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イギリスの画家、ブリジット・ライリーの展覧会開催  国内外所蔵の約30点で画業を振り返る

2018.03.28 08:00

この春、DIC川村記念美術館(設立・運営=DIC株式会社)は、近年世界的に再評価が高まるイギリスの画家、ブリジット・ライリーの展覧会を開催します。1960年代にオプ・アート旋風を巻き起こした黒と白の抽象画からストライプや曲線で構成したカラフルな作品、近作の壁画まで国内外所蔵の約30点で画業を振り返ります。



■開催概要

会期  :2018年4月14日(土)-8月26日(日)

開館時間:9:30-17:00(入館は16:30まで)

休館日 :月曜(4月30日、7月16日は開館)、5月1日(火)、7月17日(火)

入館料 :一般1,300円、学生・65歳以上1,100円、小中高600円

電話  :050-5541-8600(ハローダイヤル)

会場  :DIC川村記念美術館(千葉県佐倉市坂戸631)

主催  :DIC株式会社

後援  :千葉県、千葉県教育委員会、佐倉市、佐倉市教育委員会



■展覧会概要

ブリジット・ライリー(1931-)は、幾何学的パターンによって画面に動きをもたらす抽象絵画で知られるイギリスの芸術家です。ロンドンのゴールドスミス・カレッジとロイヤル・カレッジ・オブ・アートに学んだライリーは、大学卒業後に教員や商業美術の仕事につきながら制作活動を続けました。初期作品はジョルジュ・スーラに影響を受けた風景画でしたが、ルネサンス以降の巨匠や印象派の絵画、点描技法を研究し、単純化・抽象化のプロセスを学ぶことで自身の創作を深めてゆきました。

1960年代に入ると、白と黒のみを用いた完全に抽象的な作品を発表します。これがニューヨーク近代美術館の学芸員の目に留まり、歴史的な展覧会『レスポンシヴ・アイ(応答する眼)』(1965年)で紹介されるや「オプ・アート」の旗手として一躍注目を集めます。1967年に代表作となる波形のストライプパターンに色彩を導入した作品群を制作し、画面に大きなうねりや揺らぎを感じさせる独自の画風で、美術界における画家としての地位を確かなものとしました。以降、「色」と「形」の相互作用を駆使して、人々の眼に強く訴える作品を次々に展開し、現在も多くの人をその作品で魅了し続けています。

本展は1960年代の代表的な黒と白の作品、1970年代を中心としたストライプ作品、1990年代の曲線をもちいた作品、そして近年のウォール・ペインティングを含む約30点を紹介し、あらためてライリー作品の魅力に迫る、わが国で38年ぶりとなる展覧会です。



■本展のみどころ

1990年代から世界的に再評価が高まっているライリーの日本で38年ぶりの展覧会。本邦初公開の代表作を含む31点をご覧いただける貴重な機会です。


<静止しているはずの絵がゆらぐ?「オプ・アート」>

ライリーの絵をじっと見つめると、乗り物酔いに似た感覚に陥るかもしれません。繰り返す幾何学パターンと色の組み合わせを脳が処理する際、図像が動いているように知覚して平衡感覚を失うのです。こうした効果をもたらす絵画「オプ・アート」は1960年代に隆盛を極めた絵画様式で、色彩理論と心理学、知覚生理学をもとに考案されました。先駆者といわれるヴィクトル・ヴァザルリ(1906-97年)とならび、ライリーはオプ・アートの代表的な画家として知られています。


<新印象派よりも印象的に。スーラの先へ進化した絵画>

若き日のライリーが独自の絵画を模索するなかで新印象主義の画家ジョルジュ・スーラの研究を行ったことは、その後の道のりを照らす大切なプロセスとなりました。スーラが編み出した点描技法は人の眼の生理機能を利用した画期的なものでした。ライリーは模写を通じてその表現領域を抽象に発展させ、自然から受けるゆらめくような印象と同等の視覚的効果を自身の絵画で実現すべく探求し始めました。特に1975年以降の作品では、色と光の相互作用が重要な役割を果たし、「鑑賞者が見たときにはじめて光が生まれる色の状況」を提示することに成功しています。


