悦大学ビジネス創造学部教授、株式会社政策工房代表取締役会長。ユーチューバーとしても活躍する。
 第17回山本七平賞を受賞した『さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白』(講談社)、『バカな経済論』『バカな外交論』『【図解】ピケティ入門』『【図解】地政学入門』『【図解】経済学入門』『【明解】 会計学入門』『【図解】 統計学超入門』『外交戦』『【明解】経済理論入門』『【明解】政治学入門』(以上、あさ出版)など、ベスト・ロングセラー多数。

【書籍情報】『99%の日本人がわかっていない新・国債の真実』

書籍名:99%の日本人がわかっていない新・国債の真実
刊行日 :2021年9月9日(木) 価格:1,540円(10%税込)
ページ数:199ページ      著者名:髙橋 洋一 
ISBN  :978-4-86667-316-5
http://www.asa21.com/book/b589171.html
表紙
【目次】
 1章 まず「これ」を知らなくては始まらない
   ―― そもそも「国債」って何だろう?

 2章 世にはびこる国債のエセ知識
   ―― その思い込みが危ない

 3章 国債から見えてくる日本経済「本当の姿」   
   ―― 「バカな経済論」に惑わされないために

 4章 知っているようで知らない「国債」と「税」の話   
   ―― 結局、何をどうすれば経済は上向くのか

 5章 「国債」がわかれば、「投資」もわかる
   ―― 銀行に預けるくらいなら国債を買え
報道関係者向け
お問い合わせ先

@Press運営事務局までご連絡ください。
ご連絡先をお伝えいたします。
お問い合わせの際はリリース番号「288870」を
担当にお伝えください。