<展覧会会期中のみ出現する壁画>

本展出品作のうち、天地228.6cm × 左右426.7cmと、ひときわ大きな作品《ラジャスタン》は、展覧会が始まる直前に完成し、終了とともに姿を消します。本作は、イギリスとオーストラリアから来日するライリーの助手たちが展示室の壁に鉛筆とアクリル絵の具で直接描き、完成させる壁画作品です。ライリーは1960年代からアシスタントを使って制作をしています。方眼紙に色鉛筆で描いたり、色紙を切り貼りしたり、組み合わせのバリエーションを試す習作を繰り返し、その結果できあがった構図をもとにアシスタントがカンヴァスや壁に描くのです。



■芸術家としての社会的貢献

ライリーの活躍は絵画の革新にとどまらず、社会にさまざまな影響を与えています。


<アメリカの著作権制度に一石を投じる>

ニューヨーク近代美術館で「オプ・アート」が紹介されると、瞬く間にライリーの作品がファッションやグラフィックデザインに転用され、ニューヨーク中のショーウィンドウを飾りました。ライリーは作品が無制限に商業利用される状況に愕然としますが、当時のアメリカは著作権を保護する国際条約を批准しておらず、打つ手がありませんでした。しかし、この一件が芸術家たちを奮起させ、制度の改正を促したと言われています。


<同時代の芸術家をサポート>

今年で設立50周年を迎える芸術家主導の団体「SPACE」は、1968年にライリーと友人たちが共同で立ち上げた組織です。ファインアートを志す芸術家たちに低価格でスタジオ物件を貸し出し、技術向上のプログラムや作品発表の場を提供するなど、いまも活発に運営が続いています。


<巨匠たちの展覧会をキュレーション>

1981年、ライリーはロンドン、ナショナル・ギャラリーの評議員に任命され、1989年に同館の企画展をキュレーションしました。その際、ティッツイアーノ、ヴェロネーゼ、エル・グレコ、ルーベンス、プッサン、セザンヌの人物を含む大作を選出しています。これらの作家とライリーの作品には、対角の構図と複雑な色彩の統合に共通点を見出せます。さらに後年、クレー展(2002年 ヘイワード・ギャラリー)、モンドリアン展(2006年 テート)の企画・執筆にも参加して良質な展覧会の実現に寄与しました。


<受賞歴にみる評価>

ライリーは1968年にヴェネツィア・ビエンナーレ絵画部門国際賞をイギリス人として、また女性として初めて獲得しています。1990年代にはオックスフォード大学とケンブリッジ大学から相次いで名誉教授の称号を与えられ、1998年にはイギリス王室からコンパニオンズ・オブ・オナー勲章を、2015年には大英博物館からも勲章が授与されています。加えて、海外からは2003年の高松宮殿下記念世界文化賞(日本)、2012年のジーゲン・ルーベンス賞(ドイツ)とシッケンズ芸術賞(オランダ)に選ばれています。



■ブリジット・ライリー略年譜

・1931

 ロンドンに生まれる。

・1939-45

 父の軍役中、母、姉妹、叔母とともにコーンウォールに住む。同地にて自然への興味をもつ。

・1946-48

 チェルトナム・レディース・カレッジで美術の授業のみ受講することを許される。

・1949-52

 ロンドン芸術大学ゴールドスミス・カレッジで平面に人体を写し取る絵画的構成の基本を学ぶ。

・1952-55

 ロイヤル・カレッジ・オブ・アートの油絵学科に学ぶ。「何を描くか、どのように描くか」苦悩する。

・1956-58

 交通事故にあった父の介護をする。眼鏡店で働き、子供に教え、広告代理店にイラストレーターとして就職。58年、ホワイトチャペル・アート・ギャラリーでジャクソン・ポロック展に衝撃をうける。

・1959

 後に友人で助言者となるモーリス・ド・ソースマレに出会い、未来派と分割主義に興味をもち、クレーやカンディンスキーの著作にも親しむ。

・1960

 独自のスタイルで描き始める。ヴェネツィア・ビエンナーレで未来派の展覧会を見る。秋、ド・ソースマレと離別し、精神的にも創作的にも危機に直面する。最初の白と黒の絵画を制作。

・1961-64

 白と黒の絵画を精力的に制作。62年春、ギャラリー・ワン(ロンドン)で初の個展。

・1965

 「レスポンシヴ・アイ(応答する眼)」(ニューヨーク近代美術館)に出品。個展(リチャード・フェーガン画廊)では開始前に作品が完売し、一躍美術界のスターとなる。

・1965-67

 作品にトーンの異なる灰色を導入。67年夏ギリシアを訪れたのち、作品に色彩を導入し、評価が高まる。

・1968

 第34回ヴェネツィア・ビエンナーレで絵画部門国際賞を受賞。ピーター・セッジーリと「SPACE」設立。

・1974-77

 波線を用いた作品を手がける。77年京都・奈良の社寺訪問、大阪で尾形光琳の波の図案帳を調査。

・1978-80

 アメリカ、オーストラリア、日本(東京国立近代美術館)を巡回する回顧展。シドニー会場訪問に合わせてグレート・バリア・リーフ、ウルル(エアーズ・ロック)を訪れる。東京への往路、バリ島でバロン劇の踊り、ジャワ島でボロブドゥール遺跡の極彩色に魅了される。エジプトで古代美術や遺物にみられる配色法に驚く。

・1981-85

 エジプト風の色調で作品制作。色彩の強度が上がり、ストライプの様式に移行。南インドの寺院を訪れる。83年ロイヤル・リヴァプール大学病院の壁画完成。同年、ランベール・バレエ団がライリーの作品を前に踊る。

・1986-91

 縦方向のストライプと決別し、斜線を用いた形式を採用する。

・1994

 テート・ギャラリーのコレクション展示で注目が集まり、BBCラジオが5回連続ライリー特集を組む。

・1997

 菱形構図に湾曲のモチーフを導入。

・2000

 ノーマン・フォスター設計のシティバンク本社ビルにインスタレーション作品を設置。

・2003

 テート・ブリテンが大規模な回顧展を開催し、国際的に評価される。

・2006-07

 色紙を使った習作の過程で、白い壁を横長の画面として使用する方法を見出し、壁画制作に行きつく。

・2008

 過去最大の回顧展がパリ市立近代美術館で開催される。

・2014

 1月ジーゲンの現代美術館のロビーにウォール・ペインティングが恒久展示。


現在は自宅のあるロンドンのほか、コーンウォール、南仏のヴォークリューズにも拠点を持ち、制作している。



■関連イベント

各氏のプロフィール、ご予約方法などの詳細は当館ホームページに掲載いたします。

<講演会(1)>

加藤有希子(表象論、埼玉大学准教授)

「ライリーとスーラ ――21世紀を考えるヒント」

開催日時:4月21日(土)13:30-15:00

受付開始:3月30(金) 要予約

定員  :50名

費用  :入館料のみ


<講演会(2)>

林道郎(美術史・美術批評、上智大学教授)

「知覚と自由:ブリジット・ライリーについて」

開催日時:7月21日(土)13:30-15:00

受付開始:6月22日(金) 要予約

定員  :50名

費用  :入館料のみ


<担当学芸員によるギャラリートーク>

開催日時:4月14日(土)、5月26日(土)、6月9日(土)、7月7日(土)、

     8月11日(土・祝) 14:00-15:00

受付開始:14:00 エントランスホール集合 予約不要

費用  :入館料のみ


<ガイドスタッフによる定時ツアー>

開催日時:上記ギャラリートークの開催日を除く毎日14:00-15:00

受付開始:14:00 エントランスホール集合 予約不要

費用  :入館料のみ

※毎月第三土曜日は参加型ギャラリートーク「mite!」実施


<ダンス・パフォーマンス>

首藤康之&中村恩恵in「ゆらぎ」

開催日時:5月12日(土)閉館後

受付開始:3月30日(金) 要予約

費用  :一般5,000円、友の会4,500円


<ガムラン・コンサート>

パラグナ・グループ「自然のパターン、命のふるえ」

開催日時:8月4日(土)閉館後

受付開始:5月25日(金) 要予約

費用  :一般4,000円、友の会3,500円

